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経済産業省のレポートによると、2022年の世界における中国のEC市場シェア50.4%となっており、他国を圧倒する巨大市場です。市場規模は2兆8,790億USドルとされており、これは前年比で9.1%の増加と推計され、今後もこの勢いでの成長が見込まれています。

中国EC市場がここまでの成長を見せた要因には、下記3点が考えられます。

① インターネット利用者の急増
② キャッシュレス決済の普及
③ 大規模な販促イベントの開催

そしてそれ以上に、中国のビジネスにおける意欲と圧倒的なスピード感が市場成長を促し、世界1位の座に押し上げたと筆者は考えます。

本日は、forUSERS株式会社でコンサルをしている筆者が、中国のEC市場について、成長の背景やマーケティングのトレンドなどについて詳しく解説いたします。

EC市場の概況

まずは、中国のEC市場の概況について解説いたします。

世界の50%以上のシェアを占める巨大市場

下記は、経済産業省が発表したレポートより引用した、2022年の世界のEC市場における各国シェアを示したグラフです。グラフを見てわかる通り、中国が圧倒的なシェアを持っており、1国で世界の50%を占める極めて巨大な市場です。

◆2022年の国別EC市場シェア

国別EC市場シェア(2022年)

出典:令和4年度 電子商取引に関する市場調査報告書(経済産業省)

2022年の中国のEC市場規模は2兆8,790億USドルで、前年比で9.1%もの増加と推定されており、今後も市場規模は拡大傾向に推移すると見られております。下記は、同じく経済産業のレポートより引用した、中国ECの市場規模推移を示したグラフですが、右肩上がりで堅調に推移しており、2026年にはEC市場規模は3兆9,850億USドルになると想定されております。

◆中国のEC市場規模の推移(単位:億USドル)

中国のEC市場規模の推移(2022年時点推計値)
※2023年以降は予想値

このように、中国のEC市場は世界において圧倒的なシェアを有しながら成長を続けています。特に中国と米国で世界の8割を占める構図は、今後もしばらく変わることはないと考えられます。

中国のEC化率は約45%

次に、中国のEC化率について見てみます。下記は、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)より引用した、世界のEC化率の推移(予想値含む)です。

◆小売市場全体に占めるECの割合(時系列)

世界のEC化率推移予測

出典:海外向けEC利用に対する意欲は衰えず(2023年3月28日 / JETRO)

上記グラフを見ると、2022年の中国EC市場のEC化率は約45%となっており、他の先進諸国と比べてEC利用率が非常に高いことがわかります。

今後は、中国国内の農村部においてもEC利用が進んで、さらにEC化率が高まっていくと予想されています。

中国EC市場の成長の背景

前項で示したEC市場規模の推移のグラフを振り返ると、2020年には2兆3,150億USドルだった市場規模が、2026年には3兆9,850億USドルに上ると予測されております。ここでは、中国のEC市場が、このように急激な成長をとげた3つの背景について解説します。

背景① インターネット利用者の急増

下記は、中国におけるインターネットの利用者数および普及率の推移を示すグラフです。中国インターネット情報センター(CNNIC)の最新のレポートよりデータを引用して作成しております。

◆中国におけるインターネットの利用者数と普及率の推移

中国インターネット普及率推移

データ引用:The 48th Statistical Report on China’s Internet Development(CNNIC:2021年8月)

グラフが示す通り、近年、中国ではインターネットの利用が急速に進んでおり、同センターの最新の報告によれば、2022年6月時点での中国のインターネットユーザー数は10億5,100万人にのぼり、ネット普及率は74.4%となっております。

さらに、スマートフォンを使用してインターネットを利用する割合は99.6%となっており、スマートフォンの利便性とアクセス性の高さから、中国人の多くがスマートフォンによりECサイトやアプリを利用しています。

このようなインターネット利用者の増加にともなって、EC市場も急速に拡大したものと考えられます。

引用:中国、ネットユーザー規模10億5100万人に、スマホ利用が全体の99.6%(CRI)

背景② キャッシュレス決済の普及

インターネットおよびスマートフォンとともに急速に普及したのがキャッシュレス決済です。中国では、早くからキャッシュレス決済が利用されており、オンラインショッピングの決済手段に限らず、大手チェーン店などはもちろん、個人店や屋台での飲食、さらには交通機関や公共料金の支払い、個人間の受け渡しなど、生活のあらゆるシーンで利用されています。

中国において最も利用されているモバイル決済サービスは「Alipay」「WeChat Pay」で、多くの中国人の日常生活に欠かせない決済サービスとなっています。下記は2018年のデータですが、中国におけるモバイル決済サービスのシェアを示すグラフです。これを見ると、両サービスあわせて90%以上のシェアを占めていることがわかります。

◆中国モバイル決済市場シェア

中国モバイル決済市場シェア

グラフ引用:中国人が解説、中国市場でモバイル決済が急速に普及した理由(ネットショップ担当者フォーラム)

このように、日常的にキャッシュレス決済が利用されてきたため、ECサイトでの決済もスムーズに行われることで市場の拡大に拍車がかかったものと考えられます。

背景③ 大規模な販促イベントの開催

中国において、11月11日は「独身の日(ダブルイレブン)」と呼ばれており、毎年この日には大規模なセールイベントが開催されます。一口に「大規模」といっても、そのイベントにおける売上規模は凄まじく、2019年には、たった1日で4兆5,628億円(1元=17円で換算)にのぼる売上を記録しています。

独身の日は、もともと「光棍節(こうこんせつ)」と呼ばれ、独身者を祝う日でしたが、2009年にショッピングモールの超大手のアリババグループが、ECサイトの販促イベントを開催し、予想以上の売上を記録したことから、独身の日のセールイベントは小売業界の一大商戦の日として中国全土に広がりました。

11月11日の1日のみだったアリババのセールは、2020年からセール期間が11日間に延長され、2021年の流通総額は5,403億元(9兆5,600億円)に達しました。現在では、アリババを筆頭に多くの大手ECサイトが大規模な販促イベントを開催しており、独身の日全体の流通総額は年々上がっていることから、中国のEC市場拡大の要因のひとつとなっているのは間違いないでしょう。

参考:中国「独身の日」セール終了 アリババ取扱高は9兆円超(日本経済新聞)

ECマーケティングのトレンドはライブコマース

近年の中国EC市場におけるマーケティングのトレンドのひとつに「ライブコマース」が挙げられます。中国の主要なECサイトは、いずれもライブコマースにより売上を高めております。下記は、日本貿易振興機構(JETRO)による中国のライブコマース市場の推移予測のグラフです。

◆中国ライブコマース取引規模(2017~2025年)

中国ライブコマース取引規模(2017~2025年)

グラフ引用:新たなEC手法として存在感を高めるライブコマース(中国)(JETRO)

このように、ライブコマース市場は右肩上がりで規模を拡大しています。特に2019年から2020年にかけては、コロナ禍の影響もあり大きな伸長を見せました。JETROの同記事では、2020年12月までに、中国のライブコマースのユーザー数は6億1,685万人となり、ライブコマースを見て商品を購入したことのある人はライブコマース利用者全体の66.2%に達したとされております。

中国でライブコマースがトレンドとなっている要因としては、SNSの普及や、コロナ禍の外出自粛による需要拡大と店舗事業者の参入などが挙げられますが、偽造品の流通が業界の大きな問題とされている中で、ライブコマースという手法により安心して商品を購入できることこそが、最も大きな要因ではないかと筆者は考えます。

KOLによるライブコマースが高い支持を得ている

中国では、インフルエンサーによるライブコマースが人気ですが、特にKOL(Key Opinion Leader)によるライブコマースが主流となっております。KOLとは専門性を持ったインフルエンサーのことで、一般的なインフルエンサーとの違いは、インフルエンサー自身が専門性および専門領域を持っていることです。

商品に対する深い知識や高い技術を持っているため説得力と信頼性が極めて高く、非常に訴求力があるマーケティングとして多くの企業に起用されております。KOLマーケティングについては、下記記事で文化的影響など興味深い考察をされているので、ぜひ併せてご覧ください。

参考:KOLとは「中国版インフルエンサー」強みは専門性と口コミ力(Digima)

中国ECを代表する主要3サイト

それではここで、中国EC市場を代表する3つのECサイトを紹介します。実は、中国には多くのECサイトがありますが、上位3社が市場を独占している状態となっています。下記グラフをご覧ください。

◆中国ECプラットフォーム小売額シェア(2019年)

中国ECプラットフォーム小売額シェア

グラフ引用:中国EC市場と活用方法(JETRO)

このように、以下に紹介する「天猫(Tmall)」「京東(JD.com)」「拼多多(Pinduoduo)」の3サイトがシェアの9割近くを占めている状況です。

天猫(Tmall)

天猫

天猫

アリババグループが運営する天猫(Tmall)は、2013年の開設以来、中国EC市場で圧倒的なシェアを獲得している中国最大のECサイトで、アリババグループのECの中核を担っています。越境ECサイト「Tmall Global(天猫国際)」「淘宝網(Taobao)」「Alibaba.com」などグループ全体の累計流通額は84兆円(2017年実績)に達します。

引用:取引高約84兆円のアリババが目指す「単なるEC」からの脱却 ── 日本企業はどうする?(BUSINESS INSIDER)

天猫の特徴は信頼性の高さです。出店審査が非常に厳しく、旗艦店・直営店などの特定の資格があるメーカーのみが出店できる形となっているため、商品の品質も高く、ユーザーは安心して商品を購入できます。ただし、高品質な分、他サイトと比較するとやや価格が高い側面もあるようです。

② 京東(JD.com)

京東

京東

京東(JD.com)は、天猫に次いで中国第2位のシェアを持っています。2021年には、独身の日のイベントに次ぐ規模の「618」セールで、日本円で5兆円を超える売上を記録しています。

京東の強みは物流にあります。中国全土をカバーする独自の物流網を持っており、特に配送の早さは「中国のAmazon」と言われるほどで、2021年の独身の日のイベントでは、セール開始から8時間後には、100万人以上のユーザーが購入商品を受け取っています

また、物流の無人化・自動化に注力しており、中国で初となる無人配送車の公道での実用化など、物流において新しい試みに積極的な取り組みを見せております。

引用:京東集団 22年4―6月期/「618」が好調/売上は5.3兆円を突破(日流ウェブ)2021年、異例の「独身の日/W11」商戦。中国EC通販はどのように変わった?(manamina)

拼多多(Pinduoduo)

拼多多

拼多多

2015年にサービスを開始した拼多多(Pinduoduo)は、共同購入機能やWeChatなどのSNSとの連動により多くのユーザーを獲得し、成長著しい中国EC市場において短期間で大きくシェアを伸ばしました。

食品や日用品から家電製品まで幅広い商品を取り扱っており、ユーザーは共同購入機能により一定数の購入希望者が集まれば、それらの商品を低価格で購入することができます

2019年の流通取引総額は約15兆円に達し、アリババが14年かかった記録をたった4年で達成したことを考えると驚異的な成長を見せており、天猫や京東との今後のシェア争いが注目されています。

引用:共同購入EC「拼多多」、設立5年以内でGMV15兆円の大台に乗る アリババより14年速い達成(36Kr Japan)

中国越境ECを始めるための3つの方法

本記事では、ここまで中国国内のEC市場について解説してまいりましたが、中国の越境EC市場について事業参入を検討する場合、大きく3つの方法が考えられます。導入コストや運用に関してハードルが高いと感じられるかもしれませんが、比較的簡単に、コストを抑えながら越境ECサービスを始められる方法もあります。

方法① 中国のECサイトに出店する

中国国内のECサイトに出店する場合、例えば「天猫(Tmall)」などの大手ECサイトでは、中国に法人を持たない企業は出店が認められないなど、一定の制約が課せられます。そのため、現地法人を持っていない企業は、まずは、このような制約のない「天猫国際(Tmall Global)」などの専用の越境ECサイトへの出店が選択肢となります。

なお、出店後の運用について、中国越境ECの物流スキームには「保税区モデル」と「直送モデル」の2種類を知っておく必要があります。

・保税区モデル
中国国内の倉庫に在庫をストックしておき、注文が入ったら倉庫から中国のユーザーに商品を配送する方式です。中国国内からの発送のため、ユーザーとしては送料が安く配送期間も短いことがメリットとなります。ただし、保管料や売れ残った商品の日本への返送送料がかかるため、保税区モデルは売れ筋商品などの販売に最適なモデルと言えます。

・直送モデル
中国のユーザーから注文が入ったら、日本にある在庫から国際スピード郵便(EMS)を使って直接商品を配送するモデルです。税関に時間がかかるため、商品到着まで時間がかかるなどのデメリットがありますが、保税区での保管費用がかからないため、小規模の越境ECに向いているモデルです。

ただし、2019年には天猫国際が、同サイトに出店している小売店を対象に、直送商品は海外倉庫への入庫を必須とすることを発表しました。これによりEMSが実質不可となり保税区モデルで統一されることになりました。このように、越境ECでは現地プラットフォームあるいは政府によってレギュレーションの変更や制限が入ることがあるので注意が必要です。

参考:天猫国際(Tmall Global)の小売型店で売れた商品の配送はEMSが実質NG。海外倉庫への入庫が必須に(ネットショップ担当者フォーラム)

方法② 自社で越境ECサイトを用意する

日本国内に中国人向けのECサイトを構築する方法です。この場合は、通常のECサイトの構築に加えて、中国語への翻訳対応「Alipay」や「WeChat Pay」など中国人向けの決済手段の実装、また現地ユーザーの顧客対応ができるリソースの確保などが必要になります。配送についてはEMSなどによる直送が主な手段となります。

自社ECサイトであれば、独自の世界観を構築できることや、顧客情報の取得などのメリットがあります。ただし、自社で越境ECを運用する場合は、何より認知度を高めるための集客が最も困難ですので、しっかりと戦略を練って取り組む必要があります。

方法③ 海外転送サービスを利用する

海外転送サービスは、最も簡単に越境ECサービスを実施することができる方法です。このサービスを利用すれば、海外のユーザーは日本に仮住所を取得することができます。ユーザーは商品購入時にその住所を入力して注文を行うことで、そこに届けられた商品が実際にユーザーが住んでいる海外の住所に転送されるという形です。

事業者としては日本の住所に発送することになるので、通常の国内取引と同じ処理を行い、海外発送などの特別な対応をすることもありません。導入する際は、自社ECサイトに誘導用のバナーを貼るだけなので、非常に簡単かつコストをかけずに越境ECが可能になります。

ただし、国内販売の業務フローを変えることなく海外販売が可能にはなりますが、認知してもらうためには、また別の対応が必要になりますので、集客施策とあわせて導入を検討するべきでしょう。

参考:日本の通販商品の海外発送(国際配送)代行サービス「転送コム」

まとめ

中国のEC市場は、世界でも圧倒的なシェアを占める市場です。中国のEC市場がここまでの成長を見せた背景には、本記事で述べたように、スマートフォンやキャッシュレス決済の普及などの要因があります。

しかし筆者は、本記事で触れた、京東の物流への取り組みにおける「無人配送車」の運用に、中国のEC市場成長の本質を見たように感じました。日本でも技術的には無人配送車のシステム構築は可能なはずです。しかし、規制面でクリアしなければいけない点も多く、なにより事故や盗難など安全面を考えたとき、公道での運用となると、様々な要因から企画段階で実現困難と判断されるでしょう。

京東の無人配送車の運用にあたっても様々な障壁があり、多くのリスクも想定されたと考えられますが、それらを全てクリアしたかどうかは定かではありませんが、事実として運用され、企業側も消費者側も利益を享受しています。良くも悪くも、中国のビジネスにおけるパワープレイスタイルと圧倒的なスピード感が、EC市場の急速な成長につながり、世界1位の結果として現れているのではないでしょうか。

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