目的が決まっている時はECで買い、探索したい時はリアル店舗へ。現代の消費者は、ECとリアル店舗をこのように使い分けています。
リアル店舗に目を向けると、滞在時間が長かった割に買ったものはほんの少しという場合であっても、妙に満たされた気分になる、そんな購買体験をすることもあると思います。
消費者のタイパ志向が注目される現在、わざわざ店に行くことも、売場で商品を探すことも、購入商品を持ち帰ることもしなくてよいECへの追い風は強くなると思われます。
しかし、効率化の論理だけでは決して代替できない、リアル店舗に固有の価値があることも見逃せません。
本稿では、各種の調査データと筆者自身の体験を手がかりに、ECとリアル店舗それぞれが担うべき役割と可能性を考えます。
タイパ志向の消費者
「タイパ」という言葉が、私たちの消費行動を語るうえで欠かせないキーワードになっています。タイパとはタイムパフォーマンスの略で、時間対効果を意味します。この語は2022年に三省堂の今年の新語大賞に選ばれており、現代の消費トレンドを象徴する言葉として広く認知されています。
出所:三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2022」(2026年4月13日閲覧)
動画の倍速視聴や、購買プロセスの簡略化には、なるべく短い時間で成果を得たいという消費者のタイパ志向が現れています。
スマートフォンの普及とデジタル技術の発達を背景に、消費者は限られた時間をできるだけ効率的に使おうとするようになっています。
この傾向は、調査データからも確認できます。セイコーグループ株式会社の調査では、何事もタイパを高め、時間効率を優先して生活したいと回答した割合は、各年代とも高いことが分かっていますが、10代で最も高く、20〜40代がそれに続いています。
◆「何事もタイパを高め、時間効率を優先して生活したい」と回答した割合(年代別)

注意:「n」は回答者数を表す(単位は「人」)。
出所:セイコーグループ株式会社「セイコー時間白書2025」(2026年4月13日閲覧)を元に筆者が作成。
若年層を中心に根強いタイパ志向は、今後の消費行動の主流になっていく可能性があります。
また、買物の場面に絞ったデータもあります。
流通経済研究所が2025年に実施した調査によると、迅速に時間をかけずに買物したいと回答した割合は35.2%で、じっくり時間をかけて買物したいと回答した割合の26.9%を上回っています。
買物においても、時間効率を求める消費者の方が多数派になってきているのです。
また同調査では、買物を迅速に済ませるための工夫として最も多く挙げられたのが、事前に買うものを決めることでした。計画的に、手短に、買物を終わらせたいと考えている消費者像が浮かび上がります。
出所:鈴木雄高「買物における時間意識の分析―小売店舗の顧客体験設計への示唆―」『流通情報』No.579 | Vol.57 No.6(2026年3月号)
リアル店舗への不満と、ECへの追い風
タイパ志向の高まりは、リアル店舗への不満とも結びつきやすいと考えられます。
移動時間がかかる、レジに並ぶ必要がある、目当ての商品がどこにあるかわからず、商品を探すのに時間がかかる――こうした時間のロスを嫌う消費者にとって、ECやネットスーパーはリアル店舗よりも優れた買物体験を提供してくれる存在です。
タイパ志向の消費者が多いことを踏まえると、ECやネットスーパーはこの層の需要をもっと積極的に取り込むべきだと筆者は考えています。
「計画購買」の文脈において、ECはリアル店舗を上回る圧倒的な利便性を持っています。この優位性を軸に、需要獲得に貪欲であり続けることは、EC事業者にとって正当な戦略といえるでしょう。
リアル店舗とメーカーは、タイパにどう応えているか
ECへの追い風が吹く一方で、リアル店舗やメーカーもタイパ志向の消費者に積極的に応えようとしています。
イオンリテールが展開する「そよら」は、小商圏・高頻度来店を想定したコミュニティ型ショッピングセンターです。ワンストップで日常に必要な商品が揃い、通路も広く取られています。タイパを重視して短時間で買物を済ませることもできる一方、友人や家族とゆっくり過ごせる空間も提供する——効率と滞在の両立を意識した業態設計です。
出所:流通ニュース「そよら入曽駅前/埼玉県狭山市にオープン、タイパ・簡便商品が充実」(公開日:2025年3月24日、閲覧日:2026年4月13日)
コンビニエンスストアでも動きがあります。ローソンは、乱立していたプライベートブランドを3つ星ローソンに統一し、パッケージを刷新しました。商品名を大きく表示し、味わいが識別しやすいカラーを採用するなど、タイパ志向の消費者が短時間で判断しやすいデザインを重視しています。
出所:食品新聞「新PB『3つ星ローソン』 1000品を順次切り替え タイパ・コスパに応える」(公開日:2025年3月27日、閲覧日:2026年4月13日)
メーカーの動向も見逃せません。
近年、味の素や明治は、タイパを意識した商品開発・訴求を強化しています。忙しい朝にぴったりの商品や、調理時間を短縮できるミールキット・冷凍食品の拡充など、時間を節約したいという消費者ニーズに正面から応える姿勢を打ち出しています。
出所:日本食糧新聞「味の素名古屋支社、秋冬新商品のお披露目 タイパとコスパ意識」(公開日:2024年7月24日、閲覧日:2026年4月13日)、日本食糧新聞「明治、新商品で市場底上げ 『タイパ』などライフスタイル対応」(公開日:2025年2月28日、閲覧日:2026年4月13日)
各社のこうした動きの中で、筆者が特に興味深いと感じた事例があります。東京メトロ東西線・行徳駅周辺のドン・キホーテ、2店舗です(筆者現地視察による)。
「ドン・キホーテ行徳駅前店」は、コンビニエンスと位置づけられ、品揃えを厳選してタイパ志向に対応しています。必要なものを迷わず買えることを重視しています。
一方、徒歩1〜2分の距離に2025年6月にオープンした「ドン・キホーテ西友行徳店」は、ミラクルショッピングと位置づけられ、豊富な品揃えによるワクワク感を提供します。
これら2店舗の役割の違いは、店内POPでも顧客に明示されており、ニーズに応じた使い分けを促しています。
自社の近接する2店舗を、タイパに応える店舗と、ワクワクを提供する店舗として位置付け、顧客には目的や気分による使い分けを促し、店舗としては自社競合がなるべく生じないようにする、大変示唆に富む事例です。
タイパで割り切れない消費行動
ここまで、消費者のタイパ志向への対応について考えてきました。ただし、消費者のすべての行動が、タイパの論理に基づくわけではありません。
ここで興味深いデータを紹介します。
株式会社SHIBUYA109エンタテイメントの調査によれば、タイパを重視する若年層であっても、自分が大切だと思う事柄には時間をかけたいと考える割合が高いことが示されています。
◆「自分が大切だと思う事柄には時間をかけたい」に対する「当てはまる」程度(15~24歳)

注意:「n」は回答者数を表す(単位は「人」)。
出所:株式会社SHIBUYA109エンタテイメント(2024)「Z世代の時間の使い方に関する意識調査『タイパ』とは言わないZ世代 効率化した先にもとめる『非効率』」(公開日:2024年9月25日、閲覧日:2026年4月13日) を元に筆者が作成。
効率化したいという気持ちと、価値あるものには時間を使いたいという気持ちが、同じ人の中に共存しているのです。
これは、消費者をタイパ重視派と時間を惜しまない派に二分できないことを意味しています。同じ人が、場面や対象によって、タイパ(効率)を追求するか、あえて時間をかけるかを使い分けているのです。
筆者自身の体験を一つ紹介します。
先日、リニューアルオープンした三省堂書店神保町本店を訪れました。3フロアを歩き回り、たくさんの本を手に取りました。しかし、結局、その日は何も買いませんでした。
買物の成果という一点のみで評価すれば、「時間を無駄にした」と言えるかもしれません。しかし、私の中にそのような感覚はまったくありませんでした。それどころか、店内を歩き回りながら膨大な情報を浴び、感覚が研ぎ澄まされていくような、独特の充実感がありました。店を出た後には、「次に来た時は、あのジャンルの本を数冊手に入れよう」という、将来の楽しみも芽生えていました。
タイパという効率性の尺度の外側に、このような豊かなリアル店舗での体験が存在することを再認識したのです。
リアル店舗が消費者に提供する4つの「ワクワク」
では、消費者がリアル店舗に時間をかけたいと思うのは、どんなときでしょうか。
筆者はリアル店舗が提供するワクワク感を、大きく4つ「来店前」「店内探索」「購入決定」「帰り道」に整理しています。購買という行為を点ではなく線として捉えたとき、リアル店舗にしか存在しない豊かな時間が見えてきます。4つのワクワクを順に見てみましょう。
1.来店前のワクワク——期待と予感
1つ目は、店に向かう前、または、店に向かう時に始まるワクワクです。あの店に行けば、何かある。そんな予感を胸に、店へ向かう道中の高揚感。目的が曖昧なままでも、足が向く。そういう店が、消費者の心の中に存在しています。
これはECにはなかなか再現しにくい感覚です。ECサイトを開く行為は、多くの場合、すでに何かを買おうという意図のもとで行われます。購買の動機が先にあって、サイトへのアクセスが後に続く。
しかしリアル店舗への来店は、動機が曖昧なままでも成立します。なんとなく行きたいという気持ちが、来店を引き起こすことがある。そのなんとなくの中に、期待と予感が詰まっています。
行きたいと思わせる店を作ることは、リアル店舗にとって最初の、そして最も根本的な競争力です。
2.店内探索のワクワク——セレンディピティ
2つ目は、店内を歩き回る中で生まれるワクワクです。棚を眺め、手に取り、思ってもみなかった商品と出会う。宝探しのような感覚、と言えばわかりやすいでしょうか。マーケティングの世界では、こうした予期せぬ出会いをセレンディピティと呼ぶことがあります。
筆者が三省堂書店神保町本店で体験したのも、まさにこれでした。3フロアを歩き回り、背表紙を眺め、手に取り、また棚に戻す。そのプロセスの中で、もともと探していなかった本が視界に入り、思いがけない興味が喚起される。何も買わなかったにもかかわらず、情報の洪水を浴びて感覚が開かれるような充実感がありました。
ECのレコメンド機能も、ある種のセレンディピティを演出しようとしています。この商品を買った人はこんな商品も買っています、という提案は、偶然の出会いを模倣したものです。しかし、画面上のレコメンドと、棚の前に立って手に取る体験とでは、身体的な豊かさがまるで異なります。重さ、質感、匂い、隣に並んでいる別の商品との偶然の取り合わせ——リアル店舗の探索体験は、五感を総動員するものです。
3.購入決定のワクワク——選ぶ喜び・決める喜び
3つ目は、買うものを決める瞬間のワクワクです。私たちは、リアル店舗の売場で、迷って、比べて、選んで、買う、そのプロセス自体を楽しいと感じています。
筆者には、こんな記憶があります。中学生のころ、塾の授業前に、今はもうないCDショップに立ち寄ったものです。限られたお小遣いの中から、どのCDを買うかを真剣に迷いました。何度も手に取り、また戻し、最終的に1枚を選ぶ。その選択の行為そのものに、強い喜びがありました。
ECでの購買は、この迷いの時間を最小化しようとします。レビューや評価点数、比較機能は、意思決定を効率化するための仕組みです。確かに便利ですが、迷うこと自体が持っていた豊かさを、同時に削ぎ落としているともいえます。選択に時間をかけることは、非効率ではなく、消費体験の一部だったのです。
4.帰り道のワクワク——所有と使用のあいだ
4つ目は、筆者が最も注目したいワクワクです。買物を終えて、店を出た後、帰り道のワクワクです。
商品を買った瞬間、所有権は購入者に移ります。しかし、家に帰って実際に使うまでには、まだ時間と空間の隔たりがあります。その隔たりの時間を楽しめる。これがリアル店舗での買物にしかない、独特の豊かさです。
先ほどのCD購入の話に戻ると、塾の授業を終えて、空腹なままバスに乗って帰る時、待ちきれずにCDの薄いセロファンのパッケージを開け、歌詞カードを取り出して読んだ経験が忘れられません。その時点では、まだ音楽は聴いていません。購入はしたけれど、使用はしていない状態です。帰りのバスに揺られながら、家に帰ってCDを聴くことへの期待がふくらんでいく、ワクワクしていたあの時間が、とても豊かなものでした。
ECで購入した場合、商品は数日後に玄関先に届きます。便利ですが、帰り道はありません。注文した瞬間から、商品が届く瞬間まで、消費者の手元には何もありません。所有の実感が得られるのは、荷物が届いてからです。
購買体験を「点」として捉えれば、ECもリアル店舗も、望む商品を手に入れるという結果は同じです。しかし「線」として捉え直すと、リアル店舗には、来店前から帰り道にいたるまで、豊かな時間が流れていることに気づかされます。
ECは徹底した効率化によって買物から無駄を削ぎ落としました。しかしその過程で、消費者が本来価値だと感じていたワクワク感も失ってしまったのかもしれません。
本稿の検討を踏まえて
以上の検討を踏まえて、筆者の考えを述べたいと思います。
まず、ECはタイパ志向の消費者が抱えるリアル店舗への不満を、もっと積極的に引き受けてよいと思います。計画購買・指名買いの領域では、ECの合理性はリアル店舗を大きく上回ります。この強みをさらに磨き、需要獲得に貪欲であり続けることは、EC専業事業者にとっての正しい方向性です。
しかしここで強調したいのは、EC専業事業者だけの話ではないということです。リアル店舗を持つ小売業者こそ、自社ECやネットスーパーの活用を本格的に推進すべき局面にきていると筆者は考えます。
消費者は、いつも同じ動機で買物をするわけではありません。セレンディピティを求めてリアル店舗に足を運びたいときもあれば、いつもの商品を手早く補充したいだけのときもあります。猛暑で外出が健康リスクになる日や、育児や仕事で時間的な余裕がない日に、ネットで注文すれば済むという選択肢を自社で用意しておくことは、他社への顧客流出を防ぐため、今や欠かせない対応です。
参考記事:「猛暑がメーカー・小売業・消費者を変える――地球沸騰化時代の来店価値再考とECの事業機会」(公開日:2026年4月3日)
リアル店舗とネットスーパー・自社ECを使い分けてもらいながら、どちらの場面でも自社の顧客でいてもらう。「じっくりとした買物体験はリアル店舗で」「効率的な補充はネットで」という両立こそ、リアル店舗小売業が目指すべき姿だと考えます。EC専業事業者との競争が激化するなかで、リアル店舗という資産を持つ小売業者だからこそ取れる戦略です。
その上で、ECとリアル店舗はそれぞれの強みを活かした役割分担が自然だと考えます。
ドン・キホーテ行徳の事例が示すように、タイパに応える場とワクワクを提供する場は、同じ商圏の中で共存できます。ECはECとして利便性・速さ・確実性を徹底的に追求し、リアル店舗はリアル店舗として、ワクワクの提供という固有の価値を磨く。その役割分担が、これからの流通の姿ではないでしょうか。
ただし、もう一歩踏み込んで考えると、EC事業者にもリアル店舗のワクワク提供力から学べることがあります。消費者は必ずしも極限の効率化を望んでいるわけではありません。SHIBUYA109の調査が示すように、大切なことには時間をかけたいという気持ちも持っています。消費者が求めていない過剰な効率化や機能追加は、むしろ体験の豊かさを損なうことがあります。
ECサイトにおいても、偶然の出会いを演出するレコメンド機能や、購入体験そのものを豊かにする工夫はすでに試みられています。しかしそれは、リアル店舗の宝探し感や帰り道のワクワクをまだ十分に再現できていません。
今後、多くのEC事業者にとっては、効率化の追求と体験の豊かさをどう両立させるかが、取り組むべき重要な課題となるでしょう。
参考記事:「『未知との遭遇』を生み出すリアル店舗の売場づくり――EC設計へのヒント」(公開日:2026年4月1日)
ここまで記事をお読みいただきありがとうございます。 ◆Shopifyが選ばれる理由 ✓ 販売手数料ゼロ 売上がそのまま手元に残る設計です 土屋鞄製造所、BASE FOOD、Tabioなど国内の実力派ブランドも採用。175カ国以上で展開し、多言語・多通貨にも対応しているため、越境販売を視野に入れているEC事業者にとっても現実的な選択肢です。 まずは90日間、コストゼロで試してみてください。ECサイトの構築・移行を検討中の方へ
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