2024年物流問題がEC業界に与える9つの大きな影響

物流の2024年問題とは、2024年4月から施行される「働き方改革関連法」よって、トラックドライバーの時間外労働時間の上限規制によって生じる問題です。

この規制はドライバーの年間の時間外労働を960時間(※)に制限するもので、これによりEC業界においても配送コストが増えたり、配送時間が長くなるなどの大きな影響があります。

知っていますか?物流の2024年問題

筆者は、この問題によって、EC業界では以下の9つの影響があると推測します。

① 商品配送に時間がかかる
② 配送コストが高くなる
③ 翌日配送や時間指定配送が難しくなる
④ 再配達が増える
⑤ オムニチャネル施策に影響がでる
⑥ 送料無料の価値が高くなる
⑦ 損益分岐点が高まり収益構造が悪化
⑧ 一部のユーザーにEC離れが発生する
⑨ EC専業企業が店舗展開を始める

本日は、forUSERS株式会社でマーケティングを担当している筆者が、2024年物流問題がEC業界に及ぼす影響と、その対策について詳しく解説いたします。

物流2024年問題がEC業界に与える9つの影響

まずは、2024年4月から施工される働き方改革関連法により引き起こされる、物流2024年問題がEC業界に与える影響についてリストにしてみました。

◆2024年問題がEC業界に与える影響

影響① 商品配送に時間がかかる
影響② 配送コストが高くなる
影響③ 翌日配送や時間指定配送が難しくなる
影響④ 再配達が増える
影響⑤ オムニチャネル施策に影響がでる
影響⑥ 送料無料の価値が高くなる
影響⑦ 損益分岐点が高まり収益構造が悪化
影響⑧ 一部のユーザーにEC離れが発生する
影響⑨ EC専業企業が店舗展開を始める

それでは、一つずつ解説してまいります。

影響① 商品配送に時間がかかる

現在、日本で生活する私たちが、ECサイトで注文した商品が翌日〜数日で届くのは、物流を担うトラック運転手のおかげです。トラック運転手が倉庫などの拠点から私たちの地域の配送拠点まで荷物を届けてくれるからです。しかし、それを実現させていたのは、人手不足の中、トラック運転手の長い労働時間によって支えられていたのです。

2024年4月から施行される「働き方改革関連法」によって、今まで猶予されていた自動車運転業務を対象としたトラック運転手も、年間残業時間を960時間に制限されることになります。そのため、トラック運転手の業務が間に合わず、商品配送に今まで以上に時間がかかることになります。

参考:働き方改革関連法の概要と 時間外労働の上限規制(中小企業庁)

影響② 配送コストが高くなる

EC事業者の努力により「配送無料サービス」を実現していたEC事業者も数多くありますが、「円安」と「ガソリン代高騰」に加えて、2024年物流問題により物流コストがさらに高くなることが懸念されます。現に、配送大手のヤマト運輸では、2024年4月1日より約2%の価格改定を発表しました。

2024年4月1日から宅急便の届出運賃・料金を改定(ヤマトホールディングス株式会社)

このため、今までEC事業者が行ってきた配送無料サービスの提供が難しくなってきております。特に若いユーザーをターゲットとする「アパレルEC事業者」などが大きな影響を受けると考えられます。なぜなら、若いユーザーほど送料無料のネットショップを熟知(※)しており、そのようなユーザーがECから離れる懸念があるためです。

Z世代のサブスク利用経験者は7割超。X・Y世代はECで“価格と送料”を重視【消費意識まとめ】

送料無料を売りにしているEC事業者や、Z世代がターゲットであるEC事業者は、事前にこれらの影響を想定してショップ運営を実施する必要があります。

影響③ 翌日配送や時間指定配送が難しくなる

ECサイトのオプション機能により、翌日配送や時間指定配送を実施しているEC事業者も多くいたのではないでしょうか?このようなサービスはユーザーにとってありがたく、筆者も平日の昼間は家にいないので非常に助かるサービスでありました。しかし、これらのサービスの実現が難しくなってきます。

◆楽天市場の配送日時指定オプション

楽天の日時指定画面

物流を自社で整備している大手EC事業者であれば法改正後も対応可能ですが、多くのEC事業者は物流を外注しております。そのため2024年以降もこのサービスを続けるためには、外注先を変更したり配送コストを引き上げるなどの対応を強いられることになります。

この影響により、もし「時間指定配送」などをあきらめるEC事業者は、ECサイトの利便性が下がりユーザーが離れてしまう影響を把握した上で、売上を上げる対策が必要となります。

影響④ 再配達が増える

2024年問題によって時間指定配送ができなかったり、ECで注文した商品が届くのが遅れることにより、ユーザーの“注文したことの意識”が薄まってしまい、再配達が増えることが予想されます。

再配達はEC事業者ではなく宅配事業者の問題と考えがちですが、ユーザーにとってはEC事業者の問題と見られかねません。例えば、とあるネットショップで買い物した時に過度な再配達を必要としたユーザーがいれば、そのユーザーにとっては「○○ネットショップでは二度と買い物をしない」ということも考えられます。

もちろん、再配達についての問題は、決められた時間に家にいないユーザーにも瑕疵がありますが、そのように考えないユーザーも多数いるはずです。こういったことが続くと、配送設備が整っている「ヨドバシドットコム」などの大手ECで買い物をする人が増える傾向があるはずです。

事実、ヨドバシドットコムは早くから2024年問題を見据えて、宅配拠点を拡大したり、ドライバーの正社員化を進めるなどの対策を行なっています。

参考:ヨドバシカメラが宅配拠点4倍に、狙いは?(日本経済新聞)

2024年問題では、配送が遅れたりコストが増える面がありますが、この点を防ぐためにはヤマト運輸などの配送クオリティが高い事業者に依頼するなどの対策が必要となります。

影響⑤ オムニチャネル施策に影響がでる

大手小売事業者の多くは、オムニチャネル施策に取り組んでおります。代表的なオムニチャネル施策の一つに下記のようなサービスがあります。

◆オムニチャネル施策の一例

・店舗以外でも注文ができる
・店舗からECへ注文ができる
・返品希望者の自宅へ集荷に行く

このようなオムニチャネル施策によるサービスの実現は、前提として物流がありました。しかし、2024年問題によって配送時間や配送コストが増えたり、配送クオリティが落ちることで、オムニチャネルの「いつでも、どこでも」といった利便性が失われることにつながります。

オムニチャネルを実践している企業の多くは、ユニクロやビックカメラ、資生堂などの小売大手企業であるため、2024年問題への対策をしているはずですが、おそらく2024年4月以降にオムニチャネル施策に影響が出てくると筆者は考えます。

そのため、今まで以上に店舗を活用する(例えばECの店舗受取サービス)などの対策が求められます。

影響⑥ 送料無料の価値が高くなる

今までも、Z世代を中心に送料無料には大きな価値がありました。しかし前述したように、2024年物流問題によって送料コストが増えるため、EC事業者が送料無料を実現するハードルは高くなります。そのため、2024年以降は確実に「送料無料」を実施するEC事業者は減ります。

ただし、これはチャンスとも言えます。2024年以降も企業努力によって送料無料を維持したり、新たに送料無料サービスを実施することで、競合他社と差別化を図ることができます。2024年4月以降も送料無料を実現するのは各EC事業者の企業努力となりますが、マーケティングのチャンスでもあります。

特に若い世代は価格や配送コストに敏感であるため、送料無料の実現は大変ですが、マーケティングとして期間限定で新規ユーザーのみを対象にするなど一考する価値はあるはずです

影響⑦ 損益分岐点が高まり収益構造が悪化

送料コストが増えることで、以下のような影響が考えられます。

◆送料コストが増えることによる影響

・利幅が減る
・商品が売れなくなる
・配送料が比較的安い大手ECサイトにユーザーが集まる

このような影響により、中小のEC事業者の損益分岐点が高まり、収益構造が悪化することで経営を続けるのが難しい状況になる可能性があります。そのため仕入れやEC運営費用などを含めてEC運営にかかる費用を見直す必要があります。

影響⑧ 一部のユーザーにEC離れが発生する

業界全体として送料が増える結果となると、ECの利用を控えて送料のかからない店舗利用を積極的に行うユーザーが増えることが考えられます。2024年現在は、物流問題だけでなく、「円安」と「物価上昇」、「インボイス制度などの実質増税」が進んでおり、ユーザー心理としてなるべく費用がかからない店舗の利用が増える可能性があります。

ECと店舗を持つ大手小売事業者であれば、店舗運営により力を入れれば良いかもしれませんが、EC専門の企業には大きな問題です。この問題を解決するには、今一度自社ECの競合差別化について協議し、ユーザーに対してどのような価値を提供できるのかを考える必要があります。

影響⑨ EC専業企業が店舗展開を始める

配送コストの増加により、今までECでのネット販売に力をいれていた企業が店舗展開を始めたり、あるいは店舗を持つ企業との提携を増やすことが考えられます。このような動きは「オムニチャネル施策」の推進により、今までもありました。

店舗を持つことでユーザーに店舗受取を提案できるようになり、そのようなECサイトの需要が高まるからです。また、店舗受取は、店舗に来たユーザーに対してクロスセルを実施できるメリットもあります。

しかし、実店舗の運営はEC事業とは比較にならないほどのコストがかかります。店舗用の人員も必要になります。つまり、このような店舗展開ができるのは大手事業者に限られるので、強みを持たない中小のEC事業者には、2024年物流問題は大きな問題となるのです。

中小のEC事業者が2024年物流問題にどのように対応すべきか?今一度、自社の提供価値について考えてみよう。

ここまで解説したとおり、2024年物流問題はEC事業者全体に影響を及ぼしますが、その中でも配送コストを安くすることが難しい中小のEC事業者に大きな影響があります。しかし、中小EC事業者でも対策がないわけではありません。今一度、自社の提供価値について考えてみましょう。

その際は、以下の3つの提供価値について考えてみるべきです。

◆自社ECでのユーザーに対する提供価値を考える

① モノ(商品)
② ヒト(EC運営者、スタッフ)
③ コト(購入体験、購入後の体験)

これらの①~③で、ユーザーに何を提供できているかを考えます。例えば①モノなら、このECサイトでなければ買えないような高い価値がある商品でしょうか?

②ヒトであれば、例えば、ユーザーからの問い合わせに対して迅速に取り組み、また普段からSNSで情報を発信することで「この人から買いたい」と思われているでしょうか?

③であれば、「この商品買ってよかった!」「効果があった!」「商品が注文してすぐ届くし、返品も自由だ!」などユーザーが「わお!」と言うほどの体験を提供しているでしょうか?

この①~③のどれでも問題ないと思います。下記をご覧ください。送料がかかる商品でも、それが本当に欲しい商品であれば、あるいは他のサイトで販売されていない商品であれば、ユーザーは納得して送料を支払ってくれるというデータもあるのです。

◆送料を支払っても良いと考えるのはどんな場合か(n=969/2019年3月)

送料を支払っても良いと考えるのはどんな場合か

引用:送料無料が大好きな消費者がお金を払っても良いと考える「送料無料以外の価値」とは?(ネットショップ担当者フォーラム)

中小のEC事業者においても、自社がユーザーに対してどんな価値を提供できているかを見直しましょう。

この点については、筆者も尊敬するミウラタクヤ商店の三浦卓也氏の以下の著書にも明記されています。もし自社のECの売上を真剣に考える場合は必見の一冊となるので、非常におススメです。

三浦卓也氏著書:月商100万円を達成する 最強のEC運営術(Amazon)

まとめ

2024年問題がEC事業者に大きな影響を与えることは間違いありませんが、ピンチをチャンスにするべく、今一度、自社の提供価値を考えなおしてみる機会と捉えましょう。

今後、2024年4月以降にデータが集まりアンケート調査なども実施されることで、どのような影響があるかが明らかになりますが、それを待ってからではなく、EC事業者は早めに対策を打つべきでしょう。

このような外的変化は事業を運営していく上で必ず起こりうることですが、EC運営をあきらめず頑張りましょう。必ず道は開けるはずです。