「未知との遭遇」を生み出すリアル店舗の売場づくり――EC設計へのヒント
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朝食用のシリアルと牛乳だけを買うつもりでスーパーマーケットに入ったのに、店を出る頃にはエコバッグがずっしり――そんな経験はありませんか。

実は、スーパーマーケットで購入される商品の7割以上は、あらかじめ予定されていなかった「非計画購買」によるものであることが知られています。食生活や小売業を取り巻く環境が大きく変化してきたにもかかわらず、1980年代から現在まで、この傾向は大きくは変わっていません。

出所:鈴木雄高(2016)「店内における消費者購買行動の基礎知識」公益財団法人流通経済研究所(編)『インストア・マーチャンダイジング〈第2版〉』日本経済新聞出版社, p.24-50.

店内を歩きながら、目に留まった商品をついカゴに入れてしまう。こうした購買行動は、ごく自然に起きているように見えます。しかし、その背後には、スーパーマーケットが長年にわたって磨き上げてきた「売場づくり」の工夫が存在しています。思わずもう一品手に取りたくなるような仕掛けが、店内の随所にちりばめられているのです。

こうした考え方は、スーパーマーケットに限ったものではありません。書店やコンビニエンスストアなど、多くのリアル店舗が、顧客の購買行動の理解をもとに売場を設計しています。

本稿では、こうしたリアル店舗の売場づくりをひもときながら、その考え方がECサイト設計にどのような示唆を与えるのかを考えていきます。

1.スーパーマーケットの売場づくりの基本 7つのポイント

まずは、スーパーマーケットの売場づくりの基本から見ていきましょう。

ポイント1.入口の「青果」――季節感の演出とリズムの設計

スーパーマーケットの店舗に入ると、目に飛び込んでくるのは、色鮮やかな季節の野菜や果物です。鮮度の良さをアピールする効果があるのはもちろんですが、それ以外にも、来店した顧客の気分や行動をやわらかく変化させるための工夫があります。

野菜や果物が持つ自然の色彩は、「春らしくなってきた」「もうすぐ夏だ」といった季節の感覚を呼び起こし、買物への意欲を静かに高めていきます。

また、顧客の歩く速度に働きかける効果もあります。青果は、色・形・量感が豊かで、情報量が非常に多い売場です。棚に商品が縦と横に直線的に並んだ売場よりも、自然と視線が止まりやすく、歩く速さも自然とゆるみやすくなります。また、青果は一品ごとに形状や色、鮮度などが異なるため、売場で比較や吟味といった選択行動が必要となり、滞留や減速を生みます。

スーパーマーケットの入口付近に陳列された青果は、ともすると季節の移り変わりに気づかず足早に歩きがちな現代人が、季節感を知覚し、足取りをゆるめ、リラックスして買物をスタートするきっかけとなるのです。

ポイント2.「4つのマグネット」――献立を自然に組み立てる仕組み

スーパーマーケットでは、外周沿いに、入口から順に、青果、鮮魚、精肉、乳製品といった主要なカテゴリーの売場が配置されています。

これらはいずれも、多くの顧客があらかじめ購入を予定しているカテゴリーであり、顧客が磁石に吸い寄せられるように、次々と売場に立ち寄る「マグネット」として機能しています。フロアの四隅にこうした強力なマグネットを配置することで、本来は自由に歩き回れるはずの顧客の多くが、自然と外周沿いを回遊するようになります。

外周沿いを歩きながら主要な売場に立ち寄ることで、売場を一巡するなかで自然とその日の献立が組み立てられていく――そのような設計になっています。

ポイント3.「エンド」――商品の晴れ舞台

顧客は外周沿いを歩きながら、肉や牛乳などの計画購買商品をカゴに入れ、買物の目的を達成していきますが、ふとフロアの中心の方に目を向けると、縦方向に並んだ棚の角に目立つように陳列された商品が目に留まります。

棚のことをゴンドラと呼び、棚の端をゴンドラエンド(略してエンド)と呼びます。外周沿いのメインルートに面しているエンドは、中通路の定番売場よりも多くの顧客に見られる「優位置」とされる、販売力の高い売場です。

そのため、特に販売に注力している商品が並ぶことが多く、メーカーがPOPやデジタルサイネージなどを用いて、積極的にメッセージを発信する場にもなっています。飾りつけなどで演出されていることも少なくありません。いわば、「選ばれし商品」だけが期間限定で陳列される晴れ舞台です。

エンドは典型的な非計画購買が発生する売場であり、顧客にとっては、未知の商品と出会う場でもあります。

ポイント4.「定番売場」――いつも同じ場所に同じ商品がある安心感

外周のメインルートを離れ、調味料や乾物が並ぶ中通路に入ると、商品が整然と並んだ「定番売場」が広がります。にぎやかな外周沿いとは対照的に、静かで落ち着いた雰囲気が特徴です。

定番売場では、取り扱う商品(品ぞろえ)を決めた上で、「棚割(たなわり)」と呼ばれる考え方にもとづき、商品の配置が設計されています。まず、似たもの同士で分類します(グルーピング)。次に、それぞれの商品群を配置する場所を決め(ゾーニング)、さらに各商品を何列並べるか(フェイシング)を設計します。

◆棚割の作成手順

出所:加藤弘之(2016)「効果的な棚割作成に必要なシェルフ・スペース・マネジメント」公益財団法人流通経済研究所(編)『インストア・マーチャンダイジング〈第2版〉』日本経済新聞出版社, p.95の図をもとに筆者作成

こうして決められた配置に従い、商品は一定期間、通常は半年間、同じ場所に同じフェイス数で陳列されるのが基本です。そのため、顧客は「ここにいつも、これがある」と記憶しやすく、リピート購買や計画購買を行いやすくなります。

また、グルーピングによって近い性質を持つ商品同士が隣り合って並ぶため、顧客は類似商品を比較検討しやすくなります。

棚の前に立った顧客は、水平よりやや下に視線を向けることが多く、おおよそ腰から胸の高さにあたる棚段が、最も視線に入りやすい位置です。この高さは「ゴールデンゾーン」と呼ばれ、見られやすく販売力が高い優位置とされています。そのため、各カテゴリーを代表するブランドが、多くのフェイスで陳列されることが多いのです。

◆ゴールデンゾーン

出所:加藤弘之(2016)「効果的な棚割作成に必要なシェルフ・スペース・マネジメント」公益財団法人流通経済研究所(編)『インストア・マーチャンダイジング〈第2版〉』日本経済新聞出版社, p.89の図をもとに筆者作成

ポイント5.「ジャンブル陳列」――掘り出し物のサイン

整然とした棚の一角に、あえて乱雑に商品が投げ込まれたワゴンを見たことがあるかもしれません。これは、「ジャンブル陳列」と呼ばれ、崩れた状態が、顧客に「今だけ安い」「掘り出し物がある」といったシグナルとして伝わります。整然と並んだ売場とは異なる見え方が、価格やお得感への期待を自然に喚起するのです。

ジャンブル陳列は、整然と陳列された商品と異なり、顧客に「触れてもいい」と思わせ、心理的ハードルを下げます。その結果、顧客は商品を手に取りやすくなり、売場には探索する楽しさが生まれます。

ジャンブル陳列は、日常の買物の中に、エンターテインメントをもたらしているともいえるでしょう。

ポイント6.「クロス・マーチャンダイジング」――関連する商品の同時購買を促す

定番売場では、カテゴリーごとに売場が分かれ、売場内でグルーピングされているため、顧客は似た性質の商品を比較検討しながら購入することができます。
一方で、関連する異なるカテゴリーの商品は売場が離れているため、「同時購買」してもらうことは容易ではありません。

そこで、多くのスーパーマーケットでは、エンドや催事売場などを活用し、異なるカテゴリーの関連商品をあわせて陳列することで、同時購買を促しています。これを「クロス・マーチャンダイジング(クロスMD)」といいます。

クロスMDでは、購買履歴データを分析し、同時購買されやすいカテゴリーの組み合わせを明らかにしたうえで、商品が選ばれます。そこには、データ分析からロジカルに導かれる「根拠」と、この商品をぜひ試してほしいというバイヤーや店舗従業員のエモーショナルな「想い」が重ね合わされています。

顧客にとって意外な商品同士の組み合わせは、それだけでは「なぜ、この組み合わせなのか」と疑問を生むかもしれません。しかし、そこに想いが書かれた手書きのPOPが添えられていれば、その理由が伝わり、思わず手に取ってしまう、そんなことが起こり得るのです。

出所:折笠俊輔(2016)「店内で需要を喚起するインストア・プロモーション」公益財団法人流通経済研究所(編)『インストア・マーチャンダイジング〈第2版〉』日本経済新聞出版社, p.111-147.

ポイント7.消費者行動研究の知見が活かされた売場づくり

ここまで、スーパーマーケットの売場に潜む緻密な設計を見てきました。これらはバラバラに存在しているのではなく、底流には、消費者行動を理解するために行われてきた研究を通じて蓄積された知見があります。

大半の顧客は、来店時には必ずしも多くの商品を買う予定があるわけではありません。店内を歩いているうちに、エンドで予期しない商品と出会ったり、買い忘れていた商品を思い出したり、ジャンブル陳列の売場でお買い得商品を発見したりしながら、多くの商品を非計画購買していきます。

顧客が計画購買しかしないのであれば、店舗は顧客があらかじめ認識しているニーズに応える場にとどまります。しかし実際には、多くの顧客が非計画購買を行っています。これは、顧客が店内で新たな気づきを得たり、まだ言語化されていなかった欲求を自覚したりして、その場で購買につなげていることを意味しています。

スーパーマーケットは、こうした売場づくりを通じて、顧客の購買行動を受け止めるだけでなく、気づきや発見を促し、新たな購買を生み出す場として機能しているのです。

2.顧客を魅了する売場づくり3選

ここでは、スーパーマーケットとは異なる特徴をもつ企業・業態の売場づくりの事例を3つ取り上げます。

事例1:コンビニエンスストア――新商品とレジ前商品の訴求力

30~50坪程度のコンパクトな売場に、多種多様なカテゴリーの商品が並ぶコンビニエンスストア。全国に5万7千を超える店舗があり、私たちの生活になくてはならない存在となっています。

出所:一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会

スーパーマーケットの定番売場では、一定期間、各商品の陳列場所は原則として固定されます。

これに対し、売場スペースが限られているコンビニエンスストアでは、特に飲料や菓子といったカテゴリーでは、商品の入れ替わりが非常に激しくなっています。菓子などは毎週のように新商品が登場しますが、顧客に認識されなければ購入にはつながりません。そこで、新商品を積極的にゴールデンゾーンに配置し、目に留まるようにしているのです。

また、レジ前は会計直前の顧客が必ず通過する売場です。すでに買物を終えるモードに入っている顧客に対しては、強い訴求が必要となります。各チェーンはレジ前商品の開発に力を入れており、改良も重ねられています。いわば、レジ前商品は各チェーンの自信作です。「できたてですよ」といった店員の声掛けも加わり、一度は買物を終えようとしていた顧客に、最後の一品を手に取らせる――レジ前はラストの非計画購買を促す重要な売場となっています。

事例2:書店――文脈が促すセレンディピティ

最も知的な刺激に満ちた非計画購買の舞台が書店です。

例えば、入口の目立つ平台に置かれた話題の新刊を手に取った後、ふと隣の棚に目を向けると、料理本の近くにその国の歴史書や、美しい器の写真集が並んでいることがあります。

これは、店主や棚の担当者が意図的に仕掛けた、「文脈(コンテキスト)の編集」です。

特定の本を求めて訪れた顧客が、関連知識の連鎖に導かれ、結果として複数の本を手に取る。この一連の動きこそが、リアル書店特有の「セレンディピティ(予期せぬ出会い)」です。

アルゴリズムで最適化されたAmazonのレコメンドに対し、リアル書店の売場は「人の感覚や文脈」で構成されており、それが利用者の偶発的な興味を喚起します。

事例3:ドン・キホーテ――顧客を魅了する魔境

スーパーマーケットの売場は、定番売場はもちろん、エンドなども含め、全体として整然とした印象を与えます。それとは対照的に、どこをとっても雑然とした印象なのが、ドン・キホーテの売場です。

狭い通路と、商品を天井近くまで積み上げる「圧縮陳列」。独特な字体と派手な色づかいのPOP、にぎやかなパッケージのPB商品。さらに、外周沿いを迷わず歩くことができないような、迷路のような売場構成――そのすべてが、「今、ドン・キホーテにいる」という感覚を強く印象づけます。

参考:吉田直樹・森谷健史・宮永充晃(2024)『ドンキはみんなが好き勝手に働いたら2兆円企業になりました』日経BP

自らを「魔境」と称するその売場では、何が飛び出すかわかりません。来店時には想像もしていなかった商品と出会い、思わず手に取ってしまう。そうした非計画購買も少なくないでしょう。

顧客を夢中にさせる魔境、ドン・キホーテ。そこでは、ECでは代替しにくい買物体験が提供されています。

3.ECサイトはリアル店舗のデジタル版か?――ECの現在地

これまで見てきた、リアル店舗に張り巡らされた売場づくりの豊かな知見を踏まえ、ECサイトに目を向けてみましょう。

ECは「カタログ通販」のデジタル化

ECを「実店舗をデジタルに移植したもの」と位置付ける考え方があります。確かに「カートに入れる」という言葉や仕組みは、リアル店舗から着想を得たものでしょう。

しかし、多くのECサイトの設計思想は、リアル店舗の「売場づくり」よりも、むしろ「カタログ通販のデジタル化」に近いものだと考えられます。

「検索窓」を起点とした購買行動

カタログ通販では、限られた誌面に商品情報を配置し、読者がインデックスをもとに目的の商品を探す構造になっています。一方で、ページをめくりながら商品を眺める過程で、予定していなかった商品が目に留まり、非計画購買につながることもあります。

ECも同様に、膨大な商品データベースの中から、「検索窓」を起点に目的の商品へアクセスする仕組みを採用しています。目的の商品に到達するスピードと正確性という点で、ECは非常に優れています。

一方で、リアル店舗のように売場を移動する過程で生じる偶発的な接触や発見は生じにくくなっています。検索結果画面は、入力されたワードに対する関連性の高い商品を優先的に表示するため、周辺的な情報や偶然の出会いは構造的に抑制される傾向があります。

ここで一つのパラドックスが生じます。ECでは取り扱い商品数がリアル店舗を大きく上回る場合が多いにもかかわらず、ユーザーが一度の訪問で実際に目にする商品数やカテゴリーの範囲は限定的です。検索やナビゲーションによって閲覧対象が絞り込まれるため、サイト内での接触範囲は、リアル店舗の売場を移動する場合と比べてむしろ狭くなることもあります。

このパラドックスは、ECにおいていかにして「未知との遭遇」「セレンディピティ」の機会を設計するか、という課題を示唆しています。

データに基づく「予測」か、人間による「推し」か

ECでは「この商品を買った人はこちらも」といったレコメンドが存在します。しかし、それはあくまで過去の膨大な購買データに基づく統計的な予測です。

一方で、先ほど例示した書店の売場は、アルゴリズムではなく、スタッフの「今、これを届けたい」「私の推しはこれ」という生身の熱量によって編まれたものです。

均一なグリッド(四角い枠)の中に整然と並べられたECの画面構成では、一冊の本から広がる文脈の連鎖や、売り手の偏愛が滲み出す隙間はありません。

「新たな発見」や「興味を拡張させてくれる出会い」を、デジタル空間で設計することは容易ではないのです。

ECにおける「クロスMD」の可能性と限界

ECでは、購買履歴や閲覧履歴などの顧客データにもとづいて、「おすすめ商品」を動的に表示することができます。これはスーパーマーケットのクロスMDをデジタルで実現しようとする試みといえます。

しかし、データが導く組み合わせは統計的な「最適解」にとどまりがちです。リアル店舗のクロスMDのように、バイヤーや従業員の想いが添えられた手書きのPOPが、顧客の心を動かすような体験は、EC画面では生まれにくいのが現状です。

画面遷移は「回遊」ではなく「ジャンプ」

リアル店舗では、たとえ目的が一つであっても、店内の「回遊」そのものを楽しむことができます。リアル店舗において非計画購買を誘発するのは、移動のプロセスそのものです。

これに対してECは、ページからページへ、あるいはアプリからアプリへ「ジャンプ」します。リアル店舗を歩く心地よさも、レジ前の商品につい目が奪われてしまう喜びとも無縁です。

ECは快適な買物体験を顧客に提供しますが、買物のプロセス自体を楽しむ「回遊」をユーザーに提供することは難しく、非計画購買の発生が少ないのが現状です。

4.まとめ――ECにおける「商品との偶然の出会い」をいかに設計するか

ECサイトが「計画購買」に特化したカタログ通販のデジタル版であるとするならば、今後のECには、合理性の中にあえて「遊び」や「余白」を組み込むことが求められるのかもしれません。

現状のECは、最短距離で購入というゴールに到達することを最適解としています。しかし、リアル店舗において顧客が感じている楽しさや高揚感は、必ずしも最短距離の中には存在しません。むしろ、予定外の売場に立ち寄る「寄り道」や、思いがけない商品との出会いの中にこそ、その価値があります。

したがって、今後のECにおいては、効率性を維持しつつも、意図的に「発見の余地」を設計することが重要になります。

三次元空間を移動しながら買物をするVR型ECも登場しています。視覚的な没入感という点でリアル店舗に近づく試みですが、これだけではリアル店舗の本質を十分に代替しているとは言えません。

リアル店舗には、視覚以外にも多様な感覚情報が存在しています。
売場のざわめきやBGM、アナウンスといった聴覚的な刺激。焼き芋の香りに代表される嗅覚。衣類や寝具に触れる触覚。そして試食・試飲による味覚。カルディで試飲のコーヒーを楽しみながら売場をめぐる体験は、リアル店舗ならではのものです。
こうした多層的な感覚の重なりが、顧客の行動や感情に影響を与えています。

したがって、ECに求められるのは、リアル店舗をそのまま再現することではありません。むしろ、リアル店舗の売場づくりに内在する「偶発性」や「回遊性」といった本質を抽出し、デジタルならではの方法で再構築することにあります。

検索やレコメンドといった機能を高度化するだけでなく、ユーザーが意図せず新たな商品と出会う導線をどのように設計するか。そこに、これからのECの競争優位の源泉があると考えられます。

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