財布を開く理由は、いつも「欲しいから」だけとは限りません。
「この人を応援したい」「この会社の考え方が好きだ」「この地域を元気にしたい」といった感情も、購買のきっかけになります。
こうした消費行動は「応援消費」と呼ばれ、注目を集めています。
そして、応援したいという気持ちが実際の購買へとつながる場として重要なのが、ECサイトです。
本稿では、応援消費の事例を紹介しながら、事業者にとってのECサイトの意味を改めて考えます。
「応援消費」とは何か――その背景と多様な形
「応援消費」という言葉を知らなくても、次のようなことを経験したことはあるかもしれません。
たとえば――
- 被災地の産品を「少しでも力になれれば」と購入した経験
- 長年通っていた近所の喫茶店がクラウドファンディングを立ち上げたと知り、迷わず支援した経験
- 地方の小さなお菓子店が苦境に立たされていることをテレビやSNSで知り、思わず商品をお取り寄せした経験
これらはすべて、応援消費の典型的な姿です。
消費者は、商品そのものだけでなく、その背後にある「人物」や「想い」、「物語」に共鳴し、財布を開きます。応援消費は、経済合理性だけでは説明のつかない、感情に根ざした消費行動といえます。
パンチくんが示した「応援消費」の爆発力
2026年の春、一匹の子ザルが日本中の注目を集めました。筆者が生まれ育った千葉県市川市にある、市川市動植物園で生まれたニホンザルの「パンチくん」です。母ザルによる育児を受けられず、飼育員の手で育てられたパンチくんが、母親代わりのオランウータンのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら、群れに馴染もうと懸命に奮闘する姿がSNSで発信されると、国内外で大きな話題となりました。
その反響は大きく、SNS投稿を見て「いいね」やシェアするだけに留まりませんでした。「パンチくんを応援したい」「園を支援したい」という声が相次いだのです。2026年2月にXで紹介されると、同月の来園者数は前年同月比で2倍以上の4万7,000人に達し、年度累計の目標だった30万人にも初めて到達しました。
さらに同年3月、園は「#がんばれパンチ サポーターズガイド」を公表し、口座振込・ふるさと納税・LINEスタンプ購入など複数の支援方法を案内しました。ふるさと納税の返礼品としてペアチケットなどを用意したところ、公式Xで案内した一晩だけで60万円分の寄付が集まりました。パンチくんの写真16枚から成るLINEスタンプ(120円)は、手軽にサポートできる手段として、多くのファンに受け入れられました。
出所:読売新聞「ぬいぐるみ抱える姿で人気『パンチを応援したい』、ふるさと納税は一晩で60万円分の寄付…千葉・市川市が支援ガイド公表」(公開日:2026年3月19日、閲覧日:2026年4月8日)
園内ショップ「ガーデンオアシス」のオリジナルグッズも、同様の文脈で注目されています。グッズの売り上げは、動物たちの食費や老朽化した施設の修繕費、新しい展示の工夫へとダイレクトに還元されます。パンチくんのファンにとって、園のオリジナルグッズ購入は、身近で温かい直接的な応援の形なのです。
出所:emogram「パンチくんの未来を支える『買い物』の形 市川市動植物園オリジナルグッズという身近な支援」(公開日:2026年3月26日、閲覧日:2026年4月8日)
このケースが示しているのは、応援消費の構造そのものです。SNSで広まった物語で、多くの人の感情が動き、応援したいという気持ちが、購入・寄付というアクションにつながりました。
市川市動植物園は、突如注目を浴びたにもかかわらず、極めて短い期間に、複数の「応援の受け皿」を整えました。人々の応援したいという気持ちに誠実に応え、感情の盛り上がりを実際の支援につなげることに成功したのです。
SNSとデジタルが可視化した「応援」
応援消費が近年これほど広がった背景には何があるのでしょうか。
東京都立大学教授の水越康介氏は、デジタル技術の発展が決定的な役割を果たしていると指摘します。
応援したいという気持ちは、以前も存在していたはずです。しかしSNSが普及するまで、それは個人の胸の内に収まることが多く、他の人には見えづらい、伝わりづらいものでした。
それが、今では、パンチくんへの愛情も、地域の酒蔵を守りたいという想いも、瞬時に「見える化」され、共鳴する人々とつながることができます。
その可視化こそが、応援消費を個人の感情から社会的なムーブメントへと昇華させる力になっている、と水越氏は見ています。
また、水越氏は、価値観そのものの変化にも触れています。「10年前はアイドルを好きでそのために一生懸命に消費をしていると聞くと変な感じがしましたが、現在はそれを聞いても違和感がなく」なってきたとした上で、「他人のために消費することが正当な消費理由の一つに組み込まれてきている」というのです。
出所:「【INTERVIEW】応援消費の拡大と今後について」『マーケティングホライズン(2023年7月号)』(閲覧日:2026年4月8日)
「推し活」という言葉が定着していることは、まさに価値観の変化の現れといえるでしょう。
災害とコロナ禍が加速させた「つながりの消費」
応援消費が社会的に広く認知されたきっかけの一つは、2011年の東日本大震災です。被災地の農産物や水産物を「買って支援する」という動きが全国に広がり、消費行動が社会貢献と結びつくという意識が醸成されました。
さらにこの流れを加速させたのが、2020年からのコロナ禍です。緊急事態宣言下で売り上げが激減した飲食店や小規模事業者に対し、「未来の食事券」を先払いで購入したり、テイクアウトを積極的に利用したりする動きが広がりました。「好きなお店を生き残らせたい」という気持ちが、直接的な経済行動に変換されたのです。
筆者が住む市川市でも、コロナ禍の初期に、有志のメンバーが、クラウドファンディングの「カンパイ市川」を立ち上げ、通常営業を継続することが難しい飲食店を応援したいという人たちの受け皿となりました。
◆「カンパイ市川」のクラウドファンディングを呼び掛ける画像

また、同じく市川市では、やはり有志のメンバーが、テイクアウト情報を共有するプラットフォーム「おいしくやくそく宣言」をFacebook上に立ち上げました。Facebookのグループ機能を利用して交流を作り出すことで、テイクアウト情報が、単に事実を伝えるだけではなく、グループ参加者の善意が伝わる情報となり、他の参加者のテイクアウト利用が促進されていきました。
◆「おいしくやくそく宣言」のイメージ画像

出所:特定非営利活動法人フリースタイル市川 公式サイト「【おいしくやくそく宣言】について」(公開日:2021年1月22日、最終更新日:2022年3月9日、閲覧日:2026年4月8日)
水越氏は、こうした災害・危機を契機とした応援消費には「波」があることを指摘しています。災害の直後には、応援消費の機運が高まる傾向があるものの、時間の経過とともに風化しやすいというのです。
一方で、こうした一時的な盛り上がりとは別に、日常的に応援消費を実践する人々が存在することも、水越氏の調査から明らかになっています。
出所:「【INTERVIEW】応援消費の拡大と今後について」『マーケティングホライズン(2023年7月号)』(閲覧日:2026年4月8日)
石川県は、2024年1月1日に発生した能登半島地震と同年9月の奥能登豪雨を風化させないために、ハート型のロゴマークを用いた「応援消費おねがいプロジェクト」の実施に加え、復興フェアで能登の産品等を販売したり、地震と豪雨に関する写真や映像を収集したデジタルアーカイブを構築しています。
また、同県は、震災から1年半以上が立ったタイミングで、能登で困難を乗り越えて生きる人々を取り上げた映像や、復興に取り組む人々のインタビュー記事、ボランティアやふるさと納税など、復興を応援する取り組みへのリンクを掲載したウェブサイトを開設しました。
出所:石川県プレスリリース「能登半島地震・奥能登豪雨の風化防止に向けた動画及び特設サイトを公開しました」(PR TIMES、公開日:2025年8月27日、閲覧日:2026年4月9日)
こうした取り組みは、記憶の風化を防止し、応援の継続に寄与すると考えられます。
このように、応援消費が広がった背景には、価値観の変化とデジタルの発展、そして災害やコロナ禍がありました。では、実際にどのような形で応援消費は現れているのでしょうか。
「人」への共感――個人クリエイターと応援消費
応援消費の対象は、企業や店舗にとどまりません。近年顕著なのは、個人クリエイターへの応援購買です。
イラストレーター、音楽家、陶芸家、文筆家など、SNSで活動を発信する個人作家たちが、自らのオンラインショップやBoothなどのプラットフォームを通じて作品を販売するケースが増えています。購入者の多くは、作品の「価格対品質」だけを見ているわけではありません。日々の制作過程を発信するSNSを通じて作家の人柄や考え方を知り、「この人に活動を続けてほしい」「このような想いをもって活動する人を応援したい」という感情が購買を後押ししています。
投げ銭機能やPatreon(パトロン)やFantia(ファンティア)などのサブスクリプション型支援サービスの普及も、こうした「人への応援」を可視化・定常化させています。
理念・パーパスへの共鳴――社会課題と消費のつながり
応援消費のもう一つの形として注目されるのが、企業の社会的姿勢や、パーパス(「社会においてなぜ存在するのか」という問いへの答え)への共感にもとづく購買です。
環境負荷の低い素材にこだわるアパレルブランド、フェアトレードを徹底するコーヒーメーカー、障がい者雇用に積極的に取り組む食品メーカー、こうした企業の商品は、必ずしも低価格ではありません。同等の品質や機能の他社商品よりも高額かもしれません。それでも消費者が選ぶのは、「この企業の姿勢を支持したい」「自分の購買が社会をよくすることにつながってほしい」という意識があるからです。
近年注目される「エシカル消費」(環境・社会・人権などに配慮した消費行動)とも重なるこの動きは、とりわけ若い世代を中心に広がっています。企業のSDGsへの取り組みや、サプライチェーンの透明性が購買判断に影響を与える時代になってきました。
地域・コミュニティへの応援
ふるさと納税の返礼品選びに「故郷を応援したい」という気持ちが含まれていたり、地元の商店街で「近くのお店を残したい」という思いから買物をする、こうした消費行動も、応援消費の一形態といえるでしょう。
ふるさと納税について、水越氏は「自分のベネフィットが得られるために行動している人が多数のようだ」としつつも、「その県や市町村のためになったり、地域の経済振興にもなったりするのでいいことだと思う」という消費者も多いと指摘しています。
出所:「【INTERVIEW】応援消費の拡大と今後について」『マーケティングホライズン(2023年7月号)』(閲覧日:2026年4月8日)
応援の純度は人それぞれながら、消費に社会的な意味づけを求める傾向が広がっていることは確かです。
「応援消費」の4つの軸
こうして見ると、応援消費の対象は
- 個人(クリエイター・職人)
- 組織(企業・店舗)
- 理念(環境・社会正義)
- 地域(コミュニティ・文化)
という4つの軸に整理できます。
これらに共通するのは、消費者が商品の向こう側にある「何か」に共鳴している点です。
応援したい気持ちを「購買」に変えるECサイトの力
ここで、ある消費者の心理的な動きを考えてみましょう。
SNSのタイムラインを流し見していると、ある投稿が目に留まります。地方の小さな酒蔵が廃業の危機にある、という記事です。丁寧な仕事ぶりと地域への誇りが伝わってくる内容で、思わず「応援したい」という気持ちが湧いてきます。
しかし、人間の感情は長続きしません。スマートフォンを少しスクロールすれば、次の情報が目に飛び込んできます。仕事の通知が届けば、そちらに意識が向かいます。「あとで調べよう」という小さな保留のあいだに、その感情はあっという間に薄れていきます。
これは、「応援したい」という気持ちが弱いからではありません。むしろ現在のアテンションエコノミー、すなわち人々の注意が希少資源となり、次々と新しい情報がそれを奪い合う環境そのものが、一つの対象に関心を留め続けることを難しくしているのです。
だからこそ、事業者にとってECサイトの存在は決定的な意味を持ちます。
SNSの投稿にECサイトへのリンクが貼られていれば、消費者は感情が高まったその瞬間に、購買というアクションを取ることができます。逆に言えば、リンクがなければ、あるいはリンクを辿ったサイトで商品を購入できなければ、その感情的な高まりはそのまま消えてしまいます。
市川市動植物園のケースも、この点で示唆に富んでいます。
「パンチくんを応援したい」という気持ちが国内外に広がった際、園はふるさと納税・LINEスタンプ・グッズ購入・募金箱など、複数の「受け皿」を素早く整備しました。感情の高まりと支援の導線が同時に存在したことが、成果につながったと言えるでしょう。
応援したいという気持ちを持った消費者にとって、「調べてみたらECサイトがなかった」「サイトはあったが使いにくかった」「どこで買えるかわからなかった」といった体験は、不満や失望につながります。その失望は、次回の「応援したい」という感情の発生を抑制してしまうかもしれません。
事業者の視点から見れば、ECサイトは単なる販売チャネルではありません。それは、消費者の「応援したい」という感情をきちんと受け止め、行動へと架橋する場所です。
特に、SNSや口コミをきっかけに初めてその事業者を知った消費者は、サイトを訪れた際に商品の購入可否だけでなく、その事業者が「どんな人(会社)なのか」「何を大切にしているのか」を確認しようとします。ECサイトには、その問いに答える重要な役割があるのです。ECサイトで、自らの事業や活動にかける想いや、商品開発の背景・物語を丁寧に語ることで、消費者は単なる「買い手」から、物語を共有する「共感者」にもなりえます。
中小の事業者や個人作家にとって、ECサイトを持つ障壁はかつてに比べれば大幅に下がっています。ShopifyやBASE、minneといったプラットフォームの普及により、専門的な技術がなくても、比較的低コストで自分の「応援の受け皿」を用意できる時代になっています。
「バイコット」という潮流
近年、応援消費・応援購入を表す言葉として「バイコット(buycott)」という概念が使われるようになってきました。
バイコットとは、不買運動を意味する「ボイコット(boycott)」の対義語として生まれた造語です。ボイコットが「買わない」ことで抗議・拒絶の意思を示す行動であるのに対し、バイコットは「積極的に買う」ことで支持・応援の意思を示す行動を指します。消費という行為そのものを、社会的・政治的な意思表示の手段として捉え直す概念と言えます。
世界のバイコット実践者数を毎年同じタイミングで把握する継続調査を行っている水越氏によると、実際にバイコットしている人数は維持されていることが明らかになっています。一時的な盛り上がりとは別に、日常的にバイコットを実践する消費者が、国内外に存在するというのです。
出所:「【INTERVIEW】応援消費の拡大と今後について」『マーケティングホライズン(2023年7月号)』(閲覧日:2026年4月8日)
バイコットという概念の背景には、消費者が自らの購買行動を、価値観の表明あるいは社会への働きかけとして意識的に使おうとする姿勢があります。
どの企業の商品を買い、どの店舗を利用し、どのブランドを選ぶか。こうした日常的な選択が積み重なり、応援したい会社を支え、私たちの暮らしや社会を形作っていく。このような、「自分の選択が社会を良くする」という実感が、SNSで積極的に情報をやり取りする人たち間で広がってきています。
英語には、“vote with your wallet”という表現があります。お金の使い方で自分の意思や価値観を示すことを意味し、好きな企業の商品を買って応援することや、逆に、望まない方針の会社の商品を買わないことで意思表示することを指します。筆者は、こうした価値観に基づくバイコットは、今後日本でも広がる可能性が高いと考えています。
まとめ――ECサイトは「パーパスを伝える場」へ
本稿では、応援消費の多様な事例を紹介し、消費者の感情的な共感を購買につなぐECサイトの役割、そしてバイコットという概念について論じてきました。最後にその意味を整理します。
現代では、他人のためになる消費が正当な選択肢として定着しつつあります。
応援消費やバイコットは一過性のトレンドではなく、災害・コロナ禍・SNS普及・エシカル意識の高まりといった社会的潮流の中で、消費者の意識に根付いた動きです。
「何を買うか」だけでなく「誰から買うか」「何を支持して買うか」が問われる傾向は、今後さらに鮮明になるでしょう。
企業・事業者にとって、ECサイトは単なる販売チャネルではありません。
自社がなぜ存在するのか(パーパス=存在意義)、何を使命として事業を営むのか(ミッション)、どのような社会を目指すのか――そうした「人格」や「意志」を伝える場として設計する必要があります。
人間に「人となり」があるように、企業には「企業となり」、動植物園には「園となり」があります。訪問者にそれを伝えられるかが重要です。
消費者は商品だけでなく、その背後の「想い」を感じ取ります。「想い」に共鳴した消費者には「支持したい」という感情が芽生え、実際の購入につながります。
ECサイトを運営する企業・事業者は、今回解説した応援消費を特殊なパターンとみなさず、ファンをつくり継続的な支持を得るための重要なヒントとして活用してほしいと思います。
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