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新型コロナウイルスの流行により、特に物販分野において、多くの業界が落ち込んだ売り上げを補填すべくECに注力してきましたが、ジュエリーEC市場においても各社がECに活路を見出す動きを見せております。

奢侈品(生活必需品以外のぜいたく品)を取り扱うジュエリー業界は、コロナ禍の影響を受けて大きく売上を落とした業界の一つです。国内の不景気が続く中で、景気の影響を受けやすいジュエリー市場は以前から縮小傾向にあり、国内需要も振るわない中で、コロナ禍の影響により唯一好調だったインバウンド需要も消滅しました。

そのような背景から今後の見通しも厳しい状況において、ジュエリー業界各社ではECに注力し始めております。縮小市場とは言え、もともとデジタル化が進んでいないこの業界において、ECを軸に展開していくことで企業レベルではまだまだ成長の余地はあるはずです。

本日は、forUSERS株式会社でコンサルをしている筆者が、ジュエリー業界のECについて詳しく解説いたします。

ジュエリー業界の市場規模

まずはジュエリー業界の市場規模の推移について、下記のグラフをご覧ください。グラフは、株式会社矢野経済研究所が2022年3月に発表した国内ジュエリー市場の市場規模推移と2022年の予測値について、同社のデータより筆者が作成したものになります。

ジュエリー市場規模推移

注1. 小売金額ベース
注2. 2022年は予測値

引用:株式会社矢野経済研究所プレスリリースより 「宝飾品(ジュエリー)市場に関する調査を実施(2022年)」(2022年3月1日)より筆者作成

ジュエリー市場の2021年の市場規模は、9,624億円となっており、コロナ禍の反動による拡大傾向で2022年の予測値も1兆円を超える予想となっております。

しかし、全体として見ると、1991年をピークに市場規模は下がり続けてきた縮小市場と言わざるを得ません。コロナ禍においては廃業を余儀なくされた企業も多く、M&Aがトレンド化し事業淘汰が進んでおります。

参考:縮小市場におけるM&A傾向 ~ジュエリー業界の今後~(arts & crafts)

EC市場は拡大傾向

冒頭に述べたように、ジュエリー業界全体の見通しが非常に厳しい中で、各社がECに活路を見出す動きを見せております。

ジュエリーEC業界の市場規模を表す具体的なデータは見つかりませんでしたが、株式会社矢野経済研究所の調査によると、インターネットも含めた通信販売チャネル全体としては拡大傾向にあります。

下記グラフでは、2020年と2021年が予測値となっておりますが、物販分野における通信販売の市場規模は総じて拡大傾向を見せた(※)ことから、ジュエリーEC市場も概ねグラフが示す推移に近い市場規模であったと予想できます。

2021年度通信販売市場調査│JADMA(日本通信販売協会)

宝飾品通信販売市場規模推移

グラフ引用:宝飾品市場の市場規模推移と予測(P.2)

このグラフから、EC市場規模においてもコロナ禍の2020年を境に、大きく拡大傾向に推移したものと予測できます。実際に、4℃ブランドを展開する株式会社4℃ホールディングスにおける2022年2月期決算では、EC事業は前期比+30%成長EC化比率は 10.9%から17%に大きく伸長したと報告されております。

引用:第71期(2021年2月期)決算説明資料(株式会社4℃ホールディングス)

ジュエリー業界は、これまで店頭販売を基本としてきた業界であり、ユーザーとしてもあえてECで購入するよりも、店舗に赴いて接客を受けることを是としてきましたが、コロナ禍をきっかけに、今後も物販業界全体でEC利用率は高まっていくのは間違いなく、ジュエリー業界もECを強化していくとともに、業界全体のデジタルシフトが求められております。

このような市場の動向を背景として、ジュエリー業界各社はどのような取り組みを行なっているのでしょうか。

ジュエリーEC5社の取り組み

ここまで、ジュエリー業界全体とEC市場の背景について解説いたしました。次に、ジュエリー業界でEC強化に取り組む5社のEC施策について解説してまいります。

① 4℃(株式会社4℃ホールディングス)

4℃

4℃ジュエリー オンラインショップ

ジュエリー業界において、EC利用が進まなかった理由の一つには、やはり高額商品ゆえに店頭販売が中心となっていたことがあります。そのためECサイトにおいては、いかに店舗に近い買い物体験を実現するかが重要になってきます。

若者を中心に幅広い層の女性を中心に支持されているジュエリーブランド「4℃」のECサイトでは、チャットボット機能を導入しており、自動対応によりユーザーの買い物のサポートをしております。自動対応で解決しない問い合わせについては、専門のスタッフが直接対応してくれます。

◆4℃のチャットボット機能

4℃チャットボット機能

チャットボットは、ユーザー一人ひとりに対して細かなサポートが可能なWEB接客ツールの一つとして、様々な業界のECで導入が進んでおります。

② KOMEHYO(株式会社コメ兵

KOMEHYO

KOMEHYO

ジュエリー業界においては、販売だけでなく買取も行なっている事業者もいると思いますが、店舗とECで買取・販売を行なっている国内最大級のリユースショップである「KOMEHYO」のECサイトでは、店舗とオンラインを連携させるオムニチャネル施策の一つとして、EC上での買取にLINEを活用し、オンライン上で査定ができるユニークな仕組みを作っております。

◆KOMEHYOのLINE査定

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参考:LINEで査定(KOMEHYO)

また、サイト上にスタッフの写真を掲載し、ECサイト上でコーディネートの提案を行なっております。これもWEB接客の一つの形ですが、この写真自体がInstagramと連携していることで、Instagram経由での集客にもつながっております。

このようなSNSマーケティングは、ビジュアル訴求が重要なアパレルやジュエリーの分野で非常に相性が良いため、リソースがあるなら積極的に取り組んでいきたい施策の一つです。

◆KOMEHYOのスタッフスタイリング

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ARTIDA OUD(株式会社サザビーリーグ)

artida oud

ARTIDA OUD

ジュエリーは、ECサイト上で実物の確認や試着ができないため、購入のハードルが非常に高い商材です。そのため、実物の着用イメージをいかにリアルに想起させるかが重要になってきます。

オンライン販売を中心にブランドを展開する「ARTIDA OUD(アルティーダ ウード)」では、EC上でAR技術を利用したバーチャル試着サービスを提供しています。このサービスでは、ECサイト上で、自分やモデルの写真に商品のジュエリーを合成してバーチャルでの試着体験ができる機能です。

◆ARTIDA OUDのバーチャル試着

artida oud_バーチャル試着

肌の色のコントロールや、指輪などの重ね付けも可能で、様々なバリエーションで試着イメージを確認することができます。AR技術は今後さらに進化しながら、アパレルやジュエリー、美容などの分野に取り入れられていくことが予想されており、リアル店舗での買い物に限りなく近い体験が可能になってくるはずです。

④ CHAUMET(LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパン株式会社)

ショーメ

CHAUMET

フランスに本社を構える名門ブランド「CHAUMET(ショーメ)」でも、オンライン接客を取り入れております。

コロナ禍の2020年5月にサービス開始となった「サロン ドゥ ショーメ オンライン」では、LINEやZOOMなどのアプリを使って、豊富な経験と知識を持った専門アドバイザーが、商品の紹介や選び方、コーディネートの提案まで細かくアドバイスしてくれます。

自宅にいながらブティックで買い物をしているような体験を得られるということで好評を得ており、サービス利用者の約半数がオンラインで購入しております。

ジュエリーなどの高額商品は一般的に接客が前提となっており、スタッフとのやりとりの中で欲しい商品が見つかり、購入されることが多いため、ビデオ通話によるオンライン接客は、業界でより普及していくことが予想されます。

参考:サロンドゥショーメオンライン

⑤ graey(株式会社CEORY

graey

graey

オンライン販売専門のブランド「graey(グレイ)」は、2020年1月に立ち上がったばかりですが、Instagramを活用したSNS戦略が成功し、わずか1年で売上を10倍に伸ばしております。

graeyは主にInstagramで集客しており、人気インフルエンサーによるプロモーションも積極的に行なっております。また、SNSマーケティングで重要な“世界観”も非常によく醸成されており、ECサイト上に連携されているInstagramのタイムラインも違和感なくデザインに溶け込んでいる点を見ても、しっかりと戦略が練られた上で施策が行われていることがわかります。

◆graeyのInstagram

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また、商品開発にコストを集中させることができるといった観点から、実店舗を持たない点も成功につながった要因のひとつと言えるでしょう。SNSによる集客が十分可能になった現在では、同ブランドのような店舗を持たないオンライン専門店が今後も増えてくるはずです。

SNSを活用した集客

前項でもいくつかの事例を紹介ましたが、ジュエリーやアパレルなどビジュアルによる訴求が重要な分野では、SNSによるマーケティングが非常に効果的だと筆者は考えます。実際に売上を上げているブランドの多くは、InstagramやTwitterなどのSNSや、インフルエンサーと協力して集客を行なっております。

例えば4℃では、フォロワー数36万人(2021年11月時点)の人気インフルエンサーとのコラボ商品を発売しております。

参考:Instagramフォロワー総数36万人 人気インフルエンサーayaさんがプロデュース Canal 4℃×is amulet.コラボレーションジュエリー発売(PR TIMES)

インフルエンサーマーケティイングは、フォロワー数分の見込み客にリーチが可能で、さらに拡散も期待できるため、発信力の高いインフルエンサーの活用は物販業界全体でトレンドとなっております。

また、ライブコマースなど動画配信を活用したオンライン販売も、ジュエリー業界には相性の良いマーケティングの一つと言えます。クリスタルブランドの「スワロフスキー」でも、1対1のライブコマースにより売上を大きく伸ばしました。

参考:スワロフスキーは客単価5倍に! 「ライブコマース」導入で売り上げがアップした理由(ITmedia)

店舗同様の買い物体験の実現が重要

冒頭でも述べたとおり、ジュエリー業界は縮小市場にあり、今後の見通しは厳しい状況にあります。こういった厳しい状況で今後生き残っていくには、古い商習慣を捨て、デジタル化を進め、販路拡大としてECに舵を大きく切るべきです。

しかし、ECに販路を変えたとしても、商品に対するユーザーのスタンスは変わりません。やはりジュエリーのような高額商品は、専門スタッフによる接客販売がユーザーとしても一番安心できるのです。

そのため、ジュエリーECにおいては、WEB接客や、ビデオ通話やチャットによる販売、またSNSやインフルエンサーを活用したマーケティングも積極的に取り入れ、いかに店舗と同じような買い物体験を実現できるかが重要になってきます。