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経済産業省の報告によると、電子書籍、音楽配信などのデジタルコンテンツを除く書籍・音楽EC市場の、2022年の市場規模は1兆8,222億円、EC化率は52.16%となっており、国内の物販分野全体のEC化率である9.13%を大きく上回り、他業界の中でも最も高いEC化率を持っております。

コロナ禍においては、音楽業界は各種イベントやライブの中止・延期に見舞われ、業界全体で大きな損害を被りましたが、巣ごもり需要により屋内娯楽のニーズが急激に高まったところに、「鬼滅の刃」といった大ヒットコンテンツが生まれたことで、結果的に市場規模を大きく拡大させました

しかし、昨今のメディアのデジタルシフトにともない、電子書籍やストリーミングやサブスクなどの音楽配信がシェアを高めつつあり、今後、物販における書籍・音楽市場の店舗やECサイトは、生き残りを模索していく必要に迫られてくると考えられます。

今回は、forUSERS株式会社でコンサルをしている筆者が、書籍・音楽EC市場について、その特徴や課題などを詳しく解説いたします。

書籍・音楽EC市場規模とEC化率

ますは、下記の書籍・音楽EC市場の市場規模とEC化率の推移のグラフをご覧ください。

書籍・音楽EC市場規模とEC化率の推移

書籍音楽EC市場規模推移(2014-2022)

EC市場規模 EC化率
2014年 8,969億円 19.59%
2015年 9,544億円 21.79%
2016年 1兆690億円 24.50%
2017年 1兆1,136億円 26.35%
2018年 1兆2,070億円 30.80%
2019年 1兆3,015億円 34.18%
2020年 1兆6,238億円 42.97%
2021年 1兆7,518億円 46.20%
2022年 1兆8,222億円 52.16%

引用:「電子商取引実態調査」「令和4年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」(経済産業省

書籍・音楽業界のEC市場規模およびEC化率はゆるやかな拡大傾向にありましたが、コロナ禍に突入した2020年には、ステイホーム期間の娯楽として読書や音楽鑑賞の機会が増え、いわゆる「巣ごもり需要」により市場規模とEC化率が大きく伸長しました。

後述しますが、特に2020年は2019年からの「鬼滅の刃」の人気がピークを迎え、メガヒットコンテンツとしてコミックや関連音楽・映像商品の売り上げが、市場規模に大きく影響したものと考えられます。

書籍・音楽市場は最もEC化率が高い分野

下記は、国内の物販系BtoC-EC市場規模を分野ごとに比較した表です。これを見ると、「書籍、映像・音楽ソフト」のEC化率が群を抜いて最も高く、2022年の物販分野全体のEC化率が9.13%であるのに対して52.16%と、この分野のECの利用が非常に進んでいることがわかります。

◆物販系分野のBtoC-EC市場規模

2022年物販系分野EC市場規模(書籍ハイライト)

この分野のEC化率が高い背景のひとつに、「型番買い」ができることが挙げられます。書籍やCD、DVDはどこで商品を購入しても品質が変わることがないため、型番あるいは商品名で購入することができます。「実際に商品を見てみないと不安」といったような心理的なハードルもなく、ECサイトでの購入がしやすいのです。

同様の性質を持っており、「型番買い」が可能な分野が「家電・AV機器」の分野ですが、やはりEC化率を見ると、書籍・音楽に次ぐ高いEC化率を持っていることが、表を見るとわかります。

書籍・音楽EC市場の5つの特徴

それでは、書籍・音楽のEC市場の特徴について5つの特徴を紹介いたします。

特徴① コンテンツのヒットの影響が大きい

書籍・音楽の市場の大きな特徴のひとつは、コンテンツのヒットに影響されることです。2020年に社会現象とも言える大ヒットとなった漫画「鬼滅の刃」は、アニメ化の影響もあり、2020年度のコミック週間売り上げの中でも最高の数字を記録し、EC市場にも大きな影響を与えました。

音楽の例で言えば、大人気アーティストだった安室奈美恵が引退する際、アルバムはミリオンセラー、そしてDVDも国内音楽映像作品史上で初のミリオンセールスを突破しました。これにより業界のEC化率も高まりました。

このように、書籍や音楽は多くの作家、アーティスト、ジャンルが存在する中で、コンテンツの爆発的なヒットが発生しやすく、それがダイレクトにECの売上に影響することが特徴となっております。

参考:『鬼滅の刃』未曽有のヒットで1位 食品から衣服まで全部売れた(日経クロストレンド)安室奈美恵、引退まで残りわずか 売上記録から見る25年の功績(ORICON)

特徴② 消耗品ではないためリピート購入率が低い

書籍や音楽CDは消耗品ではなく、基本的に一度購入したら長く所有するものです。そのため破損や汚損、紛失などがない限りは、リピート購入することはなかなありません。

そのため、「売れ続ける商品」というものは少なく、ひとつのヒット商品で利益を維持することが難しいため、定期的に売れる商品を販売していかなければなりません。

特徴③ コレクターなどのファン層が存在する

この分野の商品には、コレクターが多く存在することも特徴のひとつです。特に初回限定盤(書籍で言えば初版)には特典が付いていることも多く、特別仕様の商品として希少性も高いため、初回盤を狙って購入するファンが一定数おります

そもそも音楽や映画、書籍といったコンテンツは、個性が強く、趣味や嗜好によって好みがわかれており、レーベルや出版社も各社に強い個性があるため、ユーザーのブランドロイヤリティが高い傾向があるのも特徴と言えます。

特徴④ 比較サイトやレビューサイトなどが充実しており情報収集が容易

書籍や音楽、映画などのエンターテインメント・コンテンツは、前項で述べたように趣味や嗜好によって好みがわかれているため、比較サイトやレビューサイトも、個人の趣味的なものから企業が運営する大規模なものまで多く存在しております。

そのため、インターネットが普及した現代においては、ユーザーはひとつの商品に対して極めて豊富な情報を容易に得ることができるため、購入する前に自分に最適な商品を選択することが可能です。こういった背景もECサイトを利用しやすくしている要因のひとつと言えるでしょう。

特徴⑤ ジャンルがきわめて細分化されており品揃えも豊富

書籍や音楽はジャンルが非常に細分化されており、さらに作家やアーティスト、あるいは出版社やレーベルまで含めると、きわめて詳細に区分されており、それだけECサイトで取り扱う商品数も膨大な数にのぼります。そのため、大手のEC各社においては、検索条件が細かく設定されており、高い検索性を持っている傾向があります。

また、実店舗では店舗在庫に限りがありますが、ECサイトでは商品掲載に上限はありません。そのため、店舗には置いていないようなマニアックな商品がECサイトでは購入できるのも、この分野のEC市場の特徴と言えます。

書籍・音楽EC市場の3つの課題

拡大傾向にある書籍・音楽EC市場ですが、抱えている課題もあります。同じ分野にありながら「物理」と「デジタル」という両極にあるメディアを持つ、この市場ならではの課題を3つ解説いたします。

① デジタルコンテンツの需要が増えている

本も音楽も、今やデジタルが主流の時代となっており、紙の書籍やCD・DVD・Blu-rayといった物理メディアは前時代的メディアと言わざるを得ません。電子書籍や音楽配信であれば実体を持たないデータのため扱いやすく、販売店に行く手間も配送を待つ時間もかからず、購入してすぐに楽しむことができるため、手軽さという意味ではニーズが高まっていくことも当然と言えます。

ただ、電子書籍に関しては、下記のグラフではコミックが電子書籍のシェアの大部分を占めており、活字メディアはまだまだ紙媒体のニーズがありますし、実際にデジタルメディアと物理メディアを、利用する場所やジャンルによって使い分けているというデータもあります。

◆電子書籍市場規模のジャンル別内訳

電子書籍市場規模のジャンル別内訳

グラフ引用:2021年度の市場規模は5510億円、2026年には8000億円市場に『電子書籍ビジネス調査報告書2022』8月10日発売(株式会社インプレスホールディングス / PR TIMES)【書籍購入の利用チャネル動向を調査】半数はネットとリアル書店を、2割はリアル書店・通販・電子書籍を併用!(株式会社インプレスホールディングス / PR TIMES)

とは言え、デジタルの隆盛により、現実として物販市場は縮小傾向にあり、書店などの実店舗も年々減少しております。分野全体としての市場は拡大しておりますが、物販の店舗やECに限って言えば、今後の生き残りが大きな課題となっております。

参考:出版市場は堅調も書店の店舗数減少には歯止めかからず……リアル書店の生き残り策は?(DCSオンライン)

② 中古商品を安価に手に入れることができる

書籍・音楽の分野は、古本や中古CDとしてリユース市場でのニーズが非常に高く、ブックオフをはじめとした中古販売サイトやオークションサイトなども多数存在しております。

本やCDは、新品も中古も内容に差異はなく、新刊・新譜もわりとすぐに中古市場に流れていくため、「あえて新品を買わなくてもいい」と考えるユーザーが少なくありません。筆者の知人にも、いわゆる「読書家」がおりますが、「本は新品で買うことのほうが少ない」と言っております。

このため書店やECサイトにおいては、「新品でもここで買いたい」と思ってもらうための工夫が必要になってきます。

再販性が低く在庫の管理が難しい

特徴で述べたように、書籍やCDは消耗品でないため、基本的には一度購入した商品を再度購入する必要がありません。このような性質から、書籍・音楽CDなどは再度販売される可能性(再販性)が低いとされており、販売店側は在庫管理が難しい面があります。

そのため、ECサイトとしてはファン層からの需要が高い限定版や特別仕様の商品に注力したり、少量ずつ在庫を確保して再販性を見極めながら、適切に在庫を調整することが重要となります。

昨今、取扱商品を在庫リスクのない電子媒体へ移行するECサイトが増えてきているのも、こういった背景があるためだと考えられます。

書籍・音楽ECサイトの大手3社

それではここで、書籍・音楽分野の大手ECサイトを紹介いたします。

① 紀伊國屋書店

紀伊國屋書店

紀伊國屋書店は国内のみならず海外にも店舗を展開し、輸入書籍を扱う書店としては最大規模の大手書店です。

ウェブショップでは、和書・コミック・洋書・CD・DVD、また電子書籍も扱っています。画像のように和書カテゴリだけでも多くのジャンルで商品を検索できるようになっており、検索性を高めていることがわかります。

またウェブショップでは、店舗には置いていないようなマニアックな商品も扱っているため、コアなファン層が定期的にサイトをチェックすることが多いようです。

紀伊國屋書店

② TOWER RECORDS オンライン

towerrecords

日本国内においては、HMVや新生堂などと並ぶ大手の音楽ソフト販売チェーンであるTOWER RECORDS(タワーレコード)は、音楽CDやレコードの販売が主力でしたが、1999年から書籍市場にも進出し、当初は音楽関連の書籍が中心でしたが、現在では小説など幅広いジャンルの書籍も取り扱っております。

タワーレコードのオリジナル特典が豊富であったり、タワーレコードのみで取り扱っている限定盤の販売などを行うことで、ブランドロイヤリティを高めていることが特長です。また、ECサイトで購入した商品の店舗受け取りやコンビニ受け取りサービス、オンライン限定セールの実施など、ECを使ってもらうための工夫も見られます。

TOWER RECORDS ONLINE

③ TSUTAYA オンラインショッピング

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TSUTAYAオンラインショッピングは、本・コミックや音楽CD・DVDに加えて、ゲームや文具・雑貨・グッズなど幅広いジャンルの商品を取り扱うECサイトです。

もともとは、レンタルビデオ・DVD・CDがサービスの中核で、全国に多くの店舗を展開しておりましたが、デジタル配信の隆盛にともなって店舗は徐々に減少していき、レンタルサービスも年々縮小していくことになりました。

しかし、もともと他ジャンルのコンテンツを豊富に扱っていたこともあり、結果として現在では、新品商品のみならず、リユース商品やレンタルサービスも展開する、幅広いニーズに応えたサービスを展開するECサイトとなっております。

TSUTAYAオンラインショッピングでも、店舗受け取りサービスや共通ポイントであるT-POINTの連携などのEC施策に取り組んでおります。

TSUTAYA オンラインショッピング

物販においても独自の付加価値をつけていくことが重要

昨今のコロナ禍において、エンターテインメントの分野はいわゆる「不要不急」のものとして、大きく制限を受けました。特に音楽業界では、ライブやイベントが相次いで中止・延期になり、ライブ盤などの関連物販商品の売上見込みがなくなりましたが、一方で、出版業界では「鬼滅の刃」のヒットが巣ごもり需要にはまり、書籍の売上に大きく影響しました。

このように、冒頭に示したように全体としては右肩上がりの書籍・音楽市場ですが、ミクロ的な視点で見れば、相次ぐライブやイベントの中止による収録盤の不発があったかと思えば、「鬼滅の刃」などのヒット作品が生み出されるなど、売上の浮き沈みが激しい市場と言えます。

しかし、書籍・音楽いずれにも共通することは、データ配信の市場が拡大傾向にあり、今後よりシェアを占めていくことが予想され、ますます物理メディア中心の販売店・ECサイトは生き残りが厳しくなってくるものと考えられます。デジタルコンテンツの推移については下記記事をご参考ください。

参考:2021年度の市場規模は5510億円、2026年には8000億円市場に 『電子書籍ビジネス調査報告書2022』8月10日発売(インプレス総合研究所日本も「音楽ストリーミング」拡大期に入った。日本レコード協会のデータから読む音楽産業の現在地(Business Insider Japan)

とは言え、場所やジャンルによって、物理メディアとデジタルメディアを使い分けるというユーザーや、アナログにこだわるコレクターやファン層も多くいる分野でもありますので、完全に物理メディアがなくなることはないと筆者は考えます。

書籍・音楽分野のECサイトにおいて今後重要になってくるのは、時流に合わせたデジタルシフトと共に、特典や限定サービスなど、物販においても独自の付加価値をつけていくことでしょう。