ECの延長保証サービス

EC事業者向けの延長保証サービスとは、端的に言えば、ECサイトの商品ページに「延長保証ボタン」を実装するサービスのことであり、商品毎にメーカー保証期間の終了後の延長保証サービスを提供することを指します。延長保証サービスは主に数万円以上するような高額家電商品と相性の良いサービスです。

延長保証サービスをECサイトに組み込むことで、例えば高額な家電商品の場合、メーカー保証だけでは不安に思うユーザーに対しても、延長保証サービスがあることで、商品を購入しやすくするメリットがあるのです。 また、延長保証サービスを自前で実施しようとすると、顧客データの整理から業務フローの改善など手間がかかりますが、延長保証サービスを導入すれば、全て延長保証サービス事業者に任せられるメリットがあります。

本日は、forUSERS株式会社でマーケティングを担当している筆者が、EC事業における延長保証サービスについて詳しく解説します。

延長保証サービスを図で解説

例えば、メーカーが運営する単品ECサイトの場合は、独自に5年のメーカー保証などをつけることができますので、延長保証サービスをわざわざ申し込む必要はありません。

しかし、SKUの多い総合ECサイトであったり、メーカーや卸から仕入れをしている場合は、商品毎に延長保証サービスを導入するのは非常に手間がかかります。そこで、延長保証サービスを利用することで、保険会社との個別契約や、ユーザーとの契約などを全て代行してくれます

◆延長保証サービスの仕組み

延長保証サービスの概要図

つまり、「延長保証サービス事業者」とは保険代理店なのです。損害保険会社に変わって、商品毎に延長保証サービスを提供することが可能なサービスなのです。もし、このような契約をEC事業者と損害保険会社が直で行うと、商品数が多くシステムの組み込みや業務フローの変更に手間がかかりますが、延長保証サービス事業者が間に入ることで、延長保証サービスのシステムと業務を代行してくれるので、EC事業者は手間がかかりません。しかも、ECサイト事業者は、商品販売以外に新たな収入源を見出すことができるようになるのです。

まさに、関わる人全員がWin-Winの関係となるのです。

ECサイトに延長保証サービスを組み込むことの5つのメリット

ECサイトに延長保証サービスを導入することで、ECサイト事業者にとっても下記のようなメリットがあります。

メリット① CVRが向上する
メリット② 新しい収益源が発生する
メリット③ ECサイトの差別化要素が増える
メリット④ LTVが向上する
メリット⑤ 顧客データが集まりやすい

ひとつずつ解説してまいります。

メリット① CVRが向上する

 延長保証サービスは、高額家電と相性が良いサービスです。例えば、万円の空気清浄機をECサイトで購入する際に、ユーザーの中には以下のように思う方も相当数いるはずです。

ユーザーの気持ち

5万円もする空気清浄機がメーカー保証が切れてすぐに壊れたら不安だ!

そのような方向けに「延長保証サービス」ボタンを設置することで、「5年保証サービスがあるのか!だったら安心だ!買ってみよう」という気持ちになるユーザーがおり、CVRの向上に結び付きます。このような傾向は商品の値段が高いほど生じるため、延長保証サービスは高額商品と相性が良いのです。

下記は格安携帯電話購入時の延長保証サービスの加入者の割合です。

データ引用先:【格安スマホのiPhoneユーザー調査】23.8%が端末保証や保険に加入

格安スマホとECサイトでは状況は違いますが、格安スマホを買う方の約24%の方は、なんらかの保険に加入するそうです。格安スマホとはいっても、スマホの値段は2万~10万円以上する機種もあるので、これくらいの価格帯だとメーカー最低保証だけでは不安なユーザーも多く、このように加入者が多いのです。

そのため、商品価格が1万円以上するECサイトであれば、10%以上が延長保証サービスに加入する可能性があるはずです。

メリット② 新しい収益源が発生する

延長保証サービスを導入することで、商品の売上以外の収益を得ることができます。

例えば、5万円の商品に対して5,000円で延長保証サービスを売れば、延長保証サービスの取り分を除けば、自社に延長保証サービスの利益が入ってきます。取り分については延長保証サービスと交渉することになります。

このような利益は、年間を通じると結構大きな収益になり、また延長保証サービス分のシステム費用や業務負荷は延長保証サービスが支援するので、ECサイトの利益率に高く貢献することになります。

メリット③ ECサイトの差別化要素が増える

例えば、同じ商品を同じ価格で売るECサイトが複数あった場合、延長保証サービスがあることで、あなたのECサイトの差別化要因が増えます。延長保証サービスを提供することで以下のような気持ちの方も現れるはずでしょう。

ユーザーの気持ち

この商品は楽天市場の方が安いが、延長保証サービスがない。だから延長保証サービスにあるサイトで購入しよう

そのため、延長保証サービスを導入することは、楽天市場やAmazonなどにはない独自の付加価値にもつながるのです。

メリット④ LTVが向上する

延長保証サービスは、LTV向上にもつながります。例えば、定期的に以下のようなメールを延長保証サービスを通じて送ることができます。

◆メールの例

「ご購入したA001扇風機の状態はいかがですか?」
「購入したA001扇風機の保証期限があと一ヵ月で切れます」
「お買い上げたA001扇風機の後継機種A002との交換サービスがあります」

このようなメールによって、ECサイトに再度訪問を促したり、リピート購入を促すことで、LTV向上につなげることができるのです。特に総合ECサイトは、LTVを高めるのは大変な苦労が要ります。

しかし、延長保証サービス加入者に対しては、自然な形でメールでのアクセスが可能になるので、LTV向上に結び付きやすいのです。

メリット⑤ 顧客データが集まりやすい

通常の場合、商品購入後のユーザーデータの収集は困難です。例えば高額商品の満足度や、その後何年利用されているのかなどの商品耐用年数は、なかなかデータが溜まらないものです。しかし、延長保証サービス加入者から「商品が壊れた」「商品の部品交換をしたい」など、延長保証サービスの利用を通じて情報が集まりやすくなります

そうすると、商品の満足度やカスタマージャーニーといったデータを集めて、商品開発やマーケティングに活かすことができるようになります。

ここまで5つのメリットを解説しましたが、延長保証サービスには、EC事業者にとってもデメリットらしいデメリットは存在しません。しかし、注意点もありますので次に解説いたします。

延長保証サービスを導入する時の注意点

延長保証サービス自体は、EC業界において昔から存在するサービスです。筆者が決済代行会社の知人に聞いたところ、かつては怪しい延長保証サービスも存在したという話を聞きました。

実際にあった延長保証サービスから決済代行会社が受けた被害

某延長保証サービスの会社が、途中で連絡がつかなくなってしまった。そのため導入済みの延長保証契約においては、全て決済代行会社が保証することになった。

この話は今から10年以上前の話です。このようなことにならないためにも、延長保証サービスを導入する際は「貴社が倒産した場合どうなるのか?」といったところを明確に聞いておきましょう

また、延長保証サービスとは、カンタンに言えば「保険代理店」のようなものです。そのため損害保険保会社がどこなのかも導入前に明確にしておくべきです。損保会社が大手の場合は、ほぼ問題が無いと思って間違いないでしょう。

自社がメーカーの場合、自社で延長保証サービスを提供するのと何が異なるのか?

仮にEC事業者がメーカーであった場合、わざわざ延長保証サービスを導入する必要があるのでしょうか?

と言うのも、自社でも別のSKUをたてて「延長保証サービス」の商品を導入することができるからです。

しかし、実際に導入する際はECサイトを改修したり、あるいは保証サービスを運営するために顧客データベースを整備したり、業務フローを決める必要があるため、実はメーカーのECサイトであってもカンタンに導入することはできません。

しかし、延長保証サービスであれば、バックエンドや顧客対応は全て丸投げすることができるため、カンタンに導入することができるのです。従って、メーカーであっても延長保証サービスを導入するメリットはあるのです。

延長保証サービスに向いているEC事業者とは?

延長保証サービスに向いているEC事業者は以下のとおりです。

・家電EC
・家具・インテリアEC
・高級アパレルEC
・宝飾品EC
・ニッチ商品

この他にも、業務用機器などBtoB-ECサイトにも向いているサービスです。

このような、数万円以上する高級商材を扱うEC事業者であれば検討する価値があります。費用負担などのデメリットらしいデメリットも特にないというのも面白いサービスです。

延長保証サービスの導入方法

まず、延長保証サービス事業者選びですが、日本国内において数社しかこのサービスを実施しておりませんので、まずは、各社にアプローチしてみましょう。

◆ECサイトの延長保証サービス会社

そして、延長保証サービス事業者と話すときは以下の点などを聞きます。

・保険会社はどこか?
・仮に延長保証サービスが倒産した場合どうなるのか?
・延長保証額の割合や自社の取り分
・自社のECプラットフォームに対応しているか?
・解約後の対応はどうなるか?

延長保証サービス側はすでにシステムを持っているため、カスタマイズ的には大きな工数はかかりませんので、自社のECプラットフォームに対応しているかどうかが決め手となります。Shopifyなどカスタマイズ可能なパッケージは対応していますが、そうではない場合は対応できないケースがあります。ただし、多くの場合は「API連携」できれば解決できます

延長保証サービスの詳細や、システム的な詰めが終われば導入となります。ECプラットフォームに対応しているのであればシステム費用は数十万円程度ですが、新たに開発する場合は数百万円が基準となります。

まとめ

家電EC事業者などの高額商品を扱う場合は、ぜひ延長保証サービスを検討してみましょう。このように、関わる方の全員がWin-Winなサービスは、あまりないからです。

ただし、将来のことも考えて、延長保証サービスの解約時にどうなるのか?などは事前に業者と話しを詰めておくべきでしょう。あなたのECサイトが成功することをお祈りいたします。