大塚家具のマーケティング施策

大塚家具といえば、かつては丁寧な接客サービスと高品質な家具を取り扱う、いわゆる“高級店”でしたが、2015年に抜本的な経営方針の変更を行い、従来の高級路線からカジュアル路線に大きく舵を切りました

以降は、新しい業態でこれまでにない顧客層の開拓に尽力するも業績の悪化に歯止めがかからず、2019年のヤマダホールディングスの子会社化を経て、2022年には吸収合併される形で法人としての大塚家具は消滅し、ヤマダデンキのストアブランドとして現在に至ります。

結果として大塚家具の戦略は失敗に終わった形ですが、当時最新の技術であったAR技術のいち早い導入やオムニチャネル化の推進、AmazonやYahoo!ショッピングなどのビッグモールへの販路拡大、さらには越境EC参入など次々とECを軸にした施策を打ち出し、少なからずEC事業の拡大に貢献しました。

本記事では、大塚家具について、同社が戦略変更して以降注力したEC強化やオムニチャネル化などのデジタル施策についてまとめました。現在ではすでに終了してしまった過去の施策も多いですが、家具・インテリア業界やEC担当者の方は、ぜひご参考ください。

大塚家具の業績概況

まずはじめに、大塚家具の売上高と利益推移について下記グラフをご覧ください。

◆大塚家具の売上高および当期純利益推移

大塚家具の売上高および当期純利益推移
※2018年度までは12月決算、2020年度より4月決算

データ引用:8186 大塚家具 | 会社業績(IR BANK)より筆者がグラフ作成

大塚家具の業績推移において、変化が顕著なのは2016年の大きな赤字転換です。大きな赤字を出すこととなった要因はいくつかありますが、最も大きな要因は、2015年末に経営権が大塚久美子氏に移行してからの経営方針の変更が良い結果を生み出すことができず、むしろ従来の顧客や取引先の支持を失ってしまったことにあります。

経営権の移行についての争いは、当時いわゆる“お家騒動”としてメディアに大きく取り上げられたことで世間の注目を集め、久美子氏もこれを好機と捉えたか、自らが広告塔となってメディアに積極的に露出するなどして「新生・大塚家具」をアピールしてきましたが、新しい顧客層は広がらず、2015年末に行った売り尽くしセールも顧客を先食いしてしまった形で、その反動も影響し結果として大きく赤字に転落してしまいまいた。

そして、2016年以降も赤字の苦しい状況が続いた中で、大塚家具は2019年にヤマダホールディングス(HD)の子会社となりました。しかし、ヤマダ傘下となるも赤字は継続、結果2022年5月1日付でヤマダHDに吸収合併される形で、法人としての大塚家具は消滅し、現在はヤマダデンキのストアブランドとして展開されています。

EC化率は1.3%程度

大塚家具は、現在独自ECサイトの他、楽天市場、Yahoo!ショッピング、Amaozon、そしてヤマダデンキのECサイトであるヤマダウェブコムに商品展開しています。株式会社大塚家具時代のEC売上高についての明確なデータとしては、2021年4月期までのものになりますが、決算資料よりEC売上高推移のグラフを下記に引用します。

◆EC売上推移

大塚家具のEC売上高推移

グラフ引用:2021年4⽉期 決算説明資料

大塚家具の2020年4月期(16ヶ月の変則決算)のEC売上高は4億9,500万円であり、全体売上高(348億5,500万円)から算出すると、EC化率は1.4%程度です。直近のEC化率が不明のため一概に言えませんが、同年の「生活雑貨・家具・インテリア」業界のEC化率が26.03%※、また物販分野全体のEC化率が8.08%※であることを踏まえると、極めて低いEC利用率と言えます。

実は、先に述べた“お家騒動”により経営権が移行される前、つまり大塚勝久氏による経営時代は店舗接客による販売がメインであり、ECサイトでは一部の商品のみ取り扱う形で、それほどオンラインに注力はしていませんでした。EC化率の低さは、この辺りの事情に由来している部分もあるのでしょう。

しかし、久美子氏に経営権が移ってからは、新たな販路を見出すべくEC展開にも注力するようになりました。事項にて詳しく解説します。

令和2年度 産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)(経済産業省)

高級路線からの脱却とECの強化

大塚久美子氏に経営権が移ると、大塚家具はこれまでの「会員制の高級路線」から「誰でも気軽に購入できるカジュアル路線」に大きく舵を切ることになります。会員制の廃止や、高級家具だけでなくより手頃な価格帯の家具やインテリア製品の取り扱い、また店舗での密着営業をなくし自分のペースで自由に商品を選ぶことができるようにレイアウトを変えるなど、様々な抜本的な戦略変更を行いました。

そのひとつに、オンライン販売の強化があります。大塚家具は2016年に自社ECサイト「IDC OTSUKA オンライン」をリニューアルして本格的なEC戦略に乗り出し、取扱い商品の拡充、またポイントサービスの展開やバーチャルショールームによるEC集客など、継続的にEC強化施策を実施してきました

さらに、下図は当時の経営ビジョンですが、EC強化とともにオンラインとオフラインを連携するオムニチャネル化の推進も戦略の重点とし、家具の訪問提案や採寸サービスのWEB申込、AR(拡張現実)技術を活用したアプリの提供などにより、顧客満足度の向上を図りました。

◆大塚家具の当時の経営ビジョン

大塚家具の経営ビジョン

引用:大塚家具がECの本格展開で掲げる商品とサービスのオムニチャネル施策とは(ネットショップ担当者フォーラム)

大塚家具の全体的な業績の推移、そして最終的なヤマダHDへの身売りという結果を見ると、この路線変更は失敗だったと断ずるほかありませんが、事実、先に示したEC売上推移のグラフを見ると、2016年から売上を伸ばし、2020年から2021年にかけてEC売上は大きく伸長しており、EC利用率が向上したのがわかります。

現在は法人としての大塚家具はなくなり、ヤマダデンキの「大塚家具事業部」として同社のストアブランドとなった大塚家具ですが、ヤマダHDによるEC・DXの推進とヤマダウェブコムを経由した販路拡大により、直近のEC売上も拡大傾向にあると予測されます。家具・インテリア市場自体はコロナ禍の巣篭もり需要を経て、EC化率はいまや30%近い規模にまで成長しています。EC戦略をしっかり組み立てていくことでブランドとしての盛り返しも十分可能なのではないでしょうか。

大塚家具の5つのデジタルマーケティング施策

2009年に開設された大塚家具のECサイトは、2016年に「IDC OTSUKA オンライン」としてリニューアルしました。以降はECを中心としたデジタルマーケティングにも積極的に取り組みました。

先に述べた通り、現在はヤマダデンキのブランドとなっている大塚家具ですが、ここでは、かつて大塚家具が実施したEC施策や、現在のヤマダデンキ主体による施策を含め、5つを紹介していきたいと思います。

施策① バーチャルショールームとECの連動

大塚家具の「バーチャルショールーム」は、パノラマ画像で再現された新宿ショールームでのショッピングを、PCやスマートフォン・タブレットの画面上で擬似体験できるWEBコンテンツです。

当初は、バーチャル空間を回遊するだけのコンテンツでしたが、2017年にはこのコンテンツをECサイトと連動させ、一部の商品については、商品をタップすることで詳細情報を表示し、そのままECサイトの該当商品ページに遷移して購入に進めるようになりました。

◆バーチャルショールームのイメージ

バーチャルショールーム

引用:大塚家具、EC連動のバーチャルショールームを開設(ネットショップ担当者フォーラム)2017/8/18

施策② 当時最新のAR技術を導入したアプリリリース

今では一般的になってきているAR技術が急激に認知され“AR元年”となった2016年、大塚家具は当時の最新技術であるARをすぐさま導入し、スマートフォンアプリ「IDC OTSUKA AR」をリリースしました。

このアプリでは、3Dモデリングされた商品を自宅の好きな場所に配置して、空間調和やサイズ感をシミュレーションできるといったものです。下記は、リリース当時の紹介記事から引用したアプリの利用イメージです。

◆「IDC OTSUKA AR」利用イメージ

IDCARアプリ利用イメージ

引用:大塚家具がARを展開、コーディネートが手軽に!(ECのミカタ)※2016/9/16

当時はまだマーカーレスARが一般的ではなく、プリントアウトした専用マーカーを置いた場所に商品の3Dデータが配置されるといったもので、手間はかかりましたが画期的なコンテンツであり、当時は筆者もすぐにダウンロードしました。現在では、アプリ配信は終了し、起動もできない状態となっています。

◆現在では配信終了となっている

IDCARアプリ配信終了

施策③ ポイントプログラムの統合

ポイントプログラムの統合はオムニチャネル化の代表的な施策のひとつです。大塚家具のメンバーズサービスである「IDC パートナーズ」は、当初は店舗でのみ利用できるポイントプログラムでしたが、2017年にサービスをECサイトにも拡張しポイントを統合、店舗やECサイトの区別なくポイントを付与・利用できるようになり、EC事業の拡大につなげました。

現在では、下記の通りヤマダHDとの合併により「IDC パートナーズ」の全サービスは休止となっています。

株式会社ヤマダデンキとの合併に伴い、誠に勝手ながら2022年6月30日をもって「IDC パートナーズ」への新規ご入会、ポイント付与をはじめとした会員特典を休止することといたしました。ポイントは有効期限(ポイント付与日から2年)まで引き続きご利用いただけます。

引用:IDCパートナーズポイント 

施策④ LINEインテリア相談

WEB接客は、コロナ禍を契機に多くのBtoC事業で導入されるようになったサービスです。大塚家具のECサイトでも、LINEを利用したWEB接客が提供されています。サービス内容は、公式LINEアカウントを友だち追加し案内に応じて家具についての悩みを入力すると、専門のアドバイザーが3Dプランニングや商品の写真を用いながら相談に乗ってくれ、その場で商品の注文もできるといったものです。

◆LINEインテリア相談の3Dプランニング

インテリア相談の3Dプランニング
※公式サイトより画像引用

これまでは、インテリア相談は店舗や電話のお問い合わせ窓口に限定されていましたが、LINEを活用することで、より具体的な解決案や最適な商品のコンサルティングを受けられるようになり、顧客満足度の向上につながっています。

本サービスは現在も引き続き提供されています。

LINEインテリア相談

施策⑤ 自社ECだけでなく他社ECも連携して販路拡大

大塚家具では、EC強化に伴い、自社ECサイトだけでなく複数のオンラインサービスを用いて販路を拡大させました。

2017年には、現在約4,000ブランドのアパレル商品を取り扱う通販サイト「ロコンド」と協業を開始し、同社の家具ECサイト「LOCONDO HOME(ロコンドホーム)」にて大塚家具の商品を取り扱うようになります。これには、大塚家具としては販路の拡大、ロコンドとしては、大塚家具の倉庫からの発送により「メーカー直送」がうたえるメリットがありました。現在は、ロコンドホームおよびロコンドサイト内での大塚家具製品の取り扱いは確認できませんでした。

同じく2017年にYahoo!ショッピングへ出店し、ソファやテーブル、ベッド、収納等の家具や寝具、敷物など2,000点以上の商品によって販売をスタートしました。現在もYahoo!ショッピングでは商品の取り扱いがありますが、随時ヤマダデンキ名義に変更されていっているようです。

2018年には、Amazonでの販売を開始。販売開始時には、寝装品や小家具を中心に約40種類130アイテムの商品を販売しました。現在でもAmazonには大塚家具のブランドページがありますが、ほとんどの商品が購入できない状態になっており、おそらくAmazonの販路も縮小ないし閉鎖に向かっていると思われます。

そして、2019年には越境ECビジネスにも進出し、中国を代表するEC企業であるアリババグループが運営する「天猫国際(Tmall Global)」に出店しました。しかし、その後のめぼしい情報は見つけられず、現在のところ販売継続を確認することはできませんでした。

このように、自社ECサイトのリニューアル以降、短期間で次々と他社ECサービスと連携し一気に販路拡大を狙いました。

参考:ロコンドと大塚家具が協業――ロコンドは家具分野に進出、大塚家具は販路拡大(ネットショップ担当者フォーラム)大塚家具 EC事業強化の一環としてネット通販「Yahoo!ショッピング」に出店2017年10月30日(月)より(PR TIMES)大塚家具、アマゾンで独自商品販売 寝装品など130品目(日本経済新聞)大塚家具がアリババの越境ECサイト「天猫国際」に出店、中国向けECを本格化(ネットショップ担当者フォーラム)

ヤマダHDにおける大塚家具の現在

先に述べた通り、大塚家具はヤマダHDの子会社を経て、吸収合併によりヤマダデンキのストアブランドとして現在に至ります。ヤマダHDの2024年3月期の決算報告によると、家具・インテリア事業の売上は437億4,400万円で前期比125%の好成績でした。

ヤマダデンキで取り扱っている家具・インテリアのブランドは大塚家具だけではなく、ヤマダオリジナルブランドや関家具の製品も扱ってるため、売上内での大塚家具ブランドがどの程度寄与しているかは不明ですが、報告書内でも同事業の売上は継続して伸長しているとされています

ヤマダデンキでは「LIFE SELECT」という体験・体感型の大型コンセプトストアを全国35店舗展開しております。ここでは家電だけでなく、家具・インテリア、生活雑貨、リフォーム、さらには日用品やおもちゃなど、暮らしのあらゆるモノが揃い、それぞれの売り場面積も通常店舗のスペースと比べると大きく確保されております。家具インテリアコーナーの売り場面積は約3,000㎡以上あり、大塚家具の専門スタッフが接客を行っています。

また、ヤマダHDの住宅事業において、住宅、家電、家具などを一体的に提案する「暮らしまるごと戦略」では、大塚家具をはじめとしたグループシナジーの強化により、事業成長の加速を狙います。

◆ヤマダHDの「くらしまるごと」戦略

くらしまるごと戦略
※決算説明会資料より引用

法人としての実体はなくなってしまった大塚家具ですが、かつて高級家具店の雄として培ってきた販売や商品開発ノウハウが活かされることで、今後のヤマダHDの家具・インテリア事業の伸長も引き続き期待できます

参考:株式会社ヤマダホールディングス 2024年3月期 決算説明会資料YAMADA LIFE SELECT ライフセレクト

ヤマダHDの新規開拓の武器として生き残る大塚家具

大塚家具の従来の店舗中心の販売戦略から、ECサイトの本格強化を中心にデジタル戦略への大きな転換を行なった背景として、当時のネットショップ担当者フォーラムの記事には、下記のように書かれています。

大塚家具がEC事業の強化に取り組む背景には、インターネットの普及に伴い家具の購買スタイルが変化していることがあげられる。購買前にインターネットで情報収集する世代が家具を購入する年代に差し掛かったことから、「インターネットでのプレゼンスがリアル店舗の集客に直結する」と判断した。

(中略)

大塚家具が指摘する消費者ニーズの変化

引用:大塚家具がECの本格展開で掲げる商品とサービスのオムニチャネル施策とは(ネットショップ担当者フォーラム)2017/3/14

大塚家具のデジタルシフトは時流に沿ったものでしたし、大きな戦略転換も消費行動の変化を正しく見据えていたからこその決断だったのでしょうが、自社がこれまで作り上げてきたブランドの価値観と、それを支持した顧客層にうまく落とし込むことができなかったため、結果として失敗に終わってしまったと筆者は考えます。

例えば、まったく新しいブランドを立ち上げて差別化を図ったほうがそこまで大きな傷を負うことはなかったかもしれませんし、新しい顧客層を上手く取り込むことができたのではないでしょうか。

かつて富裕層中心だった高級路線を脱却し、マス層の開拓を目指した大塚家具ですが、今はヤマダデンキのブランドとして、今度は富裕層の顧客開拓の足掛かりとなっています。「暮らしまるごと戦略」を推進するヤマダにとって、大塚家具が持つノウハウや品質は大きな武器です。同社にとって重要な位置付けのブランドとして今後の展開が気になるところです。