猛暑が日常化する現代、夏の日中に外出することは、身体的な負担を伴う行為へと変わりつつあります。
異常な暑さの中、買物のために炎天下を歩くことは、もはや単なる家事の範囲を超えています。
本稿では、「地球沸騰化」ともいわれるこの時代において、小売業やメーカーが猛暑対策をどのようにビジネスに組み込んでいるのかを見ていきます。あわせて、暑さが消費者の行動にどのような変化をもたらしているのかを整理し、その延長線上で、EC事業の在り方について考察します。
現代は地球沸騰化時代――暑く、長くなる夏
気候変動は世界的な課題です。
記録的な暑さとなった2023年7月、国連のグテーレス事務総長は、「地球温暖化時代は終わり、今や地球沸騰化時代となった」と述べました。
◆「地球沸騰化時代」の到来を告げるアントニオ・グテーレス国連事務総長

出所:UN News (United Nations) “Hottest July ever signals ‘era of global boiling has arrived’” より筆者がキャプチャ。(公開日:2023年7月27日、閲覧日2026年4月1日)
国内でも2023年、2024年の夏は記録的な暑さとなりましたが、2025年はさらに暑くなりました。観測史上最高気温を記録した地点が多く、最高気温が40℃以上となった地点も25地点に上り、気象庁の担当者が「130年近い統計データのなかで断トツだ。この夏の高温は異常だった」とコメントするほどでした。
出所:朝日新聞「今年の夏、史上最も暑かった 気温の平年差+2.36度 世界も猛暑」(公開日:2025年9月1日、閲覧日:2025年9月20日)
また、気象庁は、近年の異常な暑さを受け、これまでの「夏日(25℃以上、30℃未満)」、「真夏日(30℃以上、35℃未満)」、「猛暑日(35℃以上)」に加え、最高気温が40℃以上の日の呼称を定めるために、アンケートを実施しました。
出所:気象庁ウェブサイト「最高気温が40℃以上の日の名称に関するアンケートについて」(閲覧日:2026年2月28日)
夏の暑さは熱中症リスクとなるため、政府は「暑さ指数」に基づき、「熱中症警戒アラート」を発表し、私たちの注意を促しています。
工事現場などで働く人の安全確保のため、事業者には熱中症対策が義務付けられました(2025年6月に「改正労働安全衛生規則」施行)。
夏は、気温が高くなっているだけでありません。
最近の研究によると、1982年から2023年の42年間で夏の期間は約3週間長くなり、春と秋が短くなっていることが明らかになっています(三重大学・立花義裕教授の研究グループによる)。
日本の季節は、春夏秋冬の「四季」から、夏と冬の存在感が大きな「二季(にき)」になりつつあるのかもしれません。
出所:「現代用語の基礎知識」選 T&D保険グループ 新語・流行語大賞「第42回 2025年 授賞語」(閲覧日:2026年4月1日)
百花繚乱、夏向け商品
夏の暑さは、汗、におい、日焼けの原因となります。それだけでなく、先述の通り、健康リスクも高めます。
メーカー各社は、夏季に私たちが感じがちな、不満、不便、不自由といった「不」を解消する商品を次々と開発、発売しています。夏向け商品で特筆すべきなのは、既存のカテゴリーに収まりきらない、新規性あふれる新ジャンルの商品群が多いことです。
例えば、首筋を冷やす「ネッククーラー」。電動式(ペルチェ素子)のものと、PCM素材(28℃以下で凍る)のものがあります。
これと並んで、広く普及しているのが「ハンディファン(携帯型扇風機)」です。
ファンといえば、筆者は「ファン付きウェア」に注目しています。建設現場などで働く人が着る、内蔵されたファンで中に外気を取り込み、汗を蒸発させて体温を下げる仕組みの服として普及しましたが、最近ではタウンユースのカジュアル服も登場しています。
また、高遮熱素材を使った「完全遮光日傘」を使う人も増えています。「日傘男子」という言葉もあるように、男性向けのデザインの日傘も登場し、支持を集めています。筆者も所持していますが、手放せません。
食品の新ジャンルとしては、「アイススラリー」を挙げておきたいです。シャーベット状のパウチ容器入り飲料で、身体の中から深部体温を効率的に下げます。医療・スポーツ分野から、日常使いへと広がっています。
◆主な猛暑対策商品カテゴリー

出所:各種資料を参考に筆者作成。
10年前には、存在しなかった、あるいは珍しかった商品が、今では夏の必需品となっています。
夏商戦に注力を入れる小売業――早く始めて、長く続ける
小売業各社は、店舗やECサイトで、上記のような猛暑対策の新ジャンル商品をしっかりと品ぞろえし、売場で顧客に対して強く訴求しています。多くの企業が、暑さ対策商品を春のうちから販売しており、中には、冬が終わらないうちに店頭に並べる企業もあります。
2026年の例を見てみましょう。
2026年に夏向け商品のアイテム数を前年の1.5倍程度に拡大するローソンは、3月下旬には販売を開始しています。
出所:株式会社ローソン ニュースリリース「今年は暑さ対策商品を昨年より約1.5倍に増加」(公開日:2026年3月23日、閲覧日:2026年3月31日)
また、猛暑対策を一時的な季節対応ではなく、生活の質を支える重要なテーマと位置付けているイオンは、2026年の夏商戦を早くも3月に開始しました。同年3月上旬に、昭和の夏の定番アイスバーを、4月上旬には令和の猛暑対策商品としてアイススラリーを販売しています。
出所:イオン株式会社、イオンリテール株式会社、イオントップバリュ株式会社 ニュースリリース「ベストプライスから“楽しむ夏”と“猛暑を乗り切る夏”の新提案 『割ってアイスバー』&『凍らせて飲むアイススラリー』」(公開日:2026年2月25日、閲覧日:2026年2月28日)
無印良品は、寝具や衣料品で冷感商品を拡充しており、生地に冷感加工を施したクッションやかけ布団などを2月中旬から販売している他、4月には風通しの良い微細な穴が空いた「風を通す半袖シャツ」を販売すると発表しました。
出所:日本経済新聞「無印良品、早くも猛暑対策を発表 寝具や衣料で冷感商品を拡充」(公開日:2026年1月23日、閲覧日:2026年3月10日)
一方、「長くなる夏」に対応するため、ドラッグストアのウエルシア薬局は、2025年に、猛暑対策商品の店頭展開を10月まで延期しました。
出所:日本経済新聞「猛暑グッズ10月まで熱戦 ウエルシア、日傘の在庫2倍」(公開日:2025年9月14日、閲覧日:2025年10月1日)
このように、小売業各社は「二季化」への対応を強化していることがわかります。
暑さを避けて買物のしかたを変える消費者
続いて、消費者に目を向けてみます。
「熱中症警戒アラート」が発表された日は外出を控えることが推奨されています。
出所:環境省 熱中症予防情報サイト「熱中症予防行動ポスター(2023年5月作成版)」(閲覧日:2026年4月1日)
そのため、気温が高い日や時間帯には買物のための外出を控える消費者が増える傾向にあります。
流通経済研究所が2025年に行った消費者調査によると、気温が高い時には、多くの消費者が買物のしかたを変えると回答しており、中でも年代の高い女性は、その傾向が強いことがわかっています。
買物の仕方をどのように変えるかを確認すると、最高気温が高い日はなるべく買物に行かないという回答が特に多くなっています。また、熱中症警戒アラートが発出された時は買物に行かない、日中を避けて夜や朝に店に行く、という消費者も比較的多く存在します。
出所:鈴木雄高「猛暑が消費者の買物意識と購買行動に与える影響を探る」、流通経済研究所 戦略セミナー『気候変動と消費者行動から見るこれからのリテール戦略』(開催日:2026年3月19日)
夏の消費者に対する小売業の対応策 5つの案
小売業各社は、消費者が快適で健康的な夏を過ごせるように、猛暑対策商品を品ぞろえし、来店を待ちます。しかし、猛暑の常態化は単に「来店を減らす外部要因」にとどまらず、消費者の購買行動そのもの、とりわけ来店という行為のあり方を変えつつあります。
実際、暑さを避けて来店を控える消費者が一定数存在することが明らかになっており、小売業はこの構造的変化に対応する必要があります。どのような対応が考えられるでしょうか。
案1 暑さのピークを迎える前の購買を促進(シーズン単位での前倒し)
非食品や、食品の中でも日持ちのする商品(水・飲料・酒・米など)については、購入タイミングの前倒しを促します。すなわち、暑さが本格化する前の段階で、必要な商品をあらかじめ備蓄してもらうことを狙います。
「暑さがピークを迎える前に買っておきましょう」「夏に必要な商品をストックしておきましょう」といったメッセージを、店頭のPOPやアナウンス、あるいはスマホアプリなどで届けることが有効です。シーズン単位での需要の前倒しを実現する施策といえます。
案2 週間天気予報を参考に前倒し来店を促進(週次・日次での前倒し)
より短期的には、天気予報の週間予報などを活用し、暑くなる可能性が高い日の前に来店・購買を促します。これは、週次・日次レベルでの需要の前倒しです。
「今週は木曜日以降に特に暑くなる予報が出ています。水曜日までに必要な買物を済ませておきましょう」といった具体的な呼びかけが考えられます。アプリで気温に連動した広告やクーポンを配信できるのであれば、それも有力な施策となります。
また、来店した消費者に対して、数日後に暑さのため来店できない可能性を想定し、冷凍食品など日持ちする食品をレコメンドすることも有効です。
案3 来店時間シフトを促進(安全性への配慮を含む)
来店時間の分散を図ることも重要です。高齢者には暑くなる前の午前中、会社員などには暑さが落ち着く夜間の来店を促すことで、比較的安全な時間帯への来店を誘導します。
具体的には、朝の来店を促す「朝市」「アーリーバード・セール」や、夜間の「夕涼み市」「サマーナイト・バザール」などの施策が考えられます。これは単なる販促ではなく、消費者の健康と安全に配慮した取り組みでもあります。
案4 ECシフトの加速と受け取り手段の多様化
実店舗を運営する小売企業は、暑さを理由に来店を控える消費者に対し、自社EC(ネットスーパーやネットコンビニなど)への誘導を強化する必要があります。これは、来店減少に対する需要の受け皿を確保する施策です。
参考記事:鈴木雄高「ライフネットスーパーの成長の軌跡と将来展望」 ecAction (公開日:2025年11月10日、閲覧日:2026年4月1日)、鈴木雄高「セブン‐イレブン EC『7NOW』成長の可能性を探る」 ecAction (公開日:2025年6月5日)、鈴木雄高「ファミリーマートのEC『ファミマオンライン』のねらいと課題」(公開日:2025年4月30日)。
一方で、多くの企業は配送キャパシティ(トラックの便数)の限界という課題を抱えています。夏季の高温が常態化する将来を見据えれば、配送能力の拡張に向けた投資は不可欠といえるでしょう。これは供給制約の解消にあたります。
さらに、配送負荷を軽減しつつ利便性を高める手段として、受け取り方法の多様化も重要です。たとえば、消費者が車から降りずに商品を受け取れる「ドライブスルー・ピックアップ」や「店舗受け取りロッカー」の導入は、有効な選択肢の一つです。イオンや楽天西友ネットスーパーでは、猛暑期にこうしたオプションの利用が急増しています。これはラストワンマイルの最適化に寄与します。
参考記事:鈴木雄高「Green Beansとイオンネットスーパーの比較で知るイオンのねらい」 ecAction(公開日:2025年3月10日、更新日:2026年2月27日)
案5 売場環境の快適化による来店価値の向上
猛暑下では、買物に出かけること自体が消費者にとって大きな負担となります。そのため小売業は、単に来店を促すだけでなく、「この店に行けば涼しく快適に過ごせる」という価値を提供することが重要になります。
具体的には、入店時に涼しさを感じられる空調設計や、店内で一時的に休息できるスペースの設置、冷たい飲料やアイスなどをすぐに購入できる売場配置の工夫などが考えられます。また、ミストや送風といった設備の活用により、体感温度を下げる取り組みも有効です。
さらに近年では、自治体が指定する「クーリングシェルター」や、地域で涼しい場所を共有する「クールシェア」といった取り組みも広がっています。小売店舗がこうした役割を担うことで、消費者にとっての来店動機は、購買だけでなく、安全に滞在できる「場」としての価値へと広がります。
こうした施策は、来店そのものの心理的・身体的ハードルを下げるとともに、滞在時間の延伸にもつながります。結果として、購買機会の創出にも寄与することが期待されます。
これは、来店の時間や手段を調整する施策とは異なり、来店という行為そのものの価値を高める取り組みであるといえます。
以上の施策はそれぞれ独立しているように見えますが、本質的には、来店という行為の価値を再定義し、その「時間」「場所」「手段」を再設計する試みと捉えることができます。猛暑が常態化する社会において、小売業に求められるのは、単に商品を揃えることではなく、消費者の購買行動そのものを再構築する視点であるといえるでしょう。
EC事業者は夏季の需要をつかめるか
前節では、店舗小売業による猛暑対応策について考えましたが、暑さを理由に外出を避けたいという消費者心理は、EC事業者にとって単なる需要の一時的増加にとどまらず、購買行動のオンラインシフトを加速させる契機となります。
特に気温が高い日は、これまで実店舗での購入が前提とされてきた商品カテゴリーにおいても、EC利用の障壁が下がり、初回利用のハードルが引き下げられると考えられます。このタイミングで、初回利用者向けの特典を提供することなどにより、新規顧客の獲得につなげることが可能となります。
もっとも、食品の取り扱いに不慣れな場合、高温状態での品質管理や、ラストワンマイルにおけるオペレーション負荷の増大には注意が必要です。
このような課題は存在するものの、猛暑が常態化する日本の夏は、EC事業者にとって需要獲得の機会であると同時に、購買行動のオンラインシフトを一層促進する局面であるといえるでしょう。
まとめ
猛暑が常態化する現代において、消費者の購買行動は大きく変化しています。
メーカー各社は、消費者の不満、不便、不自由といった「不」を解消する新ジャンルの商品を、競い合うように開発しています。
小売業とEC事業者はそれぞれの強みを活かしながら、消費者の購買行動の変化に対応することが求められます。
とりわけEC事業者が、この暑さを追い風として需要を取り込めるかどうかは、今後の成長を左右する重要なポイントとなるでしょう。
暑さは単なる制約ではなく、新たな価値創出の契機となり得るのです。
ECサイトの構築・移行を検討中の方へ
ここまで記事をお読みいただきありがとうございます。
EC運営をしていると、「販売手数料が重い」「プラットフォームのコストが利益を圧迫している」と感じる場面は少なくないはずです。
そんな方に紹介したいのが、世界100万ショップ以上が使うコマースプラットフォーム Shopify(ショッピファイ) です。
◆Shopifyが選ばれる理由
✓ 販売手数料ゼロ 売上がそのまま手元に残る設計です
✓ クレジットカード手数料が業界最安レート 薄利の商材でも収益計算が立てやすい
✓ 90日間無料トライアル 本番運用前に十分な検証期間が取れます
✓ 楽天市場との連携開始 既存チャネルを活かしながら管理を一元化できます
✓ WordPressやInstagram、noteとの連携 今あるメディア資産をそのままストアに転換可能
土屋鞄製造所、BASE FOOD、Tabioなど国内の実力派ブランドも採用。175カ国以上で展開し、多言語・多通貨にも対応しているため、越境販売を視野に入れているEC事業者にとっても現実的な選択肢です。
まずは90日間、コストゼロで試してみてください。







