経済産業省の調査結果によると、医薬品を含む化粧品業界における2022年のEC化率は8.24%となっており、同年の物販分野全体のEC化率9.13%から見ると、やや低い傾向にありますが、化粧品業界のEC化率が低い理由として下記の3点が考えられます。
② 実店舗での購入ニーズが高い
③ EC利用上のトラブルが多い
こういった理由から、これまで化粧品購入におけるECサイトの利用は避けられる傾向がありました。
しかし、BtoC全般においてデジタル化が進み、ECの利用も年々増加しております。そして昨今のコロナ禍を契機に、一気にEC需要が高まりました。こういった背景の中で、業界大手をはじめ各社が売上を高めるため、WEBマーケティング施策の取り組みを強化する流れになっております。
本日は、forUSERS株式会社でコンサルをしている筆者が、化粧品業界のEC市場について、各社が売上を高めるために行なっている施策も交えながら、詳しく解説いたします。
化粧品ECの市場規模
まずは化粧品業界のEC市場規模の推移を見てみましょう。下記グラフは、EC市場規模とEC化率の推移になります。
◆化粧品業界(医薬品含む)のEC市場規模とEC化率の推移(2014年~2022年)
年 | EC市場規模 | EC化率 |
2014年 | 4,415億円 | 4.18% |
2015年 | 4,699億円 | 4.48% |
2016年 | 5,268億円 | 5.02% |
2017年 | 5,670億円 | 5.27% |
2018年 | 6,136億円 | 5.80% |
2019年 | 6,611億円 | 6.00% |
2020年 | 7,787億円 | 6.72% |
2021年 | 8,552億円 | 7.52% |
2022年 | 9,191億円 | 8.24% |
データ引用:「令和4年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」(経済産業省)
化粧品・医薬品業界のEC市場は、市場規模自体は大きくありませんが、毎年堅調な拡大傾向にあり、EC化率も右肩上がりで伸長しております。
ただし、下記の株式会社矢野経済研究所のデータが示す通り、化粧品に限った国内市場においては、コロナ禍の2020年、21年ともに大きく減少しております。
上記に示したEC市場規模のグラフは、医薬品が含まれているため、マスクやアルコールなどのコロナ関連商品の需要増がグラフに反映されていると考えられます。
◆国内の化粧品市場規模推移
注1. ブランドメーカー出荷金額ベース
注2. 2022年度は@予測値
引用:株式会社矢野経済研究所プレスリリースより「化粧品市場に関する調査を実施(2022年)」
しかし、2021年以降には外出生活が徐々に戻り、コロナ禍をきっかけに、今までECを利用してこなかったユーザー層もECにシフトしたことで利用率は確実に増加しました。そして、インバウンド需要も急回復していることから、市場の回復とともに、EC市場は今後さらに拡大推移していくと予測されます。
EC化率が低い3つの理由
化粧品EC市場が堅調に推移しているとはいえ、他の物販分野に比べるとEC化率はやや低水準にあります。
◆物販系各分野のBtoC-EC市場規模とEC化率比較表
引用:「令和4年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」(経済産業省)
冒頭に述べましたが、その理由としては、大きく下記の3点にあると考えられます。
理由② 実店舗での購入ニーズが高い
理由③ EC利用上のトラブルが多い
それでは一つずつ解説いたします。
理由① プチプラコスメとドラッグストアの存在
昨今の化粧品業界では、若い女性を中心にプチプラコスメと呼ばれる価格の安い化粧品の人気が定着しており、このような安価な商品は、送料が発生するECサイトでは割高感が目立ち、購入するメリットがあまりありません。
また、全国に数多く存在するドラッグストアやコンビニで購入ができてしまうため、わざわざ配送時間のかかるECサイトで購入するよりも、実店舗で購入するほうが金額的にも時間的にも利便性が勝ってしまうため、なおさらECを利用するメリットはなくなります。
理由② 実店舗での購入ニーズが高い
下記は、マーケティング会社の株式会社ハー・ストーリィが、全国の女性(15歳以上)346人を対象に、「美容関連商品を購入する際に重視する点」についてアンケートを行った結果です。
◆美容 関連商品・サービスを購入するうえで重要とするポイントのアンケート調査結果
上図を見てわかる通り、女性が化粧品を購入する際には「肌に合うか」が重視され、ECではわからない実際の使用感をもとに購入を決める傾向があります。ECの利用において、商品に触れられないという点は最大の弱点ですが、特に化粧品は肌に直接使用するものなので、初めて購入する商品であれば、ユーザーはより慎重に購入を検討します。
そのため、ブランドコスメは、専門店やデパートの化粧品フロアでカウンセリングを受けながら、実際に商品を手に取って購入するスタイルが浸透しておりますし、ドラッグストアで取り扱っているようなプチプラコスメでも、商品とともにテスターが置かれており、実際に試しながら検討することができるようになっております。
このことから、リピート購入でない限りは、化粧品は実店舗での購入ニーズが高い商材なのです。
理由③ EC利用上のトラブルが多い
化粧品は定期購入やサブスクリプションモデルの多い商材ですが、これまで、この定期購入において消費者トラブルが後を絶たちませんでした。
このような状況から、2022年6月に定期購入対策を盛り込んだ改正特定商取引法が施行されましたが、施行後もトラブル件数が減っていないのが現状です。
参考:インターネット通販の定期購入トラブルには御注意を! 令和4年6月1日から、通販の注文時に内容を確認する際の表示がより明確になります。(消費者庁)、通販の定期購入に関する消費者相談、改正特商法施行後も高水準で推移(通販通信)
また、過去には、通販で購入した商品において重篤なアレルギー症状を引き起こし自主回収となった事件や、下記のように悪意を持って違法商品を販売し、問題になった事件もあり、業界において、ECをはじめとした通販に対する消費者のイメージは、便利に思う反面、懐疑的な面もあります。
加えて、ECサイトでの購入においてはクーリング・オフが適用されないといった点も、ECが避けられる要因のひとつと考えられます。
化粧品ECで売上を上げるための5つの施策
このように、化粧品業界はECとの相性が良いとは言えないながらも、大手各社をはじめ各企業がEC利用を促進するための様々な施策に取り組むことで、着実に市場規模を拡大しております。ここでは、化粧品ECにおける代表的な5つのマーケティング施策について、各社の事例を交えながら解説してまいります。
施策① バーチャルメイク
ECにおける化粧品購入においてネックとなるのは、基礎化粧品であれば「実際の使用感」ですが、ファンデーションやアイシャドウのようなメイクアップアイテムについては、使用感に加えて「自分で使用した際の見栄え」も挙げられます。
そこで、AIやARなどのデジタル技術を用いて、ユーザーの顔に擬似的にメイクを施しているように見せる「バーチャルメイク」の導入が全世界で進んでおります。
資生堂では、自社ECサイト「ワタシプラス」でバーチャルメイクサービスを展開しており、商品を自由に組み合わせながらモデルや自分の顔でシミュレーションし、気に入った商品はそのままサイト上で購入することができます。
◆ワタシプラスのバーチャルメイク
バーチャルメイクの導入は、国内外の多くのECにおいて、購入率や滞在時間の大幅な増加につながっており、今後も各社で導入が進んでいくことが予測されます。
参考:バーチャルメイク(ワタシプラス by shiseido)、「バーチャルメイク」の導入で、コスメのCVR2倍以上、売り上げ8倍!? 化粧品EC、小売店の活用事例(ネットショップ担当者フォーラム)
施策② SNSマーケティング
今やBtoC-ECにおいて、SNSは重要な販売チャネルのひとつです。特に若年層の消費者においては、SNSで商品を検討し、そのまま購入するといった流れが多くなっております。
特にInstagramは費用対効果の高いプロモーションツールとして活用されておりますが、化粧品という分野でのInstagramマーケティングにおいて大事なのは、世界観の構築です。「高級感」や「キュート」などブランドのイメージに合った投稿を重ねることにより世界観を醸成していくことで、ブランドのファンを作っていくことが重要になってきます。
下記の2ブランドのアカウントを比較すると、ブランドコンセプトの違いによって大きくビジュアルイメージが全く変わってきますが、各々がひとつの世界観を持って投稿していることがよくわかります。
◆KATE(ケイト)のアカウント
◆CANMAKE(キャンメイク)のアカウント
化粧品ECでは、上記のような自社アカウントによるプロモーションの他にも、InstagramやYouTubeにおいてインフルエンサーを起用したマーケティングも活発に実施されております。かつては、商品のプロモーションには芸能人や著名人を起用するのが主流でしたが、SNSの人気インフルエンサーでも同等の効果が得られ、かつ前者よりもコストがかからないことから、インフルエンサーマーケティングは多くの企業や店舗で取り入れられております。
筆者がかつて勤めていた広告代理店でも、インフルエンサーを起用したコスメのプロモーションを行いましたが、フォロワー数数万〜数十万の人気インフルエンサーのコンバージョン率はかなりのもので、「芸能人じゃなくてもここまで反響があるのか」と驚いたことを憶えております。
SNSの活用においては、コロナ禍の外出自粛をきっかけに、ライブ配信を利用したライブコマースも多くの企業で取り入れられました。
動画配信によって、出演するスタッフやインフルエンサーによって、実際の使用感や質感をダイレクトにユーザーに伝えることができますし、双方のコミュニケーションが可能なため、その場での質疑応答もできるので、ユーザーとしては店舗でのショッピングに近い購入体験が得らます。化粧品ECにとって、ライブコマースは非常に相性の良いマーケティング手法と言えます。
ファンケルでは定期的に2020年7月よりライブ配信をスタートし、2年で約45万人が視聴するコンテンツに成長しました。
◆ファンケルのライブコマース
引用:ファンケル ライブショッピング、ファンケルのライブショッピング、2年で約45万人が視聴(ネットショップ担当者フォーラム)
施策③ 定期購入
ECサイトにおいて売上を安定させるためには、定期的に商品を購入してくれるリピーターを作ることが重要です。
化粧品は日常的に使用する消耗品であるため、自分に合う商品であれば定期的にリピート購入したいというニーズが生まれます。そのため、商品ページなどで定期購入やサブスクリプションへ誘導し、単品購入者を定期顧客へと変えていくことで、LTVが向上し中長期的な売上の安定につながります。
定期購入を促進する手段としては、定期購入限定で初回割引、送料無料、あるいは購入回数に応じたインセンティブの設定など、定期購入者だけが享受できる特典を付与したり、単品購入商品に定期購入を促すパンフレットを同梱するなどがあります。あるいは、リピート購入のユーザーに対してステップメールで定期購入を勧めることも効果的です。
ただし、先に述べたように、定期購入はトラブルが起きやすい販売モデルでもありますので、規定の表記や解約プロセスなどには最新の注意を払うことが重要です。消費者とのトラブルは、将来的に会社に悪影響を及ぼすリスクがありますので、定期販売モデルを導入する際は、関連法令やガイドラインを細かく確認するようにしましょう。
施策④ WEB接客
化粧品が店頭購入のニーズが高いことは前にも述べましたが、その理由のひとつに、プロや専門家による接客(カウンセリング)を受けながら購入を決めたいという点があります。しかし、コロナ禍の外出自粛や店舗休業により、接客を受ける機会も大きく減少しました。そこで各社で活発化したのがWEB接客(オンライン接客)です。
ORBIS(オルビス)のECサイトではチャットサービスを提供しており、商品検索から肌のお悩み相談、配送状況の確認など様々なユーザーの相談に対して、自動オペレーションで応答してくれます。また、さらに専門的な相談については有人チャットでの対応が可能になっており、専門のアドバイザーと直接コミュケーションをとることができます。
◆オルビスのチャットサービス
また同社では、ビデオ通話を利用した「オンラインカウンセリングサービス」も展開しており、自宅など好きな場所から、専属のビューティアドバイザーに1対1でカウンセリングを受けることができます。
このようにWEB接客は、店舗の購入体験をオンライン上でも実現することができ、このようなサービスが普及することで、ECサイトでの購入に対するユーザーの不安が払拭され、よりEC利用の促進につながっていきます。
施策⑤ 口コミ・レビュー
実際に商品を確認することができないECサイトでは、口コミや購入者のレビューは、購入を迷っているユーザーの大きな判断材料の一つになります。化粧品は、他の商材と比べると、評価に個人差が出やすいジャンルではありますが、レビューがあること自体でユーザーに安心感が生まれるため、積極的に開示していくべきです。
なお、レビューの掲載にあったっては、ネガティブな意見もあえて掲載するべきでしょう。そのような意見を載せておくことで、かえって企業への信頼感を生むことにつながります。ただし、その際は必ずレビューと併せて、そのような評価にいたった理由と回避策を記載しておくようにしましょう。
下記は、KOSE(コーセー)の商品ページのレビューですが、このように商品の感想に加えて、購入者の年代や肌質なども併記することで、より購入を迷っているユーザーが検討しやすくなります。
◆KOSEの商品ページレビュー
引用:Maison KOSÉ
また、化粧品や美容の総合サイトとして多くのユーザーが利用する「@cosme(アットコスメ)」は、口コミや美容ブログが集まった情報サイトですが、キーワードやブランド、カテゴリなどから商品の検索ができ、言わば「口コミから商品を検索・購入できる」仕組みができております。
@cosmeやLIPS(リップス)のような口コミサイトが支持を得ていることも、ユーザーがいかに口コミやレビューを重視しているかということの表れと言えるでしょう。
店舗の購入体験をECサイトで実現することが重要
化粧品市場は、ドラッグストアの利便性や商品を詳しく知ってから購入したいというニーズから、店頭購入が主流となっており、EC利用がなかなか進まない市場でした。
しかし、店舗で購入するような体験をEC上で実現できれば、ドラッグストアの利便性を上回り、商品を知ってから購入したいというニーズを満たすことができ、ECの利用が一気に拡大するはずです。
そのために、店頭購入と遜色のないUXを提供できるバーチャルメイクやライブコマース、WEB接客などの導入とサービスの向上は、今後の市場ニーズの獲得に必要不可欠ではないかと筆者は考えます。
コスメ・化粧品のECサイトを構築するなら「futureshop(フューチャーショップ)」が良い理由
もし、新規事業で「自社ECサイト」を構築するならfutureshop(フィーチャーショップ)にすべきでしょう。なぜなら、注文を増やすための多くの仕組みが基本機能として、多数実装されているからです。
◆futureshop(フィーチャーショップ)で注文を増やす機能の例
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