スウェーデン発祥の家具ブランド「イケア(IKEA)」は、ヨーロッパ・北米・アジア・オセアニアなど世界各地に出店している、世界最大規模の家具量販店です。日本法人であるイケア・ジャパンのECサイトは2017年開設と意外に最近で、このことからわかるように、業界においてもデジタルマーケティングは後手に回った企業です。
しかし、マーケティング戦略の軸をデジタルに据えてからは、ECサイトやアプリによって提供されるユニークなコンテンツや、物流のオートメーション化、プラットフォームごとに異なるアプローチで展開されるSNSマーケティングなど、次々に打ち出される施策によって極めて質の高いUX(顧客体験)が実現されおり、低迷していた業績をDXやオムニチャネル施策によって見事に回復・伸長させました。
本記事では、家具・インテリア業界の中でもひときわユニークな施策の展開によって、ユーザーの体験価値の最大化を実現するイケアについて、同社のデジタルマーケティングを中心に詳しく解説します。
イケア・ジャパンの業績概況
まずは、イケアの日本法人であるイケア・ジャパン株式会社の業績について簡単に解説します。下記は、2023年までの売上高と営業利益の推移を示したグラフです。本記事では、主にイケア・ジャパンについての記事となりますので、以降イケア・ジャパン=イケアと表記します。
◆イケアの売上高および営業利益推移(2018〜2023)
データ引用:イケア・ジャパン株式会社の第22期決算公告の決算・財務情報(PR TIMES)より筆者がグラフ作成
イケアの業績推移を見ると、2019年までは赤字低迷が続いたものの2020年には黒字化(4年ぶり)し、2022年までに売上を大きく伸長させました。このプラス推移には、渋谷、原宿、新宿といった売上効率の良い都市型店舗の新規開店が貢献していると見られており、新店舗のオープンがなかった2023年には売上が微減する結果となっています。
ECが業績向上に大きく貢献
イケアの最新のEC売上高についての具体的な数値は公開されていませんが、グループ全体としてはEC販売が非常に重要な成長分野となっています。2023年度のグローバルのEC化率は38.5%となっており、前年から実に19%もの成長を見せました。
もともとイケアグループは実店舗での販売にこだわっており、長年にわたってオンラインでの販売は行なってきませんでした。日本でECサイトがオープンしたのは2017年で、EC事業は後発の企業です。しかし、以降はデジタルチャネルを通じた顧客サービスを強化し続け、コロナ禍のEC需要も相まって、急伸長したEC売上が業績黒字化に大きく貢献したと見られています。
特に、近年ではECサイトにとどまらず、アプリやSNSを活用したデジタル戦略を積極的に進めております。次項では、業績向上につなげたイケアのデジタル施策について詳しく解説してまいります。
ユーザーの体験価値を最大化する7つのデジタルマーケティング施策
ここでは、ユーザーのUXを向上し、その価値を最大化するイケアのユニークなデジタル施策について、代表的な7つの施策を紹介します。
施策① AR技術により実店舗の商品展示を補強
店舗において商品に公式アプリをかざすと、商品情報やカラーバリエーションを確認することができます。この機能の特徴はAR技術が活用されている点にあり、例えば多色展開の商品が店頭に1色しか展示されていなくても、他色の商品をその場に展示されているような形で確認することができます。
◆商品のAR表示(デモ動画)
この機能はIKEA原宿店で試験的に導入されましたが、原宿店のように売り場面積が小さく展示できる商品が限られる都市型店舗において、ARによる擬似的な商品展示、いわゆるデジタルショールームによってその弱点をカバーすることが可能になります。
現在、このサービスはすでに終了してしまいましたが、デジタル技術を利用したユニークな取り組みだったので紹介しました。このサービスは終了してしまいましたが、AR機能は次に紹介する施策で引き続き活用されています。
施策② 自宅に展開できるデジタルショールーム
デジタルショールームは店舗だけではなく、自宅やオフィスでも体験できます。アプリ内の商品ページでは、AR機能によって自宅の部屋に該当商品の設置したイメージを実写で確認することができます。下記は、筆者の自宅で撮影したものです。
◆ARによる自宅での商品設置イメージ
ECサイトでは、いかなる商品も実際に手に取って確認することができず、寸法も数字でしか情報を得ることができないためサイズ感もわかりません。特にインテリアや家具は、寸法が購入を決める大事な要素です。この機能により、わざわざ店舗に行かなくても自宅やオフィスなどでサイズ感や空間調和、実際のレイアウトまである程度イメージすることが可能になります。
また下記のように、3Dモデリングによって360度のあらゆる角度から商品を確認することができるため、写真や動画では見ることができない商品の背面や底面までチェックした上で、ユーザーは商品に対する確信を持ってそのまま購入に進むことができます。
◆商品の3D表示
ECサイトで部屋のレイアウトが楽しめる
大がかりなルームレイアウトもECサイト上で気軽にシミュレーションすることが可能です。「IKEA Kreativ(イケア クリアティーヴ)」では、あらかじめ用意されたバーチャル空間、あるいはスキャニングした自分の部屋を使って、イケアの商品を自由にレイアウトすることが可能です。
非常に直感的なUIで、商品はワンクリックで部屋に配置でき、ドラッグ操作で好みの場所にレイアウトできます。気に入った商品はどんどんカートに追加していって、そのまま購入することも可能です。
擬似的にレイアウトが楽しめるのと同時に、欲しかった商品だけではない新しい商品に出会うことで、クロスセルにもつながりやすくなります。
◆IKEA Kreativ
このように、まさに自宅にいながらのショールーム体験によって、今までの家具インテリア購入では得られなかった新しい購入体験が提供されています。
施策③ ECと実店舗の在庫連携
ECサイトと実店舗の在庫連携は、小売での代表的なオムニチャネル施策のひとつです。イケアの商品は店舗在庫や商品販売場所をECサイト上で確認できますが、通常は情報連携のタイムラグがあるため、サイトに店舗在庫数までは表示しない場合が多いのですが、イケアの場合はしっかりと店舗在庫数まで記載されているため、ほぼリアルタイムでの在庫連携ができているものと推察できます。
店舗在庫がある商品は、そのままECで購入して指定した店舗と日時での店舗受け取りも可能ですし、商品受け渡しカウンターでの店頭購入もできます。
◆ECと店舗のリアルタイム在庫連携
施策④ Scan&Payで手軽に決済完了
店舗でのより快適な買い物体験のため、決済においてもアプリを活用した便利機能が実装されています。「IKEA Scan & Pay」は、商品バーコードをアプリでスキャンすれば、そのまま専用レジで決済が可能になるという仕組みです。
◆「Scan & Pay」利用の流れ
② すべての商品のスキャンが終わったら、アプリで会計用の2次元コードを発行
③ 専用レジで会計用の2次元コードを表示し、コードをスキャンして決済
商品を複数購入しても、アプリで専用コードが発行されて一括決済できるので、大量の商品をレジで一つひとつスキャンする手間がなくなります。そのため、会計のために並ぶことなくスムーズな買い物が可能になります。なお、決済方法はキャッシュレスのみになります。
プライスタグはECサイトとも連携
尚、商品のプライスタフにはQRが記載されており、ECサイトに直結しています。QRコードを読み取るとECサイトの該当商品ページに遷移し、詳細情報やレビューを確認することができ、もちろんそのまま購入することが可能です。
施策⑤ スマートホームブランド「IKEA Home smart」
家具・インテリアブランドとして知られるイケアですが、実はスマートホーム業界にも参入しております。「IKEA Home smart」というブランド名でスマートホーム関連製品を展開しており、照明や電動ブラインド、さらには空気清浄機やスピーカーなどのスマート家電を扱っています。
各製品は専用のハブ(中継器)によって統括され、専用のスマートフォンアプリによってコントロールが可能になります。
◆イケアのスマートホーム
※画像はイケア公式サイトより引用
AIの発展とともに、スマート家電をはじめとしたIot技術の活用が徐々に広がっています。国内においては、スマートホームの普及率はいまだ低い水準ですが、海外では急速に普及が進んでおり、特にアメリカでは2021年時点で35.6%を超えています。国内でもこの流れを汲み普及が進んでいくと見られており、イケアのスマートホーム事業の急成長の可能性も十分に考えられるでしょう。
ここまで紹介した施策は、アプリ(スマートフォン)を活用したサービスや施策です。このように、イケアはアプリを軸に様々なデジタル施策を展開し、顧客のUXの最大化を実現しているのです。
施策⑥ カスタマーサポートのオムニチャネル化
イケアが展開するデジタル戦略の中でも、オムニチャネル施策は戦略の要石の部分でもありますが、イケアでは、同社の顧客サービスにおいて重要視するカスタマーサポートのオムニチャネル化を図っています。
オフラインとオンラインで同等のサービスが求められる中で、カスタマーサポートを顧客との重要なタッチポイントと捉え、通り一遍の対応ではなく多様な顧客ニーズに対応するためのサービスを実施しています。
具体的には、組み立てが必要な家具のプランニングサポートの実施や、ECサイトでは24時間対応可能なチャットボット「Billie」を提供し、いつでも気軽に問い合わせできる体制を構築。また、「店舗で忘れ物をしてしまった」という顧客のために、遺失物の管理サイトの「iLost(アイロスト)」を開設し、遺失物を検索できるようにしたことで、よりスピーディーな対応を実現しています。
施策⑦ SNSの活用
オムニチャネル施策で顧客とのタッチポイントを増やすには、SNSの活用が効果的で即効性があります。イケアの公式YouTubeチャンネルでは、デザイナーや店舗スタッフによるおすすめ商品の紹介やライブ配信のほか、大型商品の組み立て方法を配信するなど、購入後のサポートツールとしても活用しています。
筆者も経験がありますが、説明書を見ながら家具を組み立てる場合、実物と説明書のイラストを頭の中で一致させるのが難しく、組み立て方がわかりづらいことがよくあります。その点、動画であれば実際の商品でデモンストレーションする形なので、非常にわかりやすいメリットがあります。
ただ、惜しいのが商品ページのURLの記載がないことです。組み立て方法の動画は、ECサイトでも確認できない部分や商品の作り、質感も把握しやすいので、欲しい商品の検討材料にもなるからです。組み立て方法の動画から、そのまま購入したいというニーズは少なくないのではないでしょうか。
◆公式YouTubeチャンネル
また、Instagramの公式アカウントでは、実際の利用シーンをイメージしたクオリティの高い投稿写真で商品を紹介しております。投稿内の商品写真にはタグが設定されており、タップすることでそのまま購入画面に遷移します。しかも、Instagramのショッピング機能により同アプリ内で購入を完結することができます。
◆公式Instagramアカウント
また、Instagram Live(インスタライブ)を活用したライブコマースも実施しており、店舗スタッフがライブ配信でユーザーとコミュニケーションをとりながら様々な商品を紹介しています。
◆インスタライブによるライブコマース
家具・インテリアというジャンルは、アパレルと並んでビジュアルの訴求力が高くブランドの世界観も創りやすいため、Instagramは非常に相性の良いマーケティングツールと言えます。そして、さらにショッピング機能を活用することで、ECサイトに並ぶオンラインの販売チャネルとなるのです。
そのほかにも、FacebookやXでも公式アカウントを運用しており、こちらではキャンペーンの実施やユーザーとのコミュニケーションに重点を置いており、各SNSによってアプローチを変えながら使い分けているようです。イケアのSNSの活用方法からわかるように、SNSはブランド認知度を高めるとともに、企業の世界観を伝えやすくファンの育成にも効果的なマーケティングツールです。
DXによる物流の効率化を実現
先に述べたように、デジタル後発組のイケアは、店舗販売を中心にアナログベースの事業展開を行ってきましたが、数年前からデジタルに大きく舵を切り、DXの推進に注力しています。それはマーケティングだけでなく、社内オペレーションについてもデジタル化により業務効率化を図っています。
倉庫内のピックアップ作業の自動化
イケアではオムニチャネル戦略のひとつとして物流の整備を重視してきましたが、2022年、Tokyo-Bay倉庫において国内店舗で初となるロボティクスと自動化技術が導入されました。これは、「オートストア」と呼ばれる自動倉庫型ピッキングシステムで、ユーザーの注文に合わせてピッキングロボットが倉庫から商品を自動でピックアップし、従業員がいるポートまで商品を運んでくれるシステムです。
これにより従来のピックアップ作業がなくなり、約8倍の作業効率で発送が完了するようになりました。これまで関東圏の4店舗で行っていた小物配送のピックアップ業務をTokyo-Bayに集約したことで、より効率よく商品を発送する態勢が作られています。
◆ピッキングロボットによる自動ピックアップ
センター受取りサービス
また、全国に46拠点ある商品受取りセンターでの商品受け取りができる「センター受取りサービス」を展開しており、ECサイトや店舗で購入した商品をユーザーが直接最寄りのセンターで受け取れる仕組みを作っています。有料サービスですが、大型家具などを注文する際に近くの受取りセンターで受け取りをすれば、通常配送に比べ大幅に配送料金を節約できますし、センターの営業時間内であれば、好きな時間に商品の受け取りが可能というメリットがあります。
オムニチャネル化の一環としてユーザーの利便性を高めるとともに、イケア側はセンターまでの配送になることによるコスト削減、不在配達もなくなることで物流の効率化にもつながります。
参考:センター受取りサービス
SDGsの取り組み:循環型ビジネス
世界30カ国以上に展開するIKEAは、SDGsの意識も高く積極的な取り組みを行っています。特に、2030年までにサーキュラー(循環型)ビジネスの展開を目標として掲げており、その実現に向けて具体的に下記のような取り組みを行っています。
◆イケアの目指す循環型ビジネス実現のための具体的取り組み
・2030年までにすべてのポリエステル製品を再生可能素材やリサイクルポリエステル素材に
・環境に配慮した木材の管理(リサイクル材またはFSC認証林の木材)
・使い捨てアルカリ電池の販売終了
2019年には全世界のアウトレットエリアで、約6,200万個の潜在的な廃棄物(返品、破損、製造中止製品、展示品を含む)のうち約3,900万個を再販売したという実績があります。また2021年には、日本でもイケアのサステナビリティ戦略を具現化した「Circular Hub(サーキュラーハブ)」がIKEA港北にオープンしました。ここでは、顧客から買い取った家具やインテリアが展示されており、購入することも可能です。
◆IKEA港北のサーキュラーハブ
日本はSDGs、特に環境や資源・エネルギーに対する配慮において、世界に比べると達成水準が低いことが現状であり今後の課題ですが、このようなイケアの先進的な取り組みは、今後の日本全体のビジネス戦略の在り方に大きな影響を与えるものであると筆者は考えます。
まとめ
家具・インテリア業界のみならず、小売業界全体でもデジタルシフトが遅かったIKEAですが、デジタル戦略に舵を切ってからは次々とユニークな施策を打ち出し、今やグローバルのEC化率は約40%の高水準です。国内の家具業界トップのニトリもEC化率については10%を超える程度、業界全体のEC化率にしても約30%程度ですので、IKEAのEC施策が見事に顧客のニーズにはまったということが言えるでしょう。
イケア・ジャパンは、国内ではニトリ、無印良品といった競合ブランドに追随する形ではありますが、マーケティングやオペレーションにおいて極めて短期間で推進されているDX化と核心を突いた施策、都市型店舗やアプリで提供されるオムニチャネル体験、あるいは積極的に実施しているサステナビリティな取り組みなどは、国内企業の中でも抜きん出た推進力を有しています。
イケアの数々の取り組みとその成果は、業界のみならず国内企業全体のビジネスモデルにおいても重要な役割を果たしていると筆者は考えており、今後の更なる成長が期待されます。
家具ECサイトを構築するなら「futureshop(フューチャーショップ)」が良い理由
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