店舗アプリを導入したものの、「ダウンロード数は増えているのに売上につながらない」「気づいたらアクティブユーザーが激減していた」という悩みを抱える企業が増えています。
筆者がこれまで5件の店舗アプリ開発・運用に携わってきた経験から言えるのは、店舗アプリは導入がゴールではなく、運用次第で顧客離れを招く「諸刃の剣」になるということです。継続的に使われるアプリと、すぐにアンインストールされるアプリの違いは「運用の質」にあります。
本記事では、小売業の店舗アプリ運用に携わってきた筆者がプロならではの視点で、ユーザーが離脱する原因、顧客離れを防ぐ運用施策、休眠ユーザーの復帰手法、運用効果の測定指標について解説します。
適切な運用を行えば、アプリ経由の来店頻度や購入頻度を高め、売上向上につなげることは十分に可能です。
1. 店舗アプリ運用における2つの厳しい現実
店舗アプリの運用を始める前に、まず把握しておくべき2つの現実があります。これらを理解せずに運用を進めると、期待した効果が得られないまま予算と時間を浪費することになりかねません。
現実①:低いアプリ継続率
ある調査によると、アプリインストール翌日の継続率が約25%、7日後には約12%まで低下すると報告されています。さらに30日後には5〜6%程度まで落ち込むケースも珍しくありません。
これは100人がアプリをダウンロードしても、1ヶ月後に使い続けているのはわずか6人程度という計算です。さらに深刻なのは、インストール後3日以内に1日あたりアクティブユーザーの77%を失うというデータもあることです
ただし、裏を返せば「継続率を改善する余地が大きい」とも言えます。業界平均を上回る継続率を実現できれば、それだけで競合との差別化につながるのです。
◆iOS,Androidにおけるモバイルアプリの継続率

現実②:運用放置によるユーザー離脱の加速
もう一つの課題は、アプリを導入しただけで満足し、運用が放置されるケースが非常に多いことです。
筆者が関わった案件でも、リリース後3ヶ月間ほとんど更新がなかったアプリでは、アクティブ率が半減していました。新着情報もなく、クーポンも更新されず、プッシュ通知も送られない状態では、ユーザーがアプリを開く理由がなくなるのは当然です。
店舗アプリの失敗パターンとしてよく見られるのが、「会員証をアプリ化して紙のコストを削減しただけ」というケースです。このようなアプリは、単なるデジタル会員証にすぎず、継続的に利用する価値を提供できていません。
2. ユーザーが離脱する4つの原因
では、なぜユーザーは店舗アプリから離脱してしまうのでしょうか。調査データと筆者の経験をもとに、主な4つの原因を解説します。

原因①:初回登録のハードルが高い
筆者が最も多く目にしてきた離脱ポイントが、初回登録の段階です。
ある調査では、62.8%の人が「アカウント登録が面倒でネットショップでの購入をやめたことがある」と回答しています。これは店舗アプリでも同様で、ダウンロード後に会員登録画面が表示され、名前、住所、電話番号、メールアドレス、パスワードと次々に入力を求められると、多くのユーザーは途中で離脱してしまいます。
筆者が関わったある小売チェーンのアプリでは、当初5画面にわたる登録フローを設計していました。しかし、登録完了率が想定を大きく下回ったため、必須項目を見直して3画面に短縮したところ、登録完了率が改善しました。
特にスマートフォンでの入力は負担が大きく、「後でやろう」と思ったユーザーの多くは二度と戻ってきません。店頭で「アプリをダウンロードするとクーポンがもらえます」と案内されても、会員登録画面で「住所入力」が出てきた瞬間に離脱されるケースは非常に多いです。
原因②:自分に関係のない通知・クーポンが届く
別の調査では、アプリをアンインストールした理由として「自分に関係のない通知がきたから」が28.4%という結果が出ています。
全顧客に同じ内容のクーポンを配信する「一律配信」は、実装が簡単で運用負荷も低いため多くの企業が採用しています。しかし、20代女性に60代向けの健康食品クーポンを送っても興味を持たれることはありませんし、毎週来店する常連客に「初回限定クーポン」を送るのも的外れです。
筆者の経験では、一律配信を続けていた企業のクーポン開封率が5%を下回っていたケースがありました。興味のない通知が続くと、ユーザーはプッシュ通知をOFFにするか、最悪の場合アプリをアンインストールします。一度通知をOFFにされると、再度ONにしてもらうのは極めて困難です。
原因③:ポイントやクーポンに魅力がない
別の調査データでは、「ポイントやクーポンが魅力的でなかった」がアンインストール理由の26.6%を占めています。また、「初回インストールの特典を使い終わった」も24.9%と高い割合です。
ユーザーは明確なメリットを期待してアプリをダウンロードしています。しかし、初回クーポンを使い終わった後に魅力的な特典がなければ、アプリを開く理由がなくなります。継続的にアプリを利用してもらうには、使い続けることで得られるメリットを設計する必要があります。
原因④:アプリ自体が不便・使いにくい
「アプリが不便だった」というアンインストール理由も23.1%と無視できない割合です。また、「何度もログイン情報を入力させられたから」という調査結果もあります
筆者が見てきた「不便なアプリ」の典型例としては、以下のようなものがあります。
◆不便なアプリの特徴
- 会員証を表示するまでに4〜5回タップが必要
- アプリを開くたびにログインを求められる
- 動作が重く、表示に時間がかかる
- Wi-Fi環境でないと会員証が表示されない
- どこに何の機能があるか分かりにくい
特にレジ前で会員証を提示する場面では、スムーズに表示できないとユーザーにも店舗スタッフにもストレスがかかります。一度「このアプリは使いにくい」という印象を持たれると、その後の利用頻度は大きく下がります。
3. 顧客離れを防ぐ5つの運用施策
ここからは、顧客離れを防ぎ、継続利用を促すための具体的な運用施策を解説します。いずれも筆者が実際の運用現場で効果を確認してきた手法です。
施策①:初回登録のステップを最小限にする
初回登録での離脱を防ぐには、入力項目とステップ数を徹底的に削減することが重要です。必須項目は「メールアドレス」と「パスワード」のみに絞り、住所や生年月日は後から任意で入力できる設計にします。LINE、Apple ID、GoogleなどのSNSアカウント連携を導入すれば、入力の手間を大幅に削減できます。登録ステップ数は最大3画面以内に収めることを目標にしてください。
また、登録完了後すぐに使えるメリットを提示することも効果的です。「今すぐ使える500円クーポン」など、登録直後に得られる特典があれば、登録完了のモチベーションが高まります。
筆者が関わった案件では、詳細情報の入力をスキップできる設計にしたところ、登録完了率が向上しました。詳細情報は後からポイント付与などのインセンティブと引き換えに入力してもらう方式です。
施策②:セグメント別配信で「自分ごと」にする
一律配信からセグメント別配信に切り替えることで、クーポンの開封率と利用率を大きく改善できます。筆者が関わった案件では、購買履歴に基づくセグメント別配信を実装したところ、開封率が従来の約1.5倍に向上しました。
効果的なセグメント設計としては、来店頻度別に月1回未満の顧客には高割引率・週1回以上の常連には新商品クーポンを配信する方法、最終来店日別に30日以上来店のない顧客には復帰特典クーポンを配信する方法などがあります。
作業服専門店FIELDの事例では、顧客属性に基づいたセグメント別のクーポン配信を行った結果、女性限定クーポンの利用率が以前の1.5倍に増加しています。
セグメント配信は最初から細かく分けすぎず、まずは「常連客」と「ライト層」の2セグメントから始めることをおすすめします。
施策④:アプリ内コンテンツを定期的に更新する
アプリを開いたときに「いつも同じ画面」では、ユーザーは次第にアプリを開かなくなります。週1回以上の新着情報更新、季節ごとのキャンペーン情報、新商品の入荷情報など、定期的にコンテンツを更新することが重要です。
更新頻度が高いアプリほど、ユーザーは「何か新しい情報があるかも」と期待してアプリを開くようになります。逆に、更新が止まったアプリは「死んでいる」と認識され、アンインストールの対象になります。
筆者が関わった案件では、最低でも週1回は何かしらのコンテンツ更新を行うルールを設け、更新担当者と更新曜日を明確に決めて運用しています。
施策⑤:アプリの使い勝手を継続的に改善する
アプリの使い勝手は、リリース後も継続的に改善していく必要があります。会員証が起動から2タップ以内で表示できるか、オフライン環境でも会員証が表示されるか、ログイン状態が適切に保持されているかといった点をチェックしてください。
改善のヒントは、アプリストアのレビューやカスタマーサポートへの問い合わせから得られます。「使いにくい」という声が上がったポイントは、同じ不満を持つユーザーが大勢いると考えるべきです。ただし、レビューの要望すべてに対応する必要はありません。同様の要望が複数投稿されているか、コア機能の利用を妨げる問題かといった基準で優先順位をつけて対応することが重要です。
4. 運用で陥りがちな4つの失敗パターン
ここでは、店舗アプリ運用で陥りがちな失敗パターンを整理します。これらのパターンを避けることが、効果的な運用の第一歩となります。
失敗①:導入して満足、更新が止まる
最も多い失敗パターンが、アプリをリリースした時点で「仕事が終わった」と認識してしまうケースです。店舗アプリは導入がゴールではなく、運用こそが本番です。3ヶ月も更新がなければ、多くのユーザーにとってそのアプリは「存在しないもの」になってしまいます。
運用放置を防ぐためには、運用担当者と責任範囲を明確にし、週次・月次の更新スケジュールを事前に決めておくことが重要です。
失敗②:とりあえず毎日プッシュ通知を送る
「せっかくプッシュ通知が使えるのだから」と、毎日のように通知を送ってしまうケースも少なくありません。過剰なプッシュ通知は通知OFFやアンインストールの原因になります。プッシュ通知は「ユーザーの時間をいただいている」という意識で、本当に価値のある情報だけを適切な頻度で配信することが大切です。
失敗③:全員に同じクーポンを一律配信する
運用の手間を省くために、全ユーザーに同じクーポンを一律配信し続けるケースも多く見られます。一律配信の問題点は、「自分に関係ない情報が届く」とユーザーに認識されてしまうことです。一度その印象を持たれると、その後どんなに良い情報を配信しても開封されなくなります。
失敗④:KPIを設定せずに運用する
「なんとなく運用している」状態では、何が上手くいっていて何が問題なのかが分かりません。
ダウンロード数だけを見て「順調に増えている」と安心していても、継続率が低ければ新規獲得のコストが無駄になっています。効果測定なくして改善はありません。
最低限設定すべきKPIとしては、以下があります。
継続率(1日後、7日後、30日後)、月間アクティブユーザー数(MAU)、プッシュ通知の開封率、クーポン利用率、アプリ経由の来店数・売上があります。
これらの指標を定期的に確認し、数値が悪化した場合は原因を分析して対策を打つ。このPDCAサイクルを回すことが、アプリ運用の基本です。
5. 休眠ユーザーを復帰させる3つの手法
アプリをダウンロードしたものの、しばらく利用していない「休眠ユーザー」へのアプローチも重要な運用施策です。新規ユーザーを獲得するよりも、休眠ユーザーを復帰させる方がコスト効率が良いケースも多くあります。
手法①:休眠期間に応じたセグメント別アプローチ
休眠ユーザーへのアプローチで重要なのは、「早めに手を打つ」ことです。モンストの事例では、離反しているユーザーは30日以内に呼び戻さないと、復帰してもらうのが格段に難しくなると報告されています(出典:MarkeZine「モンストが実践するアプリ休眠ユーザーの復帰施策」)。
休眠期間別のアプローチとしては、7日間利用なしではライトな通知、14日間利用なしでは特典訴求、30日間利用なしでは復帰特典クーポン、60日以上利用なしではメールやLINEなど別チャネルでのアプローチが効果的です。
手法②:復帰特典の設計
休眠ユーザーを呼び戻すには、「戻ってくる理由」を作る必要があります。復帰限定クーポン、ボーナスポイントの付与、限定商品の先行案内などが考えられます。ただし、休眠ユーザーばかりに特典を付けすぎると、現役ユーザーから不満が出ることもあるため、バランスを考慮することが重要です。
筆者が関わった案件では、「3ヶ月以上来店のない会員限定20%OFFクーポン」を配信したところ、約30%の休眠ユーザーが1ヶ月以内に来店しました。
手法③:プッシュ通知以外のチャネル活用
長期間休眠しているユーザーの場合、プッシュ通知の許諾がOFFになっている可能性があります。そのため、登録メールアドレスへのメール配信、LINE公式アカウントとの連携、店頭での声かけなど、アプリ以外のチャネルも活用することが効果的です。
特に店頭での声かけは効果的です。「アプリをお持ちでしたら、今お使いいただけるクーポンがありますよ」という一言で、休眠していたアプリを思い出してもらえることがあります。複数チャネルを組み合わせることで、休眠ユーザーとの接点を増やし、復帰の可能性を高めることができます。
6. 運用効果を測定する5つの指標
店舗アプリの運用効果を正しく把握するには、適切な指標を設定し、定期的に測定することが不可欠です。ここでは、最低限押さえるべき5つの指標を解説します。
指標①:継続率(リテンション率)
継続率は、アプリをインストールしたユーザーが一定期間後も利用し続けている割合を示す指標です。計算式は「継続利用ユーザー数÷新規インストール数×100」となります。
一般的には、1日後、7日後、30日後の継続率を計測します。業界平均と比較して自社アプリの継続率が低い場合は、オンボーディング(初回体験)やコンテンツの見直しが必要です。
指標②:アクティブ率(DAU/MAU)
DAU(Daily Active Users)は1日あたりのアクティブユーザー数、MAU(Monthly Active Users)は月間アクティブユーザー数を指します。
MAUに対するDAUの比率(DAU/MAU)は、ユーザーがどれだけ頻繁にアプリを利用しているかを示す「粘着率」として使われます。この比率が高いほど、ユーザーがアプリを習慣的に利用していることを意味します。
指標③:プッシュ通知の開封率
プッシュ通知の開封率は、配信したプッシュ通知のうち、実際にユーザーが開封した割合です。開封率の目安としては、1〜5%がボリュームゾーン(一般的な水準)、5〜10%が良好、10%以上が非常に良好とされています。
開封率が低い場合は、配信タイミング、件名の内容、配信頻度などを見直す必要があります。セグメント別配信に切り替えることで、開封率が大きく改善するケースも多くあります。
指標④:クーポン利用率
クーポン利用率は、配信したクーポンが実際に店舗で使用された割合です。計算式は「クーポン利用数÷クーポン配信数×100」となります。
利用率が低い場合は、クーポンの内容(割引率、対象商品)、有効期限の設定、配信対象のセグメントなどを見直します。10%未満の割引率では利用されにくい傾向があるため、最低10%以上を目安にすることをおすすめします。
指標⑤:アプリ経由売上
最終的に重要なのは、アプリが売上にどれだけ貢献しているかです。アプリ経由売上の把握方法としては、アプリクーポン利用時の売上計測、アプリ会員証提示時の購買データ分析、アプリ経由のEC売上集計などがあります。
POSシステムとアプリの連携ができている場合は、アプリ会員の来店頻度や客単価を非会員と比較することで、アプリの効果をより正確に把握できます。
まとめ
店舗アプリの運用において最も重要なのは、「導入がゴールではなく、運用が本番」という認識を持つことです。
本記事で解説した重要ポイントは以下の通りです。
◆顧客離れを防ぐために押さえるべきポイント
- アプリの継続率は想像以上に低く、30日後には5〜6%まで落ち込むことを理解する
- 初回登録のハードルを下げ、ダウンロード直後の離脱を防ぐ
- 一律配信ではなく、セグメント別配信で「自分ごと」にする
- プッシュ通知は月4回以内を目安に、価値のある情報だけを配信する
- アプリ内コンテンツは最低週1回は更新し、「開く理由」を作り続ける
- 休眠ユーザーは30日以内に手を打ち、早期復帰を促す
- KPIを設定し、継続率やアクティブ率を定期的に確認する
調査データによると、アプリインストール後に「来店や購入頻度が増えた」と回答した人は40.4%に達しています(出典:Repro「店舗アプリについての利用実態調査」2024年)。適切に運用すれば、店舗アプリは確実に売上向上に貢献するツールとなります。
まずは自社アプリの継続率とアクティブ率を確認し、現状を把握することから始めてください。そのうえで、プッシュ通知の頻度見直しやセグメント別配信の導入など、本記事で紹介した施策を一つずつ実践していくことをおすすめします。
店舗アプリの成功は「ダウンロード数」ではなく「継続利用」で決まることを、ぜひ参考にしてください。
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