中古車業界のEC化を進める「バディカ」の5つのEC戦略

ビッグモーターの元社員が創立した中古車販売店「バディカ(BADDICA)」は、中古車のEC(オンライン)による販売に力を入れています。20241月には、「バディカダイレクト(BADDICA DIRECT)」という、ネット(オンライン)で取引を完結できるEC専門店を立ち上げ、開始から1年で2,000台の販売を記録するなど、ECによる販売実績を徐々に積み上げています。 

中古車のEC(オンライン)による販売は、2014年に中古車販売大手「ネクステージ」がECサイト大手「Amazon」と組んで取り組みましたが、まったくと言っていいほど結果が出ませんでした。ECサイト大手「DMM」でも「DMM AUTO」というサービス名称で、オンラインでの中古車売買を行っていましたが、思うように実績が出ず現在はサービスを提供していません。トヨタなどのメーカーも自社でECサイトを構築し、積極的に広告も出していますが、ほとんど実績は出ていません。

このように過去には様々な企業が中古車売買のEC化にチャレンジしてきましたが、ほとんど結果が出ていません。様々な業種でEC化が進む中、中古車業界のEC化はかなり遅れています。そのような中、バディカでは下記のような独自の戦略により、中古車業界のEC化を進めようとしています。

◆バディカの5つのEC戦略

 本日は、かつて中古車業界で仕事をしていた筆者が、他社がなしえなかった中古車業界のEC化を実現するバディカの「EC戦略」についてみていきます。

 

 2017年に四国で創業したバディカは、当初よりリアル店舗での中古車販売のみならず、遠隔地への販売や業者への販売に注力してきました。その結果、業者への販売において3年連続で『販売台数日本一(2021年~2023年度オートサーバー社調べ)』(全国7万会員中)を獲得するなど、徐々に取引台数を増やしてきました。

バディカは、従来より自社サイト上で購入時の諸費用や手続きを明確にするなどし、リアル店舗での対応が難しい地域からの中古車購入ニーズにも対応してきましたが、2024年1月に、「バディカダイレクト(BADDICA DIRECT)」というEC専門店を立ち上げ、オンライン取引のみで売買を完結させるサービスを開始し、中古車売買のEC化を進めています。

バディカの5つのEC戦略

長年において難しいとされてきた中古車業界のEC化について、バディカが取る主な「EC戦略」は下記の5つです。

戦略①納車から30日以内は全額返金保証

 中古車を購入したけれど、いざ納車されると下記のような理由により、再度乗り換えや、手放しを考える方も少なくありません。

◆中古車を購入したにもかかわらず、乗り換えや手放しを考えるユーザーの気持ち

・乗ってみたら思っていたのと違った

・意外と車の使い勝手が悪い

・急な事情(転勤や引っ越し)などで手放さなければならなくなった

・家族に黙って購入したら猛反対された

・急な出費などの経済的事情で車を維持できなくなった

 バディカでは、そのような場合のために、納車から30日以内は全額返金保証というサービスを提供しています。従来、上記のような理由により買った車をすぐ売却する場合は、車両本体価格の60~70%程度でしか買い取ってもらえません。例えば車両本体価格100万円の車の場合は、買取価格60~70万円となり、ユーザーは30~40万円のマイナスとなり大損してしまいます。

実は、返金保証というサービスは競合他社のガリバーでも実施しています。しかし、ガリバーの場合は車両本体価格のみの返金であるのに対し、バディカでは車両本体価格に加え、購入時の諸費用も含んだ返金(下記イメージ図参照)となります。ちなみに、他社大手の「ネクステージ」でも買取保証サービスという同様のサービスを行っていましたが、2023年4月にサービスを中止しています。

◆返金保証額イメージ図

※イメージ図は筆者作成

購入時の諸費用とは、購入時の整備代や名義変更の手数料や保証料などであり、中でも名義変更の手数料は購入者の名義にする費用であり、再度違う人に販売する場合は、改めてかかる費用となり、その費用もユーザーに返すということは、販売店(バディカ)の丸損になります。

諸費用も含めて支払額の全額を返すというのは、販売店の大きな損失となるため、従来どこの中古車販売店も実施してきませんでした。メーカーの中古車販売店含めてどこの販売店でも、買った車をすぐ売る場合は、購入時よりかなり安い金額で買い取られるというのが普通です。

ちなみに、中古車は特定商取引法で定められるクーリングオフの対象外であり、契約後のユーザーからの一方的なキャンセルはできません。 バディカは、法的にも必ずキャンセルに応じる必要は無いにもかかわらず、あえて損をしてでも全額返金を保証することで、Amazonや楽天で購入するように気軽にECで中古車を購入する流れを作っていきたいという想いがあります。

 

戦略②車の相談にAIを徹底活用

 車に詳しい方は別として、そもそもどのような車があるのか?車ごとにどのような特徴があるのか?予算内で探すにはどうしたらよいのか?という基本的なことを知りたいという方は多いです。 そのような疑問について、回答を得たいけれど、実際に販売店まで訪問するのは面倒とか、そこまで具体的ではないので営業されるのもイヤ、という方も多いです。

 バディカではそのような思いを持つ方のため、AIを活用した24時間受付の相談窓口を用意しています。具体的にはLINE上でのやり取りとなり、バディカが運営するYouTubeチャンネル上のノウハウ等も学習しながら、顧客のニーズに沿った回答を可能としています。利用後のアンケートでは「満足度が91%」とのことで、多くの方が参考になったと回答しています。

◆バディカダイレクトチャットAI利用アンケート

引用元:バディカダイレクトチャットAI利用後WEBアンケート

 積極的なAIの活用からEC販売へのハードルを下げるとともに、人的コストの削減にもつなげています。

 

戦略③YouTubeSNSの積極的活用

 バディカはYouTubeをはじめ、X(エックス)やインスタグラムなどSNSを積極的に活用し、情報発信を行っています。YouTubeの登録者数は直近で40万人を超えており、中古車販売店でこれだけの登録者数を持つところは、他にはありません

 近年は、従来のテレビCMやラジオ、交通広告よりも、YouTubeSNSを利用した広告のほうが効果が高い傾向がありますが、中古車業界でバディカのようにYouTubeSNSに力を入れている企業は多くはありません。

 バディカはYouTubeSNSで中古車に関する情報を積極的に発信しながら、非対面でも安心して中古車売買ができるということを伝えて、ECでの販売拡大にもつなげています。

 

 戦略④アフターフォローも自宅で対応可能

 中古車のアフターフォローというと、購入した販売店に持ち込んで対応してもらうのが普通です。ただ、中古車販売店は修理工場を併設しているところは少なく、整備の際は提携する整備工場に依頼するところが多いです。そのため、オイル交換ひとつするにしても時間がかかったり、追加作業が入ると数日間を要するということが多々あります。

そのような中、バディカでは株式会社Seibii(セイビー)と提携し、自宅で整備や点検を実施するサービスを提供しています。有償のオプションサービスとはなるものの、全国での対応も可能であり、販売店に訪問する手間はありません。

点検や整備はリアルの販売店や整備工場で実施するという従来の考え方を変え、ECで購入した車を、自宅にいながら点検・整備を受けられるようにすることで、ユーザーの負担軽減と安心感の向上につなげ、EC販売を促進しています。

 

 戦略⑤中古車買取もオンラインで完結

中古車の買取はリアル(対面)で行うのが当たり前とされてきました。なぜなら、車の内外装などの状態や事故歴の有無は実際の車を見なければわからないためです。直近でも中古車買取はリアルで行うというのが、業界のスタンダードであり、大手買取店はまずはユーザーの自宅に訪問して査定(出張査定)を行います。

そのような中、バディカではオンライン(LINE等)でのやり取りで、契約まで完結する仕組みを作っています。オンラインで査定を完結するということは、車を見ないで契約することであり、ユーザーからの画像と申告により査定金額を提示しています。そのため、中には誤った申告もあり、査定金額が正しくない場合もあります。

特に事故歴の有無については、誤りがあると査定金額に大きく影響します。例えば、事故歴があるのに、無いと申告された場合、実際の相場より高く買い取ることになり、バディカの損失につながりかねません。実際、誤った申告によりバディカが損失をこうむることも中にはあるとYouTube上で発言しています。

バディカはそのようなリスクを受け入れつつ、オンライン買取が進めば販売のほうでもオンライン化(EC化)が進み、ユーザーと販売側の双方にメリットが出ることを目指しています。

 

中古車業界でEC化がほとんど進まない5つの要因

様々な業界でEC化が進む中、中古車業界のEC化はほとんど進んでいません。下記、経済産業省の「令和5年度電子商取引に関する市場調査」によると、「自動車、自動二輪車、パーツ等」の分野におけるEC化率は3.6%と、他分野のEC化率に比べてかなり低い数値です。

データ引用先:令和5年度 電子商取引に関する市場調査報告書経済産業省

中古車業界単独のEC化率は集計されていませんが、筆者の感覚だと更に低く、1%にも満たないと考えています。

 中古車業界のEC化が進まない理由は、「高額な買い物だから」とか「車の売買はリアルで行うもの」といった昔からの考えもありますが、本当の理由は下記5つであると筆者は考えています。 

理由① 中古車販売店への不安
理由② 手続きのほとんどが紙ベース
理由③ 決済手段が「現金(振込)」「ローン」のみ
理由④ 買取(下取り)は実車査定が必要
理由⑤ アフターサービスの不安

バディカではこれらの要因について、下記のようにそれぞれ従来の慣習をくつがえしながら対策を取ることで、EC化を進めています。

理由① 中古車販売店への不安
YouTubeやSNSで中古車業界の内部事情など情報発信をすることで不安感を軽減

理由② 手続きのほとんどが紙ベース
名義変更書類のやり取りなど一部は紙ベースで残るものの、ほとんどのやり取りはLINEで完結

理由③ 決済手段が「現金(振込)」「ローン」のみ
⇒こちらは従来と同じ。

理由④ 買取(下取り)は実車査定が必要
オンライン上で完結

理由⑤ アフターサービスの不安
提携会社と連携し、自宅での点検・整備を実施

 決済手段が「現金(振込)」「ローン」のみ、という点については、バディカでも従来と同様であり、他社との差別化はありませんが、今後クレジットカードやQPコード決済などの新しい決済手段が利用可能となると、さらにEC化が進む可能性があります。

 中古車業界でEC化が進まない理由について詳しくは下記記事にまとめていますので、よろしければ参考にしてみてください。

 中古車業界のEC化が「ほとんど進まない」本当の5つの理由

EC販売が増加する3つの改良点

バディカはYouTubeやSNSを活用しながらECでの販売を拡大していますが、専用サイト「バディカダイレクト」では、下記3つの点に改良が加わるとEC販売がより加速するかと思われます。

改良点① LINE以外のチャットツール導入

現在のサイト上では、問い合わせ時はまずLINEでのコンタクトを取って相談となっていますが、いきなりLINEを登録するのはちょっと・・・とためらう方もいるかと思います。そのような方のために、LINE以外のチャットツールでのコンタクトも可能とすると、より広い問い合わせや相談を受けられるかと考えます。

改良点② 見積もり内容詳細の表示

現状では車両本体価格総額は表示されているものの、諸費用を含めた支払総額は表示されていません。LINEでの問い合わせからユーザー個々に応じた支払総額が提示されると思いますが、ユーザーの希望オプションや居住地を選択すれば、諸費用詳細と支払総額が自動で提示されればより検討しやすいと感じます。

改良点③ 納車までのスケジュールを自動で表示

一般的なユーザーは納車までどのくらいの時間がかかるのかを結構気にします。注文後の整備~名義変更~陸送のスケジュール感について、納車地の住所を入れるだけで、自動でスケジュール概要がわかると、より購入へのイメージがわくかと考えます。

 

将来的には「陸送の時間指定」にも挑戦

 オンラインで中古車購入した場合には、納車は陸送にて自宅まで届けられます。その際に、時間指定ができないという課題があります。

 時間指定ができない理由としては、陸送会社が仕事を請け負う構造して、多数の関連会社(下請け会社)が絡むことが通常で、実際に自宅まで届ける会社のスケジュールまで調整がしづらいということがあります。

 バディカの中野社長ははこの課題についても、実際に自宅まで届ける陸送会社に直接依頼するなどし、時間指定を可能にしていきたいとYouTube上で発言しています。Amazonや楽天でものを購入する際に、配達日時をするのと同様にすることで、より中古車販売のEC化を身近にしたいという想いのようです。

 

最後に

 中古車業界では長年に渡り、リアルでの取引が一般的であり、近年においてもその構図は大きく変わっていません。トヨタなどのメーカーも中古車のオンライン販売を手掛けていますが、実績はほとんど出ていません。

 中古車販売を手掛ける各社が本格的なオンライン販売に取り組みづらい理由は、車両の状態を伝えるもしくは把握する際に、正確さが失われることがあり、その結果、クレームや販売店の損失につながるからです。

 バディカではそのようなクレームや損失を受け入れることで、長い目でみてユーザーと販売店双方にメリットが出ることを目指しています。「全額返金保証」や「オンライン買取」では、一時的に損することがあるとしても、ユーザーの満足度を上げて、より多くの取引の行うことでトータルではプラスにしたいという想いです。

 ビッグモーターの不正事件もあり、中古車業界のイメージはあまりよくない中、取引のクリーンさや手軽さを武器に、バディカは徐々に規模を拡大しています。在庫台数や知名度では他社大手に劣るところもありますが、上記のようなEC戦略がより多くのユーザーに受け入れられることで、一層の発展が見込まれ、中古車業界のEC化拡大にもつながることが期待されます。