ECサイト業務を外注化する前に知っておくべき注意点の解説

ECサイト運営には多くの仕事が存在し、外注化できる業務には以下のようなものがあります。

・ECのシステム導入
・ECサイトのデザイン制作
・ささげ業務(撮影、採寸、原稿)
・ECサイト運営業務
・ECサイトのマーケティング

これらの多くの業務を外注できる専門業者が存在するので、予算があればすぐに外注化できます。

しかし、外注の際に気を付けなくてはいけないのは、競争の激しいECサイト業界で勝ち続けるためには知見やノウハウが社内に必要となりますが、外注化を進めると、知見とノウハウが社内に蓄積されづらくなります。

本日は、ECサイト運営において外注化を検討している人のために、自身も多くの業務を外注化した経験のあるforUSERS株式会社でコンサルティングを担当している筆者が詳しく解説いたします。

目次

ECサイトの外注化といっても、ひとくくりにはできませんので、下記の目次ごとに解説してまいります。

①ECサイトの構築・導入の外注化
②デザインを外注化
③ささげ業務の外注化
④ECサイト運営を外注化
⑤マーケティング業務を外注化

①ECサイトの構築・導入を外注化

まず、ECサイトの新規に作る際、自社の開発チームではなく、外注を頼むのは、実は非常に良い選択です。なぜなら、ECシステムの開発というのは、他のシステムとは違うノウハウや、下記のような独自の要素が必要となるからです。

◆ECサイト開発の独自の要素(他のシステムにはない)

・会員登録
・商品ページ
・決済・カート周り
・在庫管理
・トラフィック管理

ECサイトの開発には、他のシステムにはない独自の開発要素があるのです。そのため自社内にECサイト構築経験のあるエンジニアがいないと、ECサイトに必須の機能が抜けたものができあがる可能性があるのです。

現に、筆者の知り合いの会社は、自社内でフルスクラッチでECサイトを開発したのですが、会員登録機能のないECサイトが出来上がってしまいました。その後、ECサイトの改修費用が捻出できず、会員登録機能がないまま、運用しているのです。

このようなことはよくある話なのです。そのため、ECサイトを構築する場合は、ECサイト専門の業者やベンダーが必要なのです。

開発費用は自社開発より、ASPサービスやパッケージの方が格段に安い

また、フルスクラッチだと開発費用も数千万円~数億円かかりますが、すでに多くのECベンダーから提供されているASPサービスやパッケージを利用する方が格段に安く、早くECサイトをリリースすることができます。

◆EC開発手法による費用相場等

ECサイト開発手法 費用相場 開発期間
ASPサービス 数万円~ 1ヶ月程度
パッケージ 数百万円~数千万円 3か月~
フルスクラッチ 数千万円~数億円 1年~

ECサイトの制作については、下記の記事をご覧ください。

過去記事:EC初心者が10分で理解するECサイト制作の手順と費用相場

ASPサービスでは自社固有のカスタマイズができないデメリットがありますが、業務フローをASPサービスに合わせるなどすれば、安く導入できるケースがあるのです。

筆者もかつて大手事業者でEC担当をしていた時は、大手事業者にも関わらず、月々3万円程度のASPサービスを利用しておりました。その際は、業務フローをASPサービスにあわせることで、ECサイトの運営コストを抑えた経緯があります。

また、オープンソースをベースに自社用にカスタマイズして、ECサイトを作るケースもありますが、昨今、ECサイトの情報漏洩問題の多くは、オープンソースをベースにしたECシステムであり、システムの脆弱性が問題になっており、経済産業省からも注意喚起されております。

ECサイトでのクレカ情報漏えい被害が増加、消費者庁と経済産業省が注意呼びかけ(INTERNET Watch)

このような背景から、ECサイトの導入・構築は内製化よりも、ECサイトの専門ベンダーに外注するのがベストの選択肢となります。

ただし、フルスクラッチの全てが悪いというわけではありません。例えば、ユニクロやZOZOTOWNなどの有名大手事業者のECサイトはフルスクラッチであることが多く、その理由は自社にECサイトのノウハウや専門性の高い人材がいる場合です。

このような超大手企業の場合は、より柔軟性の高いフルスクラッチのECサイトの方が自分達の実現したい施策を短い期間で実装することが可能になります。また、社内に開発体制が充実していれば、開発スピードが速いのも内製化のメリットとなります。

②ECサイトのデザインを外注化

ECサイトのデザインを外注化する時は、なるべくECサイトのノウハウや実績が多いデザイン会社に依頼すべきです。なぜなら、ECサイトのデザインは下記の違いについてしっかり理解する必要があります。

◆かっこいいデザインと売れるデザインは異なる!

かっこいいECサイトのデザイン ≠ 売れるECサイトのデザイン

つまり、デザイン性が高いECサイトは、必ずしも売れるECサイトではないのです。売るためのECサイトのデザインとは、

◆ECサイトのデザインに必要な要件

・TOPページを見ただけで新規ユーザーが何屋か理解できる
・カテゴリー分けが適切
・商品名にユーザーの悩みが記載されている
・ECサイトの使い方が、デザインから直観的に理解できる

このような要素が必要になるのです。つまり、ECサイトの経験があるデザイナーと、そうではないデザイナーとでは、売上に相当な差が出てくるのです。

筆者も過去に英会話教材のECサイトを、ECサイト経験のない制作会社に外注しましたが、全く売れないECサイトが出来上がりました。

そのサイトは非常に洗練されたデザインで、TOPページが見たことない動きをするので、ユーザーがどのようにECサイトを利用していいのわからず、戸惑ってしまったのです。ですからデザインを外注化する際は、デザイン力よりも、ECサイトのデザイン経験の有無が非常に重要なのです。

もし、ECサイトのシステムが有名なASPサービスを使っている場合なら、必ずそのASP専属のデザイン会社が存在しますので、ASPサービスに問い合わせて、そのASPサービス専属のデザイン会社に外注化を依頼しましょう。

③ささげ業務の外注化

ささげとは、以下の業務の頭文字をとって

・撮影(つえい)
・採寸(いすん)
・原稿(んこう)

これらの業務を略称で「ささげ」業務と言います。特に写真のクオリティが売上に直結するアパレル事業者に重要な業務です。もし、ささげ業務について詳しく知りたい場合は、下記の記事をご覧ください。

過去記事:ささげ業務とは「撮影・採寸・原稿」の頭文字の略称

ECサイトの商品点数が莫大にある企業であれば、自社内で「ささげ業務」をまかなうのは大変な負担なので、外注化を前提にECサイトを運営するケースも多いでしょう。費用相場は下記のECのミカタの記事では、下記のように書かれていたので引用します。

代行サービスの料金相場
ささげ業務代行サービスの場合、1つの商品あたり撮影で約1,500円、採寸で約500円、原稿制作で約500円の費用がかかります。
それに加えて、モデルを起用した撮影や遠方での撮影をする際は別途追加料金が発生する為、商品のジャンルや単価によっては、割高になってしまう可能性があります。

引用先:ささげ業務とは? 効率化する方法から料金相場を解説

つまり、1商品あたり2,500円程度で外注することができます。ささげ業務を外注化する場合に関しては、外注先から上がってくる、写真や原稿をしっかり担当者がチェックして品質を確かめる必要があります。

ささげ業務代行業者は、プロのカメラマンを使っているので写真のクオリティは外注の場合、悪くはないはずですが、原稿に関してはレギュレーションをしっかり自分達で事前に決めておかないといけません。

◆ささげ業務のチェックポイント

・写真は魅力的か?
・写真は細部まで撮影されているか?
・原稿はありきたりの文章ではないか?
・原稿は商品の魅力が訴えられているか?

ささげ業務において、一品、一品においてはこのような工夫は差が小さいのですが、何百・何千という商品に、売るための撮影、売るための原稿になっていないと、年間を通じて売上に大きな差が生じます。クオリティチェックを担当者が目を光らせておく必要があります。

また、代行業者をつかわずに内製化する場合においも、写真はECサイトの売上を決める大きな要素ですから、プロのカメラマンを使って撮影するようにしておきましょう。原稿に関しては、内製にしろ、外注にしろレギュレーションを決めて、全体的に品質を高める工夫が必要となります。

④ECサイト運営を外注化

ECサイトの運営代行とは、下記のような業務です。

・商品登録業務
・受発注業務
・在庫管理
・配送業務
・顧客対応・フォロー

ECサイト運営代行業者によっては、先に紹介した「ささげ業務」から、次に紹介する「マーケティング」まで代行できますが、ここではそれらの業務を除いて解説します。

ECサイト運営業務とは実店舗で言えば、ECサイト運営とはお店を運営するスタッフのようなもので、ECサイトの運営を担当する業務です。この運営業務を代行することで、ECサイト運営会社はECサイトのマーケティングに専念したり、あるいは本業(ECサイト以外に本業がある場合)に専念することができます。

ただし、外注化の最大のデメリットはECサイトの知見やノウハウを社内に蓄積できないことです。EC事業を本気で行っていくなら、自社内にECの知見やノウハウを蓄積する必要があります。

なぜなら、コロナ禍を経てあらゆる業種がECやオンライン事業に乗り出している中、ECサイトの市場はレッドオーシャンになりつつあります。その中で、自社内に知見やノウハウがなければ勝つことができません。

ECサイト運営を「片手間」あるいは「とりあえず」と考える事業者であれば、外注化も良いのですが、本気で事業を行うには向いていません。

ECサイトの運営代行の形態には

◆ECサイトの運営代行形態

①運営重視型
②成果重視型

があり、運営重視となると、あくまでオペレーション代行という要素が強く、成果重視型となると、サイトのデザインやマーケティング施策も実施して、成果報酬体系となります。

⑤マーケティング業務を外注化

マーケティング業務の外注化は、

・Googleショッピング広告などの代行
・Google広告、Yahoo広告の代行
・メルマガやSNS施策の代行
・LPやサイトのデザイン製作

など、広告を含めたマーケティング業務全般のことです。先に紹介したECサイトの運営代行が実施するケースもありますが、広告代理店やEC専門のコンサルティング業者が代行するケースがメインとなります。

また昨今では「カスタマーサクセス」が担当することもあり、ECサイトのプラットフォーム事業者が、プラットフォームの提供だけでなく、ECサイトのノウハウのある専門の人材をカスタマーサクセスにアサインして、ECサイトのマーケティングを代行するケースもあります。

ECサイトのマーケティング代行のデメリットは、ECサイト運営業務の代行と同じで、社内で知見やノウハウを蓄積しづらい点です。このデメリットを補完するために、アパレルの大手企業では、代行依頼していた人材をスカウトして、そのまま内製化するケースも多々あります。

ECに関わらずマーケティング業務のノウハウを持つ人材は枯渇しており、外注先の人材をスカウトするケースは珍しくありません。

外注化の目的を明確にしよう!

外注化には以下のようなメリットとデメリットがあります。

◆メリット

自社の運営負荷を抑えられる

◆デメリット

自社内にECサイトの知見やノウハウが蓄積されづらい</div
これらを踏まえて、外注化を行う際は、目的を明確にするべきです。つまりあくまで運営重視でいくのであれば、例えば、積極的に外注するべきですし、売上を上げることを明確にするならば、最初は外注を入れて、ノウハウを共有してもらいながら、内製化を目指すとい道もあります。目的がはっきりしていれば、外注化を最適にすることができますよ。