個人や事業者が所有する遊休資産(スキルなどの無形資産を含む)の貸出を仲介するシェアリングサービスが急速に普及しており、2021年度は2兆4,198億円の市場規模となり、2030年度には14兆円を超える市場規模になると予想されております。
遊休資産の貸出とは、具体的に言うと個人あるいは事業者が所有しているモノや空間などを、それを必要としている人に提供することであり、シェアリングサービスには、車を共同で使用する「カーシェアリング」、物件を貸し出す「民泊」、スペースを貸し出す「レンタルスペース」、あるいはスキルや知識を提供する「スキルシェアサービス」などがあります。
このようなシェアリングサービスが急速に普及する背景には、下記のような点があると筆者は考えます。
・日本国内における少子高齢化
・地域コミュニティの衰退
・価値観の変化(モノ消費からコト消費へ)
・SDGsへの貢献
シェアリングサービスとは、貸手と借手をつなげる仲介サービスであるため、社会課題に即したビジネスモデルを立案しないと、需要あるいは供給の不足が発生し、サービスが成り立ちません。また、各種法令の遵守や国・自治体との連携も求められるため、シェアリングサービスの構築は容易ではありません。
しかし、シェアリングサービスを普及させることができれば、事業者は大きな成長のチャンスをつかむことができるのです。本日はforUSRES株式会社でコンサルを担当している筆者が、シェアリングサービスについて解説いたします。
2022年のシェアリングサービス市場は2兆6,158億円
課題解決シナリオ | ベースシナリオ | |
---|---|---|
2018年度 | 1兆8,874億円 | |
2020年度 | 2兆1,004億円 | |
2021年度 | 2兆4,198億円 | |
2022年度 | 2兆6,158億円 | |
2027年度 | 6兆1,274億円 | 4兆6,547億円 |
2032年度 | 15兆1,165億円 | 8兆5,770億円 |
株式会社情報通信総合研究所と一般社団法人シェアリングエコノミー協会の共同調査によると、2022年度の日本国内のシェアリングエコノミー市場規模は、2兆6,158億円となっています。そして、課題解決シナリオ(ポジティブ将来予測値)によると、2032年には15兆1,165億円となり、2022年度の6倍に迫る巨大な市場規模となります。
では、なぜこのようにシェアリングサービス市場が急激に伸びているのでしょうか?
シェアリングサービスが普及する5つの背景とは?
シェアリングサービスの普及には下記の5つの背景があると筆者は考えます。
背景② 日本国内における少子高齢化
背景③ 地域コミュニティの衰退
背景④ 価値観の変化(モノ消費からコト消費へ)
背景⑤ SDGsへの貢献
これらについて、一つずつ解説いたします。
背景① インターネット及びスマートフォンの普及
まず、シェアリングエコノミーの普及を可能にしているのが、インターネット及びスマートフォンの普及によるものです。具体的には下記のような影響があります。
◆インターネット及びスマートフォン普及の影響
・時間や場所による制限が緩和された
・個対個のコミュニケーションが容易になった
このことにより、個人が持つ遊休資産(スキル等の無形資産を含む)をAirbnbやクラウドワークス、メルカリなどのプラットフォームを通じて、シェアしやすい時代となったのです。
背景② 日本国内における少子高齢化
周知のとおり、国内において深刻な少子高齢化時代を迎えようとしております。
◆高齢化の推移と将来推計
内閣府のホームページでは下記のように言及されております。
引用:我が国の65歳以上人口は、昭和25(1950)年には総人口の5%に満たなかったが、昭和45(1970)年に7%を超え、さらに、平成6(1994)年には14%を超えた。高齢化率はその後も上昇を続け、令和元(2019)年10月1日現在、28.4%に達している。
また、15~64歳人口は、平成7(1995)年に8,716万人でピークを迎え、その後減少に転じ、令和元年には7,507万人と、総人口の59.5%となった。
少子高齢化の大きな問題は、あらゆる産業において担い手が不足することです。このような社会課題を改善する一つの方法として、個人の持つスキルなどの遊休資産を活用するシェアリングサービスが期待されているのです。
背景③ 地域コミュニティの衰退
地域コミュニティは、自治会や町内会などの地縁団体が主な担い手でしたが、社会経済環境の変化の中で、都市部を中心に、そのような地縁団体に所属しない人が増えてきております。
地域コミュニティは以下のような役割を果たしてまいりました。
◆地域コミュニティの役割
・伝統文化の維持
・地域全体の課題に対する意見調整
地域コミュニティの衰退とともに、このような役割を果たすことが難しくなりつつあるのです。このような点においても、「地域」と「地域コミュニティの担い手」をマッチングすることがシェアリングサービスに期待されます。
背景④ 価値観の変化(モノ消費からコト消費へ)
下記の図をご覧ください。
経済産業省の資料によると、若い世代ほど「モノ消費」にこだわりがないことがわかります。この時代の変化は、ビジネスにおいては重要な変化です。特にZ世代は「所有にこだわらない」という特徴があります。また、メルカリ社が実施した調査結果に興味深いデータがあるので、下記に調査結果サマリーの一部を引用します。
引用:④フリマアプリ利用者は非利用者に比べて「一時的に必要なものはレンタルなどで済ませたい」、「ストーリーや理念などがある企業の商品を持ちたい」、「人とは違うモノを持つ・体験をすることを重視する」 傾向にあることが判明。
このような調査からも、シェアリングサービスの需要が若い世代を中心に高まってきていることがわかります。
背景⑤ SDGsへの貢献
人口増加や環境汚染が進んだことから、国連サミットにおいてSDGs(持続可能な開発目標)が世界の共通目標とされました。シェアリングエコノミー協会によると、シェアリングサービスはSDGsに大きな貢献を及ぼすとされております。
今後、新しいビジネスモデルを検討する際は、企業がいかにしてSDGsとビジネスモデルをマッチングさせていき、SDGsに貢献していくかが求められます。
それでは、このような社会的背景を踏まえて、シェアリングサービスを検討している事業者が、どのようにシェアリングサービスを立案・構築していけば良いのかを解説してまいります。
社会課題の把握
シェアリングサービスを検討する際において、社会課題の把握は欠かせません。下記は政府のシェアリングエコノミー活用ハンドブックの資料ですが、地域の社会課題の把握から施策の検討への反映までがまとめられております。
このハンドブックによると、地域課題の整理のために客観的な根拠に基づき問題点と課題解決の水準を検討すること、またシェアリングサービス事業の実施前と実施後に調査しデータを利活用することを推奨しております。
シェアリングサービス事業を立案初期においては、公的統計、文献調査などの信ぴょう性が高い調査もコストがかからず実施できます。その調査結果に基づき、事業化をさらに検討する場合は、コストのかかるアンケート調査やヒアリング調査を実施することでシェアリングサービスの検討を進めます。
自治体と協業して、参入すべきか?
シェアリングサービスを自治体と協業することで、下記のようなメリットが得られます。
◆自治体協業とのメリット
・自治体の広報・周知活動におけるシェアリングサービスの普及促進
・自治体の共同イベントの企画・実施
・自治体施設・サービスの利活用
・他自治体へのシェアリングサービス普及
様々なメリットが享受できる一方で、自治体内での意見集約や予算確保には企業間連携に比べると時間がかかる面があるため、そのシェアリングサービスの普及において、自治体と協業するメリットを考慮した上で取り組む必要があります。
法規制への対応
例えば、Uberのようなサービスや相乗りをシェアリングサービスとして立案する場合などは、道路運送法の制約を受ける可能性がありますし、Airbnbのような民泊サービスにおいては住宅宿泊事業法を遵守しなくてはなりません。
新しいシェアリングサービスの立案においては、法規制に対応しなくてはならないケースがあります。法規制に関して相談する際に役に立つのが、内閣官房シェアリングエコノミー促進室です。
内閣官房シェアリングエコノミー促進室とは?
国もシェアリングサービスを後押しする窓口を提供しています。シェアリングサービスを普及させるには、地域課題の把握から法令遵守、関係省庁との調整など、様々なことをクリアしていかなくてはなりません。そのため、シェアリングサービスの事業立案時においては、内閣官房シェアリングエコノミー促進室に相談してみるのが良いでしょう。
問い合わせ先:シェアリングエコノミー促進室
窓口に相談することで、「シェアリングサービスの伝道師」といわれる、多数の派遣実績のある専門家からシェアリングエコノミーの普及展開に関するアドバイスを受けることができます。
シェアリングサービスは今がチャンス
シェアリングサービスを普及させるには、以下のポイントを抑える必要があります。
・国や自治体との連携
・法令による制約
そのため、サービス立案から構築、普及においてはカンタンとは言えない面があります、しかしその反面、冒頭に述べたように、シェアリングサービス市場は2032年には15兆円市場への成長の可能性があり、地域課題に即したサービスを展開できれば事業者においても大きなチャンスなのです。
まずは市場調査を実施し、ビジネスの可能性を感じたのなら、内閣官房シェアリングエコノミー促進室とコンタクトをとることを検討しましょう。
まとめ
今回は、シェアリングサービス市場の現状と、その背景について解説いたしました。シェアリングサービスは、今後間違いなくニーズが急増していくサービスです。
シェアリングサービス立案の参考になるべく、この記事を作成いたしましたので、シェアリングサービスを検討している事業者の一助となれば幸いです。