ユニクロオムニチャネル施策

これから事業でオムニチャネルの実践を考えている企業は、ベンチマークすべき取り組みを探しているのではないでしょうか?そのような場合、ユニクロのオムニチャネルの取り組みは非常に参考になります。

ユニクロでは、店舗を起点としてECサイト(アプリ)への誘導を積極的に行い、アプリ利用者を増やすことで、オムニチャネル施策の拡大を行い、利益を追求しています。ですから、いまから自社でオムニチャネル施策を実施する上では、ぜひベンチマークするべき企業と言えます。

しかし、ユニクロのオムニチャネルの根底にあるのは売上や利益の増加ではありません。そこには顧客中心のマーケティングの実践があるのです。

本日はforUSERS株式会社でマーケティングを担当している筆者が、ユニクロのオムニチャネル事例を解説いたします。

ユニクロの7つのオムニチャネル戦略

それでは、ユニクロの7つのオムニチャネル戦略について詳しく解説します。

戦略① 店舗からECサイト(アプリ)への積極的な誘導
戦略② ECサイトで買った商品を店舗で受け取ることができる
戦略③ EC購入の返品が店舗でも可能
戦略④ 利便性の高いECサイト
戦略⑤ ユニクロアプリでバーコードスキャン
戦略⑥ Instagramでの情報発信
戦略⑦ ECサイトの「気づき」を商品開発に取り入れている

※本記事では、ユニクロの公式オンラインストアおよび公式Instagramアカウントより画像を引用しています。

戦略① 店舗からECサイト(アプリ)への積極的な誘導

ユニクロの店舗に行くと、WEB限定カラーやWEB限定商品の案内が多数あり、店舗からECサイトへの誘導が強めに行われています。ユニクロのような全国に800店舗もある巨大チェーン店ともなると、ある程度の規模の街やショッピングモールであればどこに行っても店舗があり、リアルの利便性が高いため、ECサイトで購入するモチベーションをユーザーに持たせるのは難しい面があります。

そのため、あえて一部のカラーやサイズをECサイトでしか取り扱わなかったり、WEB限定商品を展開するなどして、ユーザーにECサイトの利用を促します。

◆店舗におけるECサイトへの誘導

ユニクロ店舗のEC誘導

あるいは以下のように、アプリダウンロードと新規会員登録で500円のクーポンをつけるといった施策も行なっております。

◆クーポンによりアプリダウンロードを促す

ユニクロ500円クーポンプレゼント

なぜこのようにECサイトの利用を促すのかというと、アプリやECサイトに会員登録させることでユーザーの個人情報や購入データをとることができ、マーケティング施策のデータが蓄積できるからです。

何より、アプリをユーザーに入れてもらうことで、店舗のキャンペーンやセール、新製品情報もPUSHできることになり、店舗からアプリに誘導した結果、最終的にはアプリから店舗への誘導にもつながる大きなメリットがあるのです。

戦略② ECサイトで買った商品を店舗で受け取ることができる

ユニクロの決算資料によると、面白いデータがあります。

◆「店舗のみ」と「ECのみ」の「併用」の3種を比較した繰り返し購入データ

店舗とECと併用の繰り返し購入金額と回数のデータ

画像引用:2019年8月期 期末決算説明会資料(株式会社ファーストリテイリング)

このデータによると、店舗とECサイトの両方を利用した人の年間購入額が最も大きくなるのです。そのため、ユニクロの戦略は下記のようになります。

◆ユニクロの戦略

① 店舗を起点にアプリやECの利用を促進
② ECサイトで購入するキッカケを作る
② ECサイトで購入した商品の店舗受取を促す

店舗受取は、ECサイトで商品を購入する際に送料無料を訴求することで積極的にユーザーが店舗に足を運ぶように誘導しています。

◆ECサイトのカートページ

ユニクロの店舗受取訴求(カートページ)

その結果、ユーザーが店舗で商品を受け取るついでに、さらに店舗で商品を購入するクロスセルにつながるのです。まさにオムニチャネルの実践により売上を高めている成功事例と言えます。

戦略③ ECサイトで買った商品の返品が店舗でも可能

もともとアパレル商品は、ECサイトと相性が良いものではありません。なぜなら衣服は実物を鏡で合わせてみたり、試着をしてサイズを確認するのですが、ECサイトでは実物を確認することができないため、サイズ感がどうしてもわかりにくくなります。

そのためアパレルのECサイトでは「返品のしやすさ」がひとつの重要なポイントとなります。なぜなら返品がしやすければ、サイズ感の不安から購入をためらうことなく、より気軽にECサイトでの買い物が可能になるからです。

ユニクロでは、ECサイトで買った商品を全国どの店舗でも返品することができるため、郵送が面倒という方にとっても返品のハードルが低くなっています。また、この店舗返品も考え方を変えればユーザーへの店舗誘導とも見えます。店舗での返品を受け付けることで、売上を高めることができるのです。

つまり、これもオムニチャネルによって利便性を高めることで売上を高める施策のひとつとなっているのです。

戦略④ 利便性の高いECサイト

下記はスマホの画面です。これを見ると、商品寸法が非常に細かく表記してあり、また寸法別のモデル着用写真も確認できるなど、詳細にサイズ感を把握しやすくなっています。特に、過去に自分が購入した商品との比較ができる点は、ECサイトで蓄積されたユーザーデータをうまく活用した好例でしょう。

◆ユニクロの詳細なサイズガイド

ユニクロのサイズガイド

また実際に服をその場で着ることができなくても、ユニクロ独自のサイズガイド機能である「My Size ASSIST」を見ることで、色々なスタイリングの参考にすることができます。

◆ユニクロのECサイトに設置されているMy Size ASSIST

ユニクロのMySizeASSIST

My Size ASSISTには、身体寸法のアンケートに答える方法と、カメラで自分の体形を撮影する方法の2種類があり、カメラ撮影が面倒な場合でもアンケートで対応している点と、より自分に合ったサイズ感をしっかりみたい人は、カメラで行うという2つの方法に対応している点が、幅広いユーザーに対応しようという意図が感じられます。

このように、客観的あるいは主観的なあらゆる数値データにより詳細にサイズ感を把握できる仕様は、すべてのユーザーに対して可能な限りサイズの悩みを払拭してあげたいという熱意が感じられます。

戦略⑤ ユニクロアプリでバーコードスキャン

ユニクロの店舗で、商品値札のバーコードからECサイトの商品ページで在庫の確認などを行うことができます。もし、欲しいサイズや欲しいカラーがなければ、アプリを使って店舗やECサイトでの在庫を確認することができるのです。

◆ユニクロ店舗で値札のバーコードをスキャン

ユニクロ商品の値札

実際に筆者も、店舗でアプリを使ってバーコードをスキャンしてみました。

ユニクロアプリによるバーコードスキャン

このように瞬時に商品ページに遷移し、そこでは在庫のほかにも商品レビューやスタイリングを参考にすることができます。

口コミやスタイリング例など、店舗では知り得ない情報をEC連携によってすぐさま補完できる点は、まさにリアルとデジタルが融合した面白い取り組みです。

戦略⑥ Instagramでの情報発信

オムニチャネル戦略において、SNS戦略を欠かすことはできません。ユニクロは、Instagramにおいても店舗やECの利用を促進しております。以下はユニクロのInstagram公式アカウントです。

◆ユニクロのInstagram公式アカウント

ユニクロInstagramアカウント

ユニクロ公式サイトのような「ブランドや世界観」を前面に出したようなInstagramではなく、着回し術や売れ筋ランキングなど、むしろ気軽にユニクロを利用してもらえるような世界観になっております。例えば、以下のように「スタッフが買ってよかったユニクロの服」などの特集など、親しみやすく、かつ実用性の高い投稿が多いのが特徴です。

◆Instagramの親しみやすい投稿

ユニクロのInstagram投稿

ユニクロは若者からシニアまで幅広い層が利用しており、またInstagramも幅広い層が利用しております。そのため、あえて「ブランドの世界観」を前面に出さずに、オムニチャネルを促進するような「店舗」や「EC」の利用を促進した投稿となっているのが特徴です。

参考:ユニクロ公式アカウント(@uniqlo_jp)

戦略⑦ ECサイトの「気づき」を商品開発に取り入れている

下記の、ユニクロ(株式会社ファーストリテイリング)が公開しているデータをご覧ください。

◆株式会社ファーストリテイリングの2019年決算資料

ユニクロの決算資料2021年

画像引用:2019年8月期 期末決算説明会資料(株式会社ファーストリテイリング)

この資料では、お買い物アシスタントのチャットを使って顧客の悩みを吸い上げてデータ化し、自社の商品作りに活かしていることを表したものです。例えば以下の通りです。

◆新製品「スフレヤーンニット」が生まれた背景

ユーザーの声「ニットでチクチクするのが嫌だ」

このように、「ニットの着心地」に関する多くのユーザーの声を集めて作られたのがスフレヤーンニットであり、毛先が肌に当たりにくく、チクチクしないニットとなっているのです。

当該商品は、ユーザーの声から作られた商品だけに発売後の評判も良く、実際に筆者自身も商品を購入しました。スフレヤーン素材のニット製品は本当に着心地が良く筆者もおススメしますので、ぜひ試してみてください。

このように、メールのような手段ではなくECサイトにチャットを実装することで、今までよりも多くのユーザーの声が集まりやすくなり、新しい商品開発や既存商品の改善に活かされております。

このようにユニクロでは、顧客中心のモノ作りのためにオムニチャネル施策が見事に実践されているのです。

商品中心のマーケティングから顧客中心のマーケティングへ

オムニチャネル施策と言うと、チャネルを増やして売上を増やすことが本質と捉えがちですが、そうではなく、商品中心のマーケティングから顧客中心のマーケティングに移行する必要があります。

なぜなら、現代はモノや情報にあふれており、商品自体で差別化が難しくなってきております。そのため、顧客中心のマーケティングに移行するためにオムニチャネル施策は小売では欠かせない施策となっているのです。

また、ユニクロではモノにあふれる現在でも、独創的な商品をマーケットに送ることで「商品の差別化」を実施し続けておりますが、その根底にあるのは、顧客の声をしっかり聞いた上での顧客の課題解決の追求であり、それこそを経営戦略の主題としているのです。

まとめ

オムニチャネル施策の実施においては、安易に売上の拡大を目指すのではなく、顧客の利便性を高めることによる、UX(ユーザーエキスペリエンス)の向上を一番に考えましょう。

まず、オムニチャネル施策を実施する前に、自社の現状を把握し顧客の声を聞いてみてください。もし、顧客の声が集まっていないのであれば、丁寧に顧客の声を集めることから始めましょう。顧客の声が聞こえてくればニーズが明らかになり、自社としてやるべきことが明確になります。

そして、顧客中心のマーケティングを実践するために、オムニチャネル基盤の構築をしてみましょう。