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家具業界におけるECの利用は比較的進んでおり、2022年のEC化率は29.59%と、国内における物販分野のEC化率である9.13%を大きく上回っております。

特にコロナ禍においては、ステイホームや在宅ワークによる自宅環境の見直しから、家具やインテリアの需要が急増し、EC市場においても大きく市場を拡大させました。

国内のBtoCにおけるEC需要の高まりの中で、家具業界各社では、ECをはじめとしたデジタルマーケティングへの取り組みが活発になっており、近年では、オンライン販売を専門としたブランドも業績を伸ばしていることから、販売チャネルが徐々にECに移行しつつあると筆者は見ております。

特に家具業界を牽引する大手各社は、ARやデジタル端末の導入など技術分野への投資を積極的に行い、ECサイトやSNSを軸にしたデジタルマーケティングにより売上を高めております。

そこで本日は、forUSERS株式会社でコンサルをしている筆者が、家具業界のEC市場について、大手企業の事例を含めて詳しく解説いたしますので、家具業界を目指している方、興味がある方は、是非ご覧ください。

家具EC市場の現状

まずは家具EC市場の現状について詳しく解説いたします。

2022年のEC化率は29.59%と高水準

下記はEC市場規模とEC化率の推移を示したグラフです。

◆家具業界のEC市場規模とEC化率の推移(2014年~2022年)

家具EC市場規模推移(2014-2022)

市場規模 EC化率
2014年 1兆1,590億円 15.49%
2015年 12,120億円 16.74%
2016年 13,500億円 18.66%
2017年 14,817億円 20.40%
2018年 16,083億円 22.51%
2019年 17,428億円 23.32%
2020年 21,322億円 26.03%
2021年 22,752億円 28.25%
2022年 2兆3,541億円 29.59%

引用:経済産業省電子商取引実態調査」および「令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2023年8月発表)よりグラフ作成

グラフを見てわかる通り、家具業界のEC市場は右肩上がりで堅調に推移しております。特にコロナ禍の2020年には急激な成長を見せております。これは外出自粛や給付金支給により、家具の購入や在宅ワーク関連の需要の急増が要因と見られております。

ライフスタイルとともにワークスタイルも多様化した現在、アフターコロナにおいても、在宅ワークは継続されると見込まれていることからも、今後も市場は拡大していくものと考えられます。

EC化率が高い5つの理由

家具業界のEC化率は、2014年時点ですでに15.49%あり(国内物販分野全体のEC化率は4.37%)、2022年には29.59%と、非常に高い水準で推移しております。

この業界のEC化率が高い理由として、主に下記の5点が考えられます。

理由① 展示数が限られる店舗に比べてECサイトは商品数が豊富
理由② 大型家具は自分で持ち帰るのが難しく配送需要が高い
理由③ 自宅で採寸や設置イメージを考えながら買い物ができる
理由④ 大型店舗が郊外に多いため都心部のEC利用率が高い
理由⑤ 安価なオンライン専門店の台頭

ただし、例えば安価で質の良い商品だからと言って、単純にECサイトで販売するだけでは、まったく売上は上がらないと筆者は考えます。

なぜなら、家具やインテリアは商品を実際に確認することができないため、サイズ感や質感が把握しづらく、特に、高額であり頻繁に買い替えるものでもないため、実物を見てしっかり検討してから購入したいというニーズも高いはずです。そういった意味では、家具業界自体、必ずしもECと相性が良いとは言えないからです。

ではなぜEC化率が高いのかと言えば、上記の理由に加えて、各社ともECサイトにおいて、売上を高めるための様々な施策への取り組みがあるからこそだと考えます。

売上を高めるEC施策の3つのポイント

家具業界において、EC売上を高めるためのポイントはいくつかありますが、ここでは代表的な3つを解説いたします。

ポイント① 可能な限り詳細な情報を記載する

ECサイトでは、実際に商品を見ることができないためサイズ感や質感などが把握しづらいデメリットがあります。特に家具やインテリアのような大型商品は、写真でみたものと実際の商品のイメージが違うといったことは多々あります。

そのために、少しでもユーザーが実物をイメージしやすくなるように、商品ページにはできるだけ詳細な商品情報を掲載する必要があります。

具体的には、本体サイズ、梱包サイズ、重量、材質、サイズやカラーバリエーションごとの写真や、サイズ感を把握しやすいよう人物と一緒に移した写真などですが、例えば「棚」であれば、実際に物が置かれた状態の写真などがあれば、ユーザーが自分の部屋で商品を使用しているイメージもしやすくなります。

ポイント② 豊富なラインナップを用意する

ECサイトの利点は、システムにもよりますが、基本的に商品の掲載に上限がないことです。特に、家具店においては、すべての商品を展示することは難しいため、ECサイトで豊富なラインナップを用意することで、展示しきれない商品やバリエーションの補完が可能になります。

ただし、ここで大事なことは下記の2点です。

・検索性を高くする
・店舗でもECサイトへ誘導する

商品が豊富になる分、サイト内での検索性も高める必要があります。キーワードや品番による検索はもちろん、種類別、目的別、ロケーション別など、様々な視点から目的の商品を見つけやすくする工夫が必要です。

また、店舗において「このソファ、3人掛けじゃなくて2人掛けがあったらよかったのに…」というようなケースもあるため、展示商品の他サイズやカラーバリエーションがあるなら、ECサイトで確認・購入が可能なことをしっかり伝えることで、機会損失をなくすことが可能になります。

ポイント③ 世界観を構築する

企業やブランドで継続して購入してもらうためには、競合との差別化を図り、自社のファンを作ることが重要です。安易に価格を下げるだけでは不毛な価格競争に陥ってしまい、長期的には自社に悪影響を与えかねません

自社のファンを育成するためには、オリジナリティ=自社ならではの価値を創造し、ユーザーが「ここで買いたい理由」を作らなければなりません。

そしてオリジナリティを創造するには、軸のぶれない世界観の構築が重要になってきます。ブランドの世界観をしっかりと構築し、店舗やECサイトにおいてそれを醸成することで、ユーザーの共感を得て、ファン化につながっていきます。

人気の家具企業3社のEC事例

前に述べた通り、家具業界とECは必ずしも相性が良いとは言えません。そのため、業界各社はECでの売上を高めるために様々な取り組みを行っております。

ここでは国内で人気の3社について、EC施策の具体例を紹介いたします。

IKEA(イケア・ジャパン株式会社)

IKEA(イケア)は、スウェーデンを発祥とする家具・インテリアの量販店です。イケアではEC部門の成長が続いており、国内におけるEC化率は不明ですが、グローバルのEC化率は26%と公表されております。

イケアは、低価格かつデザイン性に富んだ商品ラインナップも十分魅力的ですが、ブランド独自の世界観に惹かれて店舗やECサイトを利用するユーザーも多く、筆者もその一人です。

店舗は各ブースごとに世界観が構築されており、商品自体を見せるというよりも、空間を見せることで商品の魅力を際立たせることに成功しております。

◆イケアの商品展示ブース

IKEA店内

これは店舗だけではなく、ECサイトやSNSを見ても世界観がしっかり醸成されていることがわかります。特に公式Instagramでは、余計なテキストなどは入れずに写真だけで「憧れのライフスタイル」が演出されており、クオリティの高い素材を使った投稿は延々と眺めていても飽きません。

◆イケアのInstagram

イケアInstagram

このように独自の世界観を構築することで、共感したユーザーが自社のファンとして醸成され「欲しいものをイケアで買う」ことから「イケアの商品が欲しい」に変わっていきます。

また、Instagramではライブ配信も行っており、商品の機能やインテリアのコーディネートといった情報を発信しております。

◆インスタライブ配信(過去録画より)

イケアインスタライブ

さらにイケアでは、YouTubeも積極的に活用しており、商品の組み立て方やコーポレートメッセージ、またユニークな内容ではワークショップなど、様々な内容の動画を配信しております。

このようにSNSを活用して、オンライン上でのユーザーとのタッチポイントを増やすことで、ECへの流入を増やしております。

◆イケアのYouTubeチャンネル

イケアYouTube

参考:IKEAオンラインストア【公式】公式Instagram公式YouTubeチャンネル

ニトリ(株式会社ニトリホールディングス)

ニトリは国内773店舗(2023年3月31日時点)、海外にも100店舗以上を展開する、家具業界において国内屈指の企業です。2023年3月期のEC売上高は921億円で、EC化率は11.2%でした。

参考:株式会社ニトリホールディングス 2023年3月期 決算説明会資料

ニトリのEC施策の軸は、実店舗とECを融合したOMOにあり、実店舗においてもオンラインを意識した施策の取り組みがなされております。

ECサイト上で店舗の在庫の確認ができたり、アプリであれば店内のどこに商品があるかもわかるようになっております。また、店舗においては、組み合わせのバリエーションがある商品については、下記のようにECへの誘導POPがあり、そこで組み合わせのシミュレーションを確認することができます

ニトリ_組み合わせシミュレーション

また、店頭に置かれた端末でアウトレット商品を検索し、その場で購入できる「デジタルカタログサービス」が提供されております。店舗にはないWEB限定の商品も取り扱っており、店舗においても販売の場をオンラインに広げることで、展示数が限られる実店舗のハンデを払拭しております。

◆店頭に設置されているデジタルカタログ端末

ニトリオンラインカタログ

ニトリでは、店舗に展示されている大型家具商品には、下記のような持ち帰り自由のリーフレットが備え付けられており、商品の寸法やカラーバリエーション、価格などの詳細情報が記載されており、ECサイトへのQRコードも記載されております。

これは、一般的に家具のような高額商品はその場で購入を決定することは少なく、一旦時間をおいて検討するといったことが多いため、自宅でリーフレットを見ながら検討し、購入を決めたときに、その場でECから購入できるようにするためのものでしょう。

ニトリ商品リーフレット

ただ、記載のQRコードはECサイトのトップページのコードとなっているため、商品ページへダイレクトに遷移するQRコードであれば、さらに購入機会を高めるツールになったのではないかと筆者は感じました。

ニトリでは、このように店舗とEC、あるいはアプリを融合したOMO施策の推進により、販売チャネルの枠を超えた購入体験をユーザーに提供できていることが大きな強みとなっております。

参考:ニトリネット【公式】 家具・インテリア通販

LOWYA(株式会社ベガコーポレーション)

LOWYA(ロウヤ)は、実店舗を持たずオンライン販売を専門にしておりますが、2023年3月期の売上実績は163億2,000万円にのぼり、幅広いユーザー層に支持されております。

ロウヤは自社ECの他、Yahoo!ショッピングや楽天市場といったECモールサイトにも出店しており、2016年時点では自社ECの売上は全体の5%程度でしたが、D2Cマーケティング施策の成功により、2020年時点では自社ECの売上が全体の50%を占めるほどに成長しました。

参考:4年間で売上18倍。D2Cによって人気家具ブランドとなった「LOWYA」(東証マネ部!)

ロウヤのD2C施策も「世界観の醸成」というところに軸を置いており、自社ECサイトは商品自体の紹介ではなく、商品を中心に創出されるライフスタイルを提案しております。

例えば商品検索のひとつの方法として、コーディネートされた空間から気になる商品を見つけるといった手法を採っております。撮影だけでも時間とコストがかかるはずですが、この方法自体がロウヤのブランドの世界観として成立していることがわかります。

◆ロウヤのコーディネートページ

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また、オンライン専門のため購入前に実物を確認できないことによるユーザーの不安を解消するため、AR技術を利用したバーチャル試し置き機能も備えられております。

対応機種は現時点でiPhoneのみですが、カメラに商品の3Dモデルを合成して、自分の部屋の好きな場所への配置が確認できます。商品を360度確認できるので、写真に比べて圧倒的に全体をイメージしやすくなります

◆LOWYA AR

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このように、実店舗でのリアルな体験ができない部分をデジタル技術で補完し、店舗に劣らない購入体験を提供しています。先進技術の導入はコストがかかりますが、実店舗を持たないことで、その分UIなどの技術面に多くの予算を投入できるメリットもあります

ロウヤでは、商品企画から配送まで一貫して自社で行っており社内に専門の開発チームを設けて、徹底したPDCAサイクルで日々インフラやサイトの改善に努めております。EC専門のロウヤが店舗を持つ競合大手とどのように戦っていくのか、今後の展開が期待される企業のひとつです。

参考:年間売上約200億のECサイトを支えるSREチームの取り組みとは? LOWYAに学ぶNew Relic One活用【デブサミ2021夏】(CodeZine)【公式】LOWYA(ロウヤ) 家具・インテリアのオンライン通販

家具業界で進む二極化

「家具やインテリアはどこで売っている?」と聞かれて、どこが思いつくでしょうか?おそらく、多くの方は生活に身近な「ニトリ」や「IKEA」などを思い浮かべるのではないでしょうか。

あるいは、「カリモク家具」「大塚家具」などに代表される高級ブランドや、高価なアンティーク家具といったイメージもあるかもしれません。

事実、昨今の家具業界では「低価格家具」と「高級家具」の二極化が進んでおり、今後は特に低価格市場のシェアが高まっていくと見られております

参考:コロナ禍の家具・インテリア市場規模は過去最高の1.5兆円、巣ごもり需要や在宅勤務が追い風(ネットショップ担当者フォーラム)

こうした中で、どちらにも属さないミドルプライスのブランドや、町の家具店などは苦戦を強いられているのが実情です。

低価格ブランドの大手企業が業界をけん引し、市場拡大へ導いていることは間違いありませんが、それは業界のコモディティ化にもつながりかねません。市場は拡大するかもしれませんが、長期的に見たときに業界の成長がなくなるのではないか?と、筆者は懸念しております。

まとめ

家具業界は、EC化率も高く市場規模は右肩上がりに伸長している好調な業界です。今後もEC需要が高まっていくと見られている中で、大手各社をはじめとして様々なEC施策などのデジタルマーケティングに取り組んでおります。

また、「LOWYA」や「FLYMEe(フライミー)」などオンライン販売専門のサイトも業績を伸ばしており、これらベンチマークとして今後もオンライン専門ブランドが増えてくることが予想されます。

低価格を強みとした大手企業らが市場のシェアを広げていく中で、業績に伸び悩む高級家具ブランドや、町の家具店は、自社の強みを見直しブランディングを再構築し、需要が高まるECやSNSを活用しながらユーザーの共感を得ていくことが重要になってきます。