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経済産業省による2023年発表の報告書によると、2022年の家電業界のEC市場規模は2兆5,528億円EC化率は42.01%となっており、同年の物販分野全体のEC化率9.13%を大きく上回る大きな市場です。

EC化率が示すとおり、家電EC市場はもともとEC利用が進んでいる市場ですが、その要因は下記の3つが考えられます。

① 型番買いによりECでの購入に不安が生まれにくい
② 店舗購入でも配送が必要なため相対的にECの利便性が高い
③ 口コミやレビューが充実している

このような理由から家電業界はECとの相性が良く、市場規模も右肩上がりで堅調に推移している拡大市場ですが、業界自体は成熟しきっている感があり、近年の大手各社の売上高は横ばい状態、今後もしばらく大きな成長はないであろうと見られているのが現状です。もともと家電業界は差別化が難しい業界であるため、このような状態は各社の特徴が薄れてきてしまい、業界のコモディティ化にもつながってしまいます

そこで業界各社は、競合差別化のために様々な取り組みを行なっております。特に昨今のコロナ禍における消費者の購買行動の変化によりEC需要がこれまでになく一気に高まっており、家電業界においてもECをより強化する流れが強まっております。

本日は、forUSERS株式会社でコンサルをしている筆者が、家電EC市場について詳しく解説いたします。これから家電業界に携わる方、また家電量販店を利用される方もぜひご一読ください。

家電EC市場は右肩上がりの拡大市場

まずは家電EC市場の市場規模とEC化率の推移をご覧ください。

◆家電業界のEC市場規模とEC化率の推移(2014年~2022年)

家電EC市場規模推移(2014-2022)

EC市場規模 EC化率
2014年 1兆2,706億円 24.13%
2015年 1兆3,103億円 28.34%
2016年 1兆4,278億円 29.93%
2017年 1兆5,332億円 30.18%
2018年 1兆6,467億円 32.28%
2019年 1兆8,239億円 32.75%
2020年 2兆3,489億円 37.45%
2021年 2兆4,584億円 38.13%
2022年 2兆5,528億円 42.01%

グラフの通り、家電EC市場は右肩上がりに成長を続けており、特にコロナ禍の2020年には前年比で5%も伸長しました。自宅での娯楽用でAV機器、在宅ワークでパソコン等の情報機器、外食が減ったことで調理家電と、外出自粛により様々な需要が増え、業界自体が大きく売上を伸ばしました。

もともと家電業界はECの利用率が非常に高い業界で、EC化率も高水準を保ちながら年々堅調に推移しております。下記は物販系分野のEC市場規模の比較表です。

◆物販系分野のBtoC-EC市場規模

2022年物販系分野EC市場規模(家電ハイライト)

このように、家電EC市場は他分野のEC市場と比べても、規模も大きくEC化率も高い市場です。

データ引用:「電子商取引実態調査」「令和4年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」(経済産業省

家電業界のEC化率が高い理由

冒頭に述べたように、家電業界においてECの利用が進んでいる要因には下記3点が考えられます。

理由① ECでの購入に不安が生まれにくい

家電製品を取り扱う店舗は、ヤマダデンキ、ケーズデンキ、ビックカメラ、ヨドバシカメラなどたくさんありますが、製品自体は規格や型番が一緒であれば、どこで購入しても同じもので品質に違いはありませんそれはもちろんECサイトで購入しても同じです。

型番で検索すればすぐにいずれかのECサイトの商品ページにアクセスできますし、価格の比較も容易です。こういったことから家電はECと相性が良く、購入してから「イメージが違った」「このサイトの商品は品質がよくない」などということもほとんどないため、ECサイトで購入することに不安が生まれにくいのです。

理由② 店舗購入でも配送が必要

電化製品には、大型家電やオーディオなど、サイズや重量が大きく持ち帰りの難しいものが多く、そういった商品は店舗で購入しても、配送になることがほとんどです。すると、店舗で購入してもECで購入しても、手元に届くのにかかる時間は変わらないことになります。

こうなると「購入後すぐに使用できる」といった店舗購入のメリットは失われ、購入が楽なECサイトの利便性が相対的に高まることになります。大型の商品といえば、家具・インテリアなどもありますが、購入商品はやはり店舗においても配送がほとんどです。家具業界のEC化率も29.59%と高い水準にあるのも、同様の理由が一つとして考えられます。

参考記事:家具業界のEC化率が高い理由と売上を高める3つのポイント

理由③ レビューが充実している

家電業界に限らないことですが、ECサイトの利用を高める施策の一つとして、購入者による口コミ・レビューがあります。実際に使用したレビューや、SNSの口コミなどは、ECサイトで商品の購入を迷っているユーザーにとって大きな判断材料の一つになります。

特に家電製品、とりわけ白物家電は、洋服や食品・化粧品などと違って、使用感に個人差が出にくい商材ですので、ユーザーの多くはレビューや口コミを積極的に判断基準に取り入れる傾向があります。少し前の記事ですが、下記記事の調査でも、口コミを参考にして購入する商品は「家電製品、AV機器、カメラ」が最も多いという結果になっております。グラフは記事内のグラフを引用しております。

◆口コミ情報を参考にして購入する商品

口コミ情報を参考にして購入する商品

グラフ引用:商品購入時、口コミ情報を参考にするジャンル1位は「家電」[マイボイスコム調査](ECzine)

また昨今は、YouTubeなどでも多くの配信者が家電製品のレビュー動画を配信しており、場合によっては、店頭で陳列されているだけの商品を見る以上の情報を得ることができます。このように家電はレビューの信頼性が高い商材であり、そういった点からもECと相性が良いと言えるのです。

家電ECサイトで売上を上げるための3つのポイント

取り扱う商品の品質に差がないために、差別化を図りにくい家電業界では、各々のECサイト運営においてどのような取り組みを行なっているのでしょうか。ここでは、EC売上を高めるための3つのポイントについて解説いたします。

ポイント① オンライン接客の導入

コロナ禍における外出自粛期間を経て、物販分野において店舗販売が主だった多くの企業は、ECサイトでも店舗に近い購入体験を提供するために、オンライン接客に力を入れ始めました。各大手家電量販店でも、ECサイトやアプリを通じてオンライン接客に積極的に取り組んでおります。

家電量販店のオンライン接客は、パソコンやスマートフォンなどの情報機器の設定をはじめ、メーカーや製品に特化してオンライン相談を受け付けていることが特徴として挙げられます。例えばケーズデンキではプリンターの「ブラザー」、ビックカメラでは掃除機の「ダイソン」で、それぞれ専門のオペレーターが製品への質問受付や操作方法の解説などをしてくれます。

◆製品に特化したオンライン接客サービス

家電オンライン接客

引用:プリンター選びに迷ったら、オンライン接客でお悩み解決!(ケーズデンキ オンラインショップ)dyson オンライン接客サービス(ビックカメラ.com)

また、家電量販店の店頭では、スタッフとのコミュニケーションの中で価格交渉に応じてくれることが多々ありますが、ヤマダデンキでは、ECサイトの商品ページに価格交渉ボタンが設けられており、サイト上でチャットを通じてオペレーターに価格の交渉ができるようになっております。人的コストも少なからずかかるはずですが、まさに店舗での購入体験の最たる部分をECサイトで実現した好例と言えます。

◆ヤマダウェブコムの商品ページの価格交渉ボタン

ヤマダウェブコム価格交渉ボタン

同じくヤマダデンキでは、2021年よりライブコマースをスタートしており、ECサイトやアプリ上でライブ配信による商品説明などを行いながら、動画を通じてユーザーとの関係性の向上に努めております。ライブコマースは、配信しながら視聴者のコメントや質問に対してリアルタイムでコミュニケーションをとることができ、配信画面上からダイレクトに商品ページにリンクできるため売上貢献の確度も高く、BtoC-ECにおいて幅広く取り入れられている施策の一つです。

◆ヤマダデンキのライブコマース

ヤマダデンキライブコマース

引用:ヤマダウェブコム

ポイント② 配送時間の短縮化

ECサイトで商品を購入する際に比較検討する際、配送にかかる時間は大事な要素の一つです。同じ金額でも、手元に届く時間が短時間であればあるほど、そのECサイトが選ばれる確率も高くなります。そのためには、随時物流拠点を拡大し、多くの物流拠点を設けることでリードタイムを短縮し、ユーザーにできるだけ早く商品を届けられる体制を作ることが重要です。

配送スピードといえば、通信販売における顧客満足度ランキングで1位を獲り続けているヨドバシ.com(ヨドバシカメラ)の「エクストリーム便」が、やはり抜きん出ています。エリアが限定され一部対象外の商品もありますが、23区内では最短2時間半で商品が手元に届くスピード感と、商品1点から送料無料で日時指定も可能。加えて、書籍から日用品や食品まで対象商品が多岐にわたるため、まさにオンデマンドの配送サービスを実現した内容となっております。

ヨドバシカメラでは今後も対象エリアを拡大し、物流センター、倉庫、配送センターなどの整備も急ピッチで進めております。

ヨドバシエクストリーム(ヨドバシカメラ)

なお、同社がなぜ無料でスピーディに配送することができるのかについては、下記記事内でまとめられておりますので、あわせてご覧ください。

参考:なぜ1品から無料? ヨドバシエクストリーム便の凄さを藤沢社長に聞く(Impress Watch)

ポイント③ オンラインとオフラインの連携

これからのBtoC-ECにおいて必須となるデジタル施策は、OMOやオムニチャネルといった、ECと店舗、オンラインとオフラインを融合・連携した施策への取り組みであると筆者は考えます。

スマートフォンが普及し、ECサイトやSNSなど様々なオンライン上のサービスに触れる機会が著しく増え、キャッシュレス決済の利用も急速に進んでいる現代では、店舗(オフライン)のみならず、オンラインでもユーザーとの接点を増やし、双方で顧客満足度を上げていくマーケティング施策を展開することが重要になってきます。

大手の家電量販店のほとんどは、ECサイトで注文した商品を店舗で受け取れるサービスを展開しており、ECサイトを利用したユーザーの店舗への誘導を行なっております。店舗受け取りサービスは、オムニチャネルの代表的な施策の一つとして、物販分野のECでは広く取り入れられているサービスです。

ビックカメラでは、電子棚の導入により、店頭の値札からアプリで在庫やECサイトのレビューを確認できたり、ECサイトで注文もできる仕組みを作っております。このようにオフラインとオンラインの境界を取り払うことで、いつでもどこでも買い物ができ、顧客体験の向上が実現されております。

◆ビックカメラでの電子棚札の活用

ビックカメラのアプリでタッチ

引用:ビックカメラ公式アプリ(ビックカメラ.com)2019年8月期 決算説明会資料

また、OMOのユニークな取り組みの一例として、「二子玉川 蔦屋家電」では、2019年に次世代型のショールームとして「蔦屋家電+」をオープンしました。メーカー向けのマーケティングサービスで、定額でショールームを持つことができ、EC限定販売の商品のプロモーションやクラウドファンディング製品の展示、また開発中製品の市場調査などに利用されております。

ユーザーは発売前の製品を実際に体験し、意見や質問をショールーム内の端末からメーカーに直接送信できるようになっております。メーカーにとってもユーザーとの貴重な接点となり、まさにネット時代のショールームと言えます。

参考:蔦屋家電+二子玉川に「蔦屋家電+」誕生、来店者も製品開発に参加できる次世代型ショールーム(家電 Watch)

家電EC業界の新たなサービス

大手家電量販店の施策について紹介してまいりましたが、近年の家電EC業界では他にも新しいサービスが展開されてきております。ここでは「延長保証サービス」と「家電サブスクサービス」について解説します。

ECサイトへの「延長保証サービス」の導入

延長保証サービスとは、あらかじめ保証料を支払っておくことでメーカー保証期間の終了後、一定期間保証を延長して、期間中に発生した不具合や自然故障時の交換・修理を無償で行うサービスです。

延長保証サービスは、大手家電量販店が一部の高額製品に付帯させることが一般的で、小口の販売業者には導入のハードルが高く、小規模のEC事業者が導入できる保証サービスは少なかったのですが、昨今では、安価でカンタンに延長保証を導入できる代行サービスが登場してきております。

ECサイトに導入する方法は、保険会社と提携している代行会社が提供するシステムと、自社のサイトを連携するだけなので容易に実装が可能です。延長保証の運営自体も代行会社が行ってくれる仕組みです。

参考:ユーザーに「導入しない理由がない!」とまで言わせる延長保証サービス『proteger』(ECのミカタ)

ECサイトが延長保証サービスの導入には下記のようなメリットがあります。

◆延長保証サービス導入のメリット

・新規購入のハードルが下がる
・サイトの信頼性の向上
・リピート率の向上
・延長保証による売上も立つ

筆者は、家電ECにおいては「アフターサービスが弱い」という印象を持っております。家電製品は使用期間が長くなるほど故障や不具合も発生しやすいため、この延長保証サービスをはじめとしたアフターサービスが、今後ECにおいてもニーズが高まってくると考えられます。

なお、この「延長保証サービス」については下記記事で詳しく解説していますので、こちらもぜひご覧ください。

関連記事:家電ECサイトに導入すべき「延長保証サービス」を徹底解説

家電業界でも「サブスクサービス」が登場

昨今は、BtoCの様々な分野でサブスクリプションサービス(サブスク)がトレンドとなっておりますが、家電のサブスクも話題になっております。

メーカー大手のパナソニックは、キッチン家電のサブスクサービス「foodable」を展開しており、会員にはキッチン家電製品をはじめ、食材やレシピ、テーブルウェアなどが届けられます。このサブスクサービスは、ユーザーに直接提供される他、賃貸住宅のオーナー向けに家電がパッケージで提供されるなど、幅広い販売網で契約数を増やしております。

参考:パナソニックが賃貸オーナー向け家電サブスクを開始。ゼロ円尽くしで環境にも優しい理由(BUSINESS INSIDER)

家電のサブスクサービスは、消費者側と企業側の双方にメリットがあります。

◆消費者側のメリット

・家電を揃える初期費用を抑えられる
・季節家電を必要な時だけ借りられる
・捨てる手間がかからない

◆企業側のメリット

・製品を気軽に試してもらえるため新規顧客につながる可能性がある
・中長期的に安定した利益を得られる

2022年3月には、EC専門の家電販売大手「ストリーム」でも家電のサブスクサービスを開始し、サブスク事業に参入する事業者も少しずつ増えてきております。家電における新しい消費の形として、今後もこのビジネスモデルは拡大していくことが予想されます。

参考:モノを「買う」から「借りる」消費行動の変化に対応するストリーム。家電の販売→レンタル→サブスクECに参入(ネットショップ担当者フォーラム)

比較サイトを鵜呑みにすると危険

ここでユーザー視点の話になりますが、ネット上には多くの比較サイトがあり、電化製品においても多くのユーザーが比較サイトを利用しながら購入を検討しているのではないでしょうか。実際に安値ランキング1位、2位の商品などは店頭価格と比べると驚くほど安いことが多いですが、表示されている本体価格だけで判断して安易に購入を決めるのは注意が必要です。

筆者が某家電量販店のスタッフの方に話を聞いたところ、「比較サイトでは確かに同製品でも店頭価格と比べて非常に安いものもあるのですが、購入手続きを進めていくと色々と加算されて、結局店頭価格とあまり変わらなくなるんです」と教えてくれました。

実際にどこの家電量販店も、店頭で値札を見ると大抵の場合は数年保証などが付いておりますが、比較サイトに表示されている価格はあくまで本体価格という場合が多く、保証やオプションを付けていくことで、都度価格が変わっていきます

◆家電量販店の店頭POP(写真はヤマダデンキの例)

家電量販店の店頭POP

例えば「梱包をしっかりする→¥5,000」というちょっと首を傾げるようなオプションがあったり、店頭では価格に含まれる開梱・設置サービスももちろん有料になるため、ほとんどの場合は、最終支払い金額は一覧に表示されている価格より高くなることが多いそうです。

もちろん比較サイトに掲載されている全ての商品がそうではありませんし、話を聞いたスタッフの方も「それでも、実際に店頭価格よりは少し安いことが多いですよ」とも仰っておりました。大事なのは、比較サイトを利用する際は、最終支払い金額や保証内容などをしっかり確認した上で、店頭価格と比較して検討することです。

また、在庫が少ない商品や型落ちの商品は、店頭限定で驚くほど安く販売されていることが多いですし、店舗スタッフとの交渉次第でスタッフ値引きをしてもらえることもよくあります。もし「欲しい商品が型番まで決まっている」といった場合でない限りは、ECサイトだけではなく店頭にも足を運んでみれば、より上手な買い物ができるはずです。

◆店頭限定の低価格商品

店頭限定の低価格商品

成熟した業界における成長の鍵はOMO戦略

冒頭に述べたように、家電業界はEC利用が進んでおり、EC市場は右肩上がりに推移しております。しかし業界自体は熟しきった印象があり、事実、大手の各家電量販店は近年横ばいに推移(業界動向リサーチの調査より)している状態で、今後の急激な成長は見込めないものと見られております。

◆家電量販店上位5社の売上高の推移

家電量販店上位5社の売上高の推移

グラブ引用:家電量販店業界の動向やランキングなど(業界動向リサーチ)

取り扱う商品が「どこで買っても同じ」という性質上、差別化を図ることが難しい量販店では、これまで価格競争や店舗数の拡大によって各社しのぎを削ってまいりましたが、昨今では“脱家電”を掲げ、家電以外の製品を取り扱ったり、先に述べた延長保証やサブクスなどの新しいサービスの展開により生き残りの道を模索しております。

そして、コロナ禍を経てEC全体の需要が高まっている中で、家電業界においてもECを軸にしたサービスの強化を行なっていくべきであり、成長の鍵となるのは、店舗とEC、オフラインとオンラインを融合したOMO戦略にあると筆者は考えます。この記事を書くにあたって、筆者も各量販店を回りましたが、ECと店舗の独立性が他業界に比べて強い印象を受けました。

そのため、例えばオンライン接客やライブコマース、チャットボットの導入・強化などにより、店舗とECサイト双方で顧客との接点を拡げていくことでファンを育成すること(ブランディング)が重要です。なぜなら、その結果ユーザーは他店との比較をスキップして「家電なら◯◯で買いたい」と考える理想の状態に近づくからです

店舗やECをはじめSNSなど、あらゆるチャネルを最大限駆使して「ここで買いたい」という思いをユーザーに持ってもらうことで、競合との差別化につながるはずです。