オムニチャネル導入効果

オムニチャネルの導入を検討する上で、どのような効果が見込めるかを事前に検討しておかないと、社内でなかなかコンセンサス(合意)が得られません。

オムニチャネル導入の効果を端的に言うと、システム統合によりユーザーは店舗やEC、あるいはSNSといった異なるチャネルを意識することなく、購入や返品、ポイントなどの利用ができるため、ユーザーの利便性を極限まで高めることでリピート購入を増やし、売上が高まります。

ECサイトと店舗のシステム統合することで、このようなことが実現できるのです。ユニクロなどの大手企業は、オムニチャネル導入により、ユーザー一人当たりの売上を高めることに成功しております。

本日は、forUSERS株式会社でコンサルティングを行っている筆者が、オムニチャネルの効果について解説します。

2極化が進むアパレル業界!勝ち組は全てオムニチャネル実装済み

まず、オムニチャネルの効果を解説する前に、アパレル業界を例にとって解説します。下記の売上ランキングをご覧ください。

上位10社を見ると、全てオムニチャネル導入に成功している企業であり、EC商品の店舗受け取りや店頭試着、あるいは自社ECの会員とSNSの連携など、様々な形でオムニチャネル施策を推進しております。特に1位のユニクロは、早くからオムニチャネル施策に取り組み成果を上げてきた企業です。

◆アパレルEC売上高ランキング(2023年版)

2023版ファッションEC売上高ランキング

データ引用元:【「ファッションEC売上高ランキングTOP131」発表】コロナ後伸び悩む企業も ネットとリアル一体の強化策が鍵(日本ネット経済新聞)

上記のランキングは、引用元の日本ネット経済新聞で無料会員向けに公開されておりますので、興味のある方はぜひご覧ください。(全社131社のデータは本誌に掲載)

アパレル業界というのは、EC化が進んでいる分野※の一つであり、ECサイトにおいては最新のテクノロジーやソリューションの導入が進んでいる業界でもあります。その業界において上位10社全てがオムニチャネルを実践しているということを考えると、リテール業界においては今後オムニチャネルの導入は必須であるとも言えます。

※2022年のアパレル業界のEC化率

日本のEC化率:9.13%
アパレル業界のEC化率:21.56%

経済産業省のデータより引用:令和4年度 デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」

オムニチャネル導入による5つの効果

オムニチャネル導入を成功させることで得られる効果については、主に下記の5つがあります。

効果① リピート購入が増える
効果② 一人当たりの購入総額が増える
効果③ 業務効率の向上
効果④ 在庫削減
効果⑤ 細分化されたカスタマージャーニーに対応が可能

それぞれについて具体的に解説してまいります。

効果① リピート購入が増える

オムニチャネル導入により、ユーザーには以下のメリットがあります。

・EC、店舗、SNS、コールセンター等どこでも購入できる
・ECで購入した商品を店舗で返品できる
・EC、店舗のポイントの統合。どこで購入してもポイントが付与、利用できる。
・アプリのクーポンを店舗で使うことができる

つまり、ユーザーはチャネルを意識せずに、あらゆる顧客接点で買い物ができ、ポイントやクーポンも利用できます。そのためユーザーの利便性は格段に向上します。そのためリピート購入が促進され、ユーザーの囲い込みが実施できるため、結果としてリピート購入が格段に増えて、社全体の売上が高まります。

オムニチャネル導入による最たる効果とは、リピート購入増加による売上の増加と言えるのです。

効果② 一人当たりの購入総額が増える

下記の記事によると、店舗受取を利用した19%のユーザーは、店舗でも買い物を行い、店舗で返品したユーザーの15%は追加購入を行います。

参考記事:【オムニチャネル徹底調査】消費者の約2割が商品受取時に、15%が返品時に追加購入。店頭受け取りなどが高い満足度に直結

また、下記のユニクロのチャネル別の年間購入金額・回数の表をご覧ください。

◆国内ユニクロのチャネル別年間購入金額・回数

ユニクロの決算資料

データ引用元:株式会社ファーストリテイリング 2019年8月期 期末決算説明会資料:ECを本業に。

このデータを見ると、ECと店舗の両方を使うユーザーが最も購入金額と購入回数が高いことがわかります。オムニチャネルを実現したからこそ、このような結果が生まれているのです。

例えば、店舗受取を利用すれば送料無料にすることができ、ユーザーは積極的に店舗受取を利用するようになります。これは、企業側にとっても店舗に送客するマーケティングとなり、購入商品を受け取りに店舗に訪れたユーザーの「ついで買い」の確率が高まり、店舗の売上も高めることができるのです。

このようにオムニチャネルはユーザーのLTV(顧客生涯価値)を高める施策とも言えるのです。

効果③ 業務効率の向上

オムニチャネルを導入していない企業では、システムが統合されていないため、従業員は多数のシステムの操作方法を覚えることを強いられます。またレガシーシステムは、若い従業員には非常に使いづらいシステムとなります。

オムニチャネルでシステム統合すれば、オペレーションの負荷は下がります。さらにタブレット対応するソフトウェアであれば、若い世代には馴染みがあるのでシステムのトレーニング時間が短くて済み、タブレットであれば場所を選ばず接客や業務を行うことが可能になります。

また、顧客情報や在庫情報を一元管理できるため、全社全体で考えると業務効率を大きく高めることにつながります。

効果④ 在庫削減

オムニチャネルを実施すれば、今までECと店舗でバラバラだった在庫管理を一つにすることができるため、ECで余った在庫を店舗で販売したり、その逆も行うことができます。下記はABCマートの事例です。

ABCマートのEC含めたデジタル売上高は9%増の約224億円(推定)【2022年2月期】

ABCマートでは、店舗で欠品している商品を倉庫から直接発送するなどして、社全体としての在庫の有効活用を進めております。オムニチャネルが導入されていなければ、在庫を各店舗やEC毎に管理する必要がありましたが、一元管理を実現することで、在庫の有効活用を進めることができるのです。

効果⑤ 細分化されたカスタマージャーニーに対応が可能

オムニチャネルの大きなメリットは、現在の複雑なカスタマージャーニーに対応できることです。下記をご覧ください。

◆マスマーケティング時代 VS 現在 のカスタマージャーニー

カスタマージャーニー

スマホの登場により、昔のようにテレビCMだけを行えばユーザーにリーチできる時代ではなくなりました。企業はユーザーにメッセージを届けるために、スマホ上のSNSやYouTube、メルマガなどあらゆるチャネルに対応しなければ、多くのターゲットユーザーにリーチできません。

オムニチャネルで顧客データを一元化していれば、それぞれのチャネルに最適化したメッセージをデジタルマーケティングによって送ることができ、しかもデジタルマーケティングは効果検証をしっかり行うことができるため、効率的なマーケティングを実施できます。

オムニチャネルのデメリットは導入障壁が高いこと

このように導入より高い効果が見込まれるオムニチャネルも、多くの会社が導入に二の足を踏んでおります。なぜなら、オムニチャネル導入のためには、莫大なシステム投資が必要となるだけではなく、オムニチャネルは全社を巻き込むプロジェクトであり、そのようなプロジェクトを進めるには、社長自らが強い意志を持って、オムニチャネルを推進していかないと、社内ではなかなか受け入れられるものではありません。

筆者も、過去に所属した企業で、レガシーシステムの刷新のプロジェクトに携わりましたが、現場が現在のシステムを使い慣れているため、猛烈な反対にあい、システム導入が一向に進みませんでした。このような話は珍しいことではなく日本全国の企業でよく聞く話です。

このようにオムニチャネルは導入障壁が非常に高いことがデメリットと言えるのです。

オムニチャネル導入のポイントはフェーズ分け

オムニチャネル導入における成功のポイントは、フェーズ分けすることです。

◆オムニチャネル導入のフェーズ分けの例

フェーズ① ECと店舗のポイント連携
フェーズ② ECと店舗の在庫情報の連携
フェーズ③ ECと店舗の顧客情報の連携

このように、限定的なオムニチャネルをフェーズ分けで実施していくことです。一気にすべてのシステムを刷新しようとすると非常に工数がかかり、リリースが延期に延期を重ねて、いつまでたってもオムニチャネルが導入されないばかりか、その間に新システムが陳腐化する可能性もあるからです。

つまり、オムニチャネルはフェーズ分けを実施し、小さく早くシステムリリースしていくべきなのです。

また、ひとつのチャネルばかりに注力してしまわないように注意が必要です。例えば、オムニチャネル化によってユーザーが利便性の高いECばかり利用するようになると、店舗購入がなくなり、店舗自体が単にショールームのようなものになってしまう例もあります。

オムニチャネル導入の際には、全てのチャネルにおける影響を検討しながら、多角的な視野を持って進めていく必要があります。

まとめ

オムニチャネル導入には、企業にとってもユーザーにとっても多くのメリットがあり、成功した際の恩恵は極めて大きなものとなります。

そして、現在は多くのユーザーが、買い物の場としてAmazonや楽天市場を利用しているため、それら大手のECモールに対抗するために利便性を高めて、顧客の囲い込みを実現しなくてはなりません

しかし、オムニチャネルは基本的に中長期的な施策ですから、すぐに結果が出るものではありません。したがって、導入にあたっては経営者をしっかり説得し、全社一丸で推進する覚悟が必要となります。

当記事が、オムニチャネル導入の参考になれば幸いです。