ECコンサルが教える「未経験者がEC業界で働く」ための方法

コロナ禍を経て、オンラインを使ったビジネスが脚光を浴びるようになりました。その中でもEC業界に興味を持つ人は格段に増えました。実は未経験者であっても、その気になればEC業界で働くことは難しいことではありません。

なぜなら、EC業界は慢性的な人手不足だからです。20代であればポテンシャル採用してくれる可能性が高くなります。30代ではポテンシャル採用は難しいかもしれませんが、この記事では未経験者が、EC担当者の経験を作る方法を解説しているので、経験を積めば30代以上でも未経験者がEC業界に入ることは可能です。

本日は、forUSERS株式会社でコンサルをしている筆者が、これからEC業界を目指す未経験の方向けに、EC業界で働く方法を具体的に解説します。また、筆者も未経験で37歳からEC業界に入っているので、是非、この記事を参考にしてみてさい。

EC業界の5つの代表的な職種

EC業界に存在する代表的な以下の5つの職種を紹介します。ただ、職種には分けているものの、多くの中小企業では以下の仕事を一人ないし数人で全て担当していることもよくありますし、ECサイト運営業務とマーケティングは、ECサイト担当者が行うこともあるので、企業によって定義はあいまいなところがあります。

◆EC業界の5つの職種

職種① 仕入れ・商品企画
職種② マーケティング
職種③ ECサイト運営業務
職種④ 顧客対応
職種⑤ エンジニア

職種① 仕入れ・商品企画

ECサイトで売れそうな商品を仕入れたり、企画する仕事です。多くの中小のEC事業者は、商品を卸売業者から仕入れて販売するので、仕入先を探したりコミュニケーションをとるのも仕事です。

ECサイトでは、中国など海外から商品を仕入れる場合、英語のメールが書けることが条件となる場合もありますが、最近では海外の卸向けのサイトも翻訳されて販売されているケースもありますし、AIによる翻訳アプリやサービスを利用すれば、メール上のやり取りにおいて苦労することはあまりないでしょう。

商品企画は、自社商品を企画する仕事で、自社がメーカーである場合は市場調査やコンセプトから商品を企画します。企画した商品は、自社で製造するノウハウや設備がない場合は、OEMによる受託製造を行います。

OEM:他社ブランドの製品を製造すること、もしくは製造を行う企業のこと。依頼を受けて製造から納品までを行う。

OEM受託先を探す際は、「OEM 会社」などで検索すれば、様々な種類のOEM企業が出てきます。

職種② マーケティング

ECサイトのマーケティングとは、新規顧客に対してはGoogleやYahooのインターネット広告を利用して商品を宣伝したり、ECサイトの商品ページが検索エンジンで検索されやすくするSEO対策を実施するなどの集客を実施します。SNSで自社の情報を発信したり、インフルエンサーにPRを依頼するのもマーケティングの業務範囲です。

一度買い物したことがあるリピーター(あるいはリピーター候補)に対しては、クーポンやポイントをメルマガで案内して、商品の再購入を促すなど、リピーター育成を実施します。新規顧客、既存顧客いずれもWEBマーケティングを駆使して行います。

WEBマーケティングの知見やノウハウを持った人材は少ないため、業界では重宝されます。そのため、この業務をECサイト運営業務担当者が担うこともよくあります。

職種③ ECサイト運営業務

ECサイト運営業務、いわゆるECサイト担当者の仕事内容となります。

ECサイトで注文の入った商品に対して、受注業務を行います。具体的には商品の在庫を確認して、梱包し、発送まで行う仕事です。この間にもECシステムを操作しながら受注から配送までのステータス変更することで、ユーザーにも自動送信メールを送付します。また、ささげ業務や商品登録業務、在庫の確認もECサイト運営全般を担当します。

ささげ業務:「撮影(つえい)」「採寸(いすん)」「原稿(んこう)」の3つの業務の頭文字を取った略称

これからECサイト業界にチャレンジする人は、ECサイト業務の全体を担当できるこの職種からチャレンジしてみるのをおススメします。

職種④ 顧客対応

ECサイトで商品を購入した方、あるいはこれから購入する方向けにサポートを行う職種です。サポートの多い化粧品や健康食品ECサイトの大手事業者であれば、コールセンターが担当する会社もあります。ECに限らず、この職種は多くの業界に存在します。昨今では電話対応だけでなく、メールやチャットでの対応も求められます。

新人社員が配属されることもありますが、この部門で商品知識や顧客理解を進めることで、2~3年で他の部署に配属されることもよくありますので、顧客対応だからといって、ガッカリする必要はありません。筆者の知り合いの顧客フォロー担当者も、2年経験した後に、マーケティング部門に異動となったケースもあります。

顧客の声を聞いている、顧客のことを良く知っているというのは、社内でも大きな武器となり、特にマーケティングでは、ユーザー心理を知ることが重要ですので、顧客満足度だけでなく、会社のマーケティング施策を立てるためにも非常に重要な職種なのです。

ただし、筆者も20年前に、カード会社で顧客対応のアルバイトをしたことがありますが、クレーム対応を担当する業務でもあるので、性格が優しすぎる方、人のことを過剰に考え過ぎてしまう方には向いていない仕事だと思います。

もし、他の業界で顧客対応をしていたのなら、EC業界未経験でも経験者として扱われるので入社しやすくなります。

職種⑤ エンジニア

もし、ECサイトをスクラッチで内製していたり、EC-CUBEのようなオープンソースをベースにECサイトを運営しているEC事業者であれば、社内にエンジニアは必須となります。既存のパッケージ製品のECシステムを使っている場合でも、特設サイトを作る際のフォーム作成など、動きが必要なWEBページを作る場合は、エンジニアの力が必要となります。

ECサイトのエンジニアだからといって、他の業界のエンジニアと特段に違いがあるわけではありませんが、ECサイトの特徴として、アクセス数が多いときでも正常に買い物ができることを意識する必要があり、トラフィックコントロールがECエンジニア業務の最大のポイントです。

また、ECサイトの決済システムは契約している決済会社のものを利用するので、決済をECシステムに取り入れたり、あるいは外部システムやアプリとAPI連携するなど、システム連携を成功させるのもエンジニアの仕事です。

EC業界に未経験で入社するなら、ECサイト運営業務の担当者が良い!

ここまで解説した通り、EC業界には代表的な5つの職種がありますが、もし未経験の方で、なんとかEC業界でチャレンジしてみたいという方がいるなら、EC運営業務を担当する「EC担当者」を目指すべきです。その理由は以下のとおりです。

◆未経験者が「EC担当者」を目指すべき理由

理由① 人手不足のため面接が通りやすい
理由② EC業務担当者こそ、ECの全体の流れがわかる
理由③ 実は未経験でもEC業務担当者の経験を作れる

それでは、一つずつ解説してまいります。

理由① 人手不足のため面接が通りやすい

EC業界に限った話ではないのですが、EC業界、特にEC運営業務の担当者は人手が不足しており、EC業界の就職市場には経験者があまりいません。下記は、株式会社ネオマーケティングが行ったアンケート調査です。

◆企業のEC担当者が、自社のECサイト運用について最も課題に感じていること

ECサイト運用の課題アンケート

【一部抜粋】
・スキルのある人材が少ない(運用リソース不足、女性、40代)
・ノウハウが不足していて不安がある(運用リソース不足、男性、40代)
・EC専門知識を持つスタッフが少なく、突発的な事故が起こった時に迅速に対応ができるか、いつも不安を抱えている点。(困ったときのサポート不足、男性、40代)

グラフおよび回答引用元:20歳~69歳の男女743人に聞いた「EC運用の悩みに関する調査」(株式会社ネオマーケティング)

このような現状から、企業もやる気がある人材であれば、未経験者でも募集をかけております。ただし、EC業務担当者ともなれば、多くのツールやシステム利用しますから、ある程度のITリテラシーは求められます。そのため、面接などで

「Googleドライブを使って、ファイル管理をしています」
「CSVファイルを加工して、システムにインポートします」

と面接官に言われて、ピンと来なければ採用されることはありません。

若い人の中にもITが苦手な方が一定数いますが、残念ですがそういった方ですとEC業務担当者になれる可能性は低くなりますし、もし入社できても仕事が非常に大変です。

しかし、そこまで難しい業務ではないので、エクセルやワードなどのオフィスツール、Googleドライブの各ツールなどが問題なく使えるのであれば大丈夫です。

理由② EC業務担当者こそ、ECの全体の流れがわかる

「仕入れ担当でバイヤーになりたい!」
「WEBマーケティングにあこがれている!」

と、あなたが思ったとしても、これらの仕事は未経験者が担当するのは困難です。しかし、比較的、未経験でも入社しやすいEC業務担当者からキャリアをはじめて、EC全体の流れがわかれば、商品企画部門やECサイトのマーケティングの部署にいくことも珍しくはありません。ですから、まずはEC業務担当者から始めるのが一番です。

なお、体制の整っている大手事業者では「仕入れ担当」「商品企画」「マーケティング」「EC業務担当者」が分かれていることが一般的ですが、中小企業のEC担当者であれば、これらすべてをEC業務担当者が行うことがよくあります。

ですから、商品企画やWEBマーケティングをキャリアとして考えている方も、ECサイト運営業務担当者から始めることは、キャリアの第一歩となります。

理由③ 実は未経験でもECサイト業務担当者の経験を作れる

実はECサイトの担当経験というのは、職務経歴書に未経験者でも掲載することができます。ECサイトの経験とは、実は「Yahoo!オークション」や「メルカリ」でも、同じ経験をすることができます。下記をご覧ください。

◆メルカリの流れ(カッコ内は対応するEC業務名)

① メルカリで売れている商品をリサーチする(商品企画)
② 商品の写真撮影や採寸をする(ささげ業務)
③ メルカリで商品登録をする(商品登録業務)
④ メルカリで顧客対応(顧客対応業務)
⑤ メルカリで注文者に連絡(受注業務)
⑥ メルカリで配送(配送業務)
⑦ メルカリで注文者からお礼の連絡(商品レビュー対策)

ご覧のとおり、メルカリでの実績というのは完全にECの業務に対応している面があるのです。ですから、職務経歴書や面接の際に、ECの経験をメルカリで積んでいるということは恥ずかしいことではないのです。

しかし、メルカリでの経験を言語化したりそれをアピールできなければ、ただの趣味とみなされてしまうので、下記の記事では、そのような経験をどのように面接に活かすか解説しているので、あわせてご覧ください。

参考記事:ECサイト未経験者がEC業界で働くためのたった3つの具体的な方法

30歳以上の未経験者は「ECサイトを運営してみる」こと!

未経験者が30歳以上ともなると、履歴書に「メルカリを徹底的にやっていた」だけでは、履歴者や面接官へのアピールで苦しい面がありますので、実際にECサイトを自分で運営して、それをキャリアにするのが良いでしょう。

◆無料ECシステム

・BASE
・STORES
・カラーミーショップ

これらの固定費が無料のECシステムでは、無料プラン(決済手数料のみかかります)が用意されており、商品さえあれば、すぐにECサイトを作ることができます。また商品もGoogleで「個人 卸 EC」など検索すると、個人でもECサイトで販売する商品を卸してもらえる仕入れ業者が見つかるはずです。

◆個人でも仕入れに使えるサイト

・NETSEA(ネッシー)
・TopSeller​(トップセラー)
・卸問屋.com

これらを踏まえて、ECサイト運営者となるステップを下記にまとめておきました。少しざっくりしていますが、概要を把握できるはずです。

◆ECサイト運営者となるステップ

① ECサイトで売るための資金を5万円程度用意する
② ECサイトで売る商品を卸しから購入する
③ BASEなどで無料ECサイトを作る
④ 価格設定を赤字額の破格の値段にする
⑤ 商品販売実績と配送経験、顧客アフターフォローを行う

もちろん未経験者で、この程度の資金や準備でECサイトが成功することはほとんどありません。しかし、ここで重要なのは、ECサイトを構築してECサイトで販売までしたという運営経験です。個人のECサイトで1商品でも売ることは非常に難しいことなのです。その販売実績まで作ったのなら、EC事業者の目に必ず留まります。

ですから、黒字化を狙う必要はありません。商品を赤字額で提供すれば、Googleで深く検索するユーザーの目にとまり、商品は売れやすくなります。

ですから赤字の値段設定にすることが非常に大切なのです。面談の際に「あなたのECサイトは儲かっていましたか?」と聞かれれば、そこは素直に「経験を積めましたが、儲かりませんでした」と回答すれば良いでしょう。

EC業界は、右肩上がりの将来有望な業界のひとつ!

これからEC業界を目指す人がいれば、私は自信をもってお勧めします。EC業界の市場規模ですが、以下をご覧ください。

◆経済産業省が公開しているEC業界の市場規模

ECの市場規模推移(-2022)

データ引用元:令和4年度 デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)

経済産業省発表による最新のデータによると、2022年の市場規模は約14兆円です。また2019年から2020年にかけて、ECの市場規模が対前年20%以上の成長率を見せており、コロナ禍で大きく成長したことがわかります。そして、EC市場は今後も右肩上がりの成長が期待される市場です。

とはいえ、EC化率(商取引全体に占めるインターネット販売の割合)は10%に満たず、世界のEC化率である19.3%を大きく下回ります。つまり、まだまだEC市場は伸び代のある市場であり、中国やアメリカ、イギリスといった世界のEC大国と競合していくためにも、業界全体で有望なEC従事者を増やしていかなければならないのです。

このような背景を踏まえると、EC業界は、未経験者が次の就職の際に入社する業界としては将来性が高い業界と言えるのです。また、中小企業のEC事業者は大手に比べると人手不足でもあります。そのため、これから未経験でEC業界にチャレンジする人は、中小企業の方が入社しやすいでしょう。

また、入社したECサイト事業者の業績が悪く、仮に倒産してしまったりしても、EC業界の経験やキャリアを積んでおけば、必ず一生食べていけるスキルとなるはずです。私も37歳から未経験でEC業界に入り、今ではECに関する書籍を出版するまでになりました。あたなにも必ずできるはずです。

最後に、EC業界の将来性については下記の記事で掘り下げて紹介しているので、本記事と併せてぜひご覧ください。

参考記事:13兆円市場の「EC業界の将来性」をコンサルタントが解説