
コンビニエンスストア業界で第2位のファミリーマートは、2025年3月6日、ECサイト「ファミマオンライン」を開設しました。
同社は以前にもEC事業に取り組んでいましたが、前回のサービスは2018年に終了しています。今回の再始動は、ファミリーマートが近年強力に推進しているマーケティング戦略の一環としても注目を集めています。
本稿では、スタートしたばかりのファミマオンラインの特徴を紹介し、そのねらいを読み解きます。さらに、筆者の視点から見た今後の課題についても触れていきます。
ファミリーマートの店舗事業の現状
ファミマオンラインの解説をする前に、ファミリーマートの店舗事業について、直近の状況を確認します。
ファミリーマートが2025年4月9日に発表した2025年2月期決算によると、チェーン全店売上高は3兆2438億8800万円で、前期からは0.9%の減少でした。期末の店舗数が前期比20店舗減となったことなどが、全店売上高の減少につながっていると思われます。
近年、ファミリーマートの店舗数は減少傾向にあります。かつては、新規出店を続けることで成長を目指していましたが、最近の同社は、売場の改革や各種のマーケティング施策によって、既存店を強化する方向性を打ち出しています。
下のグラフは、既存店の日商、客数および客単価について、前期比の推移を表したものです。2025年2月期は、前期と比べると3指標とも伸び率が低下していますが、既存店は成長を維持していることがわかります。
◆ファミリーマートの既存店日商・客数・客単価の推移(直近3期)
備考:既存店日商の前期比は、たばこ、サービス商材(カード・チケット)を除いた数値。
出典:株式会社ファミリーマート「2024年度決算・2025年度計画」 を元に筆者作成。
また、ファミリーマートの既存店日商を月次で見ると、2021年9月から本稿執筆時点で公表されている2025年3月まで、43か月(3年7か月)連続で前年同月を上回っています。
マーケティングに強いファミリーマート
このように、既存店が好調を維持しているファミリーマートですが、マーケティングへの注力が結実していると言えそうです。
同社は2020年、CMO(Chief Marketing Officer=最高マーケティング責任者)のポジションを新設し、日本マクドナルドのマーケティング責任者などを務めた足立光氏を初代CMOに迎えました。
以降、マーケティング施策を強力に推進し、ユニークな商品やキャンペーンがSNSで話題になる機会も増えています。
2021年には、以下の取り組みを矢継ぎ早に行っています。
- 2021年3月 衣料品・日用品「コンビニエンスウェア」の全国発売開始
- 2021年8月 40周年記念販促「お値段そのまま40%増量作戦」を実施
- 2021年9月 店頭デジタルサイネージ「FamilyMartVision」のサービス開始
- 2021年10月 新プライベートブランド(PB)「ファミマル」を発表
これ以降も様々なマーケティング施策を展開しているファミリーマートに対して、「次はどんなことをしてくれるのだろう?」と、期待している顧客も多いのではないでしょうか。
筆者は、日頃から様々な小売企業の動向をウォッチしていますが、現在の日本において、ファミリーマートこそが「マーケティングに強い小売企業」だと考えています。
ファミリーマートの成長のカギを握るファミマオンライン
先に、2025年2月期末の店舗数が前期末よりも減少したことに触れました。実際には、ファミリーマートの期末店舗数は、2021年2月末から4期連続で減少しています(2025年2月末の店舗数は16,251店舗で、2021年2月末の16,646店舗から2.4%減少)。
現在の同社は、かつてのように新規出店を積極的に進めるのではなく、様々なマーケティング施策の実施によって既存店を強化するのと並行して、不調な店舗を閉店しています。既存店がいくら好調であっても、店舗数の減少が続けば、売上高を伸ばしていくことは難しくなります。
仮に、店舗売上が現状維持であっても、ファミマオンラインの売上が順調に増加を続ければ、以前のような旺盛な新規出店をせずとも、下図のように売上高は増加します。
◆店舗売上とファミマオンライン売上の推移イメージ
出典:筆者作成。
特に、オンラインでしか買えない商品を購入してもらうことで、店舗売上にプラスされる売上高の増加が期待できます。
ファミマオンラインの3つの特徴
マーケティングに力を入れ、既存店の強化を図ってきたファミリーマートが、2025年3月6日に新たにオープンしたECサイトがファミマオンラインです。
◆ファミマオンラインのトップ画面
出典:ファミマオンライン を加工。
ファミマオンラインは、これまで同社が展開してきた「ファミペイWEB予約」と「ファミリーマートギフトネット申込サービス」を融合した新しいオンラインサービスとして位置付けられています。
ファミペイWEB予約は、キャラクターグッズや、うな重、恵方巻、クリスマスケーキなどの季節商品などをネットで注文して店舗で受け取ることができるサービスだったことを考えれば、ファミマオンラインは既存のサービスの発展形であるとも言えそうです。
ファミマオンラインには、「とっておきに出会えるもうひとつのファミマ」というコンセプトがあります。このコンセプトのもとで展開されるファミマオンラインの特徴は、同社の2021年以降の活動の柱になっている、「『あなた』のうれしい」と「楽しいおトク」に、「『いつでも』便利」を加えた3つです。
◆ファミマオンラインの3つの特徴
出典:株式会社ファミリーマート ニュースリリース「店舗では買えない商品も!“とっておきに出会える”オンラインショップ『ファミマオンライン』誕生!~サンリオキャラクターズコラボやBE@RBRICKなど限定商品も続々登場!~」(公開日:2025年3月6日)
以下では、同社の2025年3月6日および同年4月17日のニュースリリースを参照し、ファミマオンラインの3つの特徴を紹介します。
特徴1:「あなた」のうれしい――来るたびにワクワクする品揃え
ファミリーマートの看板ブランドと、人気キャラクターや有名ブランドがコラボレーションした、ファミマオンラインでしか買えない限定グッズを定期的に販売します。
2025年3月には、同社の看板商品である「ファミチキ」の関連商品(寝袋とパジャマのセット、ペットウェア、ベアブリック)や、サンリオキャラクターズコラボグッズ(「ハローキティ」と、同社のアプリ「ファミペイ」のキャラクターである「ファミッペ」がコラボしたぬいぐるみや、サンリオの人気キャラクターがファミリーマートの制服を着用したマスコット)を展開しました。
◆ファミチキの寝袋とパジャマのセット
出典:株式会社ファミリーマート ニュースリリース「店舗では買えない商品も!“とっておきに出会える”オンラインショップ『ファミマオンライン』誕生!~サンリオキャラクターズコラボやBE@RBRICKなど限定商品も続々登場!~」(公開日:2025年3月6日)
同年4月には、「ファミマファンに贈る!」というテーマで、ファミッペのルームウェアやベビーウェア、ファミリーマート店舗をかたどったナノブロックを発売した他、同年4~6月にかけて、ファミリーマートカラーを採用した電動サイクル(いずれも税込みで、187,000円と297,000円の2種類)の注文を受け付けています。
また、今後は、同社が厳選した旬のフルーツやご当地グルメ、特産品などの、“おいしい”や“たのしい”が集まる「ご当地ファミマ」の展開を予定しているということです。
特徴2:「楽しいおトク」――オンラインならではの楽しい・おトクなお買い物
ファミマオンラインは、ファミリーマートのスマホアプリであるファミペイと連動しています。ファミマオンラインでの購入に応じてアプリにポイントが貯まる他、特別なクーポンがもらえるなど、買物が楽しくなる、お得な体験を取り入れています。
2019年7月に誕生したスマホアプリのファミペイは、独自の電子マネー(FamiPay)による決済機能や、クーポン配信、電子レシート、独自ポイント(ファミペイ・ポイント)と主要な共通ポイント、回数券などの便利な機能を備えています。
最近でも、例えば、2024年7月に、1か月の購入金額と来店回数でランクが決まり、ランクに応じて特典を得られる「ファミマメンバーズプログラム」を開始する等、ファミペイには新たな機能が追加されています。
多くの顧客が店舗での購買にファミペイを使用していることを考えると、ファミマオンラインがファミペイとうまく連携し、顧客が店舗における買物で享受している快適さやお得さを、ファミマオンラインでも感じることができれば、顧客満足の向上につながりそうです。
特徴3:「いつでも」便利――オンラインでかんたん注文、近くの店舗で受け取りができる
顧客はファミマオンラインで注文した商品を、近所の店舗で受け取れます。これは、全国47都道府県に1万6,000店を超える店舗を展開しているファミリーマートならではの強みを生かした利便性の提供です。
2025年4月現在、ファミマオンラインで注文して店舗で受け取ることができる商品は、同社のオリジナルブランドであるコンビニエンスウェアなど、限られた商品群(筆者が2025年4月23日に確認したところ、48アイテム)ですが、今後は、歳時の贈り物や、大切なイベントなどのお祝い事などに適した豪華なお弁当も展開予定とのことです。
ファミマオンラインのねらいは顧客との関係強化
ファミリーマートがファミマオンラインを立ち上げたねらいは、何なのでしょうか。まずは、同社でCMOを務める足立光氏のコメントをみてみましょう。
以前からEC対応が課題だったファミリーマート
今から2年前の2023年、マーケティングの課題について質問されたファミリーマートCMOの足立光氏は、「ファミリーマートはSNSでは存在感がありますが、ネット上の購買という面では、ほぼ存在感がありません。今後、間違いなくネットでの売上は伸びていきますが、ファミリーマートの商品は、ネットでは買えません」とした上で、「対応しなくてはならない課題だと思っています」と話していました。
足立光氏のコメントの出典:流通ニュース「ファミリーマート/足立CMOが語る『既存店売上19カ月連続前年超え』の舞台裏」(公開日:2023年04月28日、閲覧日:2025年4月2日)
つまり、少なくともファミマオンラインがオープンする2年前には、ECサイトを通じて、自社商品を販売する意向を持っていたということです。
普通のものは売らないファミマオンライン
同社CMOの足立光氏は、ファミマオンラインの立ち上げを発表した際、その目的や方向性について、「実店舗の外でも売り上げを伸ばすことが目的。すでに世の中にはたくさんのECサイトがあるので、普通のことはしないし、普通のものは売らない」と話していました。
足立光氏のコメントの出典:日本ネット経済新聞「ファミリーマート、EC事業に再参入 足立CMO『普通のものは売らない』」(公開日:2025年2月27日、閲覧日:2025年2月27日)
足立氏の「普通のものは売らない」というコメントにある通り、ファミマオンラインで販売されている商品は、他の店舗やECサイトでは販売されていないものが多く、特に限定商品はユニークなものばかりです。店舗で扱っている商品も販売されていますが、2025年4月現在、そのほとんどはコンビニエンスウェアです。
オープンして間もないサービスであり、今後、品揃えの方針が見直される可能性もありますが、今のところ、ファミマオンラインは「既存顧客に新規商品を販売する事業」として位置付けることができそうです。
企業の「製品やサービス」と、それを提供する対象としての「顧客」について、それぞれ、「既存」と「新規」に分け、成長戦略のオプションを検討する枠組みである「アンゾフの成長マトリクス」を用いて、ファミリーマートの主な取り組みを位置付けてみると、下図のように整理できます。
◆ファミリーマートの各種取り組みの位置付け(アンゾフの成長マトリクス)
出典:筆者作成。
この図は、筆者なりの視点でファミリーマートの主な取り組みを位置付けたものです。上述の通り、ファミマオンラインは、図中の②「既存顧客に新規商品を販売する事業」と位置付けています。
同様に、店舗改装や設備刷新による既存店強化は、①「既存顧客に既存商品を販売する事業」、未出店地域への新規出店は、③「新規顧客に既存商品を販売する事業」に、メーカーに対するFamilyMartVisionの広告枠の販売は、④「新規顧客に新規商品を販売する事業」と位置付けました。
ここで説明した状況とは異なるケース、例えば、これまでファミリーマートの店舗を利用していなかった新規顧客が(ファミペイの会員登録をして)ファミマオンラインで買物をしたり、既存顧客が普段使っているファミリーマートの店舗に設置されている「ファミロッカー」や「LUUP(ループ)」を利用することなどもあるでしょう。
とはいえ、それぞれの取り組みによって獲得を目指している顧客が、既存顧客か新規顧客であるかは、概ね上図のように整理できると思います。
これまでに発表されたファミマオンラインでの限定商品が、いずれもファミリーマートのブランドを生かしたものであることからも、ファミマオンラインが重視している顧客は、店舗の既存顧客の中でも、特に「ファミマファン」と呼びうるような熱心なファンであることが読み取れます。
「カスタマーリンクプラットフォーム」を強化するファミマオンライン
上述した通り、「ファミマオンラインの3つの特徴」は以下の3つです。
- 「あなた」のうれしい――来るたびにワクワクする品揃え
- 「楽しいおトク」――オンラインならではの楽しい・おトクなお買い物
- 「いつでも」便利――オンラインでかんたん注文、お近くの店舗で受け取りができる
同社は、ファミマオンラインを通じて、既存顧客に新たな商品を提供し(「あなた」のうれしい)、ファミペイと連動していることで顧客に店舗でもオンラインでも優れた購買体験を提供でき(「楽しいおトク」)、オンラインで注文した商品をいつもの店舗で手渡す(「いつでも」便利)、ということが可能になります。
つまり、ファミマオンラインを顧客に利用してもらうことで、単にEC事業の売上を獲得することに留まらず、ファミリーマートに対するロイヤルティを高めたり、来店を促進するなど、顧客との関係強化を図れるのです。
ファミリーマートの細見研介社長は、2023年7月7日におこなった「リアルリテールの逆襲」と題する戦略発表会で、「店舗を再定義し、デジタルを取り込み、顧客といつでもどこでもつながることのできる『カスタマーリンクプラットフォーム』として構築していく」と話しました。
細見研介氏のコメントの出典:日経クロストレンド「ファミマのリテールメディア全戦略 売り上げアップに『3つの効果』」(公開日:2023年7月13日、閲覧日:2025年3月1日)
同社は、「カスタマーリンクプラットフォーム」を構築することで、
- デジタルサイネージのFamilyMartVisionなどを活用して店舗をメディア化し、
- ファミペイから得た購買データを活用したマーケティング戦略を展開することにより、
- 顧客に合わせた情報発信を実現し、購買行動の変容を促すことで、
- 売上の増加と顧客満足度の向上を目指す
と説明しています。
情報出所:ファミリーマート採用専用ウェブサイト「ファミマが仕掛ける『リアルリテールの逆襲』! 学生必見の未来型デジタル戦略」(公開日:2024年12月11日、閲覧日:2025年4月10日)
◆ファミリーマートが構築するカスタマーリンクプラットフォーム
同社が新たに立ち上げたECサイト、ファミマオンラインも、カスタマーリンクプラットフォームを構成する重要な要素といえるでしょう。ファミマオンラインが軌道に乗れば、上図における「顧客とのつながり」の強化と「体験価値向上」が実現するはずです。
過去のECサイト「ファミマ・ドット・コム」を振り返る
ファミリーマートは、2000年に立ち上げたECサイト「ファミマ・ドット・コム」を、様々な試行錯誤の末、2018年に終了させています。
長期に渡ってEC事業を展開していたことから、同社のEC事業への思い入れは並々ならぬものであることが感じられます。新たにスタートしたファミマオンラインの成功は、同社にとって悲願といえるものかもしれません。
ファミマ・ドット・コムの取り組みを振り返ってみると、例えば、2010年のサービス刷新に当たっては、
- 他の総合ショッピングサイトと差別化された「ココでしか買えない」をコンセプトとした
- 全国のご当地グルメや人気のキャラクターグッズまで、こだわりをもった「専門ショップ」を集めた
- ショップの分類を、それまでの「カテゴリ」から「専門ショップ」にした
などの変更を加えています。
ファミマ・ドット・コムの情報出所:流通ニュース「ファミリーマート/通販サイトを再編」(公開日:2010年12月8日、閲覧日:2025年4月10日)
どことなく、新たにスタートしたファミマオンラインと似ていると感じるかもしれません。上で挙げたもの以外にも、例えば、ファミマ・ドット・コムでは、カテゴリーによっては注文商品の店舗での受け取りも可能でした。このように、新旧のECサイトの特長には、類似点は少なくないのです。
ファミリーマートでは、新しくECサイトを立ち上げるにあたって、国内外の店舗小売業が手掛けるEC事業について調べ、優れた施策を参考にしているはずです。
当然、自社の過去のECサイト、ファミマ・ドット・コムの取り組みも振り返っているでしょう。その上で、過去の自社の取り組みの中で評価できるものは採用している可能性があります。以前は必ずしも成功しなかったものの、今ならば成功する確率が高い施策もあるはずです。
ファミマ・ドット・コムを展開していた頃と現在で、大きく異なるのは、以下の2点です。
- コンビニエンスストアを取り巻く事業環境が厳しさを増した
- ファミリーマートがマーケティングに強い企業に変貌を遂げた
まず、1.ですが、ドラッグストア各社が食品の取り扱いを強化しながら出店を続けていることや、首都圏では小型スーパーのまいばすけっとが店舗数を増やしていることなどにより、他業態との競争がかつてより激化しています。
ファミリーマートの近年の出退店の状況を鑑みると、しばらくは店舗数が微減か現状維持となる可能性が高そうです。店舗数が増えないことを前提とすると、同社としては、図「店舗売上とファミマオンライン売上の推移イメージ」で示したように、既存店の強化で店舗売上を維持しつつ、競合他社との競争が少ないであろうファミマオンラインの売上を増やしていくことで、全社売上の増加を目指したいものと思われます。
一方、2.ですが、本稿で繰り返し述べてきたように、ファミリーマートが以前とは比べものにならないほどマーケティングに長けた企業になったという変化があります。同社が構築を進めるカスタマーリンクプラットフォームの中核をなすのが、ファミペイですが、これはファミマ・ドット・コムの時代にはありませんでした。現在は多くの顧客が店舗での商品購入時にファミペイを利用しており、その購買データをマーケティングに活用するサイクルが生まれています。
また、近年は、PBのファミマルや、コンビニエンスウェアなど、以前にはなかった存在感のあるオリジナル商品が増えていますが、ファミマオンラインでは、店舗事業以上にユニークなオリジナル商品やコラボ商品を販売しています。
ファミマオンラインは、ファミマ・ドット・コムとは別物ですが、同社が過去の取り組みから学んだことが、ファミマオンラインに生かされているはずです。以前と似たように見える取り組みであっても、かつてないほど顧客とつながり、マーケティング・カンパニーとなったことで、ファミリーマートは顧客ニーズを的確に捉え、ファミマオンラインを持続的に成長させていく可能性は十分あるでしょう。
ファミマオンラインに想定される課題と克服の視点
筆者はファミマオンラインの成功の可能性を十分に感じていますが、コンビニエンスストアがEC事業を軌道に乗せるのは決して容易なことではありません。
ファミリーマートに限らず、競合各社もこれまで果敢にEC事業へ挑戦してきましたが、一時的、あるいは部分的な成功にとどまり、継続的な成果につながるケースは少ないのが実態です。
そこで、ファミマオンラインが直面しうる課題のうち、店舗が関連する事項に着目し、それらを克服するために必要な視点や取り組みについて考察します。
真にシームレスな購買体験の提供が必要
顧客にとって、ファミリーマートの店舗とファミマオンラインでの買物を、同じように行えることが望ましいといえます。商品の購入だけでなく、それに関わる様々な行動に関しても、顧客が店舗とオンラインの違いを意識することなく行えることが理想です。
例えば、アプリのファミペイは、ファミリーマートが構築を進めているカスタマーリンクプラットフォームの中核に位置付けられているのですが、2025年4月現在、ファミペイを開いても、ファミマオンラインのサイトへの導線(リンク)は、目立つようには設定されていません。
アプリ画面をつぶさに見ていくと、最下段に並んでいる6つのアイコンのうちの1つが、ファミマオンラインのサイトへのリンクになっていることがわかりました。
◆ファミペイ画面下段に表示されるアイコン(イメージ)
出典:ファミペイの画面を参考に筆者作成。実際のアイコンの形状や色とは異なる。
ただし、このイメージ図にある通り、アイコン内に「EC」の文字と、アイコンの下に「お買い物」の文字はありますが、ファミマオンラインというサイト名は載っていません。
ファミペイの画面上に、わかりやすいファミマオンラインのロゴを示すなど、導線設計の改善の必要があると感じました。
また、筆者は先日、ファミマオンラインで買物をしたのですが、オンラインでの購買が「ファミマメンバーズプログラム」の対象になるのか、わかりませんでした。
◆ファミマメンバーズプログラムの概要
出典:ファミリーマート公式ウェブサイト「ファミマメンバーズプログラム」(閲覧日:2025年4月20日)
よく調べてみると、同社公式サイト内のファミマメンバーズプログラム紹介ページの「注意事項」に、小さな文字で「ファミマオンラインでご購入された商品は加算されます」と書かれていましたが、わかりやすく説明されているとは言いがたいものでした。
ファミペイ会員向けに2024年7月にスタートしたファミマメンバーズプログラムは、月間の来店回数と購買金額でランクが決まり、そのランクに応じた得点を翌月に受けられるというものです。顧客が、ファミマオンラインの購買も当プログラムの対象になると知っていたら、購買金額の多い当月にファミマオンラインで注文したはずのところを、このルールを知らないために、急ぎではないからと翌月にオンラインで注文し、特典を受けられない、というようなことが起きてしまいます。
これは、筆者が体験したシームレスではないと感じた一件と、想定される顧客にとっての機会損失ですが、ファミマオンラインの利用に伴って生じうる不便やわかりづらさは、他にもあるかもしれません。シームレスな購買体験を実現するためには、一歩ずつ、着実に、サービスの改善を図ることが必要です。
本部と店舗の連携が不可欠
ファミマオンラインは2025年3月6日にスタートしました。スタートから1か月半ほどが経過した本稿執筆時点で、ファミリーマートの店舗を利用している顧客のうち、ファミマオンラインのことを知っているのは何割くらいでしょうか。筆者は、2~3割程度ではないかと予想します。
筆者がファミマオンラインの認知が高くないと考える根拠の1つは、店舗でファミマオンラインの告知が行われていないことにあります。
例えば、スーパーマーケットが新たにネットスーパーを開始した場合、認知を高め、利用を促すために、売場にPOPを設置したり、チラシを配布します。
しかし、筆者の観測範囲に限りますが、ファミリーマートの店舗内で、POPやFamilyMartVisonなどでファミマオンラインについて知らせるような告知はなされていませんでした。また、多くの顧客が利用するファミペイ上でファミマオンラインの告知をすれば、認知を高める効果は絶大だと思われますが、十分な告知はなされていないように思われます。
ファミマオンラインの対象顧客がファミリーマートの既存顧客である以上、店舗内やファミペイでの認知向上や利用促進のための情報発信は重要な役割を果たします。
一方、これは前項の内容とも関連しますが、例えば、ファミマオンラインで注文した商品のことを、店舗の従業員に質問して、適切な回答をしてもらえるとすれば、これは、シームレスな購買体験と言えるでしょう。
このように、ファミマオンラインの利用を増やすには、本部主導で行う各種の活動に加え、店舗従業員の協力も欠かせません。ただし、フランチャイズ本部は、ファミマオンラインの利用が増えることが、店舗にとってどのような便益になるのかを示せないと、店舗の協力を得ることは難しいでしょう。
ファミリーマートでは、以前、全社でDXを推進する際に、本部から全国の店舗従業員に向け、100回以上も説明したといいます。その結果、短期間でDXを推進することができました。
情報出所:DIGITAL X 「ファミリーマートのDX戦略、『ファミペイ』のデータ基盤から広告と金融の新事業を生み出す」(公開日:2020年4月3日、閲覧日:2025年4月10日)
店舗数が多い分だけ、ファミマオンラインの利用増が店舗にどのような便益をもたらすかを理解してもらうのは容易ではありませんが、その分、店舗の協力は、ファミマオンラインの認知向上や利用促進に大きな力を発揮するはずです。したがって、本部は粘り強く店舗と対話を重ね、現場の理解と納得を得ながら施策を展開していくことが重要です。
まとめ
本稿では、近年、マーケティングに注力し、既存店が好調を維持するファミリーマートが新たに始めたECサイト、ファミマオンラインの特徴を解説し、そのねらいと課題を確認しました。コンビニエンスストアをとりまく競争環境が厳しさを増している中、ファミリーマートが、店舗事業に加えてEC事業で売上を獲得しようと考えるのは自然なことだといえるでしょう。
店舗小売業がEC事業を成功させるためには、言葉にすれば簡単ですが、顧客に対してシームレスな購買体験を提供することが欠かせません。また、ファミマオンラインの成功には、本部主導の取り組みに加え、店舗従業員の協力も重要になります。
小売企業にとってEC事業の推進はもはや避けて通れないテーマです。ファミマオンラインの動向を追うことで、店舗小売業がECにどう取り組むべきか、多くの示唆が得られるはずです。店舗とECの融合に関心のある方は、ぜひ今後も注目してみてください。