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2022年のイギリスのEC市場規模は1,916億USドル(約25.1兆円)で、中国、アメリカに次いで世界3位のシェアを持っています。また、2023年のEC化率においては30.6%と予測されており、世界トップクラスのEC化率を誇るEC先進国です。

イギリスのEC市場は、もともとのインターネットやモバイルデバイスの普及率の高さや、コロナ禍を追い風にした高齢者のデジタルシフトにより、今後の成長が期待できる材料を持っている一方で、先ごろのEU離脱や、ウクライナ情勢に伴うエネルギーや物価の高騰による国内の不安定な状況から、先行きが不透明な市場でもあります。

本記事では、forUSERS株式会社でコンサルをしている筆者が、イギリスのEC市場について筆者の考察も踏まえて詳しく解説いたします。

イギリスのEC市場の概況

まずは、イギリスのEC市場の概況について解説いたします。

イギリスのEC市場シェアは世界3位

下記のグラフをご覧ください。経済産業省の報告による、2022年の世界における各国BtoC-EC市場の占める割合のグラフですが、イギリスのEC市場規模は、世界においてもシェア率が高く、中国、アメリカに次ぐ世界3位のシェアを誇ります。

2022年の国別EC市場シェア

国別EC市場シェア(2022年)

グラフ引用元:令和4年度 電子商取引に関する市場調査報告書(経済産業省)

イギリスの2022年のEC市場規模は1,916億USドル(約25.1兆円※)でした。1、2位の中国とアメリカが抜きん出ており、2国だけで市場の7割近くを占めているためイギリスのシェアは小さいように見えてしまいますが、6,750万人(2022年時点)というイギリスの人口規模から考えると、いかにイギリスのEC利用率が高いかがわかります。

このことを裏付けるのが、イギリスのEC化率です。

※1ドル=131円換算

2023年のイギリスのEC化率予測は30.6%

下記の表は、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)による、2023年の主要国のBtoC-EC市場規模とEC化率の予測値を示したものです。

◆2023年の主要国(上位5カ国)のEC市場規模とEC化率の予測値(10億ドル、%

国・地域名 EC小売市場規模
(2022年)
EC小売市場規模
(2023年予測値)
EC化率
(2023年予測値)
中国 2,799.7 3,023.6 46.9
アメリカ 1,042.7 1,163.4 15.8
イギリス 191.6 195.9 30.6
日本 181.6 193.4 13.7
韓国 133.3 147.4 29.9

データ引用元:日本貿易振興機構越境ECの流れと全体像、取り組むための準備」「海外向けEC利用に対する意欲は衰えず」より筆者作成

2023年のイギリスのEC化率は30.6%と予測されています。市場規模2位アメリカと倍ほどの差をつけています。この世界トップクラスのEC化率の高さこそが、イギリスを「EC先進国」と言わしめる理由となっています。

イギリスEC市場のヨーロッパ全体におけるシェアは34.5%

少し古いデータですが、下記は2016年度のヨーロッパのおける上位10カ国のBtoC-EC市場シェアを示すグラフです。

◆ヨーロッパのBtoC-EC市場における各国シェア

ヨーロッパ圏のEC市場

データ引用元:eコマースヨーロッパBrexit最新情報:英国のeコマース中小企業の視点(Ecommerce Europe)より筆者作成

世界市場シェア3位のイギリスEC市場は、ヨーロッパ圏においても当然ながらトップシェアを誇り、34.5%ものシェアを占めるヨーロッパ最大のEC大国でもあります。

2020年の国別の売上高は

1位 イギリス 2,360億ユーロ
2位 フランス 1,120億ユーロ
3位 ドイツ 936億ユーロ
4位 スペイン 684億ユーロ

となっており、トップのイギリスは2位のフランスに倍以上の売上差をつけております。

このように、イギリスは世界トップクラスのEC先進国ではありますが、実は今後も堅調な勢いで成長するだろうとは言い切れないのが現状です。

EC先進国ではあるが成長は鈍化

下記は、主要国のEC化率の推移と今後の予測のグラフです。

◆各国EC化率の推移予測(推計値)

世界のEC化率の推移予測

グラフ引用元:海外市場の成長がECの積極的活用を後押し(世界、日本)(日本貿易振興機構)

このグラフを見ると、2019年〜2020年の、おそらくコロナ禍の影響によって各国ともEC化率を大きく伸ばし、特にイギリスは最も伸長が見られましたが、2021年以降も他国が比較的堅調に推移する中で、イギリスはほぼ横ばいに推移しており、今後の予想においても40%を超えず微増の予測値となっています。

実際、今後のEC市場については現在の世界情勢から予測が難しいのですが、ウクライナ情勢や物価高騰の影響により、EC市場においても厳しい状況が続くのではないかと筆者は考えます。

EC利用が進んでいる3つの要因

EC化率36%のEC先進国であるイギリスですが、ここまでEC利用が進んでいる要因について、主に下記の3つが挙げられます。

インターネットの普及

イギリスでは、2000年に入ってから急速にインターネットが普及し、2020年には普及率が94%を超えています。下記グラフはイギリスにおけるインターネットの普及率推移です。

◆イギリスのインターネット普及率の推移

イギリスのインターネット普及推移

データ引用元:ITU – ICT Statisticsより筆者作成

さらに、スマートフォンの利用率は95.9%(2021年)にのぼり、ほぼ全ての人がインターネットを利用できる環境にあると言えます。この数値が示す通り、国全体のデジタル化が進んでいることがEC利用率の高さにもつながっていると考えられます。

公用語が英語のため越境ECのハードルが低い

イギリスは公用語が英語であることから、越境ECにおける言語のハードルが低いため、越境ECが盛んに行われています。下記記事によると、2016年のイギリスの越境EC市場規模は67億ポンド(約1兆96億円)で、世界5位の市場規模とされております。

参考:イギリスの越境EC、Eコマース事情

イギリスのユーザーが英語圏の他国ECサイトで購入したり、イギリス企業のECサイトを英語圏の国のユーザーが利用することも多く、国をまたいだECの利用が盛んに行われていることも、イギリスのEC利用率が高い要因のひとつでしょう。

食品分野のEC利用率が高い

食品、特に生鮮食品などは、商品の性質上オンラインでの購入は避けられ、店舗での購入率が高い傾向にあります。これは日本も例外ではありません。

しかし、イギリスでは食品のEC利用が比較的進んでおり、下記記事によると、オンラインの生鮮食品ショッピングの変化する状況に関する調査結果において、42%のユーザーが実店舗よりもオンラインでの購入が多いと回答しているとのことです。

参考:イギリス、食料品オンラインショッピングで欧州を牽引(コロナ前の調査)(eコマースコンバージョンラボ)

コロナ禍の影響により、多くの国で食品購入のオンラインシフトが進みましたが、上記の調査はコロナ禍前に行われた調査データであることから、他国より早くから食品ECの利用が活発に行われてきたと推測できます。

他産業に比べてEC化率が低い食品分野においてEC利用が進んでいることは、総じてイギリスのEC化率の高さにつながっていると考えられます。

人気ECサイト3選

それではここで、イギリスで人気の高い3つのECサイトについて紹介いたします。

① Amazon UK

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amazon.co.uk

世界21カ国にサイトを展開するAmazonは、アメリカや日本でも最も利用されているECサイトですが、イギリスでも利用率トップのECサイトです。音楽CDやDVDなどエンタメ系コンテンツの商品が、アメリカや日本より安く買えるなどの特徴があります。

Amazon UKは、もともとAmazonがイギリス最大手のオンライン書店を買収し、それを基盤にAmazon UKを立ち上げ、これがAmazonの欧州進出のきっかけとなったのです。

② Tesco

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TESCO

TESCO(テスコ)は、イギリスに本拠地を置き、世界13カ国に店舗展開するスーパーマーケットチェーンです。衣料品や食料品をはじめ、金融、電気通信、ガソリンスタンドや通信販売など多方面に事業を広げている5大世界流通大手のひとつです。

TESCOのネットスーパーは、イギリス全土に張りめぐらされたネットワークを活用した迅速な物流体制を敷いており、従業員が速やかに店内で商品をピックングして、専用の配送車で運びます。同社のネットスーパーは、イギリス国内の9割以上のエリアをカバーしているとされています。

日本には2003年に進出し、100店舗を超える展開をしてきましたが、2013年に撤退しています。

③ Argos

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Argos

Argos(アルゴス)は老舗のカタログ小売店で、家電、家具、日用品、スポーツ用品、おもちゃ、美容用品、ジュエリーなど、あらゆるジャンルの品物を取り扱っています。特に日用品やエンターテインメント商品に強いことが特徴です。

アルゴスもテスコ同様に物流に強みを持ち、翌日・即日配送に対応し、店舗では60秒以内にピックアップができるサービスが人気となっています。

EU離脱が及ぼす影響は?

本記事のイギリスのEC市場の概況において述べましたが、EC市場の成長は、21年以降ほぼ横ばいの傾向が見られます。筆者はこれについて、イギリスのEU離脱が少なからず影響しているのではないかと考えております。

2020年12月31日をもって、イギリスがEU(欧州連合)から離脱しましたが、以後イギリスからEU圏への発送には関税がかかるようになり、逆にEUからイギリスへの輸入に関税はかかりませんが、原産地証明書類の提出などの通関手続きが企業の負担になっており、越境ECにおいて影響が出てくると考えられます。

実際、離脱による経済的損失は大きく、下記記事によると、様々な影響による損失額は約16兆円と試算されています。特に人手不足は深刻になっており、ガソリンや物価の高騰も相まって物流に影響が出てきているため、越境ECだけでなく国内ECにとっても大きな懸念事項となっています。

参考:EU離脱でイギリス経済の損失は約16兆円の試算(東洋経済オンライン)英経済に人手不足の重荷 物流混乱、物価も上昇(日本経済新聞)

今後の成長材料もありながら先行きは不透明

イギリスは世界3位のEC大国として高いEC化率を誇ります。その要因は、早くからインターネットが普及しており、キャッシュレス決済も日常的に利用されてきたことから、EC利用が進みやすい土壌ができていたことにあります。

また、コロナ禍の経済活動の変化により、特に食品市場において65歳以上の高齢者のEC利用が広がったこともあり、他分野での高齢者のEC利用も高まることで、今後のEC市場の成長材料として伸長が期待されます。

参考:コロナウィルスによるイギリス食料品EC市場の動き(ECのミカタ)

しかし、昨今のEU離脱をはじめ、燃料や物価の著しい高騰、深刻な労働力不足など、イギリス国内は現状として不安定な状況にあるためEC市場の予測は難しく、今後の推移の注視が必要でしょう。