受注残管理はECサイトではなく基幹システムで行うべき理由

受注残管理とはBtoBで使われる言葉で、例えば、得意先から100個の商品注文があった際に、倉庫に70個しか在庫がなければ、まず70個分を納品し、残り30個の受注残分を新たに仕入れて後日納品(分納)しますが、この後日に分納する商品、または商品の数量を指す言葉です。ECサイト側では受注残管理は通常行いません。

受注残管理はBtoCではなく、注文数の多いメーカーや卸売り事業者で使われます。平たく言えば、受注残管理とは注文数の管理なので、ECサイトへの実装も考えている方が多いかもしれませんが、筆者の知る限り、受注残管理をECサイトに実装した企業を聞いたことはありません。

なぜなら、受注残管理をEC側で行おうとすると、ECサイトは在庫管理だけでなく受注明細データも必要となり、非常に複雑になります。また通常、受注残管理は基幹システムで行われているため、ECサイトで無理に実装するとコストが莫大になるからです。

本日は、forUSERS株式会社でコンサルティングをしている筆者が、ECサイトにおける受注残管理について詳しく解説いたします。

受注残管理は顧客との信頼関係をつなぎとめておくために重要な仕事

まず、受注残管理に基づいた発注から完納までのイメージは、下記のようなイメージになります。

◆受注残管理に基づいた納品の流れ

受注残管理に基づく納品のイメージ

「受注残管理を何のために行うのか」というのは、単に受注した内の未発送分を管理するものではありません。顧客と信頼関係を醸成するために必要なものなのです。例えば、複数の取引先から在庫が十分にない商品の受注が入った時に、受注残管理を行っていれば、

担当者「今は在庫がありませんが、○○日後には発送できます」

という具合に、在庫の欠品を詫びるとともに信頼をつなぎとめておくことができます。しかし、受注残管理がいい加減だと、発送の日付を明確に伝えることができない、あるいは先にインフォメーションした日付になっても未配送のままで、顧客からは「この会社は信用できない!もう発注しない!」ということになりかねません。

このように受注残管理とは、在庫管理と同様に取引先の信頼をつなぎとめておくために非常に重要なプロセスなのです。

受注残管理が発生するフロー

まず、ECサイトの取引において受注残管理が発生するフローをまとめてみました。ここでは100個の注文が発生し、完全に納品が終わるまでの業務フローをまとめます。

◆受注残管理が発生する業務フロー

① 発注側が100個の注文を行う
② ECサイト側が注文を確認し、70個しか在庫がないことがわかった
③ ECサイト側の営業が取引先に連絡「残り30個を分納してもよいですか?」
④ 取引先了承後、70個を出荷指示、30個を生産指示を出す、ECサイトのステータスは発送中になる
⑤ 在庫は0になり、受注残は30個となる
⑥ 生産完了。在庫が30個となる。
⑦ 30個を出荷、在庫が0となる
⑧ 30個を納品、受注残も0となる
⑨ ECサイトのステータスが発送済みとなる

時系列にまとめるとわかりやすかったと思います。ここでのポイントは、ECサイトは受注残を管理していないので、注文が発生して納品が完全に終わるまではステータスが「発送中」のままであることです。

なぜなら、多くのBtoB事業者はECサイトでは受注残管理を行っておらず、受注残管理は営業が手作業で管理するか、あるいは基幹システム側で管理していることがほとんどだからです。

ECサイトでは在庫管理を行うが受注残管理を行わない理由

ECサイトで在庫引当などを行って在庫連携をしますが、受注残管理まで行ってしまうと、もはやECサイトの枠を逸脱してしまう面があります。

なぜなら受注残管理とは、メーカーの場合は受注残分の生産指示を行いますが、そこまでECサイトと連携してしまうと、生産管理や生産指示の機能をECサイトが持つために非常に複雑なものになるだけでなく、システムの領域があいまいになります。

そして、そのように複雑なシステムは、リリースすると上手く機能しないことが多々あります。例えば、ECサイトに予約管理システムの機能を搭載したり、あるいはオークション機能を実装するようなもので、非常に複雑です。

受注残管理機能は、それが得意なシステムや元々その機能を実装している基幹システムや生産管理システムで実装すべきで、ECサイトの場合は、ECが得意なエリアに集中させるべきです。

筆者の知る範囲ですが、パッケージやSaaSのBtoB向けECサイトで受注残管理までを標準機能で実装しているベンダーを知りませんので、このような機能はわざわざECサイト側で実装すべきではありません。

トラブルを防ぐために在庫管理と受注残管理の両方を念頭に!

ECサイトでは、複数の取引先がアクセスします。ときには同じ商品を同じタイミングで発注することもあるでしょう。そうなると在庫管理を徹底して、受注時に在庫引当を行うだけではなく、受注残管理も念頭にいれなくてはなりません。

受注残が発生した時に、取引先が複数の場合は受注残管理も意識しないと大変なことになります。例えば、A社には「在庫がないので、生産に1ヵ月かかります」と言い、別な担当者がB社に同様のことを言った場合、蓋を開けてみると、生産能力を超えての受注が発生し、取引先に納期通りに注文できない事態になるからです。

受注残の分納分が月をまたいだ時は請求や売上はどうすべきか?

もし、下記のように受注残が発生して、分納が発生したとしましょう。

7月に100個注文

7月に70個納品
8月に受注残分の30個納品

そうすると、発注側にとっては請求、受注側にとっては売上をどのタイミングで上げるべきでしょうか?

この場合、請求も売上も8月分として扱われます。

これは、商品ではなくソフトウェアの開発で考えるとわかりやすいのですが、仮に7月に開発開始したものが8月に終了した場合は、開発費を分けたりすることはありません。通常は納品時点で開発費を支払います。それと同じで、受注残が発生した時も請求のタイミングは納品が終わり検収書が届いたタイミングとなるのです。

もし、発注側に「最初の70個だけの請求を7月分として立てたい!」と言われた場合は、ECサイト側の担当者は、「それでは注文を2回に分けてください」と案内することになります。

受注残が次年度(来年度)に繰り越してしまう場合の売上は?

ちなみに受注残が次年度に繰り越してしまえば、その売り上げは「繰越受注残」となり来期の売上となります。つまり、納品が完了しない限り会計上は売上になりません。

受注残の多い会社は株価が上がる?その理由とは?

一概には言えませんが、受注残が多い状態は株価が上がりやすいと言われております。なぜなら今後売上が上がることが明白であるからであり、納品のタイミングで売上が計上されるからです。

受注高 = 将来入ってくる金額
売上高 = 手元に入ってくる金額

とはいえ、それはあくまで株価の話で、受注残ばかりが増えているといつまでたっても売上が入ってきません。昨今、世界的な半導体不足により在庫が枯渇している状態であり、半導体業界では驚異的な受注残となっているのです。2024年現在では、半導体不足は緩和されてきていますが、来年以降も影響が残るとされています。

参考記事:半導体装置の受注残2.8倍で過去最高、増える需要に追いつかぬ生産

半導体関連各社は受注残を減らすために、相当な努力をしているのです。

まとめ

ECサイトにおける受注残管理は、基幹システム側で実施し、ECサイトには実装させない方が良いでしょう。もし、これからECサイトのリニューアルを考えている場合は、要件定義から受注残管理をスコープから外して、ECサイトの主要機能の開発に特化すべきです。

受注残管理は、顧客の信頼関係をつなぎとめておくために非常に重要なものです。適切なシステムを使って受注残を管理しましょう。