カルビーのEC戦略7選|パーソナライズD2Cで実現する「購買データ経営」
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国内スナック菓子市場でシェア首位を維持するカルビー。同社は近年、自社EC「カルビーマルシェ」を核としたD2C戦略と、公式アプリ「ルビープログラム」によるファンマーケティングを両輪に、デジタル施策を加速させています。

2025年3月期の売上高は3,226億円(前年比+6.4%)、営業利益は291億円(前年比+6.5%)と好調を維持。さらに2025年1月には約19年ぶりとなる国内新工場「せとうち広島工場」が稼働を開始し、DXを活用したスマートファクトリーとしても注目を集めています。

本記事では、カルビーが実践するECマーケティング戦略について、以下の7つの観点から解説します。なぜカルビーは「EC売上」ではなく「顧客データ」を重視するのか。その意図を見ていきましょう。

カルビーのEC戦略とデジタル施策の現在地

カルビーのデジタル戦略を理解するうえで欠かせないのが、同社の事業規模と、ECに対する独自のスタンスです。多くの企業がEC売上比率の拡大を目標に掲げる中、カルビーはあえてその数字を公開していません

では、同社はデジタル施策で何を重視しているのか。まずは業績推移とアプリ戦略、そしてEC事業の全体像から、その輪郭を捉えていきましょう。

売上3,226億円・国内スナック菓子シェア首位を支えるデジタル基盤

カルビーは1949年創業、広島県に本社を置く国内最大手のスナック菓子メーカーです。「ポテトチップス」「じゃがりこ」「かっぱえびせん」など、日本人なら誰もが知る定番商品を複数保有している点が最大の強みといえるでしょう。

2025年3月期の業績は、売上高3,226億円(前年比+6.4%)、営業利益291億円(前年比+6.5%)と堅調に推移しています。

◆カルビーの業績推移

年度 売上高 前年比 営業利益 前年比
2023年3月期 2,851億円 +7.4% 241億円 -4.1%
2024年3月期 3,033億円 +6.4% 273億円 +13.5%
2025年3月期 3,226億円 +6.4% 291億円 +6.5%
2026年3月期(予想) 3,390億円 +5.1% 260億円 -10.6%

参照:カルビーグループ 2025年3月期決算説明会資料

なお、同社はEC売上比率を公開していません。この点について公式の説明はありませんが、後述するアプリ戦略やファンマーケティング施策を見る限り、カルビーはECを「売上を稼ぐチャネル」よりも「顧客との接点を増やす場」として捉えている可能性があります。

公式アプリ「ルビープログラム」は120万DLを突破

カルビーのデジタル戦略の中核を担うのが、2020年9月にリリースされた公式アプリ「ルビープログラム」です。

これは、商品パッケージを折りたたんで写真を撮影すると「ルビー」(ポイント)が貯まり、工場見学や収穫体験などの体験プログラムに応募できるというもの。カルビーはこの仕組みを「折りパケ運動」と呼んでいます。

◆ルビープログラムの公式サイト

カルビーのルビープログラム

参照:カルビー ルビープログラム公式サイト

2025年11月時点で、アプリのダウンロード数は累計120万を突破しています。以下の表は、公開されている時点ごとのダウンロード数をまとめたものです。

◆ルビープログラムのダウンロード数推移

時期 DL数
2023年9月 53万
2025年6月 106万
2025年11月 120万

上記のデータによれば、約2年間でダウンロード数を2倍以上に伸ばしている計算になります。

特筆すべきは、大規模なプロモーションを一切行わず、パッケージ裏面のコミュニケーションだけでここまでの成長を実現した点です。このアプリで収集された購買データが、後述するファンマーケティングやD2C事業の基盤となっています。

自社EC「カルビーマルシェ」とパーソナライズD2Cの2軸展開

カルビーのEC戦略は、大きく2つの軸で展開されています。

第一の軸は、自社EC「カルビーマルシェ」です。2020年11月に旧「グラノライフ」から刷新オープンし、2024年8月には初の大規模リニューアルを実施しました。運営パートナーは阪急百貨店グループの「Revico」です。

◆カルビーマルシェのトップページ

カルビーマルシェのイメージ

参照:カルビー公式オンラインショップ カルビーマルシェ

第二の軸は、パーソナライズD2C事業です。2023年以降、カルビーは「Body Granola(ボディグラノーラ)」「OMA MESI(おまめし)」といった新規事業を相次いで立ち上げています。

「カルビーマルシェ」で既存ファン向けの限定商品を展開しつつ、パーソナライズD2Cで新たな顧客層を開拓する。この2軸体制が、カルビーEC戦略の全体像です。

カルビーのECマーケティング戦略7選

ここからは、カルビーが実践する7つの戦略について、具体的な施策とデータを交えて解説します。

それぞれの内容や特徴を詳しく見ていきましょう。

戦略① 自社EC「カルビーマルシェ」による工場直送・限定商品戦略

カルビーマルシェの最大の武器は、「ここでしか買えない」限定商品です。

◆工場直送ポテトチップスの商品ページ

カルビーの工場直送ポテトチップス

参照:工場直送ポテトチップス|カルビー公式オンラインショップ

2024年9月に発売された「工場直送ポテトチップス」は、製造後5日以内に発送するという、通常の流通では実現できない鮮度を訴求しました。1000ケース限定で3回発売し、いずれも1週間以内に完売するという反響を得ています。2025年版は「7日以内発送」に変更されていますが、依然として高い人気を維持しています。

この施策の狙いは、単なる売上獲得ではありません。限定商品を「受注生産」に近い形で販売することで、在庫リスクを最小化しながら、「カルビーマルシェでしか手に入らない」という付加価値を創出しているのです。

「売る」ためではなく「来てもらう理由をつくる」ためのEC。工場直送商品は、その象徴的な施策といえます。

戦略② ルビープログラムを核としたリアルタイム購買データ収集

多くの食品メーカーにとって、「誰が自社商品を買っているのか」を把握することは極めて困難です。スーパーやコンビニで販売される商品は、小売業者のPOSデータに依存するため、メーカーが顧客情報を直接取得できないからです。

カルビーはこの課題を、「折りパケ運動」という独自の仕組みで解決しました。

◆折りパケの作り方

カルビーのルビープログラム「折りパケ」

参照:カルビー ルビープログラム 折りパケのつくり方

ユーザーは商品パッケージを折りたたんで写真を撮影し、アプリに登録することで「ルビー」を獲得できます。この仕組みにより、店頭で購入された商品であっても、カルビーは「誰が」「いつ」「何を」買ったかを把握できるようになりました。

カルビーのマーケティング担当者は、DIGIDAY JAPANの取材に対し、以下のように述べています。

「折りパケ」にして画像で送ってもらうシリアルコードは元々カルビーのトレーサビリティを担保するもので、どこの工場のどのラインで何時何分につくられたものかなどの情報が入っています。そのコードが届くため、たくさんのデータがとれるわけです。

引用:DIGIDAY「ポテトチップスのパッケージが顧客情報の宝庫に。カルビーが『ルビープログラム』で目指すコミュニケーションの形」より

つまり、折りパケで送られてくるのは単なる「購入証明」ではなく、製造情報と紐づいたトレーサビリティデータです。これにより、カルビーは店頭販売であっても「どの商品が、いつ、どんな顧客に届いたか」をリアルタイムで把握できる体制を構築しています。

戦略③ Body Granolaに見るパーソナライズ×サブスクD2Cモデル

2023年4月に開始された「Body Granola(ボディグラノーラ)」は、カルビーの新規事業の中でも特に注目すべき取り組みです。

◆Body Granola公式サイト

カルビーのBody Granola

参照:Body Granola(ボディグラノーラ)|カルビー公式

このサービスは、腸内フローラ検査の結果に基づいて、一人ひとりに最適化されたグラノーラを定期配送するというモデルです。検査キットは15,000円(税抜)、定期配送は月額3,500円で提供されています。

◆Body Granolaの主な展開

時期 施策
2023年4月 サービス開始
2024年2月 田中みな実出演TVCM放映開始(関東エリア)
2024年4月 パーソナルオンライン食事コーチングサービス開始
2024年8月 ecforce ma導入でパーソナライズ強化
2025年1月 他社商品取扱い開始(味の素AGF、サラヤ等5社13品)
2025年3月 新TVCM「試行錯誤」篇・「内側ケア」篇放映開始

2025年1月末時点で累計検査人数は2万人を突破しており、同社は5年で延べ10万人を目標に掲げています。

注目すべきは、2025年1月から他社商品の取扱いを開始した点です。味の素AGF、サラヤ、帝人、ホクト、Mizkanの5社から計13品を追加し、「カルビーのD2Cサイト」から「食のプラットフォーム」への進化を図っています。

「検査→パーソナライズ→定期配送→他社商品併売」という流れは、従来の食品ECにはなかった顧客囲い込みモデルといえるでしょう。

戦略④ SNS×店頭販促連動の「カルビー総選挙」で72万票を創出

2023年3月から7月にかけて実施された「カルビー総選挙」は、同社のSNSマーケティングの代表的な成功事例です。

この施策は、マストバイキャンペーン(購入者向け)とTwitterオープンキャンペーン(誰でも参加可能)を組み合わせた二段構えの設計が特徴です。

◆カルビー総選挙の成果

指標 数値
総投票数 723,358票
Twitter送客 44万件
施策期間 約4ヶ月(100日連続キャンペーン)
当選商品 商品50個詰め合わせ×1万名

まず、100日連続でTwitterオープンキャンペーンを実施するという大規模な取り組みにより、SNS上での話題化を成功させました。さらに、ブランド担当者25名がPR動画に出演するなど、「中の人」の顔が見えるコミュニケーションも展開しました。

この施策の本質は、SNSで認知を獲得し、店頭での購買に転換するという導線設計にあります。

自社ECへの直接誘導ではなく、あえて店頭購買を促す設計にした点がポイントです。SNSで話題をつくり、店頭で買わせ、その購買データをルビープログラムで回収する。この一連の流れこそ、カルビー流の「購買データ経営」を体現した施策といえるでしょう。

戦略⑤ Fan With! Projectで参加後購買金額164%増を実現

2024年6月に始動した「Fan With! Project」は、カルビーのファンマーケティング戦略の集大成ともいえる取り組みです。

このプロジェクトでは、全国17カ所(本社、支店、工場、畑)でファンとの交流イベントを開催。総勢600名以上のファンが参加しました。

◆Fan With! Projectの成果

指標 数値
開催拠点数 全国17カ所
参加者数 600名以上
満足度 平均4.98点(5点満点)
参加後購買金額 164%増

参加後の購買金額が164%増加という数値は、ファンマーケティングのROIを明確に示すものです。

参加にはルビープログラムで貯めた500ルビーが必要であり、「購買→ルビー獲得→体験参加→さらなる購買」という好循環を生み出しています。

2025年度はポテトチップス50周年記念として年間約15回の開催を計画し、現在も進行中です。2026年1月時点ですでに10回以上が実施されており、7月には新設の「せとうち広島工場」でも初のファンミーティングが行われました。

戦略⑥ LINEゲーム連携によるライトユーザーの取り込み

2024年3月、カルビーはセガとの共同開発により、LINEゲーム「サクサク掘れ掘れCalbeeFarm」の提供を開始しました。

◆サクサク掘れ掘れCalbeeFarmのプレイ画面

サクサク掘れ掘れCalbeeFarmのプレイ画面

筆者が実際にプレイ中の画面をスクリーンショット撮影

このゲームはルビープログラムと連動しており、ゲーム内で獲得したポイントをルビーに交換できる仕組みになっています。2025年9月には初の大型アップデートを実施し、ゲーム内アイテムを購入できる公式オンラインショップもオープンしました。

この施策の狙いは、「まだルビープログラムを使っていないライトユーザー」へのリーチ拡大です。LINEという日常的に使用するプラットフォームを活用することで、アプリをダウンロードするハードルを下げつつ、カルビーとの接点を増やすことに成功しています。

戦略⑦ せとうち広島工場に見るDX×スマートファクトリー戦略

2025年1月に稼働を開始した「せとうち広島工場」は、カルビーにとって約19年ぶりの国内新工場です。2025年4月21日には竣工式が行われました。

◆せとうち広島工場の概要

項目 内容
敷地面積 約10万㎡(カルビー最大規模)
生産能力 年間約280億円
労働生産性 約6割向上目標
再エネ電力 100%実現
CO2フリー電力 100%実現

参照:カルビーグループ統合報告書2025

この工場の特徴は、DX技術を全面的に活用したスマートファクトリーである点です。AGV(無人搬送車)、WMS(倉庫管理システム)、IoTを活用し、温室効果ガス50%減、廃棄物50%減、水使用量30%減を目標に掲げています。

EC戦略との関連では、工場直送商品の供給体制強化が期待されます。

カルビーのEC戦略から学ぶ3つの成功法則

ここまで見てきたカルビーのEC戦略から、他業種にも応用可能な3つの成功法則を導き出すことができます。

法則① 「折りパケ」に見る購買証明の仕組み化

多くの食品メーカーは、「誰が自社商品を買っているのかわからない」という課題を常に抱えています。

カルビーの「折りパケ運動」は、この課題に対する独自の解決策です。商品パッケージそのものを購買証明として活用するという発想により、店頭販売であっても顧客データを取得できる仕組みを構築しました。

重要なのは、ユーザーにとっても「ルビーを貯める楽しさ」というメリットがある点です。一方的なデータ収集ではなく、顧客との価値交換として設計されている点が、高いエンゲージメントにつながっていると考えられます。

法則② ecforce等テクノロジー企業との協業によるスピード立ち上げ

Body GranolaやOMA MESIといったパーソナライズD2C事業において、カルビーはecforce(SUPER STUDIO社)やメタジェン、サイキンソーといった外部パートナーと積極的に協業しています。

◆ecforceの導入事例ページ

カルビー×ecforceの導入事例ページ

参照:ecforce「カルビーのパーソナルフードプログラム『Body Granola』で統合コマースプラットフォーム『ecforce』を導入」

従来の食品メーカーであれば、新規事業の立ち上げに数年を要することも珍しくありません。しかし同社は、テクノロジー企業との協業により、ECプラットフォーム構築やMA実装を短期間で実現しています。

法則③ リアル接点とデジタルの融合設計

カルビーのEC戦略で最も特徴的なのは、「ECだけで完結させない」という設計思想です。

Fan With! Projectでは、オンラインのファンコミュニティ会員を、工場見学や収穫体験といったリアルな場に招待しています。その結果、参加後の購買金額が164%増加するという成果を上げました。

また、カルビー総選挙では、SNSで認知を獲得し、店頭でのマストバイに転換するという導線を設計。EC単体の売上を追うのではなく、顧客接点全体での体験価値を最大化するアプローチを取っている点こそが、カルビーの大きな特徴だと言えるでしょう

カルビーのEC戦略に関するよくある質問(FAQ)

Q. カルビーマルシェではどのような限定商品が買えますか?

カルビーマルシェでは、工場直送ポテトチップス(製造後7日以内発送)をはじめ、通常の店頭では購入できない限定商品を取り扱っています。2024年9月に発売された工場直送ポテトチップスは、1000ケース限定で3回発売し、いずれも1週間以内に完売しました。

参照:工場直送ポテトチップス|カルビー公式オンラインショップ

Q. ルビープログラムとは何ですか?

ルビープログラムは、2020年9月にリリースされたカルビーの公式アプリです。商品パッケージを折りたたんで写真を撮影する「折りパケ運動」でルビー(ポイント)を獲得し、貯めたルビーで工場見学や収穫体験などの体験プログラムに応募できます。2025年11月時点で120万ダウンロードを突破しています。

参照:カルビー ルビープログラム公式サイト

Q. Body Granolaの料金体系は?

Body Granolaは、腸内フローラ検査キットが15,000円(税抜)、検査結果に基づいてカスタマイズされたグラノーラの定期配送が月額3,500円です。2024年4月からはパーソナルオンライン食事コーチングサービスも追加されています。2025年1月末時点で累計検査人数は2万人を突破しています。

参照:Body Granola(ボディグラノーラ)|カルビー公式

まとめ|「購買データ経営」がカルビーEC成長の原動力

カルビーのEC戦略は、「ECで売上を稼ぐ」という発想からの脱却が最大の特徴です。

同社は、自社EC「カルビーマルシェ」を限定商品による付加価値創出の場として位置づけ、公式アプリ「ルビープログラム」を購買データ収集とファンコミュニティ形成の基盤として活用しています。さらに、Body GranolaのようなパーソナライズD2C事業で、顧客一人ひとりとの長期的な関係構築を目指しています。

その根底にあるのは、「誰が自社商品を買っているのか」を自社で把握し、ファンとの関係を深めることで、長期的な成長を実現するという「購買データ経営」の思想です。

EC単体での売上最大化を追うのではなく、SNS→店頭→アプリ→リアル体験という顧客接点全体を設計するカルビーのアプローチは、食品メーカーに限らず、多くの企業にとって参考になるはずです。

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