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アパレル業界はもともとEC化が進んでおり、他の市場と比べてECが活発に利用されております。アパレルECの市場規模も堅調に推移しており、2023年8月に経済産業省より発表された統計では、2022年の市場規模は2兆5,499億円、さらにEC化率は21.56%と物販分野においても特に高い数値となっております。

特にコロナ禍を経て、大きく売上を上げている企業の多くは、新しいデジタル技術の導入や、オムニチャネルによる実店舗とECの連動、またWEB接客の導入など、各社ともECへの取り組みをより強化しております。

しかし、右肩上がりのアパレルEC市場にもクリアするべき課題はあり、課題の解決を見据えたECの強化を行うことが重要になってきます。

本日は、forUSERS株式会社でコンサルをしている筆者が、アパレルECについて代表的な施策と課題について詳しく解説いたします。

アパレルECの市場規模とEC化率

下記のグラフは、経済産業省の統計によるアパレルECの市場規模とEC化率の推移になります。

◆アパレルECの市場規模とEC化率の推移(2014年-2022年)

アパレルEC市場規模推移(2014-2022)

EC市場規模 EC化率
2015年 1兆3,839億円 9.04%
2016年 1兆5,297億円 10.93%
2017年 1兆6,454億円 11.54%
2018年 1兆7,728億円 12.96%
2019年 1兆9,100億円 13.87%
2020年 2兆2,203億円 19.44%
2021年 2兆4,279億円 21.15%
2022年 2兆5,499億円 21.56%

引用:令和4年度 電子商取引に関する市場調査 報告書(経済産業省)より筆者が作成

経済産業省による最新の統計によると、2021年のアパレルECの市場規模は2兆5,499億円にのぼり、EC化率は21.56%となっております。物販分野全体のEC化率が9.13%であることから考えると、非常に高いEC化率であることがわかります。

毎年の推移も右肩上がりに伸びており、特にコロナ禍の2020年においては大きく市場規模が拡大しました。販売の主戦場が実店舗からECに移りつつある中で、コロナ禍においてその動きが一気に加速した形になったと考えられます。

アパレルEC市場の拡大要因

このように、アパレルEC市場が右肩上がりで成長している大きな要因は、業界のデジタル化の推進にあると考えられます。

現在では小規模から大規模まで様々なECサイトの構築・運用が比較的手軽にできるようになったことでEC参入のハードルが下がったことに加え、撮影・採寸・原稿書きといった「ささげ業務」を自動化するツールも提供されており、業界全体でEC業務の効率化が進みました。

また、登録された身体情報から最適なサイズを提案する「バーチャル試着サービス」の登場により、ECサイト上ではサイズ感がわからないため購入に踏み切れないといった、ECにおける試着問題も解消されてきております。

さらにアパレル業界では、OMOオムニチャネルといったリアル店舗とECの境目をなくすビジネスモデルが普及していることも、EC利用の活発化につながったと考えられます。

このように、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進により、ECの利用が促進され、コロナ禍の影響も追い風に市場規模を大きく拡大するに至りました。

アパレルECにおける7つの施策

このようにEC市場が拡大している中で、各社とも顧客の囲い込みのため様々な施策に取り組んでおります。ここでは、アパレルECにおける代表的な7つの施策について、実例を踏まえて解説いたします。

施策① オムニチャネル施策

アパレル業界において売上を高めている主要企業の多くは、いずれもオムニチャネル施策に積極的に取り組んでおります。

ユニクロは、アパレルECにおいて早くからオムニチャネル施策に取り組み、売上の向上に成功した代表例ですが、ECサイト上で店舗の在庫を確認できたり、ECサイトで購入した商品を最寄りの店舗で受け取れるなど、多くの店舗を持つ利点を活かして、店舗とECの連携を行っております。

参考:ユニクロ/店舗とオンラインを一体化するサービス拡充(流通ニュース)

また、「23区」「自由区」「組曲」などを展開するオンワードホールディングスでは、ECサイト上で試着したい商品を選び、店舗で試着する「クリック&トライ」サービスを提供しております。サイト上で扱っている商品であればブランドを問わず店舗での試着が可能なため、ユーザーはわざわざブランドの店舗へ行く必要もなく、試着をせずに購入するリスクに対する心配もなくなりました。

参考:新業態となるOMO 型店舗「ONWARD CROSSET STORE」、埼玉・愛知・千葉にオープン  オンラインストアの商品を取り寄せ・試着・購入可能。リユースなどのサステナブル機能も実装(PR TIMES)

施策② SNSマーケティング

アパレルのようなビジュアル訴求の重要な業界において、InstagramやYouTubeといったSNSメディアは非常にマーケティングの相性が良いツールです。SNSを活用している企業は、InstagramやTwitterにおけるハッシュタグ戦略や、ファッション系ユーチューバーによる商品レビュー動画で集客を行っております。

Instagramではフィード投稿から直接購入ページへ遷移でき、YouTubeでは概要欄からのリンクで購入ページへ遷移できます。このようにSNS連携では、投稿からダイレクトに購入アクションが取れることが大きなメリットです。

また、アパレルECにおいてトップを独走するZOZOTOWNでは、ファッションコーディネートアプリ「WEAR」というSNSアプリを運営しており、投稿されたコーディネート写真から直接ZOZOTOWNで購入できる仕組みを作っております。同様にユニクロも、GUと共同開発したSNSアプリ「StyleHint」によって、独自のSNS経由の販路を作り上げております。

◆「WEAR」

WEAR

参考:WEAR:ファッションコーディネート

◆「StyleHint」

StyleHint

参考:StyleHint

アパレルにおいては、好きなインフルエンサーや芸能人が着用しているというだけで販売数に大きく影響しますし、1つの商品でも投稿によって様々な表情を見せることができるため、SNSによる訴求力は極めて大きく、ぜひ事業者は積極的に取り組みたい施策の一つです。

施策③ 検索性の向上

SKU(在庫管理上の最小の管理単位)や商品数が多いアパレルECにおいては、検索性を高めてユーザーがストレスなく目的の商品にたどり着くことが非常に重要になってきます。

そのため、ZOZOTOWNのようなモール型のECサイトの多くは、あらかじめ様々な検索条件を用意し、ユーザーが目的に合わせて絞り込んでいく「ファセットナビゲーション」を採用しております。下記はZOZOTOWNのサイドナビゲーションです。

◆ファセットナビゲーションの例

ZOZOTOWNサイドナビ

また、「JOURNAL STANDARD」や「EDIFICE」など人気のセレクトショップを展開するベイクルーズでは、2022年にサイト内の検索エンジンが大きく強化され、特定の商品を指定日時で検索結果に表示させる機能が実装されました。

これにより「新商品がサイト内検索でヒットするようになる時間を店舗の開店時間に合わせる」「限定商品を指定日時から販売開始する」といったように、ユーザーの混乱を招かない、柔軟性のある検索設定が可能になりました。

引用:ベイクルーズがECサイトの検索機能を強化。特定商品を指定した日時まで検索結果に表示させない機能を実装(ネットショップ担当者フォーラム)

施策④ 試着問題の解消

これまでアパレルECにおける大きな課題が「試着」でした。そのブランドや商品のリピーターでもない限り、基本的にアパレル商品は購入前の試着が大前提となります。そのため、試着や手にとってモノを確認することができないECサイトでは、初見の商品の購入はユーザーにとってリスクが大きく、購入がためらわれる原因の一つです。そのため、そういったユーザーの不安をいかに解消するかが初回購入を成功させ、リピートにつなげていくための重要なポイントになります。

ユニクロでは、サイズチャートが詳細に作られており、商品や身体の採寸方法まで詳しく表記しております。また、身長、体重、体型、年齢、希望の着心地を入力することで最適なサイズを提案してくれる機能(MySize ASSIST)も備えられており、ユーザーのサイズ選びをサポートしてくれます。

また、MySize ASSISTには自身の写真を撮影してアップロードすることで、自動的に身体パーツの寸法が推定され、より精細な採寸が可能となる機能も実装されております。

◆ユニクロの「MySize ASSIST」

mysizeassist

ファストファッションに特化したアパレル専門モールSHOPLIST(ショップリスト)では、商品ごとに「購入者による着用感」がまとめられており、寸法だけではわかりにくい「ちょうどいい」「少し大きめ」などの実際の着用感によって、サイズ選びの参考にすることができます。

◆SHOPLISTの「試着サイズレポート」

試着サイズレポート

また、衣服ではありませんが、メガネブランドのJINSのECサイトではメガネのバーチャル試着機能を実装しており、WEBカメラもしくは写真をアップロードすることで、自分の顔に商品画像を合成して試着することが可能となっております。

◆JINSの「バーチャル試着」

JINS試着

施策⑤ 商品情報の充実化

前項で述べたように、ECサイトでは商品を手にとって確認することができないため、商品ページでは少しでも多くの情報で充実させ、ユーザーに商品の魅力を正確に伝えることが重要です。

特に写真に関しては、その良し悪しが売れ行きを大きく左右するため、着用写真やディテール、またカラーバリエーションなど、掲載する写真にはこだわる必要があります。ユニクロやSHOPLISTの商品ページでは、豊富な写真の他にも、ユーザーによりリアルなイメージを伝えるため着用動画も掲載しております。

◆SHOPLIST商品ページの着用動画

shoplist動画紹介

また、商品ごとに購入者のレビューを掲載したり、スタッフやSNS投稿者によるスタイリング写真を掲載するなど、多くの購入検討材料が用意されております。

施策⑥ WEB接客の導入

新型コロナウイルスの感染拡大における外出自粛により実店舗の客足が極端に減少したことをきっかけに、アパレル各社においてWEB接客・オンライン接客の導入が進んでおり、ビデオ通話によるオンライン販売や、ECサイト上にチャットボットを導入するなど、様々な形で施策に取り組んでおります。

「GLOBAL WORK」「niko and…」など、知名度の高い人気ブランドを多数展開するアダストリアのECサイト「.st(ドットエスティ)」では、コロナ禍において特にスタッフ一丸となってWEB接客に取り組みました。ECサイト上では約4,000人の店舗スタッフがコーディネートを投稿しておりますが、ブランドや身長・体型から投稿を絞ることができ、着用アイテムはすべて投稿写真から直接購入可能となっております。

◆.stのスタッフ投稿コンテンツ「STAFF BOARD」

ドットエスティのスタッフコーデ

さらに同社では、Instagramのライブ配信機能も活用し、ライブコマースによるWEB接客も実施しております。閲覧しているユーザーのコメントにスタッフが直接回答ができるため、まるで店舗で買い物をしているかのようなUX(ユーザーエクスペリエンス)が実現されております。

参考:コロナ禍でEC売上増! アダストリアのアパレルオンライン接客事例とは(ネットショップ担当者フォーラム)

施策⑦ CRMの強化

アパレルに限らない話ですが、ECサイトではいかに初回購入を成功させ、継続的に購入してくれる顧客として囲い込んでいくかが重要です。そのため、継続的に購入してもらうための施策として、CRMを導入・強化は重要な施策の一つになります。

代表的な施策の例としては、顧客データを活用した広告の配信です。購入者へメールマガジンやLINE@を配信することで関係値を高め、ユーザーのファン化を狙います。また、購入履歴や閲覧履歴からおすすめの商品を提案することも効果の大きい施策の一つです。

「JILLSTUART」や「PINKY&DIANNE」などの人気レディースブランドを中心に展開するTSIホールディングスは、EC事業の構造改革による売上拡大の戦略の一つとして、CRMの強化を行い、1,500万人の会員プラットフォームによるスタッフやユーザー同士のコミュニティを展開する戦略を打ち出しております。

このように、ECサイト上で実店舗と同等の買い物体験を実現するには、ECにおいてもユーザー一人ひとりに目を向けた施策を行うことが重要です。

参考:TSIは「脱アパレルOnly」で「ファッションエンターテインメント創造企業」へ。EC売上760億円をめざす中期経営計画まとめ(ネットショップ担当者フォーラム)

アパレルECの抱える3つの課題

市場が拡大傾向にあるアパレルECですが、抱えている課題もあります。ここではアパレルECにおいてクリアするべき3つの課題を解説いたします。今後のアパレル業界では、これらの課題の解決を見据えたEC施策に取り組むことが重要になってきます。

課題① モール依存により、自社ECの集客が弱い

アパレルECにおいてトップを独走するZOZOTOWNをはじめ、SHOPLISTや楽天市場などのECモールは集客力が高く、売上を上げやすいプラットフォームではありますが、一方で価格競争に陥りやすく、やむを得ず値下げなどの措置を取らざるを得ないこともあります。また、詳細な顧客情報を得ることも難しいため、自社のマーケティングに活用することもできません

そのため、ECモールとともに自社ECも積極的に展開し売上の最大化を図る必要がありますが、特に立ち上げたばかりの自社ECは集客が弱いため、新規顧客の獲得が最も大きな課題となります。

ECサイトの集客には、リスティングなどの広告施策の他、InstagramやYouTubeなどを使った短期的なプロモーションや、SEOブログを利用した中長期的な施策があります。また、実店舗においてもチラシやカード、またスタッフによるオペレーションによりECに誘導する仕組みを作るなどして認知度を高め、地道に集客していくことが重要です。

課題② アパレル業界で進む二極化

昨今のアパレル業界では、ユニクロやGUといったファストファッションの普及により、「それなりに質の良いもの」が「安く買える」ことが消費者に周知・定着化され、ファストファッションブランド購入層以外の多くは、「安心感」「信頼感」といった付加価値を得られるハイブランドを求めるといった、二極化が進んでおります。

そのため、そのいずれにも属さない中間層にある企業は、安易な価格競争に巻き込まれるなど苦戦を強いられております。しかしこういった状況の中で「価格」に勝機を見出すことは難しいでしょう。そのブランドのリピーターを増やしファン化させていくために重要なのは、価格ではなく、ユーザーにそのブランドの魅力をしっかり伝えることです

そのために、ターゲットを明確化し、世界観が醸成されたECサイトの構築を行い、SNSにおいても一つひとつブランディングを意識した投稿を行うなど、ユーザーがもっとそのブランドを知りたいと思えるような施策に注力することが重要になってきます。

課題③ EC市場は拡大傾向だが、アパレル市場自体は縮小傾向にある

冒頭にも述べた通り、アパレルEC市場は拡大傾向にありますが、そもそもアパレル市場自体は縮小傾向にあるのが現状です。アパレル市場規模の推移について、下記のグラフをご覧ください。

アパレル市場規模推移

グラフ引用:我が国繊維産業の現状 サステナビリティへの取組み(経済産業省)

このようにアパレル供給量は増加傾向にありますが、一方で市場規模は右肩下がりで縮小傾向にあります。アパレル市場が縮小している要因は大きく下記の3つが考えられます。

① ファストファッションの隆盛により、消費者の支出額が下がった
② 長く続く景気の低迷
③ 少子高齢化によりターゲット層が縮小している

こういった背景において、アパレル業界が売上を拡大していくためには、ECサイトの強化だけではなく、オムニチャネル施策による店舗とECの連携や、業務のDX化など、業界全体でデジタルシフトしていくことが必要になってきます。

また、国内だけでなく海外へ販路を拡大していくことも重要です。そのため越境ECへの参入など積極的な海外展開を進めていくべきです。

まとめ

右肩上がりのアパレルEC市場において、売上を上げている大手企業の多くは、EC機能の強化はもとより、オムニチャネル試作やWEB接客などでリピーターの囲い込みに成功しております。

しかしながら、先に述べたようにアパレル業界自体は、景気の低迷や消費者のファストファッション志向により縮小傾向にあり、二極化という課題も抱えているため、中間層にある企業がしっかりと売上の底上げを図っていくことが、今後の業界成長の鍵となってきます。

そのために、ZOZOTOWNなどのECモールに依存するのではなく、自社ECにおいて積極的なデジタルシフトによる効率化や、ブランドの魅力をユーザーに伝えるための努力を積み重ねていくことが重要なのです。