62社のEC化率

経済産業省から毎年夏に発表されるレポート(※1)によると、2022年の国内の物販系分野におけるBtoCのEC化率9.13%となりました。コロナ禍においてECの利用率は飛躍的に高まったものの、2022年の世界のEC化率19.3%(※2)と推計されており、まだまだ高いとは言えません。

そこで国内全体ではなく、国内上場企業のEC化率はどのくらいなのかを、ECを運営している数百社の決算資料から3週間かけて調査しましたが、多くの上場企業はEC化率を公開しておらず、EC化率が判明したのは62社のみでした。

そして国内上場企業62社の平均EC化率は13.3%であり、これは物販系分野全体のEC化率9.13%を約4%も上回っており、大手企業がいかにECに力を入れているかが表れた結果とも言えるのではないでしょうか。

本日は、各企業が公表しているデータや決算資料をもとに、国内上場企業62社のEC化率を集計したので、このような資料があれば、今後ECサイトの導入を検討している企業や、あるいはEC業界を志す方の一助になると思い、記事というかたちでまとめました。ぜひ最後までご覧ください。

国内上場企業62社の平均EC化率は13.3%

下記が今回調査したEC化率の一覧になります。国内の上場企業の平均EC化率は13.3%でした。

◆国内上場企業のEC化率まとめ(上場企業のうちEC化率が判明した62社)

202306EC化率ランキング

調査方法については、下記のリンクをご覧ください。一定のルールを設けてEC化率を算出しました。

>>EC化率の調査方法はこちら

それでは、業界別に企業のEC化率を解説してまいります。

業界別!企業のEC化率62社調べ

◆目次

① アパレル業界のEC化率(17社)
② 時計・貴金属・服飾雑貨業界のEC化率(5社)
③ 百貨店業界のEC化率(5社)
④ 家具・インテリア・雑貨業界のEC化率(4社)
⑤ ホームセンター業界のEC化率(1社)
⑥ 家電業界のEC化率(3社)
⑦ パソコン業界のEC化率(1社)
⑧ 化粧品・医薬品業界のEC化率(11社)
⑨ 食品業界企業のEC化率(2社)
⑩ スーパー業界のEC化率(6社)
⑪ 書籍・音楽業界のEC化率(2社)
⑫ リユース・リサイクル業界のEC化率(4社)
⑬ カー用品業界のEC化率(1社)

① アパレル業界のEC化率(17社)

会社名 調査対象
年度
売上
(百万円)
EC売上
(百万円)
EC化率
株式会社ANAP 2022年8月期 5,059 1,945 38.4%
株式会社オンワードホールディングス 2023年2月期 149,435 44,798 30.0%
株式会社アダストリア 2023年2月期 219,059 62,600 28.6%
株式会社丸井グループ 2023年3月期 75,800 20,600 27.2%
株式会社ユナイテッドアローズ 2023年3月期 118,434 30,358 25.6%
株式会社ヒマラヤ 2022年8月期 58,914 13,811 23.4%
株式会社ワールド 2023年3月期 214,246 46,250 21.6%
株式会社バロックジャパンリミテッド 2023年2月期 53,142 10,557 19.9%
株式会社アシックス 2022年12月期 484,601 86,300 17.8%
株式会社ファーストリテイリング 2022年8月期 810,200 130,900 16.2%
株式会社ナイガイ 2023年1月期 12,714 1,871 14.7%
株式会社エービーシー・マート 2023年2月期 197,981 25,413 12.8%
株式会社タカキュー 2023年2月期 11,975 1,455 12.2%
株式会社ライトオン 2022年8月期 48,229 1,736 3.6%
青山商事株式会社 2023年3月期 126,300 3,200 2.5%
株式会社チヨダ 2023年2月期 73,600 1,218 1.7%
株式会社しまむら 2023年2月期 609,376 4,100 0.7%

◆上記データ作成に利用した決算資料等の引用先一覧

株式会社ANAP株式会社オンワードホールディングス株式会社アダストリア株式会社丸井グループ株式会社ユナイテッドアローズ株式会社ヒマラヤ株式会社ワールド株式会社バロックジャパンリミテッド株式会社アシックス株式会社ファーストリテイリング株式会社ナイガイ株式会社エービーシー・マート株式会社タカキュー株式会社ライトオン青山商事株式会社株式会社チヨダ株式会社しまむら

経済産業省のデータ(※1)によるとアパレル業界のEC化率21.56%であり、EC化が進んでいる業界の一つと言えます。もともとアパレルとECは、サイズ感やコーディネートがECサイトではリアル店舗のように把握しづらいため、相性が良い分野というわけではありません。

しかし、アパレル各社がECサイト上において、サイズ感の表記に力を入れたり、コーディネート写真を多数掲載するなどの工夫を積み重ねていった結果、EC化率が高い分野の一つとなりました。

また、店舗とECサイトのシステム連携を積極的に実施し、ECで注文した商品を店舗で受け取ることができるなどのオムニチャネル施策にも力を入れた結果、各社のEC化率が高まっていると言えます。アパレル業界では、オムニチャネルのためのシステム連携ができるかどうかが、一つの成功の鍵となっています。

EC化率が最も高いANAPは、若者向けレディースブランドを中心として、手ごろな価格の商品を展開している企業です。ANAPのEC化率が高い理由は、主に2つです。

① 10年以上前から、ECサイトと店舗の連携に力を入れてきた(※3)
② 海外を含め数多くのECモールに出店をして販路を拡大してきた(※4)

ANAPのEC化率が突出しているのは、多くのアパレル企業が実施しているEC戦略にいち早く着手した結果だと筆者は考えます。

オンワード、アダストリア、丸井、ユナイテッドアローズなどの企業がEC化率25%以上で上位に来ており、やはりこれらの企業もオムニチャネルに力を入れている企業と言えます。

ファーストリテイリングが展開するユニクロのEC化率が16%と低く見えるかもしれませんが、ECサイトの売上高においては、17社中で圧倒的な1位となります。ユニクロは国内に809店舗(2022年8月期)もある中で、ECと店舗のデータ連携を行い店舗受取を促進したり、WEB限定商品を店舗で訴求するなど、オムニチャネル施策の成功事例の企業の一つと言えます。

アパレル業界のECについては、下記の記事に詳しく書いたのであわせてご覧ください。

参考記事:アパレルECの市場規模から大手が実施する7つの施策を解説

②時計・貴金属・服飾雑貨業界のEC化率(5社)

会社名 調査年度 売上
(百万円)
EC売上
(百万円)
EC化率
株式会社セキド 2022年3月期 7,731 1,008 13.0%
株式会社4℃ホールディングス 2023年2月期 18,587 2,242 12.1%
株式会社ジンズホールディングス 2022年8月期 66,900 3,868 5.8%
カシオ計算機株式会社 2022年3月期 152,300 6,092 4.0%
株式会社ビジョナリーホールディングス 2022年4月期 26,068 859 3.3%

◆上記データ作成に利用した決算資料等の引用先一覧

株式会社セキド株式会社4℃ホールディングス株式会社ジンズホールディングスカシオ計算機株式会社株式会社ビジョナリーホールディングス

時計、貴金属、宝飾分野に限ったEC化率は、筆者が調べる限りデータがありませんが、上記の企業だけから予測すると8~9%程度ではないでしょうか?

時計、貴金属、宝飾分野の商品は、比較的サイズ感がはっきりしているためオンライン購入がしやすく、ECとの相性は悪くない分野ですが、全体的にアパレル企業ほどEC化率は高くはありません。

その理由は、時計や宝飾品など数万円以上の高級品が多く、偽物もEC上に流通(※5)しているため、やはりユーザーは店舗で実物を確認しつつ、スタッフから説明を受けて安心して購入したいという需要が高いことと、また、この分野の商品はギフト目的で購入することが多いため、店舗の利用者が多いのだと考えます。

ジンズホールディングスが運営する眼鏡のJINSブランドでは、スタッフによるレビュー投稿をECサイトに掲載する(※6)など、WEB接客に力をいれております。このように、この分野では店舗の接客力をECサイトに反映させることで、安心感を醸成することがEC化率を高める鍵となります。

なお、宝飾分野のECに限りますが、下記の記事に詳しく書いたのであわせてご覧ください。

参考記事:ジュエリー業界の現状とジュエリーEC5社の取り組みを解説

③百貨店業界のEC化率(5社)

会社名 調査年度 売上
(百万円)
EC売上
(百万円)
EC化率
株式会社高島屋 2023年2月期 754,000 31,900 4.2%
株式会社三越伊勢丹ホールディングス 2023年3月期 1,017,500 40,000 3.9%
株式会社近鉄百貨店 2022年2月期 80,062 2,800 3.5%
J.フロントリテイリング株式会社 2021年2月期 424,374 10,300 2.4%
エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社 2023年3月期 489,400 8,424 1.7%

◆上記データ作成に利用した決算資料等の引用先一覧

株式会社高島屋株式会社三越伊勢丹ホールディングス株式会社近鉄百貨店J.フロントリテイリング株式会社エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社

百貨店業界のEC化率のデータは、調べた限りでは見つかりませんでしたが、この表から予測すると2~3%程度ではないかと筆者は考えます。

百貨店業界は、売上高はここ数年下がり続けており、一時はインバウンド需要があったものの、コロナ禍になり売上高は急落(※7)しております。そんな中、各百貨店はECサイトにも力を入れ始めておりますが、EC化率は高いとは言えません。

百貨店のECサイトでは、主にお歳暮や内祝いなどのギフトや高級食材などをメインに取り扱っている傾向がありますが、ギフトであれば、Amazonや楽天市場よりも高級感があるため百貨店のECサイトの需要があるでしょう。また、各百貨店のECサイトでは「名入れ機能」や、オーダーギフトに力を入れていることが多いです。

EC化率が表の中で最も高い高島屋では、今後もECサイトに力を注ぐ方針(※8)であり、例えば、化粧品・特選ブランド・ギフトなどの販売をECで注力し、また店舗と連動したお中元やお歳暮などのギフトキャンペーンを実施。また面白い試みとしては、ブラックフライデーというスペシャルキャンペーンをECサイト上で実施することで売上の増大を目指しているようです。

百貨店のECについては、下記の記事に詳しく書いたのであわせてご覧ください。

参考記事:百貨店業界のEC市場と大手ECサイトの5つの特徴

④家具・インテリア・雑貨業界のEC化率(4社)

会社名 調査年度 売上
(百万円)
EC売上
(百万円)
EC化率
BRUNO株式会社 2022年6月期 17,302 4,128 23.9%
株式会社ニトリ 2023年3月期 821,700 92,100 11.2%
藤久ホールディングス株式会社 2022年6月期 15,712 1,077 6.9%
株式会社良品計画 2020年2月期 328,358 22,237 6.8%

◆上記データ作成に利用した決算資料等の引用先一覧

BRUNO株式会社株式会社ニトリ藤久ホールディングス株式会社株式会社良品計画

家具・インテリア分野は、経済産業省のデータ(※1)によると29.59であり、EC利用が進んでいる分野です。

家具やインテリアは、もともと店舗利用者であっても、大型の商品が多く配送が前提であったため、各企業がECサイトの利用を進めやすいという背景があります。また、自宅でECサイトを利用する際、部屋の家具を設置したいスペースを確認しながら注文できる点は、店舗よりもECの方が利便性が良い面もあります。

ニトリは、ECサイトの商品写真に、素材感や機能紹介を含めるなどECサイトそのものの利便性を高くする工夫が感じられます。またニトリのアプリでは商品を購入できるだけでなく、近くの店舗の店内マップにアクセスできるため、店舗内のどこに目的の商品があるのか一目瞭然であり、ECサイトと店舗の連携にも力を入れているように思えます。

良品計画(無印良品)のEC化率が低いのは意外かもしれませんが、筆者もインストールしている無印良品のアプリは、ECサイトの利用というよりもユーザーの暮らしに対する情報提供や、店舗の来店を促すことを重視しているオムニチャネル施策に力を入れているのだと思います。

家具業界のEC市場については、下記記事でまとめていますのであわせてご覧ください。

参考記事:家具業界のEC化率が高い理由と売上を高める3つのポイント

⑤ホームセンター業界のEC化率(1社)

会社名 調査年度 売上
(百万円)
EC売上
(百万円)
EC化率
株式会社コメリ 2023年3月期 379,401 21,246 5.6%

◆上記データ作成に利用した決算資料等の引用先一覧

株式会社コメリ

ホームセンター業界における業界全体のEC化率は不明です。また、この分野においては、唯一コメリだけがEC化率を算出することができました。

ホームセンターの店舗は郊外にあることが多いため、ホームセンターで購入する商品も持ち運びが難しい衣装ケースやスコップ、土や鉢、カー用品など大型商品が多く、必然的に車での利用客が多いはずです。

そのためECサイトの利用は、車を所有していないユーザーや、あるいは繰り返し購入する必要のある大型商品などを中心に、ECの利用が進んでいるのではないかと筆者は考えます。

コメリではEC化率10%(※9)を目指す施策として、ECサイトで注文した商品の取り置きロッカーを設置したり、あるいはアプリで配信するデジタルチラシなどEC利用の促進に力を入れております。

その他、ホームセンター業界のECについて、下記の記事に詳しく書いたのであわせてご覧ください。

参考記事:プロが解説する需要高まるホームセンターEC市場の現在

⑥家電業界のEC化率(3社)

会社名 調査年度 売上
(百万円)
EC売上
(百万円)
EC化率
上新電機株式会社 2023年3月期 408,460 75,552 18.5%
株式会社ビックカメラ 2022年8月期 792,368 143,400 18.1%
株式会社ヤマダホールディングス 2023年3月期 1,600,586 160,000 10.0%

◆上記データ作成に利用した決算資料等の引用先一覧

上新電機株式会社株式会社ビックカメラ株式会社ヤマダホールディングス

家電分野は、経済産業省のデータ(※1)によると、EC化率は42.01%と高い分野です。その理由は、家電製品は型番が分かればどこで購入してもクオリティの差が出にくい分野であり、また、ECサイトであれば、最も安いショップを見つけるのはカンタンであるため、ユーザーにとって利便性が高くECサイトの利用が特に進んでいる分野の一つと言えます。

ECサイトの運用が最もうまくいっているヨドバシカメラのEC化率は不明でしたが、ヨドバシカメラでは、ヨドバシエクストリーム便(※10)により、エリア限定であるものの当日配送を実現しており、またユーザーの要望を広く聞き入れることで家電以外の日用品やお酒といったものまで取り扱うようになり、ECの利便性を高めております。

ビックカメラでは、DXを推進するための子会社「株式会社ビックデジタルファーム」を設立しました。(※11)新会社では、店舗とECを意識することなく利用できるOMOに注力するようです。

また、上新電機、ビックカメラ、ヤマダ電機は自社ECサイトだけでなく楽天市場にも出店しております。楽天市場に出店するとコストはかかってしまいますが、新規顧客を取り逃がさない施策とも言えます。

なぜなら、どんなに自社ECサイトのブランディングや認知を強めても、ユーザーの中には楽天市場(あるいはAmazon)でしか買い物しないというユーザーが一定数いるため、利益は少なくなりますが、売上を拡大するためには必要な施策と言えます。

このように、家電業界は競争が激しい分野であり、ECにおいても激戦を繰り広げております。

家電業界のECについては、下記の記事に詳しく書いたのであわせてご覧ください。

参考記事:成熟した家電業界で各社が差別化を図るための「EC施策」とは?

⑦パソコン業界のEC化率(1社)

会社名 調査年度 売上
(百万円)
EC売上
(百万円)
EC化率
株式会社ZOA 2023年3月期 9,726 3,655 37.6%

◆上記データ作成に利用した決算資料等の引用先一覧

株式会社ZOA

パソコン業界(周辺機器を含む)は、経済産業省のデータ(※1)では「家電」に含まれる分野ですが、筆者の記事では単体でも取り扱っております。筆者が調査したところ、この分野においてはZOA社のみEC化率を算出することができました。

パソコン業界は、リモートワークの普及や教育ICT環境の実現による、一人一台のパソコン端末環境の推進などを背景に、コロナ禍においてもパソコン業界の売上高は増えておりましたが、その反動で2021年以後は出荷数(※12)を減らしております。

パソコンのECサイトとしては、DELLやレノボ、NEC、富士通などが有名で、これら大手のECサイトでは、個人ごのみにメモリーなどの付属品をカスタマイズすることができ、非常に利便性が高いのですが、パソコンに関しての知識や経験がない方だと、ECサイトの購入に不安を覚えるユーザーも一定数いると思われます。

また、パソコンの購入においては、高価格商品であり専門性の高い分野になりますので、ITリテラシーが高くない人にとっては、店舗のスタッフの意見を聞きながら購入したい需要も多いと思われます。

ZOA社の店舗においては、PCからバイク用品まで扱っている珍しい業態であり、ECサイトの「e-ZOA.com」ではゲーミング用PCから、インテリア家具、カー用品、おもちゃなど幅広い商品を扱っております。ゲーミングPCやPCパーツなどを主に扱っている点から、ユーザー層もITリテラシーが比較的高いと予想されるため、ECの利用が非常に高くなっていると考えられます。

パソコン業界のEC市場については、下記記事でまとめていますのであわせてご覧ください。

参考記事:パソコンEC市場の現状とメーカー5社のECサイトを解説

⑧化粧品・医薬品業界のEC化率(11社)

会社名 調査年度 売上
(百万円)
EC売上
(百万円)
EC化率
プレミアムアンチエイジング株式会社 2022年7月期 24,150 17,868 71.2%
株式会社資生堂 2022年12月期 1,067,400 352,242 33.0%
株式会社マツキヨココカラ&カンパニー 2023年3月期 951,247 301,000 31.6%
株式会社ポーラ・オルビスホールディングス 2022年12月期 161,654 43,485 26.9%
株式会社アクシージア 2022年7月期 600 90 15.0%
新日本製薬株式会社 2022年9月期 36,107 4,760 13.2%
花王株式会社 2021年12月期 152,900 16,819 11.0%
株式会社ハウス オブ ローゼ 2023年3月期 11,905 1,276 10.7%
株式会社コーセー 2022年12月期 163,000 11,200 6.9%
株式会社アイケイ 2022年5月期 16,335 980 6.0%
株式会社シーボン 2023年3月期 8,525 316 3.7%

◆上記データ作成に利用した決算資料等の引用先一覧

プレミアムアンチエイジング株式会社株式会社資生堂株式会社マツキヨココカラ&カンパニー株式会社ポーラ・オルビスホールディングス株式会社アクシージア新日本製薬株式会社花王株式会社株式会社ハウス オブ ローゼ株式会社コーセー株式会社アイケイ株式会社シーボン

化粧品・医薬品業界の国内EC化率は、経済産業省のデータ(※1)によると8.24%となっており、EC化率は高いとは言えない業界です。その大きな理由の一つが全国津々浦々にあるマツモトキヨシやウェルシアのようなドラッグストアの利便性が高いことです。

そのため、国内の多くのユーザーはECサイトで化粧品や医薬品を購入する前に、利便性が高いドラッグストアで購入する方が多いのが現状だと思います。また、プチプラコスメと呼ばれる安価な化粧品もドラッグストアの人気商品の一つですが、ECサイトで販売すると送料もかかり利益が生みにくい背景があります

その中でも、資生堂のEC化率は33%とかなり高い数字になっています。資生堂ではCXを高めるためにバーチャルメイク(※13)を導入したり、情報発信のメディアとして、ターゲットユーザーの気になる情報を配信する「ワタシプラス」を運営するなどして、デジタルにおいても顧客体験の向上を目指しております。

マツキヨココカラ&カンパニーのマツモトキヨシでは、会員カードからアプリ会員に移行を進めたり、海外においては、自社ECサイトとともに海外モールへの出店を強化(※14)しております。

なお、化粧品のECに限りますが、下記記事に詳しく書いたのであわせてご覧ください。

参考記事:化粧品業界のEC化率は7.52%!EC化率が低い理由とは?

⑨食品業界企業のEC化率(2社)

会社名 調査年度 売上
(百万円)
EC売上
(百万円)
EC化率
寿スピリッツ株式会社 2023年3月期 50,155 5,798 11.6%
森永製菓株式会社 2023年3月期 194,300 10,200 5.2%

◆上記データ作成に利用した決算資料等の引用先一覧

寿スピリッツ株式会社森永製菓株式会社

食品業界は、最も大きな市場の一つですが、同時にEC化率が低い業界です。経済産業省のデータ(※1)によると2022年度のEC化率は4.16%と他の業界と比べてEC化率が非常に低くなっています。EC化率が低い理由は、食品鮮度やそれに対するユーザーニーズの問題です。

さまざまな冷凍・冷蔵保存技術や物流効率化が進みつつありますが、ユーザーは食品を手に取って鮮度を確認したいというニーズと、やはり食品なので、すぐに食べたい(早く食べたい)というニーズがあります。そのため食品はECサイトともともと相性の悪い分野と言えます。また、日本においては海外のようにまとめ買いしてストックしておくという慣習があまり一般的ではないことも要因の一つです。

そんな中、EC化率11.6%と食品業界の中でも高いECの売上をあげているのが「シュクレイオンラインストア」を展開する寿スピリッツです。通販に力を入れてミルクチーズなどのブランド化に成功して高い売上を得ております。

また、お菓子という単価の安い商品とは相性が悪そうに見えますが、森永製菓のオンラインストアでは、主に単価の高い健康飲料や、お菓子についても一般店では入手が難しいパッケージの商品を取り扱っており、食品業界においては高いEC化率と言えます。

食品といっても生鮮食品から加工食品、お菓子まで様々ですが、ブランド化することで、全国にファンを作りEC利用者を増やしていくことができます。また、日本国内のEC化率が9.13%と低水準であるのは、食品業界でのEC利用が進まないことが理由の一つでもあり、今後ECの普及が最も期待される分野でもあります。

なお、食品業界のEC市場については、下記記事でまとめていますのであわせてご覧ください。

参考記事:食品EC市場の現状と課題、EC運営のポイントを徹底解説

⑩スーパー業界のEC化率(6社)

会社名 調査年度 売上
(百万円)
EC売上
(百万円)
EC化率
株式会社ライフコーポレーション 2023年2月期 785,627 14,200 1.8%
イオン株式会社 2022年2月期 8,715,900 130,000 1.5%
株式会社セブン&アイ・ホールディングス 2023年2月期 5,802,993 61,850 1.1%
株式会社いなげや 2022年3月期 194,617 995 0.5%
株式会社オークワ 2023年2月期 241,174 926 0.4%
株式会社イズミ 2022年2月期 656,914 1,400 0.2%

◆上記データ作成に利用した決算資料等の引用先一覧

株式会社ライフコーポレーションイオン株式会社株式会社セブン&アイ・ホールディングス株式会社いなげや株式会社オークワ株式会社イズミ

食品業界の一部とも言えるスーパー業界単体でのEC化率は不明ですが、食品業界と同様にECの利用はあまり進んでいませんでした。しかし、コロナ禍においてはネットスーパーの利用が高齢者においても広まったようです。(※15)

現に楽天と西友は、業務提携を深めて「楽天西友ネットスーパー」を展開(※16)しております。またAmazonも、エリア限定で展開しているAmazonフレッシュは朝8時から深夜0時までの間で時間指定が可能で、最短約2時間で商品をお届けしております。(※17)

イオンの「イオンネットショップ」もECに力を入れております。例えばECで注文した商品の店舗受取などのオムニチャネル施策を促進しており、多くの都道府県に店舗を持つ強みを発揮して、デジタル売上高1兆円(※18)まで伸ばす計画です。

セブンアイホールディングスの総合ショッピングサイト「オムニ7」はグループ全体ECの戦略を軌道に乗せることができず、2023年1月にサービスが終了となり、これまでの統合型通販サイトから、グループ各社それぞれのECサイトとしてリニューアルしました。

今後、食品業界全体のEC化率を高めるためには、楽天が実施したような、大型スーパーの持つ物流網や冷凍倉庫を積極的に利用する必要があり、デジタル化との融合が求められるでしょう。

なお、食品業界のEC市場については、下記記事でまとめています。ネットスーパーの事例なども紹介しておりますので、あわせてご覧ください。

参考記事:食品EC市場の現状と課題、EC運営のポイントを徹底解説

⑪書籍・音楽業界のEC化率(2社)

会社名 調査年度 売上
(百万円)
EC売上
(百万円)
EC化率
エイベックス株式会社 2023年3月期 121,561 12,841 10.6%
株式会社ヴィレッジヴァンガードコーポレーション 2022年5月期 26,758 1,563 5.8%

◆上記データ作成に利用した決算資料等の引用先一覧

エイベックス株式会社株式会社ヴィレッジヴァンガードコーポレーション

※ここでは、デジタルのダウンロード商品は該当せず、あくまで「本」や「CD、DVD」などの物販がメインのEC化率なので、ご注意ください。

日本国内で、経済産業省のデータ(※1)によると、最もEC化率が高い分野であるのがこの書籍・音楽分野であり、EC化率は52.16%もあります。デジタル化が進み、本やCDが売れなくなったと言われて久しいのですが、ECでの利用者が多い分野です。

この分野のEC化率の特徴は、ヒットに影響されることです。例えば、安室奈美恵が引退する際は、多くの人がDVDを買い求め、国内音楽映像作品史上で初のミリオンセールスを突破(※19)したことで業界のEC化率が高まったり、鬼滅の刃が流行した時(※20)もEC化率が高まりました。

エイベックスのEC売上は、コロナ禍で音楽イベントが軒並み中止となったことに加え、2019年に安室奈美恵のライブDVDの販売により高い売上をあげた(※21)反動も重なり、2020年以降はEC売上が下がっております。このようにコンテンツのヒットにECの売上が左右されるのが、この分野の特徴です。

⑫リユース・リサイクル業界のEC化率(4社)

会社名 調査年度 売上
(百万円)
EC売上
(百万円)
EC化率
株式会社トレジャー・ファクトリー 2023年2月期 28,212 4,006 14.2%
株式会社ハードオフコーポレーション 2023年3月期 27,040 3,700 13.7%
ブックオフグループホールディングス株式会社 2022年5月期 91,538 9,089 9.9%
株式会社ゲオホールディングス 2023年3月期 377,300 22,648 6.0%

◆上記データ作成に利用した決算資料等の引用先一覧

株式会社トレジャー・ファクトリー株式会社ハードオフコーポレーションブックオフグループホールディングス株式会社株式会社ゲオホールディングス

リユース業界のEC化率は不明ですが、上記4社から予想すると10%前後かと思われます。

リユース市場は、メルカリなどのCtoC市場の出現により、ECの利用が大きく高まっている分野の一つです。しかし、一方で自社で仕入れて販売する会社にとっては、メルカリなどのフリマアプリは驚異のはずです。リユース業界は、これまでバブル崩壊やリーマンショックなどの不景気に大きく市場拡大(※22)した経緯があります。また、世界的なSDGsの流れもあり、リユース業界は今後注目される業界の一つのはずです。

トレジャー・ファクトリーは、自動採寸システムを導入してECサイトの出品業務を効率化(※23)するなど、EC運営に力をいれており、リユース業界は仕入れから出品までの流れを安定させることも非常に重要です。

ちなみに、ハードオフコーポレーションとブックオフグループホールディングスは別会社であり、創業者同士が仲が良かったことから、店舗を同じ場所に建てたりしていた経緯があるようです。(※24)

⑬カー用品業界のEC化率(1社)

会社名 調査年度 売上
(百万円)
EC売上
(百万円)
EC化率
株式会社アップガレージグループ 2023年3月期 4,895 1,116 22.8%

◆上記データ作成に利用した決算資料等の引用先一覧

株式会社アップガレージグループ

カー用品分野は、ECの中ではニッチ市場ですが、経済産業省のデータ(※1)で業界のEC化率が公開されている分野の一つであり、2022年のEC化率は3.98%です。カー用品といっても幅広い商品があり、例えば、洗車グッズとか芳香剤、スマホホルダー、シートカバーなどはECで直接買うことができます。

しかし、カー用品は、車に取り付ける上で専門的な知識が必要であり、また車やバイクで直接店舗に行き、その場で購入から整備まで行うなど、業界的に店舗利用がメインであり、カーナビや、カーオーディオ、タイヤなどの商品は専門的知識が必要であり、整備ができない方が多くECサイトの利用率は高まりにくい面があります。

そんな中「UP GARAGE(アップガレージ)」で有名な株式会社アップガレージグループ(前 株式会社クルーバー)は、ECサイトを展開しており多くのメーカーの新品から中古パーツなどを取り扱っております。

車好きからは高い認知度を獲得しており、約23%とカー用品業界においてはかなり高いEC化率になっております。車やバイクパーツ専門のネットオークションも始めたので、今後のEC化率はますます高まることが予想されます。

また、Amazonや楽天市場でもパーツの取り扱いがありますが、やはり車となると、専門的な知識のあるスタッフに見てもらいたいユーザーの需要が多く、ECサイトでパーツを購入する人は、リテラシーが高い人に限られる印象です。

カー用品業界のECサイトについては、下記の記事で詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。

参考記事:カー用品業界のEC化率や大手各社のEC利用をプロが解説

この調査を通じて、最後にまとめ

世の中に、企業のEC化率がまとまっている資料がなかったことが、この調査を行ったキッカケです。しかし、調査を開始してみると、思った以上に骨の折れる作業で、調査に3週間を要しても、EC化率を算出できる国内上場企業は、たった62社しか見つけることができませんでした。

調査をするにあたって、非常に多くの決算資料を見ましたが、多くの資料には「今後はECに力を入れる」というよいうな趣旨の言葉が書いておりましたが、「好調だった」といったような所感に留められていたり、ECの売上が店舗の売上と合算しているケースが多く、データを収集するのに非常に時間がかかりました。

しかし、このような資料があれば、今後ECの導入を検討している企業や、あるいはEC業界を志す方の一助になると思い、記事というかたちでまとめてみました。今後もこの記事を的に更新して、日本のECサイト利用を促す活動につながればと思います。

当記事に関してご意見等あれば、コメント欄に書きこんでいただければ幸いです。

 


◆62社のEC化率の調査方法

国内上場企業の決算資料を見た結果、62社においてEC化率を算出することができました。

前提としてEC化率を公表している上場企業はごくわずかです。そのため調査を行うにあたり、多くの企業でEC化率を算出する必要がありましたが、各事業でECの売上を公開している企業が少ないため、この調査結果をまとめる時間に3週間を要しました。

各企業が公開している決算資料をもとにEC化率を調査(算出)しましたが、売上の区分や定義が会社毎に異なるので、以下のようなルールを設けて調査(算出)しました。

◆EC化率の計算式

EC化率 = EC売上 ÷ 全体売上

当調査でのEC化率の計算方法には下記の5つのパターンがあります。

① EC化率を公表している場合は、そのEC化率を採用
② EC化率を公表していない場合は、売上比率よりEC化率を算出
③ 連結売上と単体売上がある場合は、EC以外の事業を実施している場合は単体売上を優先。
④ 海外売上と国内売上がある場合は、なるべく国内売上を優先
⑤ EC化率ではなく、ECの売上比率と表記している場合もEC化率として採用

また、売上の出し方も各企業で異なるため、企業のEC化率を精緻に並べて算出することは不可能です。このため、このEC化率はあくまで筆者独自の調査に基づいた数字であることを念頭に置いてご覧ください。

なお、今回算出したEC化率は、2023年8月時点で確認可能な決算資料等に基づいた結果となります。


◆記事引用先データ一覧

※1 電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました(経済産業省)

※2 令和4年度 電子商取引に関する市場調査 報告書 P102(経済産業省)

※3 2期連続減収ANAPのEC事業、苦戦の原因と再生に向けた立て直し策は?(WEB担当者フォーラム)

※4 EC化率6割のANAPから見た「リアルなOMO」

※5 記者もだまされた通販偽サイト「まさか自分が、泣き寝入りか」…「おうち時間」で被害増(読売新聞)

※6 JINS、ECサイトでオンライン接客を可能に–デジタル上でブランドの魅力を発信

※7 コロナで百貨店の売上高 1兆5,000億円減少 百貨店の8割が赤字

※8 高島屋 22年3―8月期/EC売上高133億円/通期目標は420億円(2022年10月13日号)

※9 コメリがめざすEC化率10%のネット通販戦略

※10 なぜ1品から無料? ヨドバシエクストリーム便の凄さを藤沢社長に聞く

※11 ビックカメラがDX推進の新会社「株式会社ビックデジタルファーム」を設立

※12 PC国内出荷台数、7月6.1%減 16カ月連続で減少

※13 EC化率35%をめざす資生堂のDX&EC戦略と「ワタシプラス」改善事例

※14 マツモトキヨシのデジタル戦略、オムニチャネルを加速し広告の世界をも変える

※15 コロナ下で飛躍的に伸長するネットスーパー

※16 楽天がネットスーパー参入 西友と「楽天市場」の“いいとこどり”

※17 Amazonの取り組みから考える、ニューノーマル時代の歩き方。4つの事例が照らし出すもの

※18 イオンのデジタル売上は1300億円、ネットスーパー売上は750億円以上

※19 安室奈美恵、引退まで残りわずか 売上記録から見る25年の功績

※20 『鬼滅の刃』未曽有のヒットで1位 食品から衣服まで全部売れた

※21 エイベックスのEC売上は124億円(2019年度)、withコロナ見据え「音楽配信+EC」などデジタル強化

※22 リユース業界の市場規模推計2022(2021年版)​

※23 ALBERTとトレジャー・ファクトリーが、ささげ業務を効率化する自動採寸システム「クロスキャナ」を共同開発

※24 株式会社ハードオフコーポレーション・山本 善政社長のインタビュー動画(転機)