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2022年の韓国EC市場の市場規模は1,333億USドル(約17.5兆円※)で、世界では日本に次ぐ5位の市場シェアを持っております。さらに2021年のEC化率は29.0%、2023年の予想EC化率は29.9%と高いEC利用率を誇るEC大国ですが、このようにEC利用が進んでいる現在の韓国の市場には3つの特徴があります。

① 大手ECモールと専門ECサイトによる2軸の市場
② ライブコマースがマーケティングのトレンド
③ 各ECサイトが独自のサービスを展開

また国民のインターネット利用率やスマートフォンの所有率はほぼ100%にのぼり、キャシュレス文化も浸透していることから、EC利用の土壌は広く醸成されているため、今後も大きな成長が期待できる市場です。

本日は、forUSERS株式会社でコンサルをしている筆者が、韓国のEC市場について詳しく解説いたします。

※1ドル=131円換算

韓国EC市場規模とEC化率

まず、韓国のEC市場の概況について解説します。下記は、経済産業省のレポートより引用した、2022年の世界における各国のBtoC-EC市場が占める割合を表したグラフです。

◆2022年の国別EC市場シェア

国別EC市場シェア(2022年)

グラフが示すとおり、韓国は日本に次いで世界5位のEC市場規模を持っています。世界に占めるシェアは2.5%と比較的小さく見えますが、韓国の人口規模(5,163万 / 2022年、韓国統計庁)から考えると、韓国も十分にEC利用が進んでいるEC大国と言えるでしょう。

1位中国と2位アメリカの市場占有率が圧倒的なので、上位2カ国については今後もしばらくは揺るがないでしょうが、イギリス以下の市場についてはシェア率にそれほど大きな差はなく、近い将来の順位変動も考えられます

特に韓国は、後述しますがインターネットやスマートフォンの普及率が極めて高く、昨今のデジタル成長度から考えると日本やイギリスを超える市場となると予想することも難しくはありません。

グラフ引用元:令和4年度 電子商取引に関する市場調査報告書(経済産業省)

韓国のEC化率は2023年には29.9%と予測

下記は世界におけるEC市場規模上位5カ国の市場規模とEC化率の表です。2022年の韓国のBtoC-EC市場規模は1,333億USドル(約17.5兆円※)でした。

また、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)によると、2023年の韓国のEC化率は29.9%と予測されており、同年の世界のEC化率予測値である20.2%を10%近く上回った高いEC化率が予測されております。

※1ドル=131円換算

◆2023年の主要国(上位5カ国)のEC市場規模とEC化率の予測値(10億ドル、%

国・地域名 EC小売市場規模
(2022年)
EC小売市場規模
(2023年予測値)
EC化率
(2023年予測値)
中国 2,799.7 3,023.6 46.9
アメリカ 1,042.7 1,163.4 15.8
イギリス 191.6 195.9 30.6
日本 181.6 193.4 13.7
韓国 133.3 147.4 29.9

データ引用元:日本貿易振興機構越境ECの流れと全体像、取り組むための準備」「海外向けEC利用に対する意欲は衰えず」より筆者作成

これらのデータが示すとおり、韓国はEC利用が非常に進んでいる国です。このように韓国がEC先進国となったことには、いくつかの背景があります。

EC先進国としての背景

それでは、韓国EC市場が現在のような大市場となった背景のいくつかについて解説いたします。

背景① インターネットとスマホの脅威的な普及

日本貿易振興機構(JETRO)によると、2021年の韓国の世帯インターネット接続率は99.9%でした。インターネット普及率の推移で見てみると、1998年を境に急激に普及が高まり、以降は堅調に推移し、現在ではほぼ100%の普及率となっています。

◆韓国のインターネット普及率推移

韓国インターネット普及率

データ引用:THE WORLD BANK:WDI

さらにスマートフォンの普及率を見てみると、下記は2018年時点のグラフですが、先進諸国と比較してトップクラスのスマホ所有率を持っており、2021年の所有率は96.5%(同上JETROより)に上ります。

◆先進国の携帯電話所有状況(2018年)

韓国モバイル所有率

グラフ引用:世界主要国のスマートフォン普及状況をさぐる(Yahoo!ニュース:2019年2月15日

このように、韓国は早くからネットインフラが整備されてきたためIT化が著しく、インターネットおよびスマートフォンなどのモバイルデバイスが国民全体に普及しています。こうした背景からネットサービスが急速に発展し、EC利用が促進されたと考えられます。

背景② 政府主導によるキャッシュレス化の推進

下記は世界各国のキャッシュレス比率を比較したグラフです。実は韓国は世界で最も高いキャッシュレス比率を誇ります。

◆世界各国のキャッシュレス比率比較(2020年)

世界各国のキャッシュレス比率比較

グラフ引用:キャッシュレス更なる普及促進に向けた方向性(経済産業省)

93.6%のキャッシュレス比率を持つ韓国には、1997年のアジア通貨危機以降に政府が主体となってクレジットカードの普及を推進した背景があります。具体的には下記のような施策を行いました。

・クレジットカードの年間利用額の20%を所得から控除
・クレジットカードの利用で宝くじに参加できる
・店舗のクレジットカードの取り扱いの義務化

このように、政府主導による徹底的なクレジットカード普及施策に加え、スモールビジネス向けのQRコード決済「ゼロペイ」や、韓国全土で使用できる交通系電子マネー「Tマネー」など、様々な面でキャッシュレス化の取り組みが進んだことにより、オンライン決済システムが発達していったことで、EC利用率の向上につながったと考えられます。

背景③ 多くの中小企業や個人がECサイトで販売

韓国の大手百貨店やデパートに出店する場合には、25%以上ものテナント料が必要であったり、販売スタッフもメーカー側が用意する必要があります。そのため知名度や資金力がない中小企業では出店自体が難しいという現状があります。

一方で、大手ECモールでは販売手数料のみで出店が可能であったり、受注後に商品を仕入れる販売形態も取れることから出店のハードルが低いため、多くの中小企業や個人の事業者がECに参入するようになりました。

こうした背景が、一気に韓国をEC大国に押し上げていったのです。

韓国ECの3つの特徴

それでは、韓国EC市場の特徴について解説してまいります。

特徴① 大手ECモールと専門ECサイトによる2軸の市場

韓国EC市場は大別して2種類のECサイトから形成されております。ひとつは大型の総合ECモールです。ECモールではファッション、コスメ、電子機器、日用品など様々な商品を扱っています。そして、もうひとつは一分野に特化した専門ECサイトです。専門ECサイトの多くはファッションがメインとなっており、小規模事業者や個人が運営していることが多いです。

日本でもそうであるように、大手ECモールが多くのユーザーに利用されていることは言うまでもありませんが、韓国では専門型のECサイトも広くユーザーに認知されていることが特徴です。それは、例えばファッション専門でも性別やジャンルによってさらに細分化されたECサイトになっているため、ターゲットが絞られることで専門性が高まり、固定ファンがつきやすい点があると考えられます。

このように、汎用的なECサイトから専門的なECサイトまで規模に関わらず認知され、利用されていることが特徴です。

特徴② ライブコマースがマーケティングのトレンド

近年、中国のEC市場ではライブコマースの取り組みが盛ん(※)ですが、韓国でもライブコマースによるECマーケティングがトレンドとなっています。EC市場全体に占めるライブコマース市場の割合はまだ微々たるものですが、成長著しく、2021年の2.8兆ウォン(約1,900億円)から、2023年には一気に10兆ウォン(約9500億円)に成長すると予測されています。

引用:ユーチューブ初の公式買い物チャンネル、韓国で開設へ(Reuters)

韓国のライブコマースは、NAVERや最大手ECモールのcoupang、出前アプリの「配達の民族」など幅広いプラットフォームで実施されていますまた、ライブコマースではタレントなどの有名人を起用するのが一般的ですが、韓国では個人ECサイト運営者自身がモデルとなって商品の紹介をするなど、自らがインフルエンサーとして配信活動を行うといった特徴もあります。

なお、中国のEC市場およびライブコマース事情については、下記記事で詳しく解説しているのであわせてご覧ください。

※参考記事:中国EC市場を解説!世界シェア率は他国を圧倒する50%超

特徴③ 各ECサイトが独自のサービスを展開

韓国ではECサイトの競争が激しく、各社ともユーザーを囲い込むのための独自のサービスを展開しています。

◆独自サービスの例

・独自の決済システム
・独自のポイント制度
・独自ブランドの開発
・特定の芸能人の専属化

各社ともこのような独自サービスによりユーザーの利便性を高め、定着化を狙っています。また、決済システムを普及させることにより金融業界に食い込むという長期的な狙いもあるようです

このように、韓国EC市場は独自の発展をしながら市場を拡大させてきたことが大きな特徴となっています。

代表的な3つのECモールサイト

それではここで、韓国で人気の高いECモールを3社紹介いたします。

これまでの韓国ECモール市場では、「G-market」「11番街」の2強時代が長く続いていましたが、新しく台頭してきた「coupang」や「WeMakePrice」が、若いユーザー層を中心に支持を得て急激に成長し、市場の勢力図を塗り替えました。

① coupang

coupang

coupang

2010年に開設されたcoupang(クーパン)は「韓国版アマゾン」とも呼ばれ、日用品から家具、家電、食料品、さらにはレストランの注文・配送、旅行の予約まで幅広いサービスを展開しており、アプリの利用者数1位、韓国ナンバーワンのシェアを誇るECモールです。

2019年の売上は約17兆ウォンで、前年比約57%増加と成長著しい人気ECモールです。

coupangが提供するサービスの中でも売りとなるのが、注文から24時間以内に配達する独自の配送サービス「ロケット配送(Rocket Delivery)」です。また、定額会員登録をすれば、金額に関わらず送料が無制限で無料になる「Rocket Wow」といった、まさにアマゾンさながらの魅力的なサービスを展開しています。

② 11番街

11番街

11番街

2008年に開設した11番街(11st)は韓国EC市場の牽引役とも言えるECモールで、顧客満足度13年連続1位と、長い間ユーザーに支持されてきています。2019年の売上は9.8兆ウォンと推定されています。

定期的にタイムセールやクーポンの発行を行っていることが特徴で、セール目当てに何度もサイトに訪れるユーザーが多いようです。

親会社が韓国の通信大手「SKテレコム」なので、同社製のスマートフォンには、11番街のアプリが標準装備されています。

③ WeMakePrice

wemakeprice

WeMakePrice

WeMakePrice(ウィーメークプライス / ウィメプ)は、日用品、食品、ファッション、美容製品など幅広いジャンルの商品を扱うECモールです。2010年の開設以降、右肩上がりに成長し、2019年の実績は約6.4兆ウォンとされています。

低価格販売と革新的なサービスの展開が特徴で、生鮮食品販売では、購入者が満足できなかった場合の返金を保証する「生鮮食品品質保証プログラム」や、最短10分以内の出荷サービスなど、突出したサービスで顧客満足度を高めています。

また、2018年には仮想通貨による決済システムを導入したことでも話題となりました。

韓国越境ECへの参入はハードルが高い

ここまで韓国国内のEC市場について解説してまいりましたが、韓国に向けての越境ECはと言うと、様々な要因からハードルが高い部分があります。越境ECに参入するためには、下記のポイントを押さえておかなければなりません。

◆韓国越境ECで押さえておくべきポイント

① 検索エンジンの主流がNAVERなので、独自のECサイトではNAVERを主軸に置いたマーケティングが必須
② 大手ECモールは審査が厳しく、韓国国内に工場や店舗がないと出店できないことが多い
③ 各ECモールにおいて商品の種類やターゲット層が異なるため、自社の商品に合ったサイトを選択する必要がある

このように、韓国越境ECへの参入は簡単ではないため、入念なマーケットリサーチと、しっかりとした戦略を立てることが重要になってきます。

世界シェア5位に留まらないポテンシャルを持つ韓国市場

本記事で解説した通り、韓国EC市場は独自の発展を遂げており、多くのECサイトがユーザーにとって選択の幅が広く利便性が高いものとなっています。

国内のEC各社は競争意識が高く、また国民の英語力も高いため越境ECを積極的に利用しているユーザーも多いことから、韓国のEC市場は今後も成長を続け、世界的な市場規模もより拡大していくと予想されます。

世界市場は中国やアメリカの2強市場となっていますが、韓国も世界を席巻する革新的なECサービスを発信し、2強に迫るポテンシャルを持っていると筆者は考えます。世界のEC市場シェアのランキングが大きく動くことも、そう遠くはないのではないでしょうか。